3歳で捨てられた件

玲羅

文字の大きさ
上 下
261 / 290
学院中等部 7学年生

ピアーズ家周辺の現状

しおりを挟む
 武術魔法披露会が無事に終わった。すべてを片付けて、薬草研究会に向かう。サミュエル先生から慰労会を行おうと薬草研究会の部員に提案があったのだ。もちろんみんな、嬉々として片付けを終わらせ、薬草研究会の部室に集まった。

「お疲れ様だったね。バージェフ君が卒業して、最初の武術魔法披露会だったけど、混乱もなくスムーズに役割を終えられた。ありがとう。ブランジット公爵家から菓子や飲み物を運ばせたから、おおいに食べて飲んでもらいたい。まぁ、でも、はしゃぎすぎないようにね」

「「「「「はーい」」」」」

 みんなの明るい返事が、部室内に響く。ブランジット公爵家から届けられたお菓子や飲み物はとても美味しくて、特にプディングが大好評だった。プディングはプリンとは違う食べ物だ。種類も多い。現代日本でいうプリンは、カラメルカスタードという。スタヴィリス国ではデザート全体が、プディングと呼ばれたりするんだけどね。デザート全体というか、プディングは小麦粉に卵や牛乳を混ぜて、肉やフルーツなどの食材を生地に詰め込んで調理したものだからソーセージもプディングの1種だ。

 他にもクランブルプディングやブレッドプディング、スティッキートフィープディングという、伝統的な激甘プディングもあって、男性陣が「うへぇ」ってなっていた。スティッキートフィープディングはスポンジケーキに濃厚なカラメルソースをたっぷりと絡める製法のプディングだから、気持ちは分かる。私も激甘すぎるのは苦手だ。歯に染み入る甘さで虫歯でもないのに歯が痛くなるんだもん。

 そんな中、秘密裏にわたしはサミュエル先生に呼ばれた。

「それで、キャシーちゃんの聞きたい事って 何だったのかな?」

「ピアーズ様のお家の事です。どうなったのかと思いまして」

「ピアーズ家の乗っ取りは、実際に画策されていたようだね。シドニー・ピアーズに光魔法が、事故に見せかけて始末する予定だったようだし」

「ピアーズ様を呼んでこなくても良いのでしょうか?」

「呼ばない方がいい。ピアーズ家の親族の自由農民は、違法行為で捕縛されたから」

「捕縛って、何を?」

「違法奴隷売買」

 それってさっきファレンノーザ公爵が話していた?

「自分の所の小作人を奴隷として売り飛ばしていたらしい。代わりに国外の奴隷を安く買って、働かせていた。けっこう大きな組織となっていて、今回国軍が一斉摘発したんだそうだ」

気分が重くなった。元日本人として、奴隷という言葉には忌避感がある。でもこの世界では認められていて、スタヴィリス国では法整備もされている。

奴隷の主人にもいろんな人がいて、お義父様のように法を守り奴隷だからと過度に虐げたりせず、家族の一員として接している人が多い。

少数派ではあるけれど過度に搾取し、虐げ、物のように扱う貴族も居ると聞いている。ただしこのような貴族だからと即座に処罰出来ない。なぜなら家庭内の事は治外法権に近い権利が認められているから。これは貴族だけでなく、平民でも同じだ。逃げ場が無いんだよね。

だからこそ私は『教会を逃げ場に出来るように』と、お義父様やお義母様、エドワード様やミリアディス様に話して理解を求め、そうなるように動いてもらっている。

教会に逃げてきてもらえれば、それを理由に教会が介入出来る。あまりにも酷いと感じれば調査権と保護権を行使出来る。そんな場所を作りたい。それが私の願いだ。

「キャシーちゃん?何を考えているんだい?」

「こういった問題は無くならないなと思いまして」

「奴隷問題かい?」

「納得して奴隷となった方は良いのですよ。労働力として奴隷を買って、きちんとした扱いをしている人達も。でも違法奴隷は……」

「キャシーちゃんのゼンセには、奴隷は居なかったの?」

「少なくとも私の国には居ませんでした。奴隷に近い扱いを受けている外国人の方はいらっしゃいましたが、それも一部だったと信じております」

「私の国にはって他の国は?」

「調べた事があるのですが、世界規模で約150人にひとりが現代奴隷制度の被害者だと。5000万人が奴隷制度の被害者だと記憶しています」

「けっこうな数だね。現代奴隷制度って?」

「この世界の今の奴隷制度とたいして変わりませんよ。2,800万人は強制労働、2,200万人は強制結婚を強いられているという状況ですね。強制結婚の場合は、子を産む道具か、賃金の要らない家庭内労働力としか存在価値がないようですし。児童婚も後進国では良くある事だったようです。児童婚は暴力、虐待、搾取の被害の温床となりやすいんですよね」

