16 / 42
カラス天狗
氷鬼先輩と宝物
しおりを挟む
「そう、狐の面よ」
詩織の疑問に、涼香は笑みを浮かべて答える。
『その狐の面がどうしたというのだ』
「ふふっ、こうするのよ。これであなたは終わり、残念だったわね。私が結界を解くのに手間取っている時に倒さなかったことを、後悔しなさい」
涼香は言うと同時にその場にしゃがみ、狐面を司にわたした。
「さぁ、ここからが本番よ、司。動けるわよね?」
まだ咳き込んでいた司だったが、口元を拭き、にやりと笑う。
狐面を受け取り、顔に付けた。
「当たり前。僕がここで負けるわけがないよ」
先程まで動かなかったはずの体をゆっくりと立ち上がらせる。
ふらつくこともせず、地面を踏みしめた。
「ありがとう、涼香。もう下がっていいよ。――――あとは、私に任せてください」
口調と声色が変わる。
涼香が「わかったわ」と下がると、狐面を付けた顔を上げた。
瞬間、カラス天狗の体がふるえた。
戦ってはまずい。そう体で感じ取り、カラス天狗は近くにいる詩織に手を伸ばし連れて行こうとした。
『っ、なに!?』
だが、カラス天狗の手はなにもつかめなかった。
前を見ると、詩織を横に抱いている司の姿。
詩織自身も何が起きたのかわからず、目をぱちぱちとさせ司を見上げている。
「せ、先輩?」
「さすがにぎりぎりでしたね。怪我はないですか?」
「だ、いじょうぶですが。あの、その狐面って…………」
「あぁ、これは私の宝物ですよ」
「宝物?」
(言葉使いがさっきまでとまるで違うし、空気感も、違う。それに、この狐面、見覚えがある。もしかして……。いや、やっぱり。今までの違和感や、頭を過っていた記憶。そこにいつもいる狐面の少年の正体は―――)
「今はそんなことより―――」
早々に話を切り上げた司は、顔を上げ悔しそうにしゅくじょうをにぎっているカラス天狗を見た。
詩織も見ると、タイミングよくふらつく体で動き出していたところだった。
しゃくじょうを片手で振りかぶり、司の頭を狙う。だが、彼はそれを簡単に後ろに跳び回避した。
下ろされたしゃくじょうは地面をバコンとつぶし、穴をあけた。
「地面が、えぐれた?」
「今までは力を抑えていたらしいですね。私が本気を出したので、あちらも本気を出してきたのでしょう」
詩織を地面に下ろし、守るように前に立つ。
彼女を助ける時に、ちゃっかり刀も一緒に拾っており、今は右手に握られている。
『その面には、何が込められているのだ』
「それくらいなら説明してあげますよ。この狐面には、私の力が宿っているのです」
狐面に触れ、簡単に説明する。
『力、だと? 前もって溜めていたということか?』
「”溜めていた”は、適切ではありません。どちらかというと、”逃がしていた”が、正しいですね」
『逃がしていた、だと?』
納得できない説明に、カラス天狗は首をかしげ同じ言葉を繰り返す。
「小さい頃は、私も自分の力に耐えられなかったのですよ。自分の中にある力に負けてしまい、何回か死ぬような思いをしました。熱や、力の暴走など」
過去を思い出しながら、司はやさしく微笑み、説明を続ける。
「私が力のコントロールをする以前の段階で苦しんでいたのに母親は気づき、父親に相談して、私のために狐面を作ってくれたのです。まぁ、作ってすぐ他界してしまったですが」
(親の形見でもあるんだ、あの狐面。だから、宝物なんだ)
詩織は一人、納得した。
「父親が作ってくれたこの狐面は、私の溢れる力を吸い取ってくれていたのです。それで、今。その力を私の体内に戻している状態なのです」
『戻している? どういうことだ』
「この狐面に送った私の力を戻さないと、狐面が力に耐えきれなくなりこわれてしまうみたいなんです。ですが、一気に戻すと、コントロールが出来るようになったとはいえ、さすがに負担がありまして。なので、決めたことがあるのです」
左手を口元まで上げ、人差し指を立てる。
優雅で、きれい。思わず、見惚れてしまいそうになる振る舞い。
『そ、それは、なんだ』
「力を温存しなくてもいい相手が現れた際に、使用するのです」
――――――――シュッ
『…………な……』
司は刀をカラス天狗めがけて投げた。すぐに避けることが出来ず、顔横をすり抜ける。
刃部分がカラス天狗の目元を隠していた黒い布を切り、ハラリと落ちた。
皮膚も掠っていたため、血が流れた。
微かな痛みを感じ、切れた部分を右手でなでる。
困惑で揺れる赤い瞳で、血がついている手を見下ろした。
『き、貴様……、貴様!! まさか、我にここまでするなど。許さぬ、たかが、人間の分際で!!!』
――――――――ダンッ!!
