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番外編
18、熱が出たわけではありません
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「えーっ。お母さま、おねつでたの?」
レナーテのために寝室に朝食を運んだので、ダイニングには俺とカーリン二人しかいない。
うん、ごめんな。父さんの所為なんだよ。とは言えないので、せめてウサギ林檎に謝罪の気持ちを込める。
整然と皿の上に並んでいくウサギたちを見て、カーリンは目を輝かせた。
「お母さまね、きっと、おふとんをけとばしたのよ」
「レナーテは、カーリンみたいに寝相は悪くないぞ」
「じゃあ、お父さまがおふとんをうばったの」
あー。ある意味、間違いではないかもしれないな。
レナーテは発熱したわけではないが。さすがに起き上がれるほどの気力と体力がないので、今日は寝させておくことにした。
カーリンに酸味のある黒パンと林檎、ハムとチーズを食べさせる。俺もコーヒーを飲みながら、階段のある方角にちらりと目を向ける。
一階での話し声が、二階の寝室にまで聞こえるわけではないが。カーリンを連れだした方が、レナーテも休めるはずだ。もう少しすれば使用人のリタも来てくれるだろう。
「カーリン。父さんと朝の散歩に行くか?」
「うんっ。お母さまもごいっしょに?」
それは無理です。
お父さまからのお願いです。レナーテは寝かせておいてやってください。
「お母さま、おからだよわいよねー」
ぎくっ。
俺は良心の呵責に苛まれた。
レナーテと俺ではそもそもの体力が違いすぎる。なのに、俺はレナーテのことが愛おしすぎて。朝まで……とは言わないが、夜更けても(いや、正確には夜明け間近までだが)抱き続けてしまった。
はーぁ。レナーテのことが好きすぎるだろ。俺。
「お母さまもね、カーリンみたいにすききらいせずに、ちゃんとたべたらいいのに」
「いや、君は昨日玉ねぎをここぞとばかりに残しただろ」
「おぼえてないもん」
カーリンは、俺からそーっと視線を外した。
とりあえず、朝食に苦手なものはなかったようで、カーリンは残さずに食べ終えた。
俺は林檎と紅茶、それから薄く切ったパンを盆に載せて階段を上がる。
まだレナーテは眠っているだろうから、ノックをせずにドアを開いたのだが。
ベッドで上体を起こしたレナーテが、部屋に入った俺を見つめていた。
「駄目じゃないか。横になっていないと」
「だって、エルヴィンさまの足音が聞こえたんですもの」
室内を満たす朝の光に、今にも消え入りそうな儚い笑みをレナーテは浮かべた。
俺はサイドテーブルに盆を置くと、急いでレナーテの背中を支える。
「大丈夫ですよ」
「いや、その。分かってはいるんだが。俺が無理をさせてしまったから」
「エルヴィンさまは、心配性でいらっしゃいますね」
「そうだな。自分でもどうかと思う」
カーリンは、容姿はレナーテ似だが。華奢な見た目と違い、中身は俺のように逞しいから、あまり不安にならないのだが。
どうにもレナーテに関しては、壊れ物を扱うような気持ちになってしまう。
なのに無茶をさせてしまうから、いけないんだ。俺は。
「顔を洗って、朝食を取りなさい。俺はカーリンを散歩に連れて行くから」
「わたし、カーリンに朝の御挨拶をしていないわ」
「あ、うん。そうだな」
青白い顔をして、ベッドに入る母親の姿を見たら、カーリンは心配して「いっしょにおへやにいるのー」と駄々をこねないだろうか。
あの子のことだから「お母さまに、ごほんをよんであげるのよ」とか言って、絶対にレナーテの傍から離れないぞ。
「いや、俺からカーリンに伝えておくよ。あなたは眠っていた方がいい」
レナーテのために寝室に朝食を運んだので、ダイニングには俺とカーリン二人しかいない。
うん、ごめんな。父さんの所為なんだよ。とは言えないので、せめてウサギ林檎に謝罪の気持ちを込める。
整然と皿の上に並んでいくウサギたちを見て、カーリンは目を輝かせた。
「お母さまね、きっと、おふとんをけとばしたのよ」
「レナーテは、カーリンみたいに寝相は悪くないぞ」
「じゃあ、お父さまがおふとんをうばったの」
あー。ある意味、間違いではないかもしれないな。
レナーテは発熱したわけではないが。さすがに起き上がれるほどの気力と体力がないので、今日は寝させておくことにした。
カーリンに酸味のある黒パンと林檎、ハムとチーズを食べさせる。俺もコーヒーを飲みながら、階段のある方角にちらりと目を向ける。
一階での話し声が、二階の寝室にまで聞こえるわけではないが。カーリンを連れだした方が、レナーテも休めるはずだ。もう少しすれば使用人のリタも来てくれるだろう。
「カーリン。父さんと朝の散歩に行くか?」
「うんっ。お母さまもごいっしょに?」
それは無理です。
お父さまからのお願いです。レナーテは寝かせておいてやってください。
「お母さま、おからだよわいよねー」
ぎくっ。
俺は良心の呵責に苛まれた。
レナーテと俺ではそもそもの体力が違いすぎる。なのに、俺はレナーテのことが愛おしすぎて。朝まで……とは言わないが、夜更けても(いや、正確には夜明け間近までだが)抱き続けてしまった。
はーぁ。レナーテのことが好きすぎるだろ。俺。
「お母さまもね、カーリンみたいにすききらいせずに、ちゃんとたべたらいいのに」
「いや、君は昨日玉ねぎをここぞとばかりに残しただろ」
「おぼえてないもん」
カーリンは、俺からそーっと視線を外した。
とりあえず、朝食に苦手なものはなかったようで、カーリンは残さずに食べ終えた。
俺は林檎と紅茶、それから薄く切ったパンを盆に載せて階段を上がる。
まだレナーテは眠っているだろうから、ノックをせずにドアを開いたのだが。
ベッドで上体を起こしたレナーテが、部屋に入った俺を見つめていた。
「駄目じゃないか。横になっていないと」
「だって、エルヴィンさまの足音が聞こえたんですもの」
室内を満たす朝の光に、今にも消え入りそうな儚い笑みをレナーテは浮かべた。
俺はサイドテーブルに盆を置くと、急いでレナーテの背中を支える。
「大丈夫ですよ」
「いや、その。分かってはいるんだが。俺が無理をさせてしまったから」
「エルヴィンさまは、心配性でいらっしゃいますね」
「そうだな。自分でもどうかと思う」
カーリンは、容姿はレナーテ似だが。華奢な見た目と違い、中身は俺のように逞しいから、あまり不安にならないのだが。
どうにもレナーテに関しては、壊れ物を扱うような気持ちになってしまう。
なのに無茶をさせてしまうから、いけないんだ。俺は。
「顔を洗って、朝食を取りなさい。俺はカーリンを散歩に連れて行くから」
「わたし、カーリンに朝の御挨拶をしていないわ」
「あ、うん。そうだな」
青白い顔をして、ベッドに入る母親の姿を見たら、カーリンは心配して「いっしょにおへやにいるのー」と駄々をこねないだろうか。
あの子のことだから「お母さまに、ごほんをよんであげるのよ」とか言って、絶対にレナーテの傍から離れないぞ。
「いや、俺からカーリンに伝えておくよ。あなたは眠っていた方がいい」
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