3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 6学年生

冬季休暇

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 冬季休暇にはいつものように、タウンハウス王都のフェルナー邸に帰る。

「で?プレ社交会のパートナーは決めたのか?」

 前に座ったランベルトお義兄様が、意地悪く聞く。決められないってアンバー様に相談してたしね。アンバー様から聞いたんだと思う。

「えぇ。アルベリク・リトルトンに押し切られました」

「押し切られた?珍しい。キャシーが?」

わたくしをなんだと思っておられますの?押し切られたというか、なんというか」

「歯切れが悪いな。これも珍しい。どうした?」

「懇願されましたの。ほとんど泣き落としですわ」

 泣いてはなかったけど。土下座せんばかりに深く深く腰を折って、切々とどれだけ私のパートナーになりたいかを、訴えられたのよね。医師取得の特別講座の教室で。

わたくしの言う事は聞いてくれませんし」

「聞かなかったんだ?」

「ただただパートナーにしてほしい、今回だけで良いからと言うばかりで。わたくしがもう少し待ってほしいと言っても、聞いてくださらなくて」

「何があったんだ?」

「存じ上げませんわ。特別講座の教室であぁいう風にされましたら、お断りもし辛くて。わざとあの場所をお選びになったのでしょうけど」

 別にアルベリク・リトルトンに悪感情は持っていないから、普通に申し込まれれば受けたかもしれないのに、ああいう事をされると嫌になってくる。

「大丈夫なのか?話をつけても良いが?」

「大丈夫ですわ。プレ社交会の間は淑女の仮面を被り続けて、乗りきります」

 嫌なヤツではないんだよね。私に好意を持ってるって隠さないし。ただ、アヴァレーツィオと同じような感じというか。アヴァレーツィオも前に治療した時、『あなたを穢す訳にいかない』とか言ってたし。ああいうのはやめてほしい。手を握っただけで穢れるなんてあり得ないし、そんな事を言っていたら、治療が出来ない。

「まぁ、無理はするなよ?」

「お心遣い、ありがとうございます」

 タウンハウス王都のフェルナー邸に着くと、恒例のお義母様のハグで迎えられた。

「おかえりなさい、キャシーちゃん。あら?ちょっとランベルト、逃げないのよ?」

「へぇへぇ、ただいま。これで良いだろ?」

 あ、逃げた。武術魔法披露会の優勝者も、お義母様には敵わないのね。

 クスクス笑うお義母様を見ていると、お義母様が私に言った。

「さ、キャシーちゃんも着替えてらっしゃい。サロンでお話をしましょう。ダンディーケーキがあるのよ」

「ダンディーケーキ?楽しみです」

 ダンディーケーキはオレンジマーマレードを使ったフルーツケーキだ。アーモンドが上に飾ってあって、私の好きな物が揃っている。

 着替えに自室に戻って、フランに手伝ってもらって着替える。白いブラウスにロングスカートは、お義母様の趣味だと思う。

 自室を出てお義母様の待つサロンに向かう。

「お義母様、まいりました」

「こちらにお座りなさい」

 お義母様の向かいに座って、お義母様の侍女が淹れてくれた紅茶をいただく。ダンディーケーキは文句なしに美味しいし、嬉しくなってしまう。

「キャシーちゃんは、本当に美味しそうに食べるわね。見ていてこっちまで幸せになっちゃう」

 ニコニコと私を見ながら、お義母様が言った。お義母様はケーキを食べていない。

「学院で何かあったかしら?」

「特には。お義兄様が武術魔法披露会で優勝なさった位ですわ」

「プレ社交会のパートナーは?決めたの?」

「決めたというか、押し切られたというか」

「あら、押し切られちゃったの?それで、どなたなの?」

「アルベリク・リトルトンです」

「まぁ、リトルトン……」

「ほとんど泣き落としですわ、あれは」

「あらあら。珍しいわね、キャシーちゃんがそこまで言うなんて」

「人の多い所で声高に申し込まれましたのよ?切々とどれだけわたくしのパートナーになりたいかを訴えながら。最初はお断りというか、保留を提案したのですけれど、それも受け入れていただけなくて」

「学院生の間だけですものね。お家の派閥や利害関係の思惑が必要ないパートナー選びは」

「それも言われましたわ。最終的に根負けしてしまって、お受けしてしまいました」

「あれから調べてみたのだけれど、リトルトンのお家は少し複雑なのよね」

「複雑ですか?」

「ご兄弟は3人。長男は家業を嫌って出奔し、3男は身体がお悪くて、今は奥様のご実家で静養してらっしゃるようね。その為に次男がお家を継ぐ事になったと」

「3男様のお身体の事は聞いておりませんでした。アルベリク・リトルトン様からは、とお聞きしましたけど」

「お身体がお悪いのであれば、リトルトンの家業は継げないでしょうね。お姉様は国外に嫁がれたらしいし」

「そうだったのですね」

「悪い子じゃないのよね。実際に会ってはいないけど」

「そうですわね。少しわたくしを神聖視している事を除けば」

「あら、神聖視?」

「少し前に頼まれて、リトルトン様の主家の方の治療に行きましたの。サミュエル先生も付き添ってくださったのですけれど、それからですわね。わたくしへの接し方が必要以上にへりくだるようになったのは」

 まるで下僕かのごとく、私の荷物を持とうとしたり、なにかと役に立とうとしてきたり。そういった態度を改めるなら、と条件を出してパートナーの申し込みを受けたんだよね。ちっとも変わっていないけれど。

「リトルトンがパートナーというのは、派閥的というか、キャシーちゃんの交遊関係的には好ましくはないけど、キャシーちゃんの話によると、あちらが積極的に関わってくるのでしょう?それなら仕方がないわよね」

 アルベリク・リトルトンがプレ社交会のパートナーになる事に関しては、お義母様も許可をくださった。後はローレンス様なんだけど、お帰りになったら甘やかされそうだなぁ。お義父様とローレンス様のお帰りにはもう少し時間があるから、自室で医師資格取得の勉強でもしておこう。

 夕刻というには遅い時間に、ローレンス様が帰宅した。

「キャシー、おかえり」

「ただいま帰りましたわ。ローレンス様もおかえりなさいませ」

「うん。会いたかった」

 ギュウっと私を抱き締めるローレンス様。ローレンス様は背が高いから、背の低い私を抱き締めるのは大変だと思う。

「ローレンス様、お疲れでは?」

「分かるかい?ちょっとね。面倒な案件があって……」

 詳しくは話してくれないけど、神殿の方だろうか?侯爵領の事だろうか?どちらにしても私には何も出来ない。

「回復魔法をお掛けしましょうか?」

「お願い出来るかい?」

 軽く回復魔法を掛けると、ローレンス様が大きく息を吐いた。

「キャシーの回復魔法は心地いいね。このまま寝てしまいそうだ」

「寝ないでくださいませ。支えきれません」

「冗談だよ」

 ローレンス様が身体を離す。このまま構い倒される事は無いようで、少しホッとした。

 お義父様は遅くなると連絡があった為先に夕食を頂いて、サロンでローレンス様と話をする。

「リトルトンか」

 プレ社交会のパートナーにリトルトンを指名したと言うと、少し眉根を寄せられた。

「ローレンス様のご懸念は分かりますけれど。わたくしも積極的に選んだわけではございませんし」

「悪いヤツではないんだよね?」

「そうですね。特に悪感情は持っておりません」

「それなら良いけどね。バックに付いてるのがアヴァレーツィオだというのが気に入らない」

「と、申されましても」

「キャシーは気にしなくて良いよ。私の個人的な感情だから」



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