上 下
43 / 59

噂 千里を駆ける

しおりを挟む
人族の王都に齎された情報は、
噂話として耳の良い者達にも届き、
大陸中に凄まじい速さで広まっていった。
まさに、噂が千里を駆ける如く。

その噂はこのようなものであった。

 北部の街に女神様が降臨された。
 いや、降臨されている。
 森の精霊様も顕現されている。
 聖域を形作られ、その中におられる。
 聖なる神殿が一瞬で創建された。
 女神様はそこにおられる。
 女神様からスキルを頂いたらしい。
 女神様から加護をかけて頂いたそうだ。
 神殿長が移り住むらしい。 
 聖なる城が一瞬で顕現した。
 いや、女神様の神城だ。
 精霊様に守られている神城だ。
 神狼様も守りにつかれている。
 国王陛下が住まわれるらしい。

中でも一番大きく騒がれているのは、

 英雄様のご子孫が現れた。
 ダンジョン討伐に向かうらしい。
 森の精霊様と共に戦われるそうだ。
 ただのダンジョンではないらしい。
 異なる世界からの侵攻だそうだ。

 世界の一大事に英雄様のご子孫が
 挑まれるらしい。

この最後の噂を耳にして、
強い光を瞳の奥に宿した者達がいた。
その者達は、その北部の街の名を確認し、
一団を形成しつつ、移動を始めたという。
あるものは森の奥から、
あるものは薄暗い地下都市から、
あるものは魔物が跋扈する荒野から、
あるものは険しい山奥から、
王都からも多くの戦士達が移動を始めていた。

誰もが、胸中に同じ想いを強く抱いていた。
特に森の奥から進み出る一団の長は、
深い皺の中から鋭い眼光を放っていた。

 (今度こそ共に戦わせて頂きます。
  英雄様。
  この千年、
  ずっとお待ちしておりました。)



でかいな。
モフるどころか、乗れそうなんだけど。
いや、絶対乗れる大きさだな。
すごく長い尻尾だな。
白い毛並みが揺らめいて綺麗だな。
・・・いや、
揺らめいているんじゃないよな、あれ。
本当に光で出来てるんだ!
すごいな!
マジで神狼様だな。
光の狼かぁ、カッケーー。

俺がそんな風に思いながら
見つめている目線を辿るように
二頭の神狼様が駆け寄ってくる。

大きな二頭の頭の上で
戯れている小天狗様は嬉しそうだ。
どうやら久しぶりに会うらしい。
はしゃぐ姿が可愛いな、失礼だけど。
ひとしきり小天狗様と戯れると俺の方に
親しみを感じる目つきで顔を寄せてきた。

