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【裏視点】
11、少し大人になりました【3】
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「おい、アルベティーナ。そんなに具合が悪いのか?」
イザークに問いかけられて、わたしは首を振りました。
なのに、彼にはうまく伝わらなかったようです。
「医者、医者は……山にいるはずないか。パドマ! 麓に遣いを出すように言ってくれ。アルベティーナの具合が悪いんだ」
違うの。違うんです。
今頃になって、乙女達の感情が流れ込んできたのかしら。それともこれは、わたし自身の感情?
あなたが好き。
きっとあなたも「好きだ」って言ってくれる。
過去の乙女もわたしも、すべてお前だからって。
でも、花嫁にはなれないの。いつかあなたを置いていかなきゃいけないの。
イザークに優しくされればされるほど、それがつらくて。
みっともないって分かっているのに。いつまでも嗚咽が止まりませんでした。
イザークは、わたしが泣き止むまでずっと抱きしめていてくれました。
なんて面倒見のいい神さまなの? そういえば、あなたはわたしとパドマが子どもの頃、遊びに付き合ってくれたわ。
猛々しくて、怖そうなのに。なのに、とても優しい神さま。
大好き、イザーク。
わたしは、恐る恐る手を伸ばしました。彼の腕に、指が触れてしまいそうになって。そうしたら、急に腕を取られて。イザークの背中に抱きつく格好になってしまったの。
何がどうしてそうなったのか、まったく分かりませんでした。
「俺のことを好きだと口にしていいんだぞ」
「な、なんで? 別にそんなこと……」
慌てふためいて答えると、イザークは「そうか。別の俺のことを好きではないのか」なんて、落ちこんだ風に肩を落とします。
「違うの。嫌いとかそういうのじゃなくて」
「だが、俺に興味がなさそうだ。むしろ避けているし」
どうしましょう。イザークが泣きだしそうです。
赤い瞳まで潤ませて。わたし、あなたを泣かせたいんじゃないのに……。
「あるから。すっごく興味あるから。大好きだから」
「大好きって、誰のことが?」
「イザークに決まっているでしょ。他にわたしが思いを募らせる人なんて、いな……い」
「あっ……」と、わたしは唖然と口を開きました。
イザークの口車に乗せられて、告白までさせられてしまいました。
うう、相手はもう千年以上も生きている神さま。わたしはまだたった十三年しか生きていません。
勝てるはずがないんです。
「素直になりなさい。それが一番だ」
にやりと口の端を上げて、イザークが笑います。
わたしは恥ずかしさに、慌てて彼の背にまわした手を外そうとしました。
でも、反対に体を引き寄せられて。
そのまま頬にキスされたんです。
「あ、ああ、あの?」
「今はこれくらいにしておいてやる。」
耳が千切れるんじゃないかってほどに、どこもかしこも熱くなって。
わたしは、そのまま目眩がして倒れてしまったの。
「おい、こら。それくらいで卒倒するな」と焦るイザークの声を遠くに聞きながら。
目が覚めた時、窓を背にしたイザークがわたしのベッドの傍で座っていました。
降り積もった雪に反射した光のせいで、彼の顔は逆光に沈んでいます。
「ありがとう、イザーク。ついていてくれたの?」
「うむ」
妙に不機嫌そうな声です。わたしはといえば、さっき告白させられたことが恥ずかしくて。まともにイザークの顔を見ることができません。
「添い寝をしてやろうと思ったのだが。パドマに叱られた」
侍女に叱られるとか、どれだけ立場が弱いの? というより添い寝する神さまなんて、知りませんよ。
そう思ったけれど、確かに神殿に来て間もない頃は、添い寝をしてくれていました。
わたしは赤ん坊の時に親元を引き離されて、乙女の為の施設のような所で暮らしていたから。一人には慣れています。
でも、さすがにこんな雪に覆われ、氷河のある急峻な山暮らしなんて初めてだから、緊張して眠れない夜が続いたんです。
そんな時「やれやれ」と肩を竦めながら、イザークが添い寝してくれました。
彼の体は温かくて、いつもすぐに眠りに落ちたの。
「アルベティーナ。自分の気持ちは、ちゃんと認めていいんだぞ。俺はいつでもお前と共にあるのだから」
それが、わたしにも芽生えた恋心であると気づきました。
わたしは小さく頷いて、大きくて温かいイザークの手を取ったの。
やっと彼の顔をちゃんと見ることができるようになって、まるでこれまでの乙女たちに祝福されているような温かな気持ちになったんです。
イザークに問いかけられて、わたしは首を振りました。
なのに、彼にはうまく伝わらなかったようです。
「医者、医者は……山にいるはずないか。パドマ! 麓に遣いを出すように言ってくれ。アルベティーナの具合が悪いんだ」
違うの。違うんです。
今頃になって、乙女達の感情が流れ込んできたのかしら。それともこれは、わたし自身の感情?
