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学院中等部 6学年生
薬草研究会
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風がさわさわと吹き抜ける、気持ちいい季節になってきた。梅雨のような長雨がないから、過ごしやすい。
今日は薬草研究会に来ている。やる事は試飲試食会だけど。つまりは食べて飲んで感想を言い合おうという、それだけの活動内容だ。みんなでモグモグ食べながら味の感想を言い合い、改善点を探っていく。成分や効能の方は魔道具で確かめているから、これ以上の改善は出来ない。だから味の改善といっても、似た成分の薬草に置き換えるとか、その程度だ。
「そういえばフェルナー様、少し前に急いで外出なさいましたけど、どうされましたの?」
「私の手が、緊急に必要だという方がおりまして」
「帰ってこられた時に疲労困憊に見えたのですけれど?ご無理はなされておられませんよね?」
「えぇ。ご心配、ありがとうございます」
「それでも本来は夜に外出なんて、許可が降りないだろう?」
「サミュエル先生が付き添ってくださいましたので」
「それなら安心、なのかな?」
「ブランジット先生って強そうに見えないのよね。どっちかというと、言葉で相手を負かしてそうな感じ」
「そうそう。いつも優しいし笑ってるけど、たまに信用出来ない笑顔を浮かべる時があるし」
「でも、公爵家のご出身でしょう?いつも守られていらっしゃったでしょうから、ねぇ」
「あら、公爵家でもお強い方はいらっしゃるわよ?今の国軍総督はファレンノーザ公爵様ですもの」
「でも、偉いと強いは比例しませんわ」
「そうですわよね」
いつの間にか座っていたサミュエル先生に、気付かない女性陣のおしゃべりが止まらない。止めようとしたらシィーってされちゃったのよね。男性陣は男性陣で何か話してるし。
何人かは気付いているけど、そもそも止める気がないみたいで、放置中だ。
「あ、これ美味しい」
バインヌイという揚げ菓子に、アーティミシアを混ぜ込んだ薬草バインヌイ?がけっこう美味しい。
「あら、本当ですわ……。ブランジット先生!!いつから居られましたのっ?」
あ、気が付いた。
「私が強そうに見えないって所からかな?」
「最初からではないですか。フェルナー様、どうして教えてくれませんでしたの?」
「口止めされましたので」
「仰ってくださいませ」
「いやぁ、気が付かないのが面白くてね。普通のお茶会みたいになってるけど、一応は授業外交流だからね?」
「今日はこれが活動内容ですもの」
「そうですわ。一応気が付いた事は書き出してますのよ」
女性生徒が集団になると、サミュエル先生も苦笑いして黙るしかないようだ。
「キャシーちゃん、アヴァレーツィオ家からお礼が届いたよ」
「お礼など要らないんですが」
「そう言わないでやって。アヴァレーツィオの当主を救ったんだから。家臣団が感激してたよ」
「そういえばあの呪い主は分かったんですか?」
「地下牢で息絶えてたそうだよ」
元々捕まっていた人なの?
「キャシーちゃんは気にしなくて良いよ」
「先生、結界術を鍛えたいです」
「結界術の強化かぁ。ちょっと方法を考えてみるよ」
「お願いします」
「ところでどうして結界術?」
「あの時、私の結界術がもっと完璧だったら、先生に負担がかからなかったんじゃないかと思って」
「あれは特殊な場面だったからね。通常、あんなに重なる物じゃないよ」
「それでも、私ひとりでしたら、呪い主の追跡は出来なかったと思うんです」
「出来たと思うよ」
「え?」
「キャシーちゃんよりも粗い結界術で、呪いの追跡を行う術者はいるからね。結界術は光魔法が最上級だけど、どんな属性でも結界は張れるから」
「それはそうですけど」
「キャシーちゃんは頑張ってるよ。鍛えたいっていうならこっちも応えるけどね」
「はい」
私とサミュエル先生が話していると、下級生の子達がお皿を持ってきた。
「フェルナー先輩、これ、疲労回復のガレットです」
「食べてください」
後輩達の後ろでは、薬草研究会のみんなが固唾を飲んで様子を見ていた。
「私に?」
「はい」
「先輩、お疲れぎみですから」
「だから元気になってもらいたくて」
「ふふっ、ありがとう。いただくわ」
貰ったガレットは、4つ折になっていて、間にジャムが塗ってあった。
「美味しそうだね」
「美味しいですよ。ポーションの仄かな苦味がマーマレードと合っていて、とても美味しいです」
このガレット、そば粉は使っているけど、小麦粉も半分以上使ってあると思う。日本でいうクレープとガレットの中間かな?
