3歳で捨てられた件

玲羅

文字の大きさ
上 下
190 / 290
学院中等部 6学年生

フェルナー領へ

しおりを挟む
 翌日、母親に連れられて、子供がタウンハウス王都のフェルナー侯爵邸に来てくれた。

「お姉ちゃん」

「ごめんね。側に行けなくて」

「いいの。お母様に聞いたの。ばしゃからおりちゃいけない人もいるんだって。お姉ちゃんはおりちゃいけない人なんだよね?」

「本当は降りたかったの。ごめんなさい」

「あのね、お姉ちゃん、ピカピカのキラキラなの。だからいいの」

 ピカピカのキラキラ?

「この子はたまに言うんです。暖炉みたいとか、お水みたいとか。フェルナー様はピカピカのキラキラに見えたようですね」

 戸惑っていると、お母様が解説してくれた。それって、魔法属性が見えてる?

 少しおもてなしをした後、子供とお母様は帰っていった。


 その翌日、フェルナー領へ出発する。今回はフェルナー領の中でも保養地と呼ばれる別荘地に滞在するらしい。滞在期間は10日間。

 フェルナー領都では私の希望も入れて、教会と救民院への訪問と、病院の視察も組まれている。そしてローレンス様は同行していない。お仕事だから仕方がないよね。一緒に馬車に乗ってくれているのはお義母様。まず最初に向かうのは別荘地のザウスコンウェル。ここはフェルナー領でも標高が高い場所で、王都より5度は気温が低い。もしかしたら10度近く違うかも?とは事前にローレンス様が教えてくれた。

「お義母様、キラキラしておりますけれど、あれは?」

「湖よ。あの湖からティズラ河が始まるの」

 ティズラ河は王都を経てキプァ国まで、国を跨いで流れる大河だ。

「あそこから……」

フェルナー侯爵ウチの別荘は、1番良い場所に建っているのよ。王家に文句を言われちゃったらしいわ」

「よろしかったのですか?」

「ここはフェルナー侯爵領だもの。文句を言われる筋合いはありませんって、言い返したそうよ。あ、この話は今代王家じゃないから。3代前の話よ」

 そういえば別邸と別荘の違いってなんだろう?

「お義母様、フェルナー侯爵家にはいくつかの別邸がございますわよね?あちらの別荘も別邸となるのでは?」

「別荘は余暇を楽しむ為の建物よ。あの別荘は夏にしか使わないの。冬は寒いから。湖も凍っちゃうしね。別邸は季節関係なく滞在する建物ね」

 湖の名前はペアルル湖。大粒の淡水真珠が採れるらしく、名産とまでいかないけれど真珠加工業に携わる人が多いらしい。そういえばデザインを見せられたけど、私の婚姻式で使う予定のパリュールも真珠を用いた物だった。真珠とダイヤモンドね。

 パリュールはアクセサリーのセットだ。だいたい4から5点のセットで、私の婚姻式のパリュールはネックレス、ブローチ、イヤリング、ティアラ、ブレスレットのセットらしい。ローレンス様とお義母様が盛り上がっているのよね。

 ちなみにランベルトお義兄様とアンバー様の婚姻式に用いられるパリュールはイエローダイヤとブルートルマリンが使われている。こちらはすでに製作に入っていて、ランベルトお義兄様がウンウン言いながら色とデザインを決めていた。

 私のパリュールが、なぜこんなにも早くから準備されているのかというと、ティアラやネックレスに使われる、質の良い淡水真珠の数を揃える為だそう。養殖技術はまだ知られていないのか、はたまた発表されていないだけか。そこは分からないけれど、とにかく時間がかかるらしい。

 別荘に着くと、お義母様が別荘の中を案内してくれた。カントリーハウス領城タウンハウス王都のフェルナー邸と比べると確かに狭いけど、それでも十分に広いお部屋で室内には木がふんだんに使われていた。

 その他にも湖を見て楽しむ為の、広いテラスのある食事室や趣味の為の部屋など、そこそこの広さはあると思う。

「ピアノもあるんですか?」

「えぇ。キャシーちゃん、弾くでしょう?」

「ずいぶん触れておりませんから、少し不安ですが」

「ここにはね、ジルベール様がよく滞在されていたのよ」

「だからピアノが?」

「今回も来られると連絡があったわ」

 私の水魔法の先生であるジルベール様にお会いするのは、学院入学以降だ。10年は経っていないけど、6年位?攻撃魔法は一切教えてくれなかったけれど、水魔法の基礎はみっちり教えられた。サミュエル先生とジルベール先生の2人によって、光と水の同時行使という無茶振りをされたのもあの頃だった。今は同時行使で作っているブレシングアクア聖恵水も最初は水球に治癒を掛けて作っていた。

