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意外な話を聞けた
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その男は身体中の至るところに斬られた傷があり、
意識朦朧の状態で町の門の前に辿り着いた。
血だらけでふらついている男の接近を見て
救護兵が門の中から駆け出して行った。
男はその兵に立ち向かおうと両手で
剣を構えようとしたのだが、
突如血を吐き、救護兵の前で
かすかに残っていた意識を手放していった。
一言、 無念 とだけ言葉を残して。
男は薬草の助けもあって一命を取り留め、
神殿の救護室で3日ほど経ったある日、
ぼんやりと目を覚ました。
傷の手当てに使う薬草を貼り替えていた
神官の娘に声をかけてきた。
「此処は何処であろうか?
異国の民と見えるが我の言葉を・・・」
「まだ、お話になってはいけませんわ。
傷に響きますから。
もう2、3日は静かに、心安らかに
お過ごしくださいませ。」
やんわりと神官の娘は男の言葉を遮り、
温かな薬湯を口元に添えて飲ませると、
見るものの心を優しく包み込むような
笑みを浮かべて、男を眠りの国へと誘った。
その後、男は神殿付きの剣士として
町のために尽力し、様々なスキルを使って見せながら、
大陸内で暴れ回っていた魔王の手下達を次々と討ち、
最後には巨大な体を持つ魔王を一騎討ちの末、
見事討ち取り、この大陸に平和を齎した。
その最後の戦いぶりは、千年たった今でも伝わっている。
魔王の体の周りに舞い踊る桜色の花びらを踏みながら、
右に左にと空中を舞うように移動し、
魔王の体を切り刻む剣の舞のようであったという。
その戦いの様子を今でも伝える祭りが3月にある。
桜色の花びらが舞う頃、神殿の前で奉納される、
桜花の剣舞と名がついているそうだ。
その英雄は家名は語らず、九郎義経と名だけを語ったという。
その英雄の伝えたものの中に、食べ物がある。
1月7日には野の草7種を混ぜた七草薬膳、
6月には米粉と小豆を使った水無月という
一年の無病息災を祈念する和菓子、
おやつとして楽しむおはぎのようなかいもちがある。
大陸のどの町でもその風習を継いでいるそうだ。
「義経さんは京都のお菓子が好きだったのね。
何だか戦いに明け暮れた武人のイメージがあるから
甘いものとの結びつきがなさそうに思っていたわ。」
「うーん、というか、
平泉から異世界に逃げ延びていたのかぁ。
モンゴルじゃなかったのか。
それで、義経さんはどこで最後を迎えたんだろう?」
「王都よ。
正確には最後に息を引き取られた神殿のあった町を
その後に王都に変遷したって伝わっているわね。
でも、意外だわ。
カケル君やさつきさんの知っている人物だったなんて。」
「いや、それこそ、異世界と同じく
こっちの世界でも有名な武人だからね。
まず、ほとんどの人が知っていると思うよ。」
「何だか、奇妙な縁を感じるわね。
今いるこの山道のあるあたりは、
義経さんが平泉から京都に戻ろうとして
立ち寄ったという逸話が残っているのよ。
何より、私の実家は鞍馬寺の近くにあるし、
鞍馬君だってあのあたりの出身じゃない。
こういうことってあるのよね、実際。」
「いや、俺京都に住んでいた記憶は全くないし、
戸籍謄本見るまで元々両親が京都出身だったって
知らなかったし、実感ないな。」
「カケル君には何かしらの縁があると思うわ。
だって、その英雄義経様しか持っていなかった
ギフトの力を授かっているのだから。」
「そうそのギフトとか、スキルって
私でも持てるのかな?」
「さぁ?それは向こうに行ってみないと
分からないんじゃなんじゃないかと思う。
俺も向こうに行くまではステータスも見れなかったし。
明日のお楽しみってことで。」
結構遅い時間まで話し込んでしまった。
しばらく話を聞くだけだったココが
うつらうつらしていると思ったら、
また、シルバが俺の膝の上で船を漕ぎ出していた。
今日はこれでお開きということにして
明日の朝に異世界に向けて出発することで
俺とシルバはすぐ横の四畳半で、ロアンヌさん達は
昨日と同じ奥の広間で眠りについた。
タブレットの通販サイトを見て、元気が残っている
二人はまだあれこれ話しているのが聞こえていた。
俺の頭の片隅に義経さんの話が引っかかっていた。
こんなギフトとかスキルとか誰がくれているんだろう?