あなたが好き。
きっとあなたも「好きだ」って言ってくれる。
過去の乙女もわたしも、すべてお前だからって。
でも、花嫁にはなれないの。いつかあなたを置いていかなきゃいけないの。
イザークに優しくされればされるほど、それがつらくて。
みっともないって分かっているのに。いつまでも嗚咽が止まりませんでした。
イザークは、わたしが泣き止むまでずっと抱きしめていてくれました。
なんて面倒見のいい神さまなの? そういえば、あなたはわたしとパドマが子どもの頃、遊びに付き合ってくれたわ。
猛々しくて、怖そうなのに。なのに、とても優しい神さま。
大好き、イザーク。
わたしは、恐る恐る手を伸ばしました。彼の腕に、指が触れてしまいそうになって。そうしたら、急に腕を取られて。イザークの背中に抱きつく格好になってしまったの。
何がどうしてそうなったのか、まったく分かりませんでした。
「俺のことを好きだと口にしていいんだぞ」
「な、なんで? 別にそんなこと……」
慌てふためいて答えると、イザークは「そうか。別の俺のことを好きではないのか」なんて、落ちこんだ風に肩を落とします。
「違うの。嫌いとかそういうのじゃなくて」
「だが、俺に興味がなさそうだ。むしろ避けているし」
どうしましょう。イザークが泣きだしそうです。
赤い瞳まで潤ませて。わたし、あなたを泣かせたいんじゃないのに……。
「あるから。すっごく興味あるから。大好きだから」
「大好きって、誰のことが?」
「イザークに決まっているでしょ。他にわたしが思いを募らせる人なんて、いな……い」
「あっ……」と、わたしは唖然と口を開きました。
イザークの口車に乗せられて、告白までさせられてしまいました。
うう、相手はもう千年以上も生きている神さま。わたしはまだたった十三年しか生きていません。
勝てるはずがないんです。
「素直になりなさい。それが一番だ」
にやりと口の端を上げて、イザークが笑います。
わたしは恥ずかしさに、慌てて彼の背にまわした手を外そうとしました。
でも、反対に体を引き寄せられて。
そのまま頬にキスされたんです。
「あ、ああ、あの?」
「今はこれくらいにしておいてやる。」
耳が千切れるんじゃないかってほどに、どこもかしこも熱くなって。
わたしは、そのまま目眩がして倒れてしまったの。
「おい、こら。それくらいで卒倒するな」と焦るイザークの声を遠くに聞きながら。
目が覚めた時、窓を背にしたイザークがわたしのベッドの傍で座っていました。
降り積もった雪に反射した光のせいで、彼の顔は逆光に沈んでいます。
「ありがとう、イザーク。ついていてくれたの?」
「うむ」
妙に不機嫌そうな声です。わたしはといえば、さっき告白させられたことが恥ずかしくて。まともにイザークの顔を見ることができません。
「添い寝をしてやろうと思ったのだが。パドマに叱られた」
侍女に叱られるとか、どれだけ立場が弱いの? というより添い寝する神さまなんて、知りませんよ。
そう思ったけれど、確かに神殿に来て間もない頃は、添い寝をしてくれていました。
わたしは赤ん坊の時に親元を引き離されて、乙女の為の施設のような所で暮らしていたから。一人には慣れています。
でも、さすがにこんな雪に覆われ、氷河のある急峻な山暮らしなんて初めてだから、緊張して眠れない夜が続いたんです。
そんな時「やれやれ」と肩を竦めながら、イザークが添い寝してくれました。
彼の体は温かくて、いつもすぐに眠りに落ちたの。
「アルベティーナ。自分の気持ちは、ちゃんと認めていいんだぞ。俺はいつでもお前と共にあるのだから」
それが、わたしにも芽生えた恋心であると気づきました。
わたしは小さく頷いて、大きくて温かいイザークの手を取ったの。
やっと彼の顔をちゃんと見ることができるようになって、まるでこれまでの乙女たちに祝福されているような温かな気持ちになったんです。
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