魔王っていったい?

玲羅

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続けて修行中 ~遠征訓練~

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 近場から徐々に距離を伸ばし、野営の訓練もしていく。魔王の居るとされる場所は北方らしく、その対策も教わった。

 今日は3泊4日の遠征訓練の日だ。勇者という立場ではあるけど、将太達も普通に荷物を背負っている。マジックバッグという便利な物はないけど、何故かマジックボックスはあって、大きな荷物はそこに入っている。背負うのはポーター荷運びのペシュロン。馬人族の大柄なというよりか、見上げる位大きな人だ。カトはすぐに懐いて肩車をしてもらったり、キャッキャとはしゃいでいた。

「西には元熊人族や元虎人族が多い。辛い戦いになるかもしれぬ」

「命を絶って天に還す方が当人にとっては幸せかもしれないんですよね?」

「そうだ。だが、それが真実かは誰にも分からぬ」

「それならその人達の冥福と来世の幸せを願って、天に還しましょう。魔に飲まれたと言っても、同胞だった人達を狩るライアンさん達の方が辛いんじゃないですか?」

「ショータは優しいな」

 ライアンは自嘲気味に笑った。

 西方面への遠征の日がやって来た。遠征メンバーは慣れているようだけど、将太と美海みなみは慣れていない。それでもこちらに来た時よりは体力は付いているようで、なんとか付いていけた。メンバーも気を使ってくれているから、行軍スピードは遅い。

「もう少しスピードをあげてください。頑張りますから」

「良いのか?まだ訓練の途中だ。無理はしなくとも」

「私達に気を使ってくれているんでしょう?大丈夫です。私達は勇者だもん。こんなところでみんなの足を引っ張っちゃいけないの」

 その日から、少し行軍スピードが上がった。将太と美海みなみも必死で付いていく。この世界の移動手段は主に徒歩とだけど、魔王の元にはは使えない。道路が整備されていないからが通れない。自然と徒歩になってしまう。だから訓練中の今は将太も美海みなみも歩いている。

 西にある国、オキデュシス連合国は動物的身体特徴を持つ人達、こちらの世界での魔族が多く住んでいる。魔に飲まれた人が多い。魔に飲まれた人達は北を目指して去っていく事が多いけど、留まって魔物化する人もいる。

 順調に進んでいた時に出会ったのは、そんな狼人族達だった。

「群れているのか」

「ミナミ様、分断しますよ」

「分かった」

 美海みなみとマリアが群れを分断する。赤い目をして口を歪ませヨダレをダラダラ流している狼人族達は、美海みなみとマリアの土壁によって2人から3人のグループに分断された。

 将太はカトとライアンと一緒に元狼人族の魔物を討伐していく。魔物化していると光魔法や聖魔法に弱くなるから、今は剣に光魔法を通している。

 カトは人化して短剣を使っている。腰に巻かれたベルトから両手で短剣を抜き放って駆け出すカトは、勇者らしくカッコいい。

「4つ足は先に足を潰せ。こいつらは後退あとずさりが苦手だから左右の正面から行くぞ」

「はい」

 カトが攻撃しやすいように、将太とライアンは左右から仕掛けて陽動に徹する。ワザと隙を作ってみたり執拗に当たらないように攻撃してみたり。少し離れた所では兎人族のレヴィセスが鞭を振るっていた。レヴィセスの武器は鞭で、腰のホルスターに常時3本付けている。