「間に挟んであるのはマーマレードかな?」
「はい。大好きなジャムです」
「そういえば柑橘類が好きって言ってたっけ」
「昨年の誕生日に柑橘類がたくさん届いたんですよね。送り主は分からないけど」
「送り主が分からないって、危険だよ?」
「お義父様とローレンス様は、送り主をご存じのようだったんですけど、教えていただけませんでした」
「ふぅん」
サミュエル先生が意味ありげに頷いた。
「先生、何か知っておられます?」
「いいや?別に?」
知ってるんですね?しかもこの誤魔化し方は面白がってますね?聞き返してやらないけど。
「キャシーちゃん、気にならないの?」
「気にはなりますよ?でも教えてくれる気なら、お義父様もローレンス様も教えてくださってますから。そうしないって事は必要無いって思っているんでしょう」
気になるけどね。楽しませる為に聞いてなんかあげません。
「ふぅん」
面白くなさそうな顔だなぁ。
「先生、お聞きしたいんですけど、聖国……」
そこまで言った時に、ガレットを口に突っ込まれた。
「ふぁにふりゅんれすかぁ?」
「軽々しく口にしないでよ。まだ秘密事項なんだよ?」
むぐむぐごっくんとガレットを飲み込んで、ついでに果実水を飲んで、口を開く。
「だからってガレットを突っ込まなくても」
「ごめんごめん。手近にあったからさ」
「レディの口に突っ込まないでください」
「ここでバレたら大騒ぎだと思うけど?それでも良かった?」
「それなら後でお時間をください」
「良いよ。マリアも呼んでおくね」
「お願いします」
初等部の時には許されていたけど、中等部になるとたとえ教師だとしても密室で2人きりになると良い顔をされない。5学年生はギリギリオッケーだったかな?それでもうるさ方の先生には苦言を呈されたけど。
薬草研究会が終わって、マリアさんが来てくれた。
「何が聞きたいの?」
「聖国行きにあたって、私に何か準備は要りますか?」
「要らないよ。国として準備するし。でもそうだね。卒業したら可及的速やかに婚姻式なんだよね?」
「はい」
必ずスタヴィリス国に帰ってこられるように。それには婚約者じゃ弱いかもしれない。だから婚姻してしまう事にした。ローレンス様にはこんな理由でって、申し訳なく思うけれど、ローレンス様も賛同してくれた。次期フェルナー家当主を帰国させないなんてあり得ないだろうし、絶対にキャシーも一緒に帰るからね、って言ってくれた。
「滞在はどの位ですか?」
「聖人、聖女の任命だったら早くて1ヶ月。任命の儀式に10日。その後儀礼的な護衛聖騎士の選出があって、その誓願式に10日。誓願を立てた護衛聖騎士と一緒にパレードをして帰国かな?」
「パレード?」
「ケーソンボガン聖国の神殿のある、中心部のヴェルッテリアを一周するんだよ。オープンタイプの馬車に乗って」
「目立つじゃないですか」
「お披露目の意味合いが強いからね」
「先生ってお詳しいですよね?」
「まぁね。調べたのもあるし。実際に告げられたしね」
そうか。先生は聖人候補として行ったから、知っているんだ。
今日は薬草研究会に来ている。やる事は試飲試食会だけど。つまりは食べて飲んで感想を言い合おうという、それだけの活動内容だ。みんなでモグモグ食べながら味の感想を言い合い、改善点を探っていく。成分や効能の方は魔道具で確かめているから、これ以上の改善は出来ない。だから味の改善といっても、似た成分の薬草に置き換えるとか、その程度だ。
「そういえばフェルナー様、少し前に急いで外出なさいましたけど、どうされましたの?」
「私の手が、緊急に必要だという方がおりまして」
「帰ってこられた時に疲労困憊に見えたのですけれど?ご無理はなされておられませんよね?」
「えぇ。ご心配、ありがとうございます」
「それでも本来は夜に外出なんて、許可が降りないだろう?」
「サミュエル先生が付き添ってくださいましたので」
「それなら安心、なのかな?」
「ブランジット先生って強そうに見えないのよね。どっちかというと、言葉で相手を負かしてそうな感じ」
「そうそう。いつも優しいし笑ってるけど、たまに信用出来ない笑顔を浮かべる時があるし」
「でも、公爵家のご出身でしょう?いつも守られていらっしゃったでしょうから、ねぇ」
「あら、公爵家でもお強い方はいらっしゃるわよ?今の国軍総督はファレンノーザ公爵様ですもの」
「でも、偉いと強いは比例しませんわ」