しゃくじょうで地面を強く突き、大きな音を鳴らした。
カラス天狗が叫ぶと地面が地震のように揺れ、詩織は恐怖で視線をあちこちへと向ける。
涼香と司は辺りを見た後、お互い目を合わせうなずき合った。
「詩織、大丈夫だとは思いますが、念のため。涼香の近くからはなれないでください」
「え、なんで、いきなり…………」
「これから出す式神は、少々厄介なものなんですよ。私以外の男はすべて標的と認識してしまうのです」
不安そうに見上げて来る詩織の頭を撫で、司は微笑む。
「扱いずらい分、強いのです。強い分、力を沢山吸い取られるので、普段は使えないのですよ」
司はポケットから一枚のお札を取り出し、右の人差し指と中指ではさみカラス天狗を見た。
詩織の疑問に、涼香は笑みを浮かべて答える。
『その狐の面がどうしたというのだ』
「ふふっ、こうするのよ。これであなたは終わり、残念だったわね。私が結界を解くのに手間取っている時に倒さなかったことを、後悔しなさい」
涼香は言うと同時にその場にしゃがみ、狐面を司にわたした。
「さぁ、ここからが本番よ、司。動けるわよね?」
まだ咳き込んでいた司だったが、口元を拭き、にやりと笑う。
狐面を受け取り、顔に付けた。
「当たり前。僕がここで負けるわけがないよ」
先程まで動かなかったはずの体をゆっくりと立ち上がらせる。
ふらつくこともせず、地面を踏みしめた。
「ありがとう、涼香。もう下がっていいよ。――――あとは、私に任せてください」
口調と声色が変わる。
涼香が「わかったわ」と下がると、狐面を付けた顔を上げた。
瞬間、カラス天狗の体がふるえた。
戦ってはまずい。そう体で感じ取り、カラス天狗は近くにいる詩織に手を伸ばし連れて行こうとした。
『っ、なに!?』
だが、カラス天狗の手はなにもつかめなかった。
前を見ると、詩織を横に抱いている司の姿。
詩織自身も何が起きたのかわからず、目をぱちぱちとさせ司を見上げている。
「せ、先輩?」
「さすがにぎりぎりでしたね。怪我はないですか?」
「だ、いじょうぶですが。あの、その狐面って…………」
「あぁ、これは私の宝物ですよ」
「宝物?」
(言葉使いがさっきまでとまるで違うし、空気感も、違う。それに、この狐面、見覚えがある。もしかして……。いや、やっぱり。今までの違和感や、頭を過っていた記憶。そこにいつもいる狐面の少年の正体は―――)
「今はそんなことより―――」
早々に話を切り上げた司は、顔を上げ悔しそうにしゅくじょうをにぎっているカラス天狗を見た。
詩織も見ると、タイミングよくふらつく体で動き出していたところだった。
しゃくじょうを片手で振りかぶり、司の頭を狙う。だが、彼はそれを簡単に後ろに跳び回避した。
下ろされたしゃくじょうは地面をバコンとつぶし、穴をあけた。
「地面が、えぐれた?」
「今までは力を抑えていたらしいですね。私が本気を出したので、あちらも本気を出してきたのでしょう」
詩織を地面に下ろし、守るように前に立つ。
彼女を助ける時に、ちゃっかり刀も一緒に拾っており、今は右手に握られている。
『その面には、何が込められているのだ』
「それくらいなら説明してあげますよ。この狐面には、私の力が宿っているのです」
狐面に触れ、簡単に説明する。
『力、だと? 前もって溜めていたということか?』
「”溜めていた”は、適切ではありません。どちらかというと、”逃がしていた”が、正しいですね」
『逃がしていた、だと?』
納得できない説明に、カラス天狗は首をかしげ同じ言葉を繰り返す。
「小さい頃は、私も自分の力に耐えられなかったのですよ。自分の中にある力に負けてしまい、何回か死ぬような思いをしました。熱や、力の暴走など」
過去を思い出しながら、司はやさしく微笑み、説明を続ける。
「私が力のコントロールをする以前の段階で苦しんでいたのに母親は気づき、父親に相談して、私のために狐面を作ってくれたのです。まぁ、作ってすぐ他界してしまったですが」