うん、お馬さんに顔を舐められる感じだ。
いや、実際二頭に舐められた。
くすぐったいけど、なんだか嬉しかった。

周りでは国王陛下一同が
 おおっ! とか言って騒いでる。
顔を擦り寄せている二頭の首に抱きつくと
とても落ち着く感じがした。 

 『『また、共に戦わせてください。』』

そんな声が聞こえてきた。
うん、こちらこそお願いします。
心の中でそう返事をすると、二頭の尻尾が
ちぎれそうなくらい振られていた。

二頭が何かに気づいたようで、
顔をもたげた。
その拍子に俺も二頭の目線の先を追って、
振り返った。

後ろの方から、シロミズチ様と
エレノア神殿長、聖女様方が
歩いて来ていた。

また、二頭が嬉しそうな表情をしている。
シロミズチ様とも知り合いのようだ。



 「神狼達、久しぶりだな。
  元気そうで何よりだ。

  ん?
  そうか、
  カケル殿と共に戦ってくれるのか、
  うむ、
  我はこの聖域から
  出る事は出来ぬのでな。
  カケル殿のことを頼むのだ。
  
  カケル殿、
  この者達もカケル殿と同じく、
  女神様の使徒なのだ。
  仲良くしてやって欲しいのだ。」

 「はい、大丈夫ですよ。
  さっきも念話?みたいなのが
  聞こえたので、
  一緒にダンジョンに行ってきます。」

後ろの一団からさらに大きな声が上がった。
神狼様と共に戦えるなど、あの魔王討伐の
英雄譚と同じではないか!
なんたる僥倖、今ここにいることを
誇りに思う。

騒がしい兵士達を宥める隊長も近衛兵長も
目を閉じて何かを感じ入っているようだ。

聖女様方は花壇や噴水周りにいる精霊様にも
何かお祈りを捧げている。

 「もはや、迷うことはない。
  近衛兵長よ。
  余もあのダンジョン討伐に向かう。
  これは王命だ。
  全軍でもって討伐を敢行する。
  良いな。」

 「御意。
  共に戦えることを光栄に存じます。
  全員に告ぐ、城内で半刻の休息を取り、
  あのダンジョン討伐に向かう。
  準備を怠るな。」

国王陛下は、まず城内に入り、
ホールの向こうに大きなテーブルと
椅子のセットがあるのを見つけると、
そこで休息と食事をとると
ライアン近衛兵長に告げた。

ザラさん達が急足で厨房に走っていく。
俺も後に続いて、厨房に調理器具や食材、
食器を出して、調理の補助作業を始めた。
聖女様方も駆け寄って来て、
用意を手伝ってくれている。

ふと、思いついて、調理に使う水を
俺があのスキルで作り出して、
数十本の水瓶に注いでいった。
聖女様方はその水の正体にすぐに気付いて、
エレノア神殿長を呼びに行った。
水を見たエレノア神殿長が固まった。

 「カ、カケル様!
  こ、この水は!
  まさか、聖水なのでは!」

 「あ、俺のスキルで作り出しました。
  いくらでも作れるので
  気にしないでください。
  ちなみに、内緒ですけど、あの湖の水は
  全部聖水になってます。」

俺のその最後の一言で、
後ろで煌めく湖面を見つめて
皆さん硬直してしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す

大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。 その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。 地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。 失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。 「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」 そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。 この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。

二度目の異世界に来たのは最強の騎士〜吸血鬼の俺はこの世界で眷族(ハーレム)を増やす〜

北条氏成
ファンタジー
一度目の世界を救って、二度目の異世界にやってきた主人公は全能力を引き継いで吸血鬼へと転生した。 この物語は魔王によって人間との混血のハーフと呼ばれる者達が能力を失った世界で、最強種の吸血鬼が眷族を増やす少しエッチな小説です。 ※物語上、日常で消費する魔力の補給が必要になる為、『魔力の補給(少しエッチな)』話を挟みます。嫌な方は飛ばしても問題はないかと思いますので更新をお待ち下さい。※    カクヨムで3日で修正という無理難題を突き付けられたので、今後は切り替えてこちらで投稿していきます!カクヨムで読んで頂いてくれていた読者の方々には大変申し訳ありません!! *毎日投稿実施中!投稿時間は夜11時~12時頃です。* ※本作は眷族の儀式と魔力の補給というストーリー上で不可欠な要素が発生します。性描写が苦手な方は注意(魔力の補給が含まれます)を読まないで下さい。また、ギリギリを攻めている為、BAN対策で必然的に同じ描写が多くなります。描写が単調だよ? 足りないよ?という場合は想像力で補って下さい。できる限り毎日更新する為、話数を切って千文字程度で更新します。※ 表紙はAIで作成しました。ヒロインのリアラのイメージです。ちょっと過激な感じなので、運営から言われたら消します!

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

【完結】悪役令嬢と手を組みます! by引きこもり皇子

ma-no
ファンタジー
【クライマックス突入!】  ここは乙女ゲームが現実となった世界。悪役令嬢からの数々の嫌がらせを撥ね除けたヒロインは第一皇子と結ばれてハッピーエンドを迎えたのだが、物語はここで終わらない。  数年後、皇帝となった第一皇子とヒロインが善政改革をしまくるものだから、帝国はぐちゃぐちゃに。それを止めようと「やる気なし皇子」や「引きこもり皇子」と名高い第二皇子は悪役令嬢と手を組む。  この頼りなさそうな第二皇子には何やら秘密があるらしいが……  はてさて、2人の運命は如何に…… ☆アルファポリス、小説家になろう、カクヨムで連載中です。  1日おきに1話更新中です。

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

処理中です...