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「ファシスディーテ・ラスナンド、貴様との婚約を破棄する」
めでたい卒業パーティーの会場で、いきなり壇上に上がった第一王子が大声で叫んだ。第一王子に寄り添うはトレニア・ジプソフィル子爵令嬢。その後ろに控えるのは側近候補のペルティエ辺境伯の次男、オーギュスト・ペルティエと魔法師庁長官の長男、ブライアント・バウワー、ラスナンド侯爵家の長男、すなわちファシスディーテの弟、フーロックスの3名。
いきなりの大声に、パーティーを楽しんでいた卒業生とその家族は、何事かと注目した。
「貴様は愛しのトレニアに嫌がらせをし、怪我まで負わせた。ここに貴様を断罪する」
「罪ですか?どのような?」
落ち着き払ってファシスディーテが第一王子尋ねる。
「貴様は取り巻きを使いトレニアに暴言を浴びせ、さらには教科書を使えないように破き、トレニアを真冬の池に突き落とし、またある日には学園の大階段から突き落とした。まさに極悪非道と言わざるをえまい」
「暴言に暴力でしょうか?取り巻きとは?」
「貴様が侯爵家の権力で無理矢理集めた令嬢達であろう。しらばっくれおって」
そこでパーティー会場の面々は顔を見合わせた。
侯爵家の権力で無理矢理集めた?令嬢達を?ラスナンド嬢が?あり得ない!!と。
さっき言われたような罪状はともかく、ジプソフィル嬢の取り巻きである下級貴族令嬢達にひどい嫌がらせを受けていたのは知っている。第一王子の寵愛を受けているのはジプソフィル嬢なのだから、さっさと身を引けと暴言を浴びせられたり、突き飛ばされたりはラスナンド嬢のクラスメイトだけでなく、学園の大部分が知っていた。教師達も幾度となくジプソフィル嬢に注意したのだが、第一王子にあることないこと告げ口され、ラスナンド嬢にも黙っていてほしいと懇願されたので、報告する事もなく黙っていた。
「私にはそのような取り巻きは居りません」
「貴様の性格の悪さに皆逃げ出したか」
第一王子がせせら嗤う。
「それに先ほどの暴言ですが、どのような?」
「わっ、私はアル様々に相応しくないとか、礼儀知らずとか、言っていたじゃないですかぁ。怖いお顔で」
「可哀想に、ニア。心配しなくてもいいよ。ニアに意地悪をする悪人は罰してあげるからね」
「アル様……」
ギュッと縋りついたジプソフィル嬢の腰を引き寄せ、第一王子が目尻を下げる。
「それに真冬の池への突き落としと、学園の大階段から突き落としですか?それはいつでございますか?」
「池の方は1月、大階段は3週間前だ」
「正確には?」
「いっ1月の23日と、3週間前の9日ですっ」
「間違いございませんか?」
「間違えていませんっ。ファシスディーテ様はわっ、私が嘘をついていると思っているんだわっ」
「なんという……。ここまで性格がねじ曲がっているとは」
第一王子がわっと泣き出したジプソフィル嬢を抱き締める。後ろに並んだ3名も眉をひそめ、ファシスディーテを睨み付けた。
「1月の23日と、3週間前の9日でございますか?その日は王宮で王妃教育の日でございましたわ」
胸元からメモ帳を取り出して、パラパラとスケジュールを確認したファシスディーテに教師達が頷いた。
「おっ、お前、今どこから……」
「これらの証言は王妃様と王太子妃教育の教師がしてくださると思いますわ」
「なっ、母上が……」
「確かその日はお茶会に招待されましたので。王宮にお問い合わせくださいませ」
「突き落とした件は不問としよう。限りなく疑わしいがな。では暴言の件はどうだ?」
「それなのですが、アルバート殿下に相応しくない、礼儀知らずでしたか。それはどこで?」
「教室の廊下ですっ」
「ジプソフィル嬢の在籍してらっしゃるCクラスの、でございますか?私はCクラス棟には行っておりませんけれど」
「そうやってご自分の頭の良さをひけらかして、わっ、私をバカにしてるんだわっ」
「その様なつもりはございませんわ。ここでCクラスの皆さんに証言を求めても、権力でとか仰られそうですものね」
「認めるんだな?」
「暴言ですか?言っておりませんからねぇ。そう言っても嘘だと決めつけられるのでしょうけど。困りましたわね。お願いできますでしょうか?」
「何の事だ?」
音もなく3人がファシスディーテ後に降り立った。
「お手を煩わせまして、申し訳ございません」
「「「陛下の命なれば」」」
「その者達は?」