タイミングいいから見ていてくれてそうだなと思った。
今日も感謝しながら眠ることにした。
『やぁ、初めてパスが繋がったのかな?
眠っている時は干渉しやすくなるのよね。
感謝なら町の神殿に何か美味しい物でも
供えてくれたら喜んで受け取るわよ。
私は基本神殿から出れないのよね。
ああ、私のことはヘスティアとでも
呼んでくれたらいいわ。
じゃあね、鞍馬のカケル君。』
そんな声を聞いているような夢を見た気がした。
翌朝も雲一つ無い快晴だった。
シルバのモフモフ感に癒されたからか、
早朝に目が覚めたけど気分は最高だ。
静かに顔を洗って着替えると
キッチン横の勝手口からこそっと外に出てみた。
今日も山の新鮮な空気が美味しい。
このところずっと晴れ間が続いている。
梅雨が早く明けたからカラッとしていて気持ちいい。
夏場には水不足が心配になるかもしれないな。
ふと、草原の方を見ると
鹿かウサギのような丸いフンが落ちていた。
夜中とかに遊びにきていたようだ。
そっか、こんな感じで外から知らない人も
ここに入れてしまうのか。
今はちょっとマズイよな。
ロアンヌさんとかココはたまに遊びに来る感じだろうけど、
これからシルバと一緒に過ごすことになるから、
見つかって騒ぎになるのは避けたいなぁと思ってしまった。
(ピロン
不可視の聖域のスキルを獲得しました。)
あ、また新しいスキルを貰えた。
これって見てるというより俺の願いを
聞いてスキルをくれている感じだな。
いつもありがとう、ヘスティア様でいいのかな?
昨日夢でそんな名前だったと思うけど。
間違ってたらごめんなさい。
このスキルってどんな事が出来るんだろう。
ステータス画面で確認してみた。
不可視の聖域
認識範囲内を聖域として結界を張り、
結界の外からの視覚認識阻害だけでなく、
物理、魔法、概念攻撃を遮断する。
結界には出入り口を任意に部分解放可能。
行使者が存命の間は設置を継続できる。
これも便利だ。
認識阻害ってことは外から見えなくなるってことかな。
じゃあ、草原の先の壁の前まで結界をドーム状に張って
林道の脇から設定して貴船さんの車も結界内に入れてみた。
・・・自分で何も感じないというか見れないんだけど、
どうやって確認すればいいんだろ?
林道の方に向かってみた。
ゴン!
イタタ。おでこと鼻をぶつけたんだけど。
中からも出れなくなるわけか。
まぁ、これでいいんじゃないかなということにして、
家に戻ることにした。
勝手口から家に入るともうみんな起きていた。
今朝は冷凍フレンチトーストとカップスープだ。
貴船さんがえっ?って顔しているけど、
美味しいんだよ、ほんと。
冷蔵庫に鮭の切り身と卵が入っていたけど、
今日の晩御飯に使いましょうということで
納得してもらった。
結局貴船さんからも、あら、意外と美味しいという
言葉をいただきました。勝った。
これで電子レンジ無双の時代だ。
テーブルで女性陣3人が、
4畳半で小さなテーブルを広げて
俺とシルバが朝ご飯を食べた。
ココがカップスープが美味しいと喜んでいた。
シルバは浮かんでいるクルトンが気に入ったみたいで
俺のを分けてあげるといい笑顔でありがとうを貰った。
いいね、その笑顔、俺も自然に笑顔になれるよ。
お腹も心も満たされたので、みんなで順番に歯磨きをして
装備を揃えて出発の準備をすることにした。
結界は、上部を解放して見えない外壁がある状態に
変形させて、通販サイトのドローンの到着を待つことにした。
しばらくすると、空爆の如くドローン編隊が舞い降りてきた。
ロアンヌさんと俺は昨日もやっているので、
せっせとドローン発着場の横に箱の山を築いていった。
貴船さんとココとシルバが固まっていた。
今回は昨日の半分以下だ、ほんの100箱程度だ。。ほんの。
スキルを使って白い靄の中に収納して、
結界は残したままで出発することにした。
俺の剣とベルトをセットで貴船さんに貸してあげた。
別にいいのにって言いながらものすごくニヤついていた。
欲しいんですね、分かります。
早速、シルバと手を繋いで草原を進み出したんだけど、
ココがこんなことを言い出した。
「カケル、この辺りの薬草も採取したいのにゃ。
調合すると疲労回復薬が作れる薬草なのにゃ。」
何だって!調合!?
