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風の声 闇の目

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世界大会の会場は鬱蒼とした森の姿に変貌していた。
不思議なことにこれから戦うものの姿は観客からは見えている。
神気の壁を通して立の中を透視しているようだ。

森人族の族長グランは対戦相手の闇人族の戦士長スダルの持つ
丸い輪に鋸状の刃のついたチャクラムを見て険しい顔をしていた。

 (あれは過去に闇人族と戦った時に見た武器だ。
  どこまでも追ってくる厄介な武器だ。
  だが、今の私にはこの矢がある。
  必ず勝てる、いや勝たねばならぬ。)

グランは矢筒の中の矢を見つめながら決意を新たにしていた。


 (ふんっ、あの時の森人族が相手か。
  この俺のチャクラムから逃れられると思うなよ。
  すぐに仕留めてやる。悪いが手加減はせん。
  その首、貰い受ける。)

浅黒い肌色の顔に暗い炎を灯した瞳でグランを睨みつけていた。


戦闘開始の合図と共に、両者が動いた。

グランの姿は消え失せ、スダルはキーンという独特の音を立て、
両手からチャクラムを放った。
同時にスダルは自らの影の中に沈み込んでいった。

認識阻害魔法を使ってグランは木から木へ移動している。
その後を見通しているかのような動きで
二つのチャクラムが追いすがってくる。
邪魔な木の枝を滑らかに切り落としながら。

グランは飛び回りながら、
風の声に耳をそば立てていた。

 (この使い手の姿、どこの影に潜もうとも見つけ出す。)

そう思った矢先、追いすがっていた二つのチャクラムが
四つになって追撃の速度を上げてきた。

 (このままでは追いつかれる。
  といってもこれ以上早く動けばこちらの場所がバレる。
  時間稼ぎにならぬやもしれぬが、やるしかあるまい。)

急にグランは木から降りて土の上を移動しだした。

そこへチャクラムが襲いかかってくる。
後2、3歩で刃が届くかと思えたが、
不意に土の壁が盛り上がり、チャクラムを飲み込んだ。

 (風の声が聞こえた!そこだ!)

グランは矢を一本つがえると、天に向かって放った。
放たれた矢は方向転換し、生き物のように空中を蠢きながら、
木立の中を進み出した。

その矢を放つ瞬間を見つめる四つの目があった。
土の壁に飲み込まれたチャクラムの中心部についている、
まぶたの無い目が見えないはずのグランの方を見据えていた。

 (この闇の目に見えぬものはない。
  終わりだ。俺を恨むなよ。)

そういうと壁に突き刺さっているチャクラムが淡い光を纏い始め、
土の壁を黒く染めていった。
闇のように染め上がった時、チャクラムは自由を取り戻し、
グランに向かって襲いかかってきた。

が、急に空中で回転したまま、滞空していた。


 「・・・降参だ。無念だが、負けだ。」

敗北の言葉を口にしたのはスダルであった。
木の影に潜んでいたスダルの体を数十本の矢が貫通した跡があり、
額の目前で停止していた。
どうやら急所を外しながら数十回体を貫かれたようだ。

 「俺の慢心が目を濁らせたせいだろう。
  次にまた戦える時があれば
  より強くなって今度こそ倒させて貰う。」

 「望むところだ。
  互いに腕に磨きをかけようではないか。」

一歩間違えば即死しかねないような戦いであったが、
グランが即死を避ける余裕がある程実力差があったようだ。

グランは内心、闇の目から逃れられなかった自身の
認識阻害魔法にもっと磨きをかけなければと
反省していたのだった。



 「確かにあれは慢心が故の敗北。
  闇の目の使い方がなっていない。」

 「いや、彼らはもともとある目の使い方も
  なっていない。
  磨くところはもっとある。
  まだまだ未熟。」

戦闘を見守っていた、ハーデスとルシファーは
そんな会話を交わしていた。
内心では自分も出たい、力を見せたいと
思いながら。


次の試合は額に第三の目を持つ身長4mを越す
巨人族の戦士と猫耳の獣人族のクーラの対戦だ。

巨人族の戦士ガーラは体を電脳兵化されたものの、
胎内のチャクラを回すことで強制プログラムを
自身で解除し自我を取り戻していた。

 「あれからずっと何かと戦いたいという
  奇妙な願望がとりついている。
  これは良い機会だ。
  存分に戦わせてもらうとしよう。」

ガーラが手にしているのは直径6mはあろうかという
巨大なチャクラムだ。

その巨大な武器を前にしてもクーラは平然と
矢筒から少し浮いている黒い矢先の矢を
見つめていた。
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