3歳で捨てられた件

玲羅

文字の大きさ
上 下
256 / 271
学院中等部 7学年生

芸術祭

しおりを挟む
 今年の芸術祭にはローレンス様も来てくれた。ファッションモデルとして私が出るって言ったから、来てくれたんだそうだ。3年目なんだけど、都合がどうしても合わなくて、昨年までは来られなかったんだよね。

「キャシー、綺麗だよ」

「ローレンス様、ここまで来てしまわれましたの?」

「すんなり入れてくれたよ?」

 ローレンス様が不思議そうに言う。お針子部の誰かが許可したのかな?会えて嬉しいけど、ここは舞台裏だし良いのかしら?

「今回はエスコートは無いんだっけ?」

「そう聞いておりますわ。ランウェイ上を貴族が散策している感じでと、言われましたもの」

「男性のモデルも居るんだよね?」

「えぇ。でもほとんどはモデルとなった方の婚約者の方ですのよ。他に目を向けるとは思えませんわ」

「そうとは限らないと思うよ?キャシーは可愛いし。それにフリーの男性も居るんだよね?」

「いらっしゃいますわね」

「心配だな」

「ご心配には及びませんわよ?」

 私にはローレンス様という婚約者がいるというのは、結構有名だし。

 私の出番は最後の方だ。今年も参加されるイザベラ様と一緒に、ランウェイの端まで行って戻ってくる。パラソルも持っているし、2人で仲良く歩くだけだ。イザベラ様の婚約者のノーマン様は、今年はモデルはお断りしたらしい。「寂しいですわ」とイザベラ様が嘆いていた。

 舞台袖で待機していると、イザベラ様が姿を表した。私より大きく臀部が張り出したバッスルスタイルのドレスを着ている。

「イザベラ様、お綺麗ですわ」

「キャスリーン様こそ。先程ローレンス様をお見かけいたしましたわ」

「今年はなんとか都合が付けられたそうです」

「お忙しそうですわね」

「お身体が心配です」

「そのお言葉、そっくりそのままお返しいたしますわ。キャスリーン様、お痩せになられませんでした?」

「少しですわ。ご心配は嬉しゅうございますけれど」

 おかげで気が付いた人達が、色々食べさせようとして来て大変なのよね。

「本当にお気を付けくださいませね」

 心配そうに言われて、思わず苦笑してしまった。

 時間になって、イザベラ様と舞台に出る。コンセプトとしてピクニックに出掛ける姉妹という設定がされている為に、楽しそうに歩いてほしいと説明されていた。

「キャスリーン様、姉妹という事ですけれど、従姉妹の方が設定としては良いと思われません?」

「従姉妹で仲良く、ピクニックにですか?」

「無いでしょうかしらね?」

 ちょっと無理があると思う。

「仲の良い義姉妹という設定もあり得ましてよ」

「その場合はわたくしが姉ですかしら?」

「そうですわね。身長的に?」

「妹の立場になってみたかったですわ」

「現実的にそうですのに?」

 ウォーリー侯爵家には、イザベラ様の上に2人の兄と姉が居る。どちらも優秀な方だ。イザベラ様とはお年が離れているから、一緒に遊んだりは無かったそうなんだけど。ウォーリー家に遊びに行くと、イザベラ様が可愛がられているのがよく分かる。

「年の近い兄姉妹きょうだいですわ。わたくしの家は、年が近いとは申せませんもの」

 確かに15歳差は近いとは言えないわよねぇ。でも、本当に仲が良いのよね。ノーマン様が婚約者に決まるまで、お兄様、お姉様からの入念な調査とダメ出しがあったらしいし。

 怒り口調のイザベラ様だけど、本当に怒っている訳じゃない。イザベラ様は少しお顔立ちが勝ち気だから誤解されやすいけれど、とても優しい方だ。

 ランウェイの端まで行って戻ってくる時、何か違和感を感じた。イザベラ様もおかしいと思ったらしく、舞台袖に引っ込んでから何度も首をかしげていた。

「イザベラ様?」

「あそこ、ランウェイの左側に何か……」

「イザベラ様も何かを感じられましたの?わたくしもなんというか違和感があったのですけれど」

「今思い返しても、特に変わった事は無かったというか……」

「そうなのですわ。皆様にも伺ってみませんこと?」

 今、舞台袖に居るモデル達に聞いてみたけど、「変な感じがした」と答えたのは2人だった。帰ってくるモデル達に聞くと、「座っているのに座っていないような?」や「ハッキリ覚えていないけど、変な感じがしたとしか……」といったような曖昧な答えが返ってきた。

「舞台のゴースト幽霊ではございませんわよね?」

 そんな七不思議的な事、聞いた事が無いけど。

「でも、ゴースト幽霊でしたら、フェルナー様が祓ってくださいますわよね?」

わたくしゴースト幽霊祓いは、した事がございませんけれど」

 期待を込めた目で見られたけど、浄化で良いのかしら?というか、本当にゴースト幽霊なのかしら?

