真実の愛なんてクソ喰らえ

第一章

復讐及び脱出への策略⑥

その腕の中の居心地は、悔しくもかなり良かった。しっかりとした体付きの狼の肌に噛み付いてやろうかと思ったけれど、本能的な何かが働いて出来なかった。

廊下に出た後、隠れる事もせず狼は綺麗な灰色の毛を揺らしながらスタスタと長い脚を動かして、私を何処かへと運んでいる。




「…、」

「どうした、疲れたのか…？」




何処に連れて行かれるのだろうか、と不安に思いながら狼の事を見上げると、あの日と変わらない優しい瞳と視線が絡んだ。

疲れているわけではない、ただ、不安なだけだ。

囁くようなテノールも、爪を立てないように触れるこの指先も、私は何もかもを覚えている。

少し離れただけでも恋しく感じるこの存在は憎いものであると常に心に言い聞かせていないと、簡単に許してしまいそうになるのだ。





「眠いのなら眠ってもいい…。あの日のようにここに残す事はしない。」

「…、嘘だ、」

「俺は何としてでもルビーを連れて行く。それに…、ここよりもいい生活が待っているから…。今だけは信じてくれないか？」

「嘘だ、嘘だ…そんな言葉信じない…っ、」





何度も優しく諭されるけれど、騙されないように首を横に振って何度も否定する。

きっとこの言葉だって嘘だ、私をまた酷い目に遭わせるに違いない。

一度視線を落とし、また「嘘つき」と呟くと悲しげな溜め息が聞こえてきて、はっと顔を上げると…。

彼の瞳が真っ直ぐに私を見つめているのが分かり、その優しさに甘えてしまいそうになるのを抑える為、ぐっと唇を噛み締めた。





「もう、分かっているだろう…？」

「…、」

「俺達はーー、」






残念ながら、痺れを切らしたように言われたその言葉の続きを聞く事は出来なかった。