(親の形見でもあるんだ、あの狐面。だから、宝物なんだ)
詩織は一人、納得した。
「父親が作ってくれたこの狐面は、私の溢れる力を吸い取ってくれていたのです。それで、今。その力を私の体内に戻している状態なのです」
『戻している? どういうことだ』
「この狐面に送った私の力を戻さないと、狐面が力に耐えきれなくなりこわれてしまうみたいなんです。ですが、一気に戻すと、コントロールが出来るようになったとはいえ、さすがに負担がありまして。なので、決めたことがあるのです」
左手を口元まで上げ、人差し指を立てる。
優雅で、きれい。思わず、見惚れてしまいそうになる振る舞い。
『そ、それは、なんだ』
「力を温存しなくてもいい相手が現れた際に、使用するのです」
――――――――シュッ
『…………な……』
司は刀をカラス天狗めがけて投げた。すぐに避けることが出来ず、顔横をすり抜ける。
刃部分がカラス天狗の目元を隠していた黒い布を切り、ハラリと落ちた。
皮膚も掠っていたため、血が流れた。
微かな痛みを感じ、切れた部分を右手でなでる。
困惑で揺れる赤い瞳で、血がついている手を見下ろした。
『き、貴様……、貴様!! まさか、我にここまでするなど。許さぬ、たかが、人間の分際で!!!』
――――――――ダンッ!!
しゃくじょうで地面を強く突き、大きな音を鳴らした。
カラス天狗が叫ぶと地面が地震のように揺れ、詩織は恐怖で視線をあちこちへと向ける。
涼香と司は辺りを見た後、お互い目を合わせうなずき合った。
「詩織、大丈夫だとは思いますが、念のため。涼香の近くからはなれないでください」
「え、なんで、いきなり…………」
「これから出す式神は、少々厄介なものなんですよ。私以外の男はすべて標的と認識してしまうのです」
不安そうに見上げて来る詩織の頭を撫で、司は微笑む。
「扱いずらい分、強いのです。強い分、力を沢山吸い取られるので、普段は使えないのですよ」
司はポケットから一枚のお札を取り出し、右の人差し指と中指ではさみカラス天狗を見た。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。
猫菜こん
児童書・童話
私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。
だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。
「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」
優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。
……これは一体どういう状況なんですか!?
静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん
できるだけ目立たないように過ごしたい
湖宮結衣(こみやゆい)
×
文武両道な学園の王子様
実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?
氷堂秦斗(ひょうどうかなと)
最初は【仮】のはずだった。
「結衣さん……って呼んでもいい?
だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」
「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」
「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、
今もどうしようもないくらい好きなんだ。」
……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる