真実の愛なんてクソ喰らえ

月宮雫

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第二章

狼の寵愛②

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そう考え、意識がない彼の首元に両手を伸ばしたけれど、ある風景が頭をよぎり、私は動きを止める。



「……、」




俺はお前の意志の強い瞳が好きなんだ。

ルビー…。

俺はお前の好きなものを知りたい。

ほら、ルビー、お前の好きなイチゴタルトだ。

一緒にチーズケーキを食べよう。

すまない。

…愛してる。




「……ッ、」




彼は、いつも穏やかな笑みを浮かべていた。

鬱陶しいくらいに構ってきて、私の気持ちを理解しようとする人だった。

面と向かって嫌いだと、何度口にしたかは分からない。

それでも彼は私の傍に居た。

邪険にしても、憎まれ口を叩いても、何をしても。

いつでも、私の傍に居て頭を撫でていた。





「ふぐぅっ、ううっ、」





あの日、置いて行かれなければーー。

私はこんな風に貴方を嫌いにはならなかったのに。

人殺しになる事も無かったのに。






「……ギンさん。さようなら」






意識のないその人の胸元に抱き付いて、最後の言葉を告げる。

ボタボタと溢れ出す涙は、彼の胸元を濡らしていく。

出来る事なら貴方を憎まず、心の底から愛したかった。

皆みたいに運命の番を大切にしたかった。







「……」






バタバタと遠くで足音が聞こえる。

きっと、騒ぎを聞き付けたこの家の人達のものだろう。

私は見つからないように階段を上り、一度彼の方に振り返って見つめた後、その場から去った。

何故なら、この騒ぎを利用して家の中を物色し、次の復讐へと向かわなければいけないから。

私には時間がない。

だからいつまでもここに居るわけにはいかないんだ。














Ωの少女が去った後、屋敷内は大きな騒ぎになっていた。

月城家の主であるギンが倒れている。

地下室の獣も血を流して息絶えている。

金庫の金が少額だが、盗まれた。

様々な言葉が飛びかう中、一人の使用人が階段下で倒れている獣の胸元に手を当て、希望を抱いた表情で周りにこう言った。




「ご主人様…ッ、まだ、息があるわ…ッ」

「はっ、急いで救急車を…!」

「警察にも連絡を…!」







……様々なものを懐に入れて屋敷から出た少女は駆け付けた救急車とすれ違い、ふ、と笑う。

その影は立ち止まる事無く静かに闇に溶けて行ったのだった。


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