3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 6学年生

デビュタントバル②

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「それでは私は離れる。ローレンス、しっかりエスコートしなさい」

「承知しております」

 どことなく固い挨拶を交わして、お義父様が私達の側を離れ、陛下の3段下に立った。宰相職が全員揃うと、再び曲調が変わる。

「キャシー、並ぶよ」

「はい」

 イザベラ様も私の後に続いた。

「本日デビュタントを迎えました……」

 最初の方の挨拶が聞こえる。陛下とは顔見知りだけど、言葉も交わした事はあるけれど、やっぱりこういう場では雰囲気が違う。威厳があるし、少しだけ厳めしいお顔をしている。王妃様も同様だ。柔らかい笑みは浮かべているけれど、対外的というか、心からの笑顔ではなく王妃の仮面を被っている。そんな感じがする。

 私の挨拶の番になった。

「続きまして、フェルナー侯爵令嬢、キャスリーン・フェルナー嬢」

 名を呼ばれ、深くカーツィーを行う。

「楽にせよ」

 筆頭宰相のウィンスタミア卿の声が聞こえてから姿勢を正した。

「本日デビュタントを迎えました、キャスリーン・フェルナーにございます。両陛下のご尊顔を拝し、本日よりスタヴィリス国の淑女として、よりいっそう励んでまいります」

 定型文というべき挨拶を述べる。

「フェルナー嬢のデビュタントを喜ばしく思う」

「我が国の淑女としてこれからも優雅さと気品を忘れず、お過ごしなさい」

 両陛下のお言葉を頂き、もう一度深くカーツィーをして、次のイザベラ様に場を譲る。

「続きましてウォーリー侯爵令嬢、イザベラ・ウォーリー嬢」

「本日デビュタントを……」

 イザベラ様の挨拶を聞きながら、お義母様の元に戻った。

「キャシー、堂々としていたな。さすがだ」

「お義兄様、アンバー様も。緊張いたしましたわ」

「緊張、しますわよねぇ。わたくしは大変でしたわ。ギクシャクしちゃって」

「後はダンスか。ダンスが終われば一息吐けるな」

「キャスリーン様なら、心配はしておりませんけれど」

 デビュタントという独特の雰囲気に呑まれて、転倒する女性が毎年居るそうだ。

 デビュタントの女性全員の挨拶が終わるまで、もう少し時間がある。と、言っても何かをする余裕はない。

「キャシー、喉は乾いていないか?」

「少し乾いている気もいたしますわ」

「飲んでおくか?果実水と果実酒、どっちが良い?」

「お義兄様、わたくしがここで「ではお酒を」と言うとお思い?」

「言わないだろうな。分かってるけどさ」

 ウェイターに果実水を頼むと、オレンジ風味の果実水を持ってきてくれた。仄かなオレンジの香りに緊張がほぐれていく。

 挨拶を済ませた令嬢達が戻ってきて、込み合ってきた為少し端の方に場所を移すと、とたんに絡まれた。

「お嬢ちゃん、どこから潜り込んだの?」

 声に振り返ると、顔が赤い20歳代後半の男性がいた。

「あの?」

「今日は誰と来たのかな?お父さんとお母さんは?」

 ローレンス様とは少し離れてしまっている。

わたくしは今日はデビュタントで……」

「またまたぁ。え?本当に?」

 私を上から下まで無遠慮に見た男性は、私のドレスでようやく察してくれたらしい。

「失礼した。そのような……」

「年齢に見えませんでしたか?」

「あ、いや、その……」

「よく言われますのよ。悩みのひとつです」

「失礼だが、お名前をうかがっても?」

「フェルナー侯爵が息女、キャスリーン・フェルナーと申します」

「フェルナー侯爵家のご令嬢でした……か……」

 ん?