「なるほどね」

「先程後進国ではと言いましたが、先進国とされる国でも起こっていた事なんです」

「へぇ。色々なんだね。ラッセル氏ならもっと色々知っているかな?」

「そうですわね」

サミュエル先生の執務室から出て、しれっとみんなの輪に入る。私がサミュエル先生に呼ばれるのはしょっちゅうだから、みんなも何事も無かったかのように、自然に受け入れてくれた。

「あれ?フェルナー様、どこに行っていたんですか?」

「サミュエル先生とお話ししておりましたの。お探しになられまして?」

「急に居なくなったのでどこに行ったのかな?って思って。何の話をしていたんですか?」

「ファレンノーザ公爵閣下のお話ですわ。それと救民院についての相談を少々」

「フェルナー様ってスゴいんですね」

「凄いのは周りの方々ですわ。こちらでは何か気になるお話はございまして?」

「えっと、ポーション水剤の使い道というか、使い方が気になった人が居たみたいです。傷に直接掛けて効かないって騒いだりとか。かけて効くポーション水剤って無いんですか?」

「ございますけれど、そちらは飲めませんから。学院で作製出来るポーション水剤は飲用の物のみですのよ」

「そうなんですか?」

「種類を間違うと大変ですからね」

「そうなんですね」

ピアーズ君は素直な性格だから、言われた事は素直に理解する。もしピアーズ君の伯父家族の計画が邪魔が入る事なく実行されていたら、たいした苦もなく成功していただろうと思う。そう思うと光魔法が発現して本当に良かったと思うし、ピアーズ君が学院に居る時に伯父家族が捕縛されたのは、何らかの御意志が働いたのだろうと思ってしまう。

慰労会は各々おのおの節度を守りながらも盛り上がり、この先も頑張っていこうと謎の団結力を見せて終了した。

その後、ピアーズ君の周辺は劇的に変わったらしい。ピアーズ君本人は全く変わらないんだけど、伯父家族が丸ごと捕縛された事により、ピアーズ家の治める領地が広がり、ピアーズ準男爵は男爵に昇爵された。その上、伯父が所持していた土地の所有権がピアーズ君の父親に移り、奴隷の所有権も移譲された。

保護されていた奴隷の処遇は、劇的に改善されたらしい。売り飛ばされた小作人達の捜索も行ってはいるけれど、外国に売り飛ばされたから捜索は困難らしい。

保護されていた奴隷達の処遇は改善されたけど、本人達の意識はそうすぐに切り替えられない。洗脳状態だったらしいし、こればかりは時間をかけて接して、意識を正常に戻していくしかない。だから奴隷達は今、ピアーズ領には居ない。ピアーズ家も急に領地が増えて大変だし、しばらくは国軍預かりだそうだ。

ピアーズ君は『ピアーズ男爵嫡男』になって、ちょっと戸惑っていた。そこまで変わらないと思ったら、ピアーズ領についての勉強が増えたからジャクソン先輩が色々教えている。ピアーズ領に詳しくなくても領地経営の勉強はしていたから、ピアーズ君が覚えている領地の事に置き換えて教えているらしい。とはいってもピアーズ君はまだ初等部1学年生。そこまで詳しい勉強はしていないと、ジャクソン先輩は言っていた。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

いらない婚約者と言われたので、そのまま家出してあげます

新野乃花(大舟)
恋愛
カレンの事を婚約者として迎え入れていた、第一王子ノルド。しかし彼は隣国の王族令嬢であるセレーナに目移りしてしまい、その結果カレンの事を婚約破棄してしまう。これでセレーナとの関係を築けると息巻いていたノルドだったものの、セレーナの兄であるデスペラード王はかねてからカレンの事を気に入っており、婚約破棄をきっかけにしてその感情を怒りで満たしてしまう。その結果、ノルドの周りの空気は一変していくこととなり…。

暗闇に輝く星は自分で幸せをつかむ

Rj
恋愛
許婚のせいで見知らぬ女の子からいきなり頬をたたかれたステラ・デュボワは、誰にでもやさしい許婚と高等学校卒業後にこのまま結婚してよいのかと考えはじめる。特待生として通うスペンサー学園で最終学年となり最後の学園生活を送る中、許婚との関係がこじれたり、思わぬ申し出をうけたりとこれまで考えていた将来とはまったく違う方向へとすすんでいく。幸せは自分でつかみます! ステラの恋と成長の物語です。 *女性蔑視の台詞や場面があります。

【完結】失いかけた君にもう一度

暮田呉子
恋愛
偶然、振り払った手が婚約者の頬に当たってしまった。 叩くつもりはなかった。 しかし、謝ろうとした矢先、彼女は全てを捨てていなくなってしまった──。

処理中です...