 パァン、パァンと音が響いて、強気だった元狼人族達がシッポを股の間に挟んで後退し始めた所を容赦なく倒していく。

「ぅぅっ。音が怖いよぉ」

 カトが涙目になりながら、自分達の受け持ちの元狼人族を倒した。

 この戦いでは怪我人が多く出た。いったん行軍を中止して、治療を行う。将太とカトは怪我を治してもらった後、元狼人族の埋葬を手伝った。

「魔王さえ居なけりゃ……」

 そんな声が聞こえる。魔物化してしまって他に害を与えるから討伐せざるをえなかったけど、知り合いかも知れなかった誰かを手に掛けるのは大きなストレスだと思う。

 オキデュシス連合国方面への遠征訓練を終えて、いったんフェリシード王国に戻った。次の遠征訓練は10日後から北方面の予定だ。


 北への旅は思った以上に険しかった。それでもまだ楽な方だと聞かされた。これは訓練で、慣れる為だから奥まった所までは行かないと。

 もっとも北の国であるジョノコスシ国のタンガイ地方で出会ったのは、体高5mを越える毛むくじゃらの、頭部を覆うような鋭い角を持った、ジャウシコウと呼ばれる魔物。

 マリアの魔法で注意を引いて、将太が火魔法を剣に通して切り付ける。硬い毛に阻まれて剣が通らない。

「カト、切るより突き刺す方が良いみたい」

「分かった。行ってくるね」

 カトが両手に短剣を持って走っていく。身軽にジャウシコウの身体を駆け上がり、首筋に短剣を突き刺した。暴れたジャウシコウがカトを振り落とす。その前に飛び降りて体勢を立て直したカトは、再びジャウシコウの身体を駆け上がっていった。

「勇者様の援護を!!」

 怒号が飛び、後方から魔法が飛ぶ。将太もジャウシコウに切りかかってカトの援護に徹した。

「ショータ、足を狙え!!」

 ライアンの指示に後ろ足を切り付ける。浅い傷でもいくつも付けてやれば、動きが鈍ってくるし、カトの援護になる。

 何度目かの切り付けで、火魔法を通した剣がジャウシコウの足を焼いた。毛は堅くて魔法も弾き飛ばす位だけど、その内側は普通に剣が通る。

「にゃにゃにゃあぁぁ!!」

 カトの猫爪術ねこそうじゅつが炸裂しているようで、ジャウシコウが身をよじる。巻き込まれないように気を付けながら、なおも攻撃を加えていく。

 やがてカトがトドメを刺したようで、ジャウシコウがどぅっと倒れた。カトが素早く飛び降りる。

「しょたー、みにゃみー、倒したよぉー」

「スゴーい、カトちゃん。怪我は?怪我は無い?」

「スゴいな、カトは」

「カト様、あの猫爪術ねこそうじゅつはお見事でした」

「えへへ」

 血塗れのまま抱き付こうとした猫化したカトに洗浄魔法を掛けて、美海みなみがカトを抱き上げる。

「勇者様方、ジャウシコウを捌いてしまいます。少しお時間をいただきます」

「あ、手伝います」

 将太は教えてもらいながら、ジャウシコウの解体に加わる。ジャウシコウの肉は、この辺りではポピュラーなシチューになるそうだ。ジャウシコウの皮は加工してコートやブーツになるらしい。

「お肉?」

「シチューだって。楽しみだね」

 解体を見物に来た美海みなみとカトが、呑気に話をしている。将太も美海みなみも慣れてしまって、血の臭い位じゃ動じなくなってしまった。元の世界に帰れるって事だけど、帰ってもこの感覚は戻らないのかな?等と考える。普通の高校生だったんだけど。それに今の将太達は、もしかして行方不明とかになってるんじゃないかな?ツラツラと考えていると、美海みなみに話しかけられた。

「何考えてるの?」

「うん。帰れるって言ってたけど、今は向こうでどういう扱いになってるのかな?って」

「あ、そうよね。こっちに来てもう半年経っちゃったし」

「今、考える事じゃないけどね」

「うん」

「しょた、みにゃみ、どうしたの?」

「ん?何でもないよ」

 カトを不安がらせないように笑顔を見せて、美海みなみがその場を離れる。

 その後もウォルラスという大きな牙を持った魔物がシールゥというウォルラスよりも小さな取り巻きを連れて出てきたり、空を飛ぶシャチのようなオシーナスとかを狩って、遠征訓練は終了した。とはいってもまだ訓練は続くんだけど。

 フェリシード王国は東側にあって、東側は海に面している。海にも魔物は居るけど普段から漁師達が駆除している。あまりに大きいと王城に救援要請が来るけど、年に1度も無いらしい。


 南方面では猫系の魔物が多くて、美海みなみが葛藤していた。可愛いから攻撃したくないけど、討伐しないと被害が出るって。将太も同意見だったが、カトは遊んでいる感覚なのか、縄張り争いの感覚なのか、臆する事なく立ち向かっていった。



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