そうか、この草だけだと苦いだけなんだけど、
他のものと混ぜ合わせたら薬になるのか。
「いいこと教えてくれてありがとう。
ただの雑草が薬の材料になるとは思わなかったよ。」
「カケル、雑草っていう草は無いのにゃ。
みんな名前があって、何かの役割があるものなのにゃ。
使えない草はなくて、使い方がわからないから雑草と
呼ぶのはかわいそうなのにゃ。
使い方を見つけてあげるのも薬草士の仕事なのにゃ。」
「そうだよな、雑草って草は無いよな。
うん、俺もっと調合の勉強もするよ。
ココはどこで習ったんだ?」
「両親なのにゃ。薬草のことは両親から教わったのにゃ。
調合は研究の成果なのにゃ。
使い方がまだ分からない草がいっぱいあるのにゃ。
一緒に研究してくれたら嬉しいのにゃ。」
「あ、じゃあ俺、ココに弟子入りしようかな。
俺も討伐とかあんまりしたくないし。
こっちの方が合ってる気がするし。」
そう言いながら、周りの草をある程度刈り取って、
俺達はまたあの温かい壁の近くまで来た。
今日の実験はロアンヌさんとココは俺が手を握るけど、
シルバはココと、貴船さんはロアンヌさんと手を繋いで、
5人が横並びで通れるかどうか確認してみることにした。
・・・通れた。
手を通して繋がりがあればいいみたいだ。
ちょっと気になったのが、俺以外は壁を越えるまでは
街のとんがり屋根の建物が見えていないことだ。
俺にだけ壁の向こうが透けて見えているようだ。
貴船さんのテンションが上がっていた。
道中で光る花をつけた動いている草があった。
貴船さんの好奇心がついに我慢の限界を超えて、
その植物目掛けて駆け出していってしまった。
「ダメにゃ!!
その草は危険なのにゃ!!下がるのにゃ!!」
ココがびっくりするくらいの大声を出して
貴船さんを止めようとした。
ヤバイものを感じた俺は咄嗟にその動いている草に
時の牢獄のスキルを放った。
一瞬遅れてしまった。
貴船さんの右肩を透明な錐のようなものが貫いていた。
時の牢獄が少し遅れてかかったからか、
錐のようなものは半ばで折れていた。
見る見るうちに貴船さんの右肩が血で染まっていく。
ロアンヌさんがすごい速さで駆け寄って、
錐の残骸を引き抜いた。
「カケル君!
私にかけた浄化回復のスキルを!」
「了解!」
貴船さんの流血が跡形もなく消えたから、
傷は塞がって同時に治ったようだ。
動く草は時折キラキラと光る四角い箱の中で
動きを止めている。
「その草は狩人草にゃ。
近づくものをさっきの氷系の魔法で
作られた槍で突き刺して倒すのにゃ。
倒れたら、氷で出来た細い筒を突き刺して
獲物の中身を吸い取るのにゃ。
みんな干からびて死んでしまうのにゃ。
魔法攻撃が効かない、厄介な相手なのにゃ。
フレイムオーガが好んで食べる草なのにゃ。
熱に弱いから昼間はあまり外に出ていないのにゃ。」
ヤバイ草だったようだ。
しかも、あのフレイムオーガが好きな草だったとは。
「よし、それなら今のうちに討伐するかな。」
「待って欲しいのにゃ。
その狩人草は数が減っている貴重な魔物草なのにゃ。
出来たら許してあげて欲しいのにゃ。」
「なるほど、絶滅危惧種ってことか。
なら、見逃してやるか。
いいかな、貴船さん?」
「ええ、不用意に接近した私が悪かったわ。
ロアンヌさんもありがとう。
鞍馬君、絶滅危惧種は保護すべきだわ。
私は気にしないから、解放してあげて。」
「それがいいと思うわ。
じゃあ、ここから離れましょうか。」
ロアンヌさんに手を引かれて貴船さんが離れると、
俺は時の牢獄を解放し、狩人草がいそいそと
茂みに入っていくのを見守った。
ココの話では、狩人草は高熱が出る病に効果のある