「さらに失礼ながら、光の聖女様というのは?」

わたくしですわ。まだ任命は受けておりませんが」

「では、リリス・シーケリアをご存じで?」

「はい。親しくさせていただいております。リリス様をご存じなのですか?」

「シーケリア嬢のキャバリエ騎士役は私の弟なのですよ。ハハッ、緊張してますね」

 順番に並んでいるリリス様とキャバリエ騎士の横顔が見えた。確かに緊張していると思う。

「キャシー、離れて悪かった。そちらは?」

 ローレンス様が側に来てくれた。

「アーウィン・ソールリーと申します」

「リリス様のキャバリエ騎士の方の、お兄様だそうですわ」

「あぁ、カルヴァンの。失礼。ローレンス・フェルナーだ」

「弟とお知り合いで?」

「学院で1学年下だった。執行部補佐として、よく助けてくれた」

「さようでしたか。お役に立っていたようでなによりです」

 アーウィン・ソールリー家は男爵家。ローレンス様は侯爵家。アーウィン・ソールリーが年上でも、家格の違いから、ローレンス様に敬語を使わなければならない。

 身分制度って、こういう所がなんだかなぁって思う。

 挨拶は順調に進んでいる。私の友人でまだ戻ってきていないのは、リリス様ひとりだけだ。

「フェルナー嬢、リリスから聞いたのですが、医師資格取得を目指しているとか?」

「はい」

「光魔法を持ち、光の聖女様と呼ばれるほどの貴女が、何故?とお聞きしても?」

「そうですわね。ソールリー様は光魔法使いは、教会外で勝手に治療してはいけないというのをご存知?」

「いや、初耳です。いけないのですか?」

「駄目なのですって。わたくしは光魔法使いとして多くの人を救いたいと思いました。その時にその決まりを知って、それならどうすれば良いかと考えました。わたくしの光魔法の師が、医師資格取得を勧めてくれて、師の教えの元、医師を目指してみようと思ったのです」

 光魔法使いは教会外で勝手に治療してはいけないなんて、不思議な決まりだと思う。決まりといっても法律で決められている事ではない。だから実際に光魔法使いが外で治療を行っても、罰せられる事はない。だけど注意されるらしい。

 と、言うことは、光魔法を教会外で使ってはならない、もしくは治癒を教会外で使うなとしているのは、教会。でも今まで教会救民院に通ってきて、そんな事は言われた事がない。

「フェルナー嬢?」

「キャシー?どうしたんだい?」

 デビュタントバルの最中だった事を忘れていた。

「少し考え事を。申し訳ございません」

 リリス様の挨拶は、子爵令嬢の真ん中位。後数人だ。

「キャスリーン様、少しよろしいでしょうか?」

 ガブリエラ様がそっと呼びに来た。

「はい。どうされました?」

 ローレンス様の許可をもらって、少し離れる。

「ひとつ上のアザレア・キューリック様なのですけれど、どうやらおみ足を痛めてしまわれたようで」

「おみ足を?」

 捻ったか、靴擦れかな?

「王宮医師には?」

「知らせておりません。キューリック様が恥ずかしいと仰って」

「恥ずかしいって。お気持ちは分かりますけれど」

 足首を見せるのはマナー違反だと、以前は言われていたし。今はそんな事はないけれど、祖父母世代はいまだにうるさく言う人も多い。キューリック家がどういった教育をしているのかは知らないけれど、祖父母世代の考えを持っている教育なら、恥ずかしいと思っても仕方がない。

「申し訳ございません。王宮医師様をお呼びいただいてもよろしいかしら?」

 近くを通りかかった王宮使用人に言うと、すぐに動いてくれた。

「キューリック様」

「フェルナー様、お手数をお掛け致します」

「もう少しお待ちください。今、王宮医師様をお呼びいたしました。キューリック様に悪いようにはいたしません」

「フェルナー様が治してくださるのではありませんの?」

「勝手に治療してはいけないんです」

「そうですの?」

 王宮医師を、と言ったのに、駆け付けたのはサミュエル先生だった。

「キャシーちゃん、どうかしたのかい?」



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