「王家の影ですわ。私は第一王子、アルバート殿下の婚約者候補筆頭。その言動は常に監視されております。アルバート殿下にも常に控えておりますわよ」
「王家の影……」
「影の皆さんは嘘はつけません。陛下の許可は得ております。証言をお願いします」
「1月23日、ラスナンド侯爵令嬢ファシスディーテ様は、王太子妃教育の為他の候補達と共に、王妃殿下のお茶会に招待されました。同日、影の一人がトレニア・ジプソフィル嬢が自ら池に飛び込み、アルバート殿下にラスナンド嬢に突き落とされたと讒言したのを記録しています。また、3週間前の9日、同じく最終試験でラスナンド侯爵令嬢ファシスディーテ様は、王宮に伺候しております。同日、大階段の3段目からジプソフィル嬢が大声をあげてから飛び降り、オーギュスト・ペルティエ様、ブライアント・バウワー様、フーロックス・ラスナンド様に泣きついたのを確認しました。その際もラスナンド嬢に最上段から突き落とされたと虚言でもって、貶めていたと記録しています」
「記録……?」
第一王子が腕の中のジプソフィル嬢を見る。ジプソフィル嬢は真っ青になってガタガタと震えていた。
「ニア、本当かい?」
「わっ、私は……」
「まさかイジメられたというのも?」
「国王陛下、王妃殿下のお越しにございます」
「アルバート!!お前は何をしておる!!」
「父上」
「陛下と言わんか、この大馬鹿者めが!!」
「しかし……」
「しかしではないわっ!!」
「ファシスディーテ、ごめんなさいね」
「王妃殿下、もったいのうございます。とはいえ、私は第一王子殿下に婚約を破棄された身。これ以上は不敬に当たります」
「婚約破棄なんてさせないわ」
「元は嫌がる我が家に王命を出してでもと脅……仰せられ、こちらの意向を無視してまで婚約者候補筆頭に定められた身。これを期に辞退いたしたいと思います」
脅された、って言いかけた?え?噂ではラスナンド侯爵家が権力を使ってねじ込んだと。
「辞退ですって?」
「それならば私が婚約者に立候補しても良いですか?ファシスディーテ嬢」
「まぁ、第二王子殿下」
「兄が済まなかった。最初から貴女の事を信じておりました。兄の婚約者候補だからと諦めておりましたが、先ほど兄の婚約者を辞退なさった。以前からお慕いしていました。どうぞ私の手を取ってください」
「第二王子殿下……」
めでたい卒業パーティーの会場で、いきなり壇上に上がった第一王子が大声で叫んだ。第一王子に寄り添うはトレニア・ジプソフィル子爵令嬢。その後ろに控えるのは側近候補のペルティエ辺境伯の次男、オーギュスト・ペルティエと魔法師庁長官の長男、ブライアント・バウワー、ラスナンド侯爵家の長男、すなわちファシスディーテの弟、フーロックスの3名。
いきなりの大声に、パーティーを楽しんでいた卒業生とその家族は、何事かと注目した。
「貴様は愛しのトレニアに嫌がらせをし、怪我まで負わせた。ここに貴様を断罪する」
「罪ですか?どのような?」
落ち着き払ってファシスディーテが第一王子尋ねる。
「貴様は取り巻きを使いトレニアに暴言を浴びせ、さらには教科書を使えないように破き、トレニアを真冬の池に突き落とし、またある日には学園の大階段から突き落とした。まさに極悪非道と言わざるをえまい」
「暴言に暴力でしょうか?取り巻きとは?」
「貴様が侯爵家の権力で無理矢理集めた令嬢達であろう。しらばっくれおって」
そこでパーティー会場の面々は顔を見合わせた。
侯爵家の権力で無理矢理集めた?令嬢達を?ラスナンド嬢が?あり得ない!!と。
さっき言われたような罪状はともかく、ジプソフィル嬢の取り巻きである下級貴族令嬢達にひどい嫌がらせを受けていたのは知っている。第一王子の寵愛を受けているのはジプソフィル嬢なのだから、さっさと身を引けと暴言を浴びせられたり、突き飛ばされたりはラスナンド嬢のクラスメイトだけでなく、学園の大部分が知っていた。教師達も幾度となくジプソフィル嬢に注意したのだが、第一王子にあることないこと告げ口され、ラスナンド嬢にも黙っていてほしいと懇願されたので、報告する事もなく黙っていた。
「私にはそのような取り巻きは居りません」
「貴様の性格の悪さに皆逃げ出したか」
第一王子がせせら嗤う。
「それに先ほどの暴言ですが、どのような?」
「わっ、私はアル様々に相応しくないとか、礼儀知らずとか、言っていたじゃないですかぁ。怖いお顔で」
「可哀想に、ニア。心配しなくてもいいよ。ニアに意地悪をする悪人は罰してあげるからね」
「アル様……」
ギュッと縋りついたジプソフィル嬢の腰を引き寄せ、第一王子が目尻を下げる。