熱冷ましの薬として重宝されており、
最近は火矢を使って乱獲されて数が激減しているのだそうだ。
どこの世界も人が自然のバランスを破壊しているようで、
何か悲しくなった。
そんな気分を振り払うように元気よく歩いていくと、
小さな小川の近くでは、まっすぐ二本足で疾走するカニ?とか、
水中から氷の粒を飛ばして攻撃してくる小魚とかがいて、
貴船さんのテンションも元に戻っていった。
街に入る時は、かっこいい装備に身を包んだ
犬耳の衛兵さんに近寄りすぎて危なかったけど、
中に入って、エルフ族やドワーフ族、魔族の人を見る度に
目の輝きを増していって、徐々に完全復活していったみたいだ。
ギルドに入るとイケメンエルフのカイルさんに超速度で接近していた。
貴船さんダメですよ、そのイケメンエルフのお兄さんは売約済みです。
ほら、早く離れないとロアンヌさんのツノが増えちゃいますよ。
意識朦朧の状態で町の門の前に辿り着いた。
血だらけでふらついている男の接近を見て
救護兵が門の中から駆け出して行った。
男はその兵に立ち向かおうと両手で
剣を構えようとしたのだが、
突如血を吐き、救護兵の前で
かすかに残っていた意識を手放していった。
一言、 無念 とだけ言葉を残して。
男は薬草の助けもあって一命を取り留め、
神殿の救護室で3日ほど経ったある日、
ぼんやりと目を覚ました。
傷の手当てに使う薬草を貼り替えていた
神官の娘に声をかけてきた。
「此処は何処であろうか?
異国の民と見えるが我の言葉を・・・」
「まだ、お話になってはいけませんわ。
傷に響きますから。
もう2、3日は静かに、心安らかに
お過ごしくださいませ。」
やんわりと神官の娘は男の言葉を遮り、
温かな薬湯を口元に添えて飲ませると、
見るものの心を優しく包み込むような
笑みを浮かべて、男を眠りの国へと誘った。
その後、男は神殿付きの剣士として
町のために尽力し、様々なスキルを使って見せながら、
大陸内で暴れ回っていた魔王の手下達を次々と討ち、
最後には巨大な体を持つ魔王を一騎討ちの末、
見事討ち取り、この大陸に平和を齎した。
その最後の戦いぶりは、千年たった今でも伝わっている。
魔王の体の周りに舞い踊る桜色の花びらを踏みながら、
右に左にと空中を舞うように移動し、
魔王の体を切り刻む剣の舞のようであったという。
その戦いの様子を今でも伝える祭りが3月にある。
桜色の花びらが舞う頃、神殿の前で奉納される、
桜花の剣舞と名がついているそうだ。
その英雄は家名は語らず、九郎義経と名だけを語ったという。
その英雄の伝えたものの中に、食べ物がある。
1月7日には野の草7種を混ぜた七草薬膳、
6月には米粉と小豆を使った水無月という
一年の無病息災を祈念する和菓子、
おやつとして楽しむおはぎのようなかいもちがある。
大陸のどの町でもその風習を継いでいるそうだ。
「義経さんは京都のお菓子が好きだったのね。
何だか戦いに明け暮れた武人のイメージがあるから
甘いものとの結びつきがなさそうに思っていたわ。」
「うーん、というか、
平泉から異世界に逃げ延びていたのかぁ。
モンゴルじゃなかったのか。
それで、義経さんはどこで最後を迎えたんだろう?」
「王都よ。
正確には最後に息を引き取られた神殿のあった町を
その後に王都に変遷したって伝わっているわね。
でも、意外だわ。
カケル君やさつきさんの知っている人物だったなんて。」
「いや、それこそ、異世界と同じく
こっちの世界でも有名な武人だからね。
まず、ほとんどの人が知っていると思うよ。」
「何だか、奇妙な縁を感じるわね。
今いるこの山道のあるあたりは、
義経さんが平泉から京都に戻ろうとして
