3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 6学年生

ミザリア伯爵の治療 ①

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 ミザリア伯爵の手を握って、光の魔力を通す。慎重にならなくても分かってしまった。悪性新生物だ。しかも癌メタ転移してる。

 原発巣はどこか分からない。全身にメタ転移が起きている。

「フェルナー嬢?」

「……悪性新生物、です。全身にメタ転移してます」

「ん?フェルナー嬢、悪いが……」

 あ、この世界では知られていない言葉医療用語を使っちゃった。

「ミザリア伯爵様は、キャンサーです。最初に癌に侵された部位は分かりませんが、全身に転移してます」

キャンサー……。治癒は?」

「……閣下、光魔法使いは、教会外では医師の指示が無いと治癒を使えないのです」

「使えない?」

「決められております」

「なんだその馬鹿げた決まりは。どこの誰がそんな事を決めた。答えよ、フェルナー嬢」

「存じ上げません。サミュエル先生から教えていただきました」

「ブランジットの小倅めがっ」

「サミュエル先生が決めたわけではございません。おそらくは教会や聖国辺りが関与しているものと」

「医師の指示なら良いのだな?」

「はい」

 私が頷くとファレンノーザ公爵は、恐ろしい顔で部屋を出ていった。

 少しして何か喚く声とファレンノーザ公爵の怒鳴り声が、近付いてきた。

「お医者様をお連れになったのでしょうか?」

「そうでしょうな。フェルナー嬢、いえ、光の聖女様。お手数をお掛けしますが、頼めますかな?」

「かしこまりました」

 乱暴にドアが開き、ファレンノーザ公爵が縄でグルグル巻きにされたお医者様を、乱暴に引きずってきた。

「許可を出せ。フェルナー嬢に治療の許可を」

「いくら優秀な光魔法使いでも無理ですって。私の薬でも効かなかったんですよ?」

「貴様の薬など効く訳があるかっ。このクワックやぶ医者がっ」

「なんという事を!!」

「えぇい、五月蝿い。疾くとくせよっ」

「ウィル様、そのように乱暴には……」

「クリスは黙っておれ」

「閣下、そのように締め上げられては、お医者様は許可が出せません。落ち着いてくださいませ」

「邪魔をするなっ」

 ファレンノーザ公爵の手が乱暴に振り抜かれ、私の顔に当たった。

「きゃあぁ!!」

 私の身体は、簡単に吹っ飛んでしまった。身体は柔らかい絨毯の上で守られたけど、公爵の手が当たった頬が痛む。

「ウィル様!!落ち着かれよ!!」

 ミザリア伯爵の威厳のある声が響く。その声にファレンノーザ公爵がビクッとした。

「大丈夫ですか?」

 ハロルドさんが助け起こしてくれた。

「ありがとうございます」

「頬が腫れております。ご無理はなさいませんよう」

 ハロルドさんの向こうでは、ファレンノーザ公爵がミザリア伯爵にお説教されている。

「頬をお治しになっては?」

「ミザリア伯爵様の治療に、どれ程の魔力が必要か分かりません。魔力は温存しておきたいんです」

「しかし……」

「終われば治します」

 ハロルドさんは気遣ってくれるけど、ミザリア伯爵のあの癌メタ転移を全て治すなら、きっと相当な魔力が必要となる。それなら少しでも温存しておきたい。

「フェルナー嬢、待たせた……。どうしたんだね、その頬は」

「お話は済みましたか?伯爵様」

「あぁ、可愛らしいお顔がこのような事に。私は良いからすぐに治しなさい」

「でも……」

「でも、ではないんだよ。私の病気は今すぐに治さなければいけないものなのかい?」

「そんな事はありませんが」

「それなら明日でも良いよ。先に自分を治しなさい」

「はい」

 頬に触るとピリピリした痛みがあった。心なしか腫れているような気もする。

