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一章

1、妹はわたしを嫌っているようです

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 わたしは元々、口数も少なく物静かだと言われることが多いんです。
 子爵家の長女であるわたし、マルガレータ・ヴェステルグレーン。そして二歳違いの妹、ビルギット。
 妹は髪も金色で華やいだ雰囲気です。ええ、最近はお化粧に凝っているようで、さらに美しさに磨きをかけているの。

 反してわたしはというと、蜂蜜色と言えば聞こえはいいですが。少し茶色がかった金髪にお化粧はほとんどしていないので、ビルギットのような華はありません。

「お姉さまって、ほんと地味よねぇ。日がな一日、本を読むか刺繍をしているだけじゃない。そんな人生、つまらなくないの?」
「あら、マーマレードやジャムも煮ているわ」

 四阿あずまやで詩集を読んでいたわたしに、ビルギットが突然言い放ちました。
 そう、あまりも唐突でびっくりして、紅茶の入っているカップを落としそうになりました。

 おとなしい姉が反論した所為か、ビルギットはその碧の目を丸くしました。姉妹で似ているのは瞳だけだと、よく言われるその瞳です。

 一瞬の後、けたたましい笑い声がお庭に広がったんです。
 金色の花が盛りのエニシダの枝に止まっていた鳥は、羽ばたきながら飛び去り、ひらりと薄紅の羽が落ちてきました。
 その羽が、白い一重の薔薇の花弁を微かに揺らします。

 そんなに大声で笑って、喉を傷めない? と言いそうになりましたが。
 多分、わたしの心配をビルギットは嫌います。

「マーマレード、マーマレードですって? お姉さま、いつから使用人におなりになったの? さっすが地味で貧相ね」
「そんなことを言うものではないわ。うちは子爵といえども、実際は大変なのよ。ヴェステルグレーン家のマーマレードとジャムは、最近人気なのよ」

 妹を説得しようと思ったのが、間違いだったのでしょうか。
 午後の太陽は、ビルギットの金の髪を背後から照らし、きらきらと宝石のように煌めいています。
 口を開かなければ、眉間に立て皺を刻まずに柔らかく微笑んでいれば。とても愛らしい子なのに。

 ビルギットは、その濃い赤に塗られた唇を開いてしまったんです。

「馬鹿じゃないの? 本当に馬鹿じゃないの? っていうか、お姉さまって馬鹿よね」
「そうかしら」
「ええ、そうよ。どうして子爵家がジャムだのマーマレードだのを売らなきゃいけないの? 商人でもあるまいに」

 今度はわたしが目を丸くする番でした。
 ビルギット、あなたご存じないの? お城を維持するのがどれほど大変なのかを。

 代々住み続けてきたお城はすでに古く、その修繕もかなりのお金がかかることを。使用人の数も多く、馬の世話にお庭の管理、メイドに至っては掃除とキッチンは仕事がきっちりと分けられているので、その分人数も多くなるのよ。
 靴を磨くだけの使用人もいるというのに。

「あのね、ビルギット……」
「うちを相続するのはお姉さまには無理よ。だって使用人と一緒にキッチンにこもって、火の番をしているのでしょう? お姉さまは間違って子爵の家に生まれてきたのねぇ」

 話している途中の言葉を遮るなど、淑女とも思えぬふるまいです。
 けれど、ビルギットはわたしへの悪口が楽しいのか、どんどん早口になっていくんです。

「そうねぇ、お姉さまは地味だから。きっと山小屋や森の小屋での暮らしが似合っているわ。ほら、手だって荒れているもの。それに比べて、わたしの手も指もこんなに綺麗」

 ビルギットはしなやかな指を、光にかざします。
 確かに、家事をする必要のないお嬢さまの手としては正しいのでしょう。
 でもね、わたしが作っているマーマレードや薔薇のジャムは王室でも使われ、国外でも取引されるようになってきたのよ。
 今、わたしがマーマレード作りを止めてしまったら。どうなるの?

 確かに、わたしには婚約者がいるわ。伯爵家の子息のヒースさま。次男の彼と結婚することで、伯爵家を継ぐことのできない彼は我が家に入り、そして我が家は安泰。これがお父さまの思い描いた未来図。

 それでも、わたしは……なんとか自力でこの家を守りたいの。
 だって長女ですもの。
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