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一章

15、ひとりであさごはん

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 アレクはもうお家に帰って、わたしは一人であさごはんを食べていたの。
 いつもはお父さまもお母さまもいっしょなんだけど。ダイニングはひろすぎて、ふだんよりも足をぶらぶらさせてしまう。
 おぎょうぎわるいって、分かってるんだけど。

 どのいすもだれも座ってなくて。わたしはしかたなく、おとなりのいすにぬいぐるみのアレクをおいたの。

「あら、姫さま。リボンはどうなさいました?」

 ゆうべはねまきを着ないままねちゃったから、けっきょくドレスからお洋服におきがえした。
 きのうの水色のリボンはお気に入りで。だからね、けさも侍女にそのリボンをむすんでもらったんだけど。

「いいの。気にしないで」
「いえ、気になりますよ」

 侍女が、トースト・スタンドにうすくて小さいパンを並べてくれる。
 カリッとやかれたトーストに、黄色いバターをたっぷりと。あたたかいパンの上で、バターはとろっとはしがとけて、それからゆっくりとしみこんでいくの。
 ああ、このまま食べるか、ジャムをぬるかまよっちゃう。

「姫さま。パンばかり召し上がりますと、お腹がいっぱいになってしまいますよ」
「う、うん」

 白いお皿には赤い色の煮たお豆と(これ、にがて)ぶあついくんせいのお肉(これも、ちょっとにがて)それからめだまやきがのってるの。それからサラダも。
 こまったわ。パンをちぎってたまごの黄身につけるのもおいしいのよね。
 はんじゅくっていうのかしら? とろーっとした黄身がトーストにからまって。

 ああ、どうしよう。やっぱりパンばっかりになっちゃいそう。
 わたしはちらっと侍女に目を向けた。

――いけませんよ。お食事はバランスよく、です。と目がうったえている。

 そういえば侍女が気にしていたリボンは、実はアレクにあげたんだ。

 わたしはトーストにこんもりとマーマレードをのせた。
 他のマーマレードは苦手なんだけど、お母さまが作ってくださったのは、あんまり苦くなくておいしいの。
 それに甘すぎないのよ。
 あーあ、お父さまとお母さま。早くかえっていらっしゃらないかしら。

 パンは小さいからすぐに食べ終わっちゃって、わたしはトースト・スタンドに手をのばした。

「姫さま。ちゃんと料理もお召し上がりください」
「はっ、はいっ」

 しまったー。見られてたのね。
 しかたなく、サラダをむしゃむしゃと食べる。なんだかウサギさんになったみたい。

 わたしは、アレクにリボンをあげたときのことを思い出していた。

――よろしいんですか? 私などがいただいて。これは姫さまのお気に入りのリボンではありませんか?
――うん。おまもりなの。
――お守り? 護符とか幸運を呼ぶものでしょうか?
――むずかしいことは分からないけど。元気のお守りなの。

「それはありがとうございます。一生大事にいたします」って、アレクはほほえんだのよ。
 大げさよね。
 ふふ、だってリボンなのよ。おっきな男の人が一生大事にするなんてね。
 
 アレクの言葉とえがおを思い出すと、むねのおくがほかほかと温かくなるの。
 
 気づけば、わたしはサラダだけじゃなくて、苦手なはずのお豆も食べ終えていた。
 すごーい。アレクといっしょにいなくても、アレクのことを考えてるだけできらいなものだって食べられちゃうんだ。
 まるでまほうみたい。
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