3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 6学年生

帰国

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 ゴーヴィリス国への滞在も10日が過ぎた頃、国王陛下からお呼び出しがかかった。サミュエル先生と一緒に案内の文官の後に付いていく。

 案内されたのは『金剛こんごう宮』でも奥まったお部屋。豪華な調度品と一目で高級品だと分かる絨毯にソファー。

「王族のプライベート・レセプション私的応接室か」

「怖いんですけど」

「大丈夫だよ。そろそろ帰らないとね」

「もう10日が過ぎましたものね」

 サミュエル先生と話していると、陛下と王妃様、第一側妃様、アーチャー王子殿下が入ってこられた。立ち上がって礼をする。

「楽にしてほしい」

 陛下の声に姿勢を戻し、ソファーに座る。

「フェルナー嬢、フロレシアの症状はかなり改善したと聞いた。礼を言う」

「おそれ多い事でございます」

 サミュエル先生からは、自分で受け答えをするようにと言われている。不敬に問われる事はないからと。

「ついては褒美を授けよう」

「いえ、光魔法使いとして当然の事をしたまでですから」

「そうだな。アーチャーとの婚約はどうだろうか」

 どうだろうか、って、強制よね?

「申し訳ございません。わたくしはすでに婚約者がおります」

 話しているのは王様だけ。王妃様と第一側妃様はどこか冷めた目をしている。

「そんな物、破棄すればよかろう」

「そして光の聖女候補を我が国に、ですか?」

「そのような事は言っておらぬ」

「ですがそう取られてしまう発言であられると、分かって仰っておられますわよね?」

「無礼ですよ、たかが侯爵家の養女が」

 私と王様の言い合いを、どこか面白そうに見ていた王妃様が、口を挟んだ。

「はい。わたくしは侯爵家の養女です。さらに言うなら実家は取り潰しになりました。わたくしへの虐待の罪で。こちらの王家はそれをご存じなのですわよね?」

「知ってはいるが……」

「さらに言えば、聖国のお使者様がわたくしは光の聖女に相応しいと、認定されたようです。それをどう覆すおつもりですか?それともアーチャー王子殿下がスタヴィリス国我が国に来てくださるとでも?」

「それは……」

「敗けだよ、ゴーヴィリス国王陛下。さんざん言ったじゃない。彼女をその辺の小娘と思わない方が良いって」

 サミュエル先生、王様にそんな口を利いていいんですか?

「しかし、サミュエルよ。ワシとて息子の望みは叶えてやりたいと」

「それにしては話の持っていき方が、お粗末だったよ?」

「その娘がポンポンと言い返すのが悪いのだ。面白くなってしもぅた」

「それで言い負かされた訳だよね」

「……」

 拗ねちゃった?

