もういいよね?

玲羅

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もういいよね ①

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集まったのは、否、集められたのは10人の男女。人種も年齢もバラバラなアンバランスな集団だ。


「どこだ?ここ」


隣の人物の呟きが聞こえて、思わず答えてしまった。


「教室みたいだけど」


「ん?お前サビ猫か?」


「そういうお前はK9か?」


お互いに知った顔だった。現実では会った事の無いゲーム内での相棒だ。お互いに高校2年生という事は知っている。


「じゃあここはゲーム内なのかな?」


「電脳世界内の教室にしか見えないけど」


2人で話していると25歳位のお姉さんが話しかけてきた。


「もしかしてサビ猫?」


「えっ?ふぁにー?」


「そうよ。良かった。知っている人が居た」


話しかけてきたのは『ふぁにー・エレオノーラ』というハンドルネームでゲーム内で知り合った女の子だ。現実ではヨーロッパ系アフリカンなんだそうだ。現在アメリカ在住だそうで、日本語もペラペラな才女だ。


「ここってもしかして……」


何かを言おうとしたふぁにーの言葉は、どこからか聞こえてきた声に遮られた。


『静かにしていただけますでしょうか?』


男とも女ともつかない声。年齢さえも分からない。


『ありがとうございます。あなた方には命を懸けたゲームをしていただきます』


「命を懸けたゲーム?」


呟いたのは50歳位に見える男性。鍛えられた体型だが年相応の落ち着きと言動が、若くはないと感じさせる赤毛の男性だ。


『そうです。命を懸けたゲームです。ここはとある電脳世界の中ですが、現実に戻れるのは1人だけです』


「残りの人達はどうなる?」


『さぁ?精神を切り離され、この電脳世界を漂うのか、自然に消えるのか?私にも分かりません』


「現実世界の肉体は?」


『飲まず食わずになりますからねぇ。適切な医療を受けてもいつまで保つもつでしょうね?』


声が嗤う。


『生活に必要な物資は隠してあります。探してみてくださいね。武器もありますよ』


武器があるという事は、殺しあう事も視野に入っている?


「ここで死ねばどうなる?」


『そこまでですよ。この装置は脳直結ですから』


「現実でも死んじゃうって事?」


『ご招待した皆様には痛覚を解放させていただきました。リアルな痛みをお楽しみください』


「途中でログアウトは出来ないの?」


ふぁにーではない女性が問う。


『戻れるのは1人だけと申し上げましたが?』


嘲るような声が告げる。


「嫌よ!!死んじゃうなんて。私まだ19歳なのに」


「それを言うなら僕は17歳だよ」


外見30歳位の男性が言う。そんな事を言うなら僕とK9は16歳だ。もうすぐ17歳になるけど。


「デスゲームって事か。良いぜ。やってやろうじゃないか」


好戦的な笑みを浮かべた20歳代の男が言う。男女比は1対1。つまり男性5人、女性5人だ。


『ではゲームをお楽しみください』


声が消えた。真っ先に動いたのは好戦的な笑みを浮かべていた20歳代の男と50歳位に見える男性。まず50歳位に見える男性がみんなに集まってほしいと言った。ノロノロとみんなが動く中、20歳代の男が意外な程テキパキとみんなを集めた。


「脱出ゲームって訳だ。本来なら協力していきたいところだが」


「いや。私は死んでもいい。待っている人なんて居ないしね」


「あの、名前を知りたいです」


ふぁにーが言う。


「殺す前に知っておきたいってか?」


「そうじゃなくて、不便じゃないですか?見たことがある人もいますが、そうじゃない人もいます。名前だけでも知っておきたいです」


「それって本名?」


「まさか。本名を知ってどうするんです?ここは電脳世界ですよね。そこで使っている名前で良いです。あ、私はふぁにーです」


「ふぁにー?って事は、ここはマギ求か」


「そういえば?装備は違うが、あれはマギ求の電波塔じゃないか?」


マギ求とは『喪われたマギアを求めて』という西部開拓時代をモデルにしたゲームだ。モデルにしてはいるが時代も設定もめちゃくちゃで、マギアという言葉があるのに魔法は使えない。開拓時代をモデルとしているのに、何故か電波塔がある。電波塔と言いながら送受信は出来ない。そして何故か獲物は恐竜だ。


