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一章
5、だから苦手なんだって
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カレルに手を引かれたマリーローズは、嫌々大広間から廊下へと連れていかれました。
さすがに衆目を集めていることに気づいたマリーローズは、姿勢を正し、美しい歩き方に気をつけます。
今更ですけどね。
「お姉さま、お一人で大丈夫かしら」
「でも、お相手はカレルさまよ。あんな潰れたヒキガエルとは比べ物にならないわ」
お付きの者が手を貸したおかげで、本日の主役のダンはようやく立ち上がりました。
さっきまではうっとりした表情を浮かべていたのに、カレルがマリーローズを連れて行ってしまったと聞くと、大慌てです。
「なんでカレル兄さまが、彼女を! おい、今日はぼくの為にローズマリーを招待したんだぞ。どうして兄さまは抜け駆けするんだ」
ダンの顔は怒りで真っ赤です。
令嬢たちは彼を遠巻きにして「リンゴみたいね」と囁きあっています。
でも、抜け駆けもなにも。ダン、あなたこれっぽっちもマリーローズに好かれていませんし、むしろ毛嫌いされていますよ。
ええ、蛇蝎の如くにね。
さて、ぷんすかと一人怒っているダンを他所に、カレルは涼しい表情で廊下を進みます。
くっそー。こんな奴の手なんかふり払って逃げ出したいのに。意外とこいつ、力が強いでやんの。
ぎりぎりと歯ぎしりをしながら、マリーローズは前を行く広い背中を睨みつけます。
ふと、ドレスの中、太腿の辺りに違和感を覚えました。
でもマリーローズは気にせずに歩いていると、ふいにカレルが立ち止まりました。
「ああ、やっぱり。足が痛いんだろ」
「へ?」
突然、マリーローズの体がふわりと持ち上がりました。いわゆるお姫さま抱っこという横抱きではなく、背中を立てた状態の抱き上げ方です。
あ、あわわわわ。とっても古典的な表現で、マリーローズは慌てました。頭の中が混乱しています。
待て、待ってくれ。わたしが男に抱っこされたのなんてお父さまと、あとは怪我をして歩けない時に護衛がこうやって運んでくれただけで。
それも小さな頃の話だ。年頃になってから、こんな風に男性に抱き上げられたことなんてない。
地面は、床は何処だ! わたしに無断で何処へ行きやがった。
余りのことに、反射的にマリーローズは拳を繰り出してしまいました。習慣って怖いですね。
ですが、そのスピード感溢れる拳を、カレルは右に左にと首を動かすことでかわします。首の筋、攣らないのでしょうか。
「な、なんで当たらないんだ」
「当たってほしい?」
「そりゃそうだろ。降ろせよ、早く」
「まったく困った人だ」と、カレルは肩をすくめます。
「いいかい、マリーローズ。私があなたに殴られて卒倒したら、あなたもろとも床に倒れることになるが。痛いし無様なんじゃないのかな」
「そりゃああんたは無様だし、痛いだろうけど。わたしは……」
「ふぅん?」と、カレルが目を眇めました。澄んだ緑の瞳です。金色の髪と相まって、彼を絵に描いたように美しいと称する人もおりますが。
今のマリーローズにとっては、何もかもを見通されるような恐ろしさしかありません。
「あなたは怪我をしないし、痛くもないんだね」
「そりゃそうだろ。だって、あんたが……あっ!」
ようやく彼女は気付きました。自分の考えの中では、たとえカレルが卒倒しようともマリーローズを投げ出すことがないことを。
床に倒れたなら、カレルがマリーローズの下敷きになることを、あまりにも当然と思っていたのです。
さすがに衆目を集めていることに気づいたマリーローズは、姿勢を正し、美しい歩き方に気をつけます。
今更ですけどね。
「お姉さま、お一人で大丈夫かしら」
「でも、お相手はカレルさまよ。あんな潰れたヒキガエルとは比べ物にならないわ」
お付きの者が手を貸したおかげで、本日の主役のダンはようやく立ち上がりました。
さっきまではうっとりした表情を浮かべていたのに、カレルがマリーローズを連れて行ってしまったと聞くと、大慌てです。
「なんでカレル兄さまが、彼女を! おい、今日はぼくの為にローズマリーを招待したんだぞ。どうして兄さまは抜け駆けするんだ」
ダンの顔は怒りで真っ赤です。
令嬢たちは彼を遠巻きにして「リンゴみたいね」と囁きあっています。
でも、抜け駆けもなにも。ダン、あなたこれっぽっちもマリーローズに好かれていませんし、むしろ毛嫌いされていますよ。
ええ、蛇蝎の如くにね。
さて、ぷんすかと一人怒っているダンを他所に、カレルは涼しい表情で廊下を進みます。
くっそー。こんな奴の手なんかふり払って逃げ出したいのに。意外とこいつ、力が強いでやんの。
ぎりぎりと歯ぎしりをしながら、マリーローズは前を行く広い背中を睨みつけます。
ふと、ドレスの中、太腿の辺りに違和感を覚えました。
でもマリーローズは気にせずに歩いていると、ふいにカレルが立ち止まりました。
「ああ、やっぱり。足が痛いんだろ」
「へ?」
突然、マリーローズの体がふわりと持ち上がりました。いわゆるお姫さま抱っこという横抱きではなく、背中を立てた状態の抱き上げ方です。
あ、あわわわわ。とっても古典的な表現で、マリーローズは慌てました。頭の中が混乱しています。
待て、待ってくれ。わたしが男に抱っこされたのなんてお父さまと、あとは怪我をして歩けない時に護衛がこうやって運んでくれただけで。
それも小さな頃の話だ。年頃になってから、こんな風に男性に抱き上げられたことなんてない。
地面は、床は何処だ! わたしに無断で何処へ行きやがった。
余りのことに、反射的にマリーローズは拳を繰り出してしまいました。習慣って怖いですね。
ですが、そのスピード感溢れる拳を、カレルは右に左にと首を動かすことでかわします。首の筋、攣らないのでしょうか。
「な、なんで当たらないんだ」
「当たってほしい?」
「そりゃそうだろ。降ろせよ、早く」
「まったく困った人だ」と、カレルは肩をすくめます。
「いいかい、マリーローズ。私があなたに殴られて卒倒したら、あなたもろとも床に倒れることになるが。痛いし無様なんじゃないのかな」
「そりゃああんたは無様だし、痛いだろうけど。わたしは……」
「ふぅん?」と、カレルが目を眇めました。澄んだ緑の瞳です。金色の髪と相まって、彼を絵に描いたように美しいと称する人もおりますが。
今のマリーローズにとっては、何もかもを見通されるような恐ろしさしかありません。
「あなたは怪我をしないし、痛くもないんだね」
「そりゃそうだろ。だって、あんたが……あっ!」
ようやく彼女は気付きました。自分の考えの中では、たとえカレルが卒倒しようともマリーローズを投げ出すことがないことを。
床に倒れたなら、カレルがマリーローズの下敷きになることを、あまりにも当然と思っていたのです。
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