 そのジルベール様がフラリと別荘に現れたのは、私とお義母様が到着した翌々日だった。ヒゲと髪が伸び放題で、服装も泥だらけ。貧民とまでいかなくても、ボロボロのヨレヨレを身に纏って、別荘に現れた。

「久しぶりだな、キャスリーン」

 そう声をかけられてもしばらく動けなかった私は、悪くないと思う。側に控えてくれていたマリアさんに庇われ、ダニエル様がジルベール様にナイフを突きつけるまでは動けなかった。

「叔父様?」

「そうそう。キャスリーンの水魔法の先生だった叔父様だ」

「ダニエル様、離してくださいませ。わたくしの叔父様、ジルベール様ですわ」

 ものすごく警戒しながらも突きつけていたナイフを、ジルベール様から離したダニエル様は、かなりの距離をあっという間に戻ってきた。

 その頃にフェルナー家の護衛が駆けつけ、なんとジルベール様を湖に蹴り飛ばした。ジルベール様は笑いながら落ちていって、その上で髪を整えて上がってきた。

「ヒドイなぁ」

「そうせよと仰ったのは、貴方様にございますが?」

「本気で蹴ったでしょ?とっさに飛んだからダメージは無いけれど」

「失礼いたしました。お嬢様に近付く不審者かと」

「えぇぇ。ヒドイなぁ」

「とにかく身だしなみを整えてきてください。お嬢様が居られるのですよ」

「はいはい」

 今回護衛をまとめてくれているゴルド(ジルベール様を蹴り飛ばした護衛)によると、よくああして領城にも現れるらしい。その度に「本当に不審者だったらどうするつもりだ」と言われ、最終的にあの扱いになったんだとか。

 湯浴みを終えて、髭を剃り、髪も整えたジルベール様は私の先生をしてくれていた頃と変わらなかった。服も着替えて貴族らしく見える。

「本当に貴族だったんだ」

 ダニエル様が呟いた。

「本当に貴族だったんだんだよ。君はキャスリーンの護衛かな?キャスリーンも今や光の聖女様だもんね。専属で護衛が付いておかしくないよね。それにしても良い反応速度だったね。楽しみだなぁ」

「ジルベール様、彼らをお試しになるのはお止めになった方がいいかと」

「どうして?」

「ブランジット公爵家の者ですので」

「ふぅん。ますます興味深いね」

「叔父様は、武術を嗜まれておられるのですか?」

「旅暮らしだからね。野盗に襲われたりもするし、狼とか熊とかね。辺境の方には魔獣と呼ばれる変異種も多いし」

「変異種?」

「野生の動物より大きかったり、行動パターンが違ったりね。そういうのを魔獣って呼ぶんだよ」

「そうなのですね」

 今日はお義母様は別荘に居ない。ご用事で別荘を開けられている。だからここにいるのは私と護衛達、それから使用人だけだ。

 今日はのんびりしていて良いと言われたから、薬草研究会で取り組んでいる香りと薬効についての考えを纏めていたんだけど。ほら、私の植物魔法ってどの魔法を使っても花が咲いちゃうから。

「それで?この状況は?」

わたくしの植物魔法です」

「は?キャスリーンは光と水だったよね?」

「後発現いたしました。転生者に多いそうです」

「他に咲かせられるのかな?」













しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

愛しの婚約者に「学園では距離を置こう」と言われたので、婚約破棄を画策してみた

迦陵 れん
恋愛
「学園にいる間は、君と距離をおこうと思う」  待ちに待った定例茶会のその席で、私の大好きな婚約者は唐突にその言葉を口にした。 「え……あの、どうし……て?」  あまりの衝撃に、上手く言葉が紡げない。  彼にそんなことを言われるなんて、夢にも思っていなかったから。 ーーーーーーーーーーーーー  侯爵令嬢ユリアの婚約は、仲の良い親同士によって、幼い頃に結ばれたものだった。  吊り目でキツい雰囲気を持つユリアと、女性からの憧れの的である婚約者。  自分たちが不似合いであることなど、とうに分かっていることだった。  だから──学園にいる間と言わず、彼を自分から解放してあげようと思ったのだ。  婚約者への淡い恋心は、心の奥底へとしまいこんで……。 ※基本的にゆるふわ設定です。 ※プロット苦手派なので、話が右往左往するかもしれません。→故に、タグは徐々に追加していきます ※感想に返信してると執筆が進まないという鈍足仕様のため、返事は期待しないで貰えるとありがたいです。 ※仕事が休みの日のみの執筆になるため、毎日は更新できません……(書きだめできた時だけします)ご了承くださいませ。

私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました

新野乃花(大舟)
恋愛
ルナとルーク伯爵は婚約関係にあったが、その関係は伯爵の妹であるリリアによって壊される。伯爵はルナの事よりもリリアの事ばかりを優先するためだ。そんな日々が繰り返される中で、ルナは伯爵の元から姿を消す。最初こそ何とも思っていなかった伯爵であったが、その後あるきっかけをもとに、ルナの元に後悔の手紙を送ることとなるのだった…。

いつか彼女を手に入れる日まで

月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?