「キャスリーンというのだな」

「はい、アーチャー王子殿下」

「婚約は諦める。だがゆっ、友になってくれぬか?」

わたくしが王子殿下の、ご友人でございますか?」

 困ってサミュエル先生を見上げる。

「キャシーちゃんの好きにしていいよ」

「王妃様は……」

「ホホホ。先程はごめんなさいね。陛下に言えと言われたのよ」

「王妃……」

 王様が慌ててたけど、王妃様は艶然と微笑んだままだった。

「よろしいのですか?」

 再度サミュエル先生を見る。

「交遊関係に文句は言わないでしょ」

 誰が、とは言ってないけど、うん。文句を言ってもらいたくない。

「よろしくお願いいたします」

「やったぁ。じゃあさ、手紙を書いても良い?」

「もちろんでございます」

 今後も友好関係を続けると話をして、最後にフロレシア姫様が入室した。

「キャスリーン、ありがとう、本当にありがとう」

 ガバッと抱き付いて、姫様が私にお礼を言う。

「お元気になられたようで、大変喜ばしゅうございます」

わたくし、頑張るわ。スティーヴン様と幸せになれるように」

「ご無理はなさらないでくださいませね?」

「うん。それも頑張る」

 その後、こそっと耳元で囁いた。

「キャスリーンにバカな事を言ったバカ達は、王家の名で厳重注意させてもらったから」

「……お礼を言った方が良いのでしょうか?」

 ちょっとやり過ぎな気が。

「国賓に対して、あんな無礼な事を言う人は必要無いわ。キャスリーンに謝らせようかと思ったのだけど」

 私の肩に手を置いて、姫様が言う。

「事実を知らず優越感に浸りたいだけだったのでしょうし、気にしておりませんよ」

「それは王家のメンツの問題なのよ。キャスリーンは気にしなくて良いわ」

「そうだな。気にする事はない。フロレシアを救ったのだ。もちろん、侍医からフロレシアの症状の説明は受けた」

「同じ女として、気が付かなかったわたくしも反省しなければね」

「王妃様、それは仕方がない事だと思われます。わたくしには知識がございました。姫様の症状は、かなりの個人差がございます。知らなければ自分を基準にしてしまっても、不思議ではございません」

「貴女は大丈夫なの?」

わたくしは、いまだ……」

「え?」

「彼女は『テンセイシャ』なんですよ。しかも専門的な仕事をしていたようで。ですから今世でもひとりでも多くを救いたいと、勉強を欠かしておりません」

 サミュエル先生が説明してくれた。陛下は知っているだろうけど、たぶんアーチャー王子は、何の事か分かっていなかったと思う。

 明日帰る事になった為、フランは荷造りを始めた。こちらで仲良くなった侍女達が手伝ってくれていた。

「寂しくなりますわ」

「お手紙を書きますわ。お返事くださいませね」

 お喋りしながらも手は止まらないのが、侍女達だ。これが普通なんだろうけど、スゴいと思ってしまう。ちなみに私は見ているだけだ。「お嬢様はごゆっくりなさっていてください」って言われちゃうんだもの。手を出しても役に立つとは思えないし。


 翌日、フランを伴って城奥の転移部屋に向かう。

「お世話になりました」

「こちらこそ世話になった」

「またいらしてね」

「お手紙を書くわ」

「ありがとうございます。王妃様、側妃様」

「キャスリーン、本当にありがとう」

「姫様、運動は続けてくださいませね」

「うふふ。頑張るわ」

「頑張りすぎないでくださいませね」

 来た時とは違ってたくさんの人に見送られて、魔法陣に入る。一瞬の浮遊感の後、スタヴィリス国に着いていた。

「お疲れさまでございました。光の聖女様、ブランジット様」

「陛下に謁見出来るかな?」

「はい。準備をしております。光の聖女様、ブランジット様、控室にご案内いたします」

 謁見するの?

「先生……」

「形式は謁見だけど、ただの報告だよ。そう固くならなくても大丈夫。話は主に私がするし。キャシーちゃんはフロレシア姫のざっくりとした症状の説明を頼むよ」

「ざっくりとしたと言われましても、少し説明がしにくいのですが」

「男性には言いにくいか。どうしようか」

 控室に入って、サミュエル先生と打ち合わせをする。

「病名は言わなくて良いよ。フォローはこっちでするから」

「いつもすみません」

 打ち合わせの結果、私が言うのはフロレシア姫様の症状のみ。後はサミュエル先生がフォローしてくれる事になった。

 謁見の準備が出来たらしい。フランに軽く身だしなみを整えてもらって、謁見に臨む。

 謁見ではほぼサミュエル先生が話してくれた。私のやった事は、フロレシア姫様の症状の説明のみ。月経前症候群PMS、月経痛、月経後症候群の事は言わずに、女性特有の不調とした。後はご結婚に対する、メンタルの不安定さが産み出すマリッジブルーによる精神的原因の栄養失調の話。

「そうか。ご苦労だった」

「もったいないお言葉にございます」

 謁見が終わると、お休みをもらったらしいお義父様と一緒に、タウンハウス王都のフェルナー邸に帰った。

「おかえりなさい、キャシーちゃん」

「ただいま戻りました」

「今日はゆっくりなさいね」

「はい。ありがとうございます」

 お義母様のお言葉に甘えて、1日ゆっくり過ごさせてもらった。夜になって帰ってきたローレンス様に甘やかされたのは言うまでもない。






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