立ち寄ったという逸話が残っているのよ。
何より、私の実家は鞍馬寺の近くにあるし、
鞍馬君だってあのあたりの出身じゃない。
こういうことってあるのよね、実際。」
「いや、俺京都に住んでいた記憶は全くないし、
戸籍謄本見るまで元々両親が京都出身だったって
知らなかったし、実感ないな。」
「カケル君には何かしらの縁があると思うわ。
だって、その英雄義経様しか持っていなかった
ギフトの力を授かっているのだから。」
「そうそのギフトとか、スキルって
私でも持てるのかな?」
「さぁ?それは向こうに行ってみないと
分からないんじゃなんじゃないかと思う。
俺も向こうに行くまではステータスも見れなかったし。
明日のお楽しみってことで。」
結構遅い時間まで話し込んでしまった。
しばらく話を聞くだけだったココが
うつらうつらしていると思ったら、
また、シルバが俺の膝の上で船を漕ぎ出していた。
今日はこれでお開きということにして
明日の朝に異世界に向けて出発することで
俺とシルバはすぐ横の四畳半で、ロアンヌさん達は
昨日と同じ奥の広間で眠りについた。
タブレットの通販サイトを見て、元気が残っている
二人はまだあれこれ話しているのが聞こえていた。
俺の頭の片隅に義経さんの話が引っかかっていた。
こんなギフトとかスキルとか誰がくれているんだろう?
タイミングいいから見ていてくれてそうだなと思った。
今日も感謝しながら眠ることにした。
『やぁ、初めてパスが繋がったのかな?
眠っている時は干渉しやすくなるのよね。
感謝なら町の神殿に何か美味しい物でも
供えてくれたら喜んで受け取るわよ。
私は基本神殿から出れないのよね。
ああ、私のことはヘスティアとでも
呼んでくれたらいいわ。
じゃあね、鞍馬のカケル君。』
そんな声を聞いているような夢を見た気がした。
翌朝も雲一つ無い快晴だった。
シルバのモフモフ感に癒されたからか、
早朝に目が覚めたけど気分は最高だ。
静かに顔を洗って着替えると
キッチン横の勝手口からこそっと外に出てみた。
今日も山の新鮮な空気が美味しい。
このところずっと晴れ間が続いている。
梅雨が早く明けたからカラッとしていて気持ちいい。
夏場には水不足が心配になるかもしれないな。
ふと、草原の方を見ると
鹿かウサギのような丸いフンが落ちていた。
夜中とかに遊びにきていたようだ。
そっか、こんな感じで外から知らない人も
ここに入れてしまうのか。
今はちょっとマズイよな。
ロアンヌさんとかココはたまに遊びに来る感じだろうけど、
これからシルバと一緒に過ごすことになるから、
見つかって騒ぎになるのは避けたいなぁと思ってしまった。
(ピロン
不可視の聖域のスキルを獲得しました。)
あ、また新しいスキルを貰えた。
これって見てるというより俺の願いを
聞いてスキルをくれている感じだな。
いつもありがとう、ヘスティア様でいいのかな?
昨日夢でそんな名前だったと思うけど。
間違ってたらごめんなさい。
このスキルってどんな事が出来るんだろう。
ステータス画面で確認してみた。
不可視の聖域
認識範囲内を聖域として結界を張り、
結界の外からの視覚認識阻害だけでなく、
物理、魔法、概念攻撃を遮断する。
結界には出入り口を任意に部分解放可能。
行使者が存命の間は設置を継続できる。
これも便利だ。
認識阻害ってことは外から見えなくなるってことかな。
じゃあ、草原の先の壁の前まで結界をドーム状に張って
林道の脇から設定して貴船さんの車も結界内に入れてみた。
・・・自分で何も感じないというか見れないんだけど、
どうやって確認すればいいんだろ?
林道の方に向かってみた。
ゴン!