傷付いた騎士なんて要らないと妹は言った~残念ながら、変わってしまった関係は元には戻りません~

キョウキョウ
恋愛
ディアヌ・モリエールの妹であるエレーヌ・モリエールは、とてもワガママな性格だった。 両親もエレーヌの意見や行動を第一に優先して、姉であるディアヌのことは雑に扱った。 ある日、エレーヌの婚約者だったジョセフ・ラングロワという騎士が仕事中に大怪我を負った。 全身を包帯で巻き、1人では歩けないほどの重症だという。 エレーヌは婚約者であるジョセフのことを少しも心配せず、要らなくなったと姉のディアヌに看病を押し付けた。 ついでに、婚約関係まで押し付けようと両親に頼み込む。 こうして、出会うことになったディアヌとジョセフの物語。

暗闇に輝く星は自分で幸せをつかむ

Rj
恋愛
許婚のせいで見知らぬ女の子からいきなり頬をたたかれたステラ・デュボワは、誰にでもやさしい許婚と高等学校卒業後にこのまま結婚してよいのかと考えはじめる。特待生として通うスペンサー学園で最終学年となり最後の学園生活を送る中、許婚との関係がこじれたり、思わぬ申し出をうけたりとこれまで考えていた将来とはまったく違う方向へとすすんでいく。幸せは自分でつかみます! ステラの恋と成長の物語です。 *女性蔑視の台詞や場面があります。

(完結)嘘をありがとう

七辻ゆゆ
恋愛
「まあ、なんて図々しいのでしょう」 おっとりとしていたはずの妻は、辛辣に言った。 「要するにあなた、貴族でいるために政略結婚はする。けれど女とは別れられない、ということですのね?」 妻は言う。女と別れなくてもいい、仕事と嘘をついて会いに行ってもいい。けれど。 「必ず私のところに帰ってきて、子どもをつくり、よい夫、よい父として振る舞いなさい。神に嘘をついたのだから、覚悟を決めて、その嘘を突き通しなさいませ」

【完結】今世は我儘なぐーたら令嬢を目指します

くま
恋愛
一つ下の妹のキャンディは愛嬌は良く可愛い妹だった。 「私ね、お姉様が大好きです!」 「私もよ」 私に懐く彼女を嫌いなわけがない。 公爵家の長女の私は、常に成績トップを維持し、皆の見本になるようにしていた。 だけど……どんなに努力をしていても、成績をよくしていても 私の努力の結果は《当たり前》 来月私と結婚を控えている愛しい婚約者のアッサム様…… 幼馴染であり、婚約者。とても優しい彼に惹かれ愛していた。 なのに……結婚式当日 「……今なんと?」 「……こ、子供が出来たんだ。キャンディとの」 「お、お姉様……ごめんなさい…わ、私…でも、ずっと前からアッサム様が好きだったの!お姉様を傷つけたくなくて……!」 頭が真っ白になった私はそのまま外へと飛びだして馬車に引かれてしまった。 私が血だらけで倒れていても、アッサム様は身籠もっているキャンディの方を心配している。 あぁ……貴方はキャンディの方へ行くのね… 真っ白なドレスが真っ赤に染まる。 最悪の結婚式だわ。 好きな人と想い合いながらの晴れ舞台…… 今まで長女だからと厳しいレッスンも勉強も頑張っていたのに…誰も…誰も私の事など… 「リゼお嬢様!!!」 「……セイ…」 この声は我が家の専属の騎士……口も態度も生意気の奴。セイロンとはあまり話したことがない。もうセイロンの顔はよく見えないけれど……手は温かい……。 「俺はなんのために‥‥」 セイロンは‥‥冷たい男だと思っていたけど、唯一私の為に涙を流してくれるのね、 あぁ、雨が降ってきた。 目を瞑ると真っ暗な闇の中光が見え、 その瞬間、何故か前世の記憶を思い出す。 色々と混乱しつつも更に眩しい光が現れた。 その光の先へいくと…… 目を覚ました瞬間‥‥ 「リゼお姉様?どうしたんですか?」 「…え??」 何故16歳に戻っていた!? 婚約者になる前のアッサム様と妹の顔を見てプツンと何かが切れた。 もう、見て見ぬフリもしないわ。それに何故周りの目を気にして勉強などやらなければならいのかしら?!もう…疲れた!!好きな美味しいお菓子食べて、ぐーたら、したい!するわ! よくわからないけれど……今世は好き勝手する!まずは、我慢していたイチゴケーキをホールで食べましょう!

処理中です...