ふぁにーはマギ求で有名な職人クラフトマンだった。僕達も世話になっていた。


「名前、良いですか?」


「そうだな。私はハンス。マギ求では情報屋をしていた」


「俺はレイ。マギ求では……。いいや。名前だけで」


「イウナリア、です」


「私はののと言います」


「私はうさみ」


「俺はオロペサだ」


「私はヘッジホックです」


残りは僕達だけだ。


「サビ猫です」


「K9です」


「猫に犬にハリネズミってか?こりゃいいや」


「本名じゃないしね。いいんじゃない?」


「それで、仲良く一緒に行動するのか?」


「真っ平ごめんですね。背後から狙われるかもしれないのに」


「同感」


「全員で脱出出来ないんですかね?」


「は?あの声は戻れるのは1人だけって言っていただろうが」


「でもあれって何かのギミックですよね?」


ふぁにーが指差した先には、シークワーズパズルが壁に埋め込まれていた。


「だから?あの声を信じるなら戻れるのは1人なんだろうが。あんたに協力する義務も義理もない」


レイが言い捨てて出ていった。


「私も付き合う気はないわね」


うさみも出ていく。その後をののとヘッジホックとイウナリアが追いかけた。オロペサが僕達を気にしながら出ていく。


「ハンスは良いの?」


「サビ猫とK9も残るのだろう?奇跡を信じてみるのも悪くはない」


ハンスがシークワーズパズルの前に座る。手を触れると液晶とキーボードが出てきた。


「キーワードでも入れろと言うのかな?」


シークワーズパズルを解くと、S、I、Mの3文字が残った。


「SIMね。iftahイフタフyaヤーsimsimシムシムかな?開けゴマって、本当にキーワードだね」


入力するとガコっと音がして教卓がずれて地下への階段が現れた。


「降りてみます?」


ふぁにーが恐る恐る言う。


「何が出るか分かりませんけどね」


「鬼が出るか蛇が出るか」


「なんだい?それは」


「将来を予測することは難しいという意味の言葉です。真っすぐに歩いてきたくても、途中で鬼に出くわして進路を変更せざるを得なくなるかもしれません。途中で蛇が出て引き返さざるを得なくなることもあるでしょう。何が起こるか分からないって意味ですよ」


「真理だね」


地下には食料とハンドガンとショットガンが3丁ずつ、アサルトライフルが2丁、サブマシンガンが2丁ケースに仕舞われていた。ご丁寧に施錠してある。その他に寝室なんかもあった。ベッドは10台。


「どこかに解錠のギミックがあるのかな?」


「ハンスさん、これのようです」


水槽の中に輪が付いた鍵があった。隣に釣竿もある。


「今度は釣りかい?楽しませてくれるね」


K9が難なく鍵を釣り上げ、解錠する。


「さっきから気になっていたんだけどね。私にも普通に喋ってくれて良いよ。君達3人は知り合いだったのかい?」


「マギ求で知り合ったのよ。他のゲームでもたまに一緒になって、こうして話すようになったの」


「僕達は他のゲーム内でバディを組んでたんだ。で、マギ求でも自然に一緒にいた」


「そうだったんだね。あぁ、私は武器はハンドガンだけでいいよ。君達が持っていた方がいい。未来ある若人に生存権は渡したいからね」


ふぁにーが顔を歪ませる。


「全員で脱出する道を探ろうよ。誰かを犠牲にするんじゃなくて」


室内を隅々まで捜索し、見付けたのは怪しげな赤いボタンと棒とリボン。リボンにはランダムに数字が書き込まれている。


「スキュタレーの暗号か」


「となると、これに対応したキーがどこかにあるね」


地下はシェルターになっているらしい。十分な食料と水とベッドがあった。


「マギ求でのレベルはリセットされているね」


「でも、スキルは使えるわよ。こんなのも作れたもの」


「おっ。マギ求の収納ベルトだ」


「これがあれば武器弾薬も持ち運べるね」


武器を持ち運ぶ為のマギ求で使われていた収納ベルトをふぁにーから渡され、武器を収納してから身に付ける。


「周囲を探索してみない?マギ求だとしても設定が変わっていそうだし」


「ここのような隠し部屋が他にも無いとも言えないし、ギミックも探さないとだね」


僕とK9、ふぁにーとハンスに別れて探索を開始した。出入口は教室と地下に1つずつ、地下からは簡単に開くようになっていた。


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