イタタ。おでこと鼻をぶつけたんだけど。
中からも出れなくなるわけか。
まぁ、これでいいんじゃないかなということにして、
家に戻ることにした。
勝手口から家に入るともうみんな起きていた。
今朝は冷凍フレンチトーストとカップスープだ。
貴船さんがえっ?って顔しているけど、
美味しいんだよ、ほんと。
冷蔵庫に鮭の切り身と卵が入っていたけど、
今日の晩御飯に使いましょうということで
納得してもらった。
結局貴船さんからも、あら、意外と美味しいという
言葉をいただきました。勝った。
これで電子レンジ無双の時代だ。
テーブルで女性陣3人が、
4畳半で小さなテーブルを広げて
俺とシルバが朝ご飯を食べた。
ココがカップスープが美味しいと喜んでいた。
シルバは浮かんでいるクルトンが気に入ったみたいで
俺のを分けてあげるといい笑顔でありがとうを貰った。
いいね、その笑顔、俺も自然に笑顔になれるよ。
お腹も心も満たされたので、みんなで順番に歯磨きをして
装備を揃えて出発の準備をすることにした。
結界は、上部を解放して見えない外壁がある状態に
変形させて、通販サイトのドローンの到着を待つことにした。
しばらくすると、空爆の如くドローン編隊が舞い降りてきた。
ロアンヌさんと俺は昨日もやっているので、
せっせとドローン発着場の横に箱の山を築いていった。
貴船さんとココとシルバが固まっていた。
今回は昨日の半分以下だ、ほんの100箱程度だ。。ほんの。
スキルを使って白い靄の中に収納して、
結界は残したままで出発することにした。
俺の剣とベルトをセットで貴船さんに貸してあげた。
別にいいのにって言いながらものすごくニヤついていた。
欲しいんですね、分かります。
早速、シルバと手を繋いで草原を進み出したんだけど、
ココがこんなことを言い出した。
「カケル、この辺りの薬草も採取したいのにゃ。
調合すると疲労回復薬が作れる薬草なのにゃ。」
何だって!調合!?
そうか、この草だけだと苦いだけなんだけど、
他のものと混ぜ合わせたら薬になるのか。
「いいこと教えてくれてありがとう。
ただの雑草が薬の材料になるとは思わなかったよ。」
「カケル、雑草っていう草は無いのにゃ。
みんな名前があって、何かの役割があるものなのにゃ。
使えない草はなくて、使い方がわからないから雑草と
呼ぶのはかわいそうなのにゃ。
使い方を見つけてあげるのも薬草士の仕事なのにゃ。」
「そうだよな、雑草って草は無いよな。
うん、俺もっと調合の勉強もするよ。
ココはどこで習ったんだ?」
「両親なのにゃ。薬草のことは両親から教わったのにゃ。
調合は研究の成果なのにゃ。
使い方がまだ分からない草がいっぱいあるのにゃ。
一緒に研究してくれたら嬉しいのにゃ。」
「あ、じゃあ俺、ココに弟子入りしようかな。
俺も討伐とかあんまりしたくないし。
こっちの方が合ってる気がするし。」
そう言いながら、周りの草をある程度刈り取って、
俺達はまたあの温かい壁の近くまで来た。
今日の実験はロアンヌさんとココは俺が手を握るけど、
シルバはココと、貴船さんはロアンヌさんと手を繋いで、
5人が横並びで通れるかどうか確認してみることにした。
・・・通れた。
手を通して繋がりがあればいいみたいだ。
ちょっと気になったのが、俺以外は壁を越えるまでは
街のとんがり屋根の建物が見えていないことだ。
俺にだけ壁の向こうが透けて見えているようだ。
貴船さんのテンションが上がっていた。
道中で光る花をつけた動いている草があった。
貴船さんの好奇心がついに我慢の限界を超えて、
その植物目掛けて駆け出していってしまった。
「ダメにゃ!!
その草は危険なのにゃ!!下がるのにゃ!!」
ココがびっくりするくらいの大声を出して
貴船さんを止めようとした。
ヤバイものを感じた俺は咄嗟にその動いている草に
時の牢獄のスキルを放った。
一瞬遅れてしまった。
貴船さんの右肩を透明な錐のようなものが貫いていた。
時の牢獄が少し遅れてかかったからか、
錐のようなものは半ばで折れていた。
見る見るうちに貴船さんの右肩が血で染まっていく。
ロアンヌさんがすごい速さで駆け寄って、
錐の残骸を引き抜いた。
「カケル君!