「それに真冬の池への突き落としと、学園の大階段から突き落としですか?それはいつでございますか?」
「池の方は1月、大階段は3週間前だ」
「正確には?」
「いっ1月の23日と、3週間前の9日ですっ」
「間違いございませんか?」
「間違えていませんっ。ファシスディーテ様はわっ、私が嘘をついていると思っているんだわっ」
「なんという……。ここまで性格がねじ曲がっているとは」
第一王子がわっと泣き出したジプソフィル嬢を抱き締める。後ろに並んだ3名も眉をひそめ、ファシスディーテを睨み付けた。
「1月の23日と、3週間前の9日でございますか?その日は王宮で王妃教育の日でございましたわ」
胸元からメモ帳を取り出して、パラパラとスケジュールを確認したファシスディーテに教師達が頷いた。
「おっ、お前、今どこから……」
「これらの証言は王妃様と王太子妃教育の教師がしてくださると思いますわ」
「なっ、母上が……」
「確かその日はお茶会に招待されましたので。王宮にお問い合わせくださいませ」
「突き落とした件は不問としよう。限りなく疑わしいがな。では暴言の件はどうだ?」
「それなのですが、アルバート殿下に相応しくない、礼儀知らずでしたか。それはどこで?」
「教室の廊下ですっ」
「ジプソフィル嬢の在籍してらっしゃるCクラスの、でございますか?私はCクラス棟には行っておりませんけれど」
「そうやってご自分の頭の良さをひけらかして、わっ、私をバカにしてるんだわっ」
「その様なつもりはございませんわ。ここでCクラスの皆さんに証言を求めても、権力でとか仰られそうですものね」
「認めるんだな?」
「暴言ですか?言っておりませんからねぇ。そう言っても嘘だと決めつけられるのでしょうけど。困りましたわね。お願いできますでしょうか?」
「何の事だ?」
音もなく3人がファシスディーテ後に降り立った。
「お手を煩わせまして、申し訳ございません」
「「「陛下の命なれば」」」
「その者達は?」
「王家の影ですわ。私は第一王子、アルバート殿下の婚約者候補筆頭。その言動は常に監視されております。アルバート殿下にも常に控えておりますわよ」
「王家の影……」
「影の皆さんは嘘はつけません。陛下の許可は得ております。証言をお願いします」
「1月23日、ラスナンド侯爵令嬢ファシスディーテ様は、王太子妃教育の為他の候補達と共に、王妃殿下のお茶会に招待されました。同日、影の一人がトレニア・ジプソフィル嬢が自ら池に飛び込み、アルバート殿下にラスナンド嬢に突き落とされたと讒言したのを記録しています。また、3週間前の9日、同じく最終試験でラスナンド侯爵令嬢ファシスディーテ様は、王宮に伺候しております。同日、大階段の3段目からジプソフィル嬢が大声をあげてから飛び降り、オーギュスト・ペルティエ様、ブライアント・バウワー様、フーロックス・ラスナンド様に泣きついたのを確認しました。その際もラスナンド嬢に最上段から突き落とされたと虚言でもって、貶めていたと記録しています」
「記録……?」
第一王子が腕の中のジプソフィル嬢を見る。ジプソフィル嬢は真っ青になってガタガタと震えていた。
「ニア、本当かい?」
「わっ、私は……」
「まさかイジメられたというのも?」
「国王陛下、王妃殿下のお越しにございます」
「アルバート!!お前は何をしておる!!」
「父上」
「陛下と言わんか、この大馬鹿者めが!!」
「しかし……」
「しかしではないわっ!!」
「ファシスディーテ、ごめんなさいね」
「王妃殿下、もったいのうございます。とはいえ、私は第一王子殿下に婚約を破棄された身。これ以上は不敬に当たります」
「婚約破棄なんてさせないわ」
「元は嫌がる我が家に王命を出してでもと脅……仰せられ、こちらの意向を無視してまで婚約者候補筆頭に定められた身。これを期に辞退いたしたいと思います」
脅された、って言いかけた?え?噂ではラスナンド侯爵家が権力を使ってねじ込んだと。
「辞退ですって?」
「それならば私が婚約者に立候補しても良いですか?ファシスディーテ嬢」
「まぁ、第二王子殿下」
「兄が済まなかった。最初から貴女の事を信じておりました。兄の婚約者候補だからと諦めておりましたが、先ほど兄の婚約者を辞退なさった。以前からお慕いしていました。どうぞ私の手を取ってください」
「第二王子殿下……」
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