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一章

26、緊張の夕暮れ【2】

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 夕焼けの色に染まったシーツに身を横たえたレナーテは、まるで彼女自身が花束であるかのように思えた。
 石鹸に使われていた精油が、何の花の香りなのか俺には分からない。だが、甘く誘う香りはそればかりではないだろう。

 すでに服を着ている俺とは違い、レナーテは一糸まとわぬ姿だ。恥じらって身をよじるが、俺が彼女の肩に手をかけるせいで、俯くことはおろか横を向くこともできないでいる。

 俺は彼女の左右の肩近くに手をついた。その重みで、ベッドが少し沈み込む。
 キスはもう何度かしているから、レナーテはちゃんと応じてくれる。
 
 唇を開くように促して、俺は舌を滑り込ませた。
 口中への侵入に驚いたレナーテが、俺のシャツの袖を掴んでくる。
 大丈夫、すぐに慣れるさ。

「……ん、んっ」

 少し薄い舌が、俺の舌の動きに合わせてくる。たどたどしいその動きが愛らしいなどと言ったら、きっとレナーテは顔を隠してしまうことだろう。

 左手で彼女のうなじを支えながらくちづけを交わし、右手は柔らかな胸から腹部へと辿っていく。
 湯上りの所為もあるかもしれないが、てのひらに吸い付くような感触だ。

「やっ、エルヴィンさま。そこ、ちが……っ」
「違わないよ」

 両脚を硬く閉じるが、非力な彼女が鍛え上げた俺の力に敵うはずもない。するりと指を滑り込ませると、すでにそこはしっとりと湿っていた。

「あ……ぁ、だ、め」
「どうして? 俺は唯一君に触れていい男だよ」
「そうな、ん、です……けど。恥ずか……し、い」

 俺は悪い男だから、恥じらうレナーテをもっと見たいと思ってしまう。指先でかすめるように触れると、彼女は堪えきれずに喘ぎ声を洩らした。

「……ん……っ、あぁ……ん」
「可愛い声だな。もっと聞かせてほしい」

 俺の言葉に、レナーテは慌てて手で口を覆う。困った子だ。
 苦笑しつつも、彼女に水音が良く聞こえるように触れ方を変える。

「どうする? レナーテ。ほら、君の恥ずかしい音だよ。耳をふさぐかい?」

 とっさに両手で耳をふさいだレナーテだが、俺が指の動きを速めた所為で体に緊張が走った。

「や、だめ。また、さっきの……同じ、のが」
「やめようか?」

 そう告げて、俺は手を止めた。もう少しで達しそうなところで放置されたレナーテは、荒い息を繰り返しながら両手で顔を隠した。

◇◇◇

 痺れるような甘い感覚。なのに、もどかしくて。何かが徹底的に足りなくて。わたしは、もぞもぞと脚をこすり合わせました。

「また、してほしい?」

 エルヴィンさまが、わたしの耳元で囁きます。低く誘う声。
「はい」と返事をすればいいだけなのに。それすらも恥ずかしくて、顔を手で押さえたままわたしは声を出すこともできませんでした。

「レナーテ。言葉にしないと分からないよ」
「エルヴィン、さま……」
「ん? 続きをしてほしい? それともこのまま終わった方がいい? どちらか選びなさい」

 そんな意地悪を仰らないで。してほしいなんて、はしたないことを口には……。
 そう考えて、はっとしました。
 わたしの中には、終わってほしいという答えがなかったのです。

 ゆっくりと顔から手を離して、ベッドに手をついていらっしゃるエルヴィンさまの腕に手を添えます。

「エルヴィンさまに、してもらいたい、です」
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