 全ての舞台が終わって、着替えを済ませた後ローレンス様と合流して、学院に七不思議的な物はあるか聞いてみた。

ゴースト幽霊?聞いた事が無いけど」

「ですわよねぇ」

「そんなモノが居たの?」

ゴースト幽霊と決まった訳じゃございませんけれど。でも何か違和感を感じましたの」

「何だろうね?でもキャシー、見に行っちゃいけないよ?」

「それは逆効果ですわ」

「ん?」

「してはいけない、見てはいけないと禁止されると、見たい、したいという心理効果が働きますのよ」

 行動や物事が禁止されたり制限されたりすると、かえって関心が高まり実行したくなる心理現象をカリギュラ効果という。具体的に言うと『○○では見ないでください』というキャッチコピーや、個数限定の販売方法、会員制の入店制限などがそれに当たる。

 全員がそういう心理が働く訳じゃないけど、確率は高い。

「そうなんだね」

「まずはサミュエル先生に相談でしょうか?」

「そうだね。ブランジット様に知らせれば、学院長にも話はいくだろうし、必要ならば光魔法を使ってくれる……。キャシーが連れていかれる可能性もあるけどね」

「そうですわよね」

 ローレンス様と2人で学院内を歩く。そんな些細な事が嬉しい。学院でローレンス様と過ごせたのは長くない時間だったから、こうやって歩く事もほとんど無かったのよね。ローレンス様の好意を「義妹に対する物」だなんて考えてたし。あ、駄目だ。意識したら顔が熱くなってきた。

「キャシー、どうしたんだい?」

「なんでもございませんわ」

 赤くなったであろう顔を見られたくなくて、俯いていると、ローレンス様に覗き込まれた。

「顔が赤い」

「不躾に覗き込まないでくださいませ?」

「なんだか嬉しいね。私を意識してくれているのだろう?」

「そんっ……」

「私の一方通行な想いだと思っていたから、キャシーが意識してくれているのは嬉しい」

「ローレンス様は、想いをまっすぐに伝えてくださいますけれど、恥ずかしくないのですか?」

「恥ずかしくはないよ。好きな人に好きだと伝える事の、何が恥ずかしいんだい?」

「そう言われてしまいますと……」

「貴族としては失格かもしれないけどね。キャシーには気持ちを誤魔化したくないし、ちゃんと伝えないといつまでも勘違いしてそうだし?」

「だって、だって、思い込んでいたのですもの」

「意識してくれるかな?と思ってキスしたりしても、その時だけだったし。さすがに自信が無くなったよ。私が想う程、キャシーは私を想っていないんだと思い知らされて」

「申し訳ございません」

 自分の気持ちがハッキリしなかったんです。心の中で言い訳する。

「謝らなくても良いけどね。悩んでいるのは母上から聞いていたし。もう少しキャシーの気持ちも考えろって説教をされたよ」

「重ね重ね申し訳ございません」

「謝らなくても良いんだよ。そういう感じのキャシーも可愛いけど」

 軽く頭をポンポンとして、ローレンス様は帰っていった。










しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

悪役令息(冤罪)が婿に来た

花車莉咲
恋愛
前世の記憶を持つイヴァ・クレマー 結婚等そっちのけで仕事に明け暮れていると久しぶりに参加した王家主催のパーティーで王女が婚約破棄!? 王女が婚約破棄した相手は公爵令息? 王女と親しくしていた神の祝福を受けた平民に嫌がらせをした? あれ?もしかして恋愛ゲームの悪役令嬢じゃなくて悪役令息って事!?しかも公爵家の元嫡男って… その時改めて婚約破棄されたヒューゴ・ガンダー令息を見た 彼の顔を見た瞬間強い既視感を感じて前世の記憶を掘り起こし彼の事を思い出す そうオタク友達が話していた恋愛小説のキャラクターだった事を 彼が嫌がらせしたなんて事実はないという事を その数日後王家から正式な手紙がくる ヒューゴ・ガンダー令息と婚約するようにと 「こうなったらヒューゴ様は私が幸せする!!」 イヴァは彼を幸せにする為に奮闘する 「君は…どうしてそこまでしてくれるんだ?」「貴方に幸せになってほしいからですわ!」 心に傷を負い悪役令息にされた男とそんな彼を幸せにしたい元オタク令嬢によるラブコメディ ※ざまぁ要素はあると思います ※何もかもファンタジーな世界観なのでふわっとしております

リストラされた聖女 ~婚約破棄されたので結界維持を解除します

青の雀
恋愛
キャロラインは、王宮でのパーティで婚約者のジークフリク王太子殿下から婚約破棄されてしまい、王宮から追放されてしまう。 キャロラインは、国境を1歩でも出れば、自身が張っていた結界が消えてしまうのだ。 結界が消えた王国はいかに?