 頬に手を当てて、治癒を使う。自分に治癒を使うのは初めてだから、ちょっと緊張する。ホワッと温かさが頬に沁みていった。

 痛みが治まっていく。

「治ったようだね。今日は泊まっていきなさい。ウィル様から聞いたけど、ラーフェニックの方も世話になったのだろう?それにウィリアムが謝りたいと言っているらしい」

「謝ると言われましても」

 私より先に、ミザリア伯爵に謝ってほしい。

 その日はミザリア領城に泊まる事になった。

「フェルナー嬢、良いだろうか?」

 夕食後、ハロルドさんに付き添われたウィリアムさんに、話しかけられた。

「その、すまなかった」

「それは何に対しての謝罪でしょうか?わたくしは、ウィリアム様に謝罪されるような心当たりが無いのですが」

「最初の態度に対する謝罪だ」

「不要です。ウィリアム様はあの時何も知らなかったのでしょう?そんな中現れたわたくしを不審に思っても仕方がないかと」

 なおもウィリアムさんが申し訳なさそうなので、ミザリア家の人物関係を聞いてみる事にした。

「ラーフェニック様がミザリア伯爵様のご嫡男で、マリーテレザちゃんはラーフェニック様のお子様。グレイス夫人はハロルドさんの奥様で、ハロルドさんはラーフェニック様の専属侍従の1人」

「それからエイドリアンとアーノルドはラーフェニック叔父上の弟だね。僕はエイドリアンの息子だよ」

「跡継ぎ問題で揉めていると、聞いていたのですが?」

「ラーフェニック叔父上が急にお倒れになったからね。お祖父様ミザリア伯爵も体調が思わしくなかったし。まさか呪詛に毒とは……」

「ウィリアム様は何もご存じなかったのですか?」

「父から、お祖父様がラーフェニック叔父上には任せられないから、話し合っておけと言われたと聞いたんだ」

 今頃エイドリアンとアーノルドは、ファレンノーザ公爵の取り調べを受けていると思う。ファレンノーザ公爵は幼少期にミザリア伯爵から、武芸の手解きを受けていたそうだ。それでミザリア伯爵様と親しそうだったのね。ミザリア伯爵様に一喝されて小さくなっていたし。

「お祖父様のご病気は、難しいのかい?」

キャンサーです。しかも全身に転移しております。相当な痛みがあると思います」

キャンサーか……」

 癌はシャーマニー語でクレープスという。でも世間一般には、キャンサーの方が浸透している。過去の転生者が使っていたのかもしれない。その辺りの事情は分からないけど、医療用語でもシャーマニー語じゃない単語があったりする。他の専門用語も同様だったりする。そういうものだと納得するしかないんだよね。

 翌日からミザリア伯爵の治癒を始めた。光魔法で一気に治してしまう事も出来るけど、そうするとミザリア伯爵の体力が大きく削られてしまう。それに私の魔力もどれだけ要るか分からない。

 まずは胃の癌細胞を正常に生まれ変わらせる。やってみて分かったけど、ものすごく魔力を使う。ミザリア伯爵の体力も相当使っているようで、胃の治癒だけで2人でフラフラになってしまった。護衛としてダニエル様とマリアさんも部屋にいるし、ウィリアム様も付いていていてくれる。

 私が当初考えていたのは、癌細胞を死滅させるというもの。こちらのやり方は一気に行ってもミザリア伯爵の体力は、さほど削られない。ただし痛みを伴う。お試しでやってみた大腸部分は、伯爵からギブアップされてしまった。痛すぎて耐えられないとの事だ。次に試したのが、細胞を正常に生まれ変わらせる方法。こちらは痛みがそこまでじゃないと言ってもらえたので、こちらを採用した。

「フェルナー嬢、大丈夫かい?」

「はい。ミザリア伯爵様こそ、ご無理はなさいませんよう」

「やっぱり体力は落ちてるね。情けないね」

「そんな事はございませんわ。健康になられましたら、いろいろな事が出来ますわよ」

「あぁ、楽しみだね」



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