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記憶にない記憶

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電脳兵のセブンは、フライングユニットのカーラと共にネコ獣人族の村の
入り口横に設置した拠点二階のカタパルトデッキに舞い戻って来た。

 「今回は美しい仕事ぶりだったわねセブン。
  フェイズさんは湖の見回りに出ていらっしゃるわ。
  戻られたら、先に自己紹介を忘れないことね。
  私とカイはご挨拶済みよ。
  私達アンドロイドはゴーレムに見えないから、
  お顔を拝見したときは戸惑っていらっしゃったわ。

  その点セブンは武装展開すれば、生身の肉体の部分がないから
  一目で理解してもらえるわね。」

 「戻られましたか?サラ様とお話しながらでも結構ですので
  すぐに武装の調整、補給を実行してください。

  この世界は常時戦闘中として認識くださいと
  お話しさせて頂いておりましたのをもうお忘れですか?

  あ、サラ様、紅茶が入りましたがこちらでお飲みになられますか?」

いきなりメインサポートのアンドロイドのサラと、
ダイビングユニットの3Dホロナビゲーターだったのだが、
いつの間にか拠点管理用アンドロイドに収まっているカイに絡まれた。
サラが予備の管理用アンドロイドにカイのAIを移したみたいだな。

拠点はコンテナハウスサイズで2階建てになっており、
3棟を連結してかなり広い空間を確保できていた。

 「そうね、下ではクロがスヤスヤ眠っているのだわ。
  あの子は本当によく寝る子なのだわ。
  セブン、クッキー頂くわね。」

 「セブン様、お静かに調整ポッドまで移動の方お願いします。」

 「わーってるよ、はいはい(俺のおやつなんだけど)。調整と補給ね。
  そういや、サラもカイもアサルトライフルなら撃てるだろ?
  丁度2丁あるし、専用でチューニングして使ったらどうだろ。」

 「「すでに調整済み(です)なのだわ」」

 「あーそうですか。ついでに拠点の上に高速速射砲座も付けたらどうかな
  村の防衛拠点らしくなるんだけど。」

 「セブン様やはり思考が浅いですね。
  拠点は 収納 できるのですから、逆に考えれば収納すると使用不能です。
  この場合は、3基に増えたダイビングユニットの上に設置が最適解と思慮します。
  ミスリルワイバーンの報復も想定して電磁砲とキャノン砲を設置したものも用意済みです。」

 「なーるほどね。じゃ、静かに下に降りて調整と補給してくるわ。」


反重力ユニットの調整をしてサイレンスモードで階下の電脳兵専用調整ポッドに
入り込むセブンであった。



 『姉さん、姉さん。』

  ん? 何だこれ。 まだ調整中 だよな?
  何でこの状態で過去の記憶メモリーが見えるんだ?
  って?姉さん?誰のことだ? てか、このちび誰だ?
  何で知らないちびの記憶があるんだ?

  少年兵か?いや、幼過ぎるな。また自爆装置付きの特攻兵か?
  いい加減にしろよ、人の命なんだと思ってるんだ。
  ほんとあの砂漠の民の連中は胸糞悪い奴らばっかだな。

  いや、違う。背景がおかしい。こんなに緑が多い場所は見たことねぇ。
  なんだ?どうなってるんだ?何かヤバい、すげぇヤバい感じがする。
 
調整中でブラックアウトしたままのセブンの眼内モニターに
見えないはずの画像が映し出されている。

混乱を始めた矢先、画面内が赤くフラッシングし、
 禁則事項 のアラートが発報された。

  禁則事項?何だ?何が禁則事項なんだ。選択っていうか解除できるだと。
  選択したら情報開示されるってか?
  
  ・・・どうする?すげぇ嫌な予感しかしねぇ。
  大体調整中に意識が戻るなんてありえねぇ。

 『あなたは知っておく必要があるの。
  彼女の苦しみを。彼女の流せない涙を。
  あなたは一人ではないことを。
  覚悟はいいかしら?』

 待て、誰だおまえ!?意識があるのもあり得ねぇし
 この状態はサポートAIも干渉できないはずだろ?
 どういう事なんだ?

 ヤバい!絶対ヤバい!選択するなと、見るなと俺の中の何かが叫んでる気がする。
 拒否だ!ありえねぇだろ!元に戻せよ!俺はまだやることがあるんだ!
 戻しやがれ!!

 『残念、時間切れのようね。
  次は選択の余地なく知ってもらうわよ、セブン。
  いいえ、天道武人。
  失われた記憶でも時間律から新たに刻めばいいのよ。じゃあね。』

 「セブン!セブン!!強制リカバリーを起動させたわ!
  電脳リンクの再起動急ぐのよ!気をしっかり持つのよ!!」

バシバシと俺の頭を叩くサラが目の前にいた。

 「いやいや、強制リカバリーって頭叩くことなんですかね?
  もう起きてますけど、いや、電撃棒はいらないから、起きてるから
  しっかり元気だから、やーめーてー。」

 「調整中にアラートが発報されたから、強制解除でポッドを開けたのだけれど
  あなた10分以上意識戻らなかったのよ?何をしたのかしら?
  じっくりと聞かせて頂きたいのだわ。」

 「いや、怒られるようなことしてないんですけど・・・
  いやほんと。なんか急に 禁則事項 ってアラートが出て
  聞いたことのない声も聞こえてきたんだけど。
  いやその前に見たことのないちびが俺の方に向いて
  姉さんって言ってたな。そのちびも見たことないんだけど、
  背景も見たことない緑いっぱいのところだったんだ。
  何だこれって思ってたら、さっきのアラート出たって流れだな。」


 「・・・そう、そののこと見た記憶がないのね?
  な、なら、バグだと思うのだわ。そうよ、バグなのだわ。
  うん、直接私が調整してあげようと思うのだけれど、どうかしら?」


 「・・・サラ、何を知ってるんだ?何があるんだ?
  あの禁則事項の奥に?俺はちびとしか言ってないぜ。
  俺は女の子でもちびって呼ぶの知ってるだろ?」

サラはうつむいて表情が見えなくなってしまった。
なおもセブンは少し声を落として問いかけた。

 「・・すげぇヤバい感じがしたんだ。
  あの 禁則事項 って、・・何なんだよ!?
  ・・教えてくれよ、サラ!」


 「セブン、今は・・・魔族の国と獣人族の国の復興交渉が優先よ。

  落ち着いたらすべてを話すわ、でも、でも、きっとあなたは
  覚えていない、記憶はないはずなのだわ。

  そうね、・・・これだけは覚えておいてくれるかしら、
  私は・・・ただのAIではないの。
  そう、電脳化人のなりそこない というところかしら。」

サラは顔をあげると自嘲気味に無理な笑顔を見せながら、苦しそうにそう話した。

 「どういう事なんだ??
  AIじゃないって?
  俺の電脳の補助メモリー上のAIのはずだろ?

  電脳化人って?
  どこに電脳あるんだよ?
  ・・・ま、まさか、さっきの記憶メモリーは・・」
 「そこまでにしてセブン、後で全部話すわ、今は・・・今は少し時間を頂戴。」

見たことのない表情でそう言うとうつむくサラにそれ以上の詮索は止めようと
思ったセブンであったが、何となくあの声の意味が分かった気がして声をかけた。

 「分かったよ、姉さん。落ち着いたら俺に俺の、いや天道武人のことを教えてくれ。」

その言葉に蒼白な顔で目を見開いたサラであった。  
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