婚約破棄されて満足したので聖女辞めますね、神様【完結、以降おまけの日常編】

佐原香奈
恋愛
聖女は生まれる前から強い加護を持つ存在。 人々に加護を分け与え、神に祈りを捧げる忙しい日々を送っていた。 名ばかりの婚約者に毎朝祈りを捧げるのも仕事の一つだったが、いつものように訪れると婚約破棄を言い渡された。 婚約破棄をされて喜んだ聖女は、これ以上の加護を望むのは強欲だと聖女引退を決意する。 それから神の寵愛を無視し続ける聖女と、愛し子に無視される神に泣きつかれた神官長。 婚約破棄を言い出した婚約者はもちろんざまぁ。 だけどどうにかなっちゃうかも!? 誰もかれもがどうにもならない恋愛ストーリー。 作者は神官長推しだけど、お馬鹿な王子も嫌いではない。 王子が頑張れるのか頑張れないのか全ては未定。 勢いで描いたショートストーリー。 サイドストーリーで熱が入って、何故かドタバタ本格展開に! 以降は甘々おまけストーリーの予定だけど、どうなるかは未定

「これは私ですが、そちらは私ではありません」

イチイ アキラ
恋愛
試験結果が貼り出された朝。 その掲示を見に来ていたマリアは、王子のハロルドに指をつきつけられ、告げられた。 「婚約破棄だ!」 と。 その理由は、マリアが試験に不正をしているからだという。 マリアの返事は…。 前世がある意味とんでもないひとりの女性のお話。

成人したのであなたから卒業させていただきます。

ぽんぽこ狸
恋愛
 フィオナはデビュタント用に仕立てた可愛いドレスを婚約者であるメルヴィンに見せた。  すると彼は、とても怒った顔をしてフィオナのドレスを引き裂いた。  メルヴィンは自由に仕立てていいとは言ったが、それは流行にのっとった範囲でなのだから、こんなドレスは着させられないという事を言う。  しかしフィオナから見れば若い令嬢たちは皆愛らしい色合いのドレスに身を包んでいるし、彼の言葉に正当性を感じない。  それでも子供なのだから言う事を聞けと年上の彼に言われてしまうとこれ以上文句も言えない、そんな鬱屈とした気持ちを抱えていた。  そんな中、ある日、王宮でのお茶会で変わり者の王子に出会い、その素直な言葉に、フィオナの価値観はがらりと変わっていくのだった。  変わり者の王子と大人になりたい主人公のお話です。

白のグリモワールの後継者~婚約者と親友が恋仲になりましたので身を引きます。今さら復縁を望まれても困ります!

ユウ
恋愛
辺境地に住まう伯爵令嬢のメアリ。 婚約者は幼馴染で聖騎士、親友は魔術師で優れた能力を持つていた。 対するメアリは魔力が低く治癒師だったが二人が大好きだったが、戦場から帰還したある日婚約者に別れを告げられる。 相手は幼少期から慕っていた親友だった。 彼は優しくて誠実な人で親友も優しく思いやりのある人。 だから婚約解消を受け入れようと思ったが、学園内では愛する二人を苦しめる悪女のように噂を流され別れた後も悪役令嬢としての噂を流されてしまう 学園にも居場所がなくなった後、悲しみに暮れる中。 一人の少年に手を差し伸べられる。 その人物は光の魔力を持つ剣帝だった。 一方、学園で真実の愛を貫き何もかも捨てた二人だったが、綻びが生じ始める。 聖騎士のスキルを失う元婚約者と、魔力が渇望し始めた親友が窮地にたたされるのだが… タイトル変更しました。

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

【完結】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

迦陵 れん
恋愛
「俺は君を愛さない。この結婚は政略結婚という名の契約結婚だ」 結婚式後の初夜のベッドで、私の夫となった彼は、開口一番そう告げた。 彼は元々の婚約者であった私の姉、アンジェラを誰よりも愛していたのに、私の姉はそうではなかった……。 見た目、性格、頭脳、運動神経とすべてが完璧なヘマタイト公爵令息に、グラディスは一目惚れをする。 けれど彼は大好きな姉の婚約者であり、容姿からなにから全て姉に敵わないグラディスは、瞬時に恋心を封印した。 筈だったのに、姉がいなくなったせいで彼の新しい婚約者になってしまい──。 人生イージーモードで生きてきた公爵令息が、初めての挫折を経験し、動く人形のようになってしまう。 彼のことが大好きな主人公は、冷たくされても彼一筋で思い続ける。 たとえ彼に好かれなくてもいい。 私は彼が好きだから! 大好きな人と幸せになるべく、メイドと二人三脚で頑張る健気令嬢のお話です。 ざまあされるような悪人は出ないので、ざまあはないです。 と思ったら、微ざまぁありになりました(汗)

処理中です...