真実の愛なんてクソ喰らえ

第一章

血の味を知った者④

月城ギンside




会議が終わり、仕事に一段落が着いた時だった。

早くあの子に会いたいという思いもあり、俺は携帯の中に秘蔵されているケーキを無邪気に頬張るルビーの写真を見ようとした。

だが、ふと見た携帯に一件の不在着信が入っていて、それを不思議に思い、掛け直すと…。相手からこんな事を言われたのだ。

おやつのタルトを召し上がられていたルビー様が失踪されました、と。

そして“例の獣”が暴れ出し、何者かによって興奮剤を打たれた可能性がある、と。

正直に言えば、獣の事だけなのであれば、その話は心底どうでもよくて。

だが、それがルビーに関わる事なら、そうは思えなくて。

信頼している執事からの連絡に居てもたってもいられなくなった。




「もっと早く運転出来ないのか…ッ、クソッ…」

「申し訳ありません、全速力ですッ…！」





仕事場から自宅は少し離れており、急ぎで戻っても3時間は掛かった。

車に乗っている際もルビーの行方がどうなったのかが気になり、終始足の震えが止まらなかった。

運転手に怒鳴り続け、ようやく着いた自宅の中は…。

地獄のような有り様になっていた。






「…何を、している、」




玄関に入った後に見えたのは、一人のメイドを取り囲むこの家に務める使用人達。




「っ、お帰りなさいませ、」




俺の問いかけに、使用人達はハッとした表情を浮かべ、こちらに身体を向けてお辞儀をする。

だが、使用人達よりも先に目がいったのは俯き続けているメイドで。

両腕を拘束され、取り囲まれていたメイドは気が狂ったように涙を流しながらこう叫んでいた。






「ふふ…っ、ぐすっ、そうよ、私があの子を地下室の獣の所にぶち込んでやったのよ…っ！！！こんな風に拘束しないで早く殺せば良いじゃない…っ！！私のご主人様を殺した時と同じように！」

「…」

「今頃あの子は食われてるでしょうね…っ、ふふ、だって私が朝に興奮剤を打ったんだから…！！！ざまあみろ！！！この愚弟が！！！」






精神が崩壊しているのか、ヒステリックになっているメイドを見て、呆れた笑いが込み上げる。

酷い言われようだが、お前の弟になった覚えはない。

嗚呼、そうか。

そう言えばこのメイドは、俺の兄上と恋仲にあったメイドだったか。

メイドだからと情けをかけ、生かしておいたのが間違いだったのだと思い知らされ、自然と唸り声が出る。

だが、優先するべきなのはルビーを助けに行く事だ。

今はたかだか気が狂った一人のメイドに処罰を下す時ではない。