私にかけた浄化回復のスキルを!」
「了解!」
貴船さんの流血が跡形もなく消えたから、
傷は塞がって同時に治ったようだ。
動く草は時折キラキラと光る四角い箱の中で
動きを止めている。
「その草は狩人草にゃ。
近づくものをさっきの氷系の魔法で
作られた槍で突き刺して倒すのにゃ。
倒れたら、氷で出来た細い筒を突き刺して
獲物の中身を吸い取るのにゃ。
みんな干からびて死んでしまうのにゃ。
魔法攻撃が効かない、厄介な相手なのにゃ。
フレイムオーガが好んで食べる草なのにゃ。
熱に弱いから昼間はあまり外に出ていないのにゃ。」
ヤバイ草だったようだ。
しかも、あのフレイムオーガが好きな草だったとは。
「よし、それなら今のうちに討伐するかな。」
「待って欲しいのにゃ。
その狩人草は数が減っている貴重な魔物草なのにゃ。
出来たら許してあげて欲しいのにゃ。」
「なるほど、絶滅危惧種ってことか。
なら、見逃してやるか。
いいかな、貴船さん?」
「ええ、不用意に接近した私が悪かったわ。
ロアンヌさんもありがとう。
鞍馬君、絶滅危惧種は保護すべきだわ。
私は気にしないから、解放してあげて。」
「それがいいと思うわ。
じゃあ、ここから離れましょうか。」
ロアンヌさんに手を引かれて貴船さんが離れると、
俺は時の牢獄を解放し、狩人草がいそいそと
茂みに入っていくのを見守った。
ココの話では、狩人草は高熱が出る病に効果のある
熱冷ましの薬として重宝されており、
最近は火矢を使って乱獲されて数が激減しているのだそうだ。
どこの世界も人が自然のバランスを破壊しているようで、
何か悲しくなった。
そんな気分を振り払うように元気よく歩いていくと、
小さな小川の近くでは、まっすぐ二本足で疾走するカニ?とか、
水中から氷の粒を飛ばして攻撃してくる小魚とかがいて、
貴船さんのテンションも元に戻っていった。
街に入る時は、かっこいい装備に身を包んだ
犬耳の衛兵さんに近寄りすぎて危なかったけど、
中に入って、エルフ族やドワーフ族、魔族の人を見る度に
目の輝きを増していって、徐々に完全復活していったみたいだ。
ギルドに入るとイケメンエルフのカイルさんに超速度で接近していた。
貴船さんダメですよ、そのイケメンエルフのお兄さんは売約済みです。
ほら、早く離れないとロアンヌさんのツノが増えちゃいますよ。
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颯希先生が描いてくださるリュークやアニスたちが本当に素敵なので、是非ご覧になってくださいませ。
【第2巻が発売されました!】
今回も改稿や修正を頑張りましたので、皆様どうぞよろしくお願いいたします。
イラストは蓮禾先生が担当してくださいました。サクヤとポンタ超可愛いですよ。ゾンダールもシブカッコイイです!
素晴らしいイラストの数々が載っておりますので、是非見ていただけたら嬉しいです。
【ストーリー紹介】
幼い頃、孤児院から引き取られた主人公リュークは、養父となった侯爵から酷い扱いを受けていた。
そんなある日、リュークは『スマホ』という史上初の『Xランク』スキルを授かる。
養父は『Xランク』をただの『バツランク』だと馬鹿にし、リュークをきつくぶん殴ったうえ、親子の縁を切って家から追い出す。
だが本当は『Extraランク』という意味で、超絶ぶっちぎりの能力を持っていた。
『スマホ』の能力――それは鑑定、検索、マップ機能、動物の言葉が翻訳ができるほか、他人やモンスターの持つスキル・魔法などをコピーして取得が可能なうえ、写真に撮ったものを現物として出せたり、合成することで強力な魔導装備すら製作できる最凶のものだった。
貴族家から放り出されたリュークは、朱鷺色の髪をした天才美少女剣士アニスと出会う。
『剣姫』の二つ名を持つアニスは雲の上の存在だったが、『スマホ』の力でリュークは成り上がり、徐々にその関係は接近していく。
『スマホ』はリュークの成長とともにさらに進化し、最弱の男はいつしか世界最強の存在へ……。
どん底だった主人公が一発逆転する物語です。
※別小説『ぶっ壊れ錬金術師(チート・アルケミスト)はいつか本気を出してみたい 魔導と科学を極めたら異世界最強になったので、自由気ままに生きていきます』も書いてますので、そちらもどうぞよろしくお願いいたします。
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