「そうですわよね」
いつの間にか座っていたサミュエル先生に、気付かない女性陣のおしゃべりが止まらない。止めようとしたらシィーってされちゃったのよね。男性陣は男性陣で何か話してるし。
何人かは気付いているけど、そもそも止める気がないみたいで、放置中だ。
「あ、これ美味しい」
バインヌイという揚げ菓子に、アーティミシアを混ぜ込んだ薬草バインヌイ?がけっこう美味しい。
「あら、本当ですわ……。ブランジット先生!!いつから居られましたのっ?」
あ、気が付いた。
「私が強そうに見えないって所からかな?」
「最初からではないですか。フェルナー様、どうして教えてくれませんでしたの?」
「口止めされましたので」
「仰ってくださいませ」
「いやぁ、気が付かないのが面白くてね。普通のお茶会みたいになってるけど、一応は授業外交流だからね?」
「今日はこれが活動内容ですもの」
「そうですわ。一応気が付いた事は書き出してますのよ」
女性生徒が集団になると、サミュエル先生も苦笑いして黙るしかないようだ。
「キャシーちゃん、アヴァレーツィオ家からお礼が届いたよ」
「お礼など要らないんですが」
「そう言わないでやって。アヴァレーツィオの当主を救ったんだから。家臣団が感激してたよ」
「そういえばあの呪い主は分かったんですか?」
「地下牢で息絶えてたそうだよ」
元々捕まっていた人なの?
「キャシーちゃんは気にしなくて良いよ」
「先生、結界術を鍛えたいです」
「結界術の強化かぁ。ちょっと方法を考えてみるよ」
「お願いします」
「ところでどうして結界術?」
「あの時、私の結界術がもっと完璧だったら、先生に負担がかからなかったんじゃないかと思って」
「あれは特殊な場面だったからね。通常、あんなに重なる物じゃないよ」
「それでも、私ひとりでしたら、呪い主の追跡は出来なかったと思うんです」
「出来たと思うよ」
「え?」
「キャシーちゃんよりも粗い結界術で、呪いの追跡を行う術者はいるからね。結界術は光魔法が最上級だけど、どんな属性でも結界は張れるから」
「それはそうですけど」
「キャシーちゃんは頑張ってるよ。鍛えたいっていうならこっちも応えるけどね」
「はい」
私とサミュエル先生が話していると、下級生の子達がお皿を持ってきた。
「フェルナー先輩、これ、疲労回復のガレットです」
「食べてください」
後輩達の後ろでは、薬草研究会のみんなが固唾を飲んで様子を見ていた。
「私に?」
「はい」
「先輩、お疲れぎみですから」
「だから元気になってもらいたくて」
「ふふっ、ありがとう。いただくわ」
貰ったガレットは、4つ折になっていて、間にジャムが塗ってあった。
「美味しそうだね」
「美味しいですよ。ポーションの仄かな苦味がマーマレードと合っていて、とても美味しいです」
このガレット、そば粉は使っているけど、小麦粉も半分以上使ってあると思う。日本でいうクレープとガレットの中間かな?
「間に挟んであるのはマーマレードかな?」
「はい。大好きなジャムです」
「そういえば柑橘類が好きって言ってたっけ」
「昨年の誕生日に柑橘類がたくさん届いたんですよね。送り主は分からないけど」
「送り主が分からないって、危険だよ?」
「お義父様とローレンス様は、送り主をご存じのようだったんですけど、教えていただけませんでした」
「ふぅん」
サミュエル先生が意味ありげに頷いた。
「先生、何か知っておられます?」
「いいや?別に?」
知ってるんですね?しかもこの誤魔化し方は面白がってますね?聞き返してやらないけど。
「キャシーちゃん、気にならないの?」
「気にはなりますよ?でも教えてくれる気なら、お義父様もローレンス様も教えてくださってますから。そうしないって事は必要無いって思っているんでしょう」
気になるけどね。楽しませる為に聞いてなんかあげません。
「ふぅん」
面白くなさそうな顔だなぁ。
「先生、お聞きしたいんですけど、聖国……」
そこまで言った時に、ガレットを口に突っ込まれた。
「ふぁにふりゅんれすかぁ?」
「軽々しく口にしないでよ。まだ秘密事項なんだよ?」
むぐむぐごっくんとガレットを飲み込んで、ついでに果実水を飲んで、口を開く。
「だからってガレットを突っ込まなくても」
「ごめんごめん。手近にあったからさ」
「レディの口に突っ込まないでください」
「ここでバレたら大騒ぎだと思うけど?それでも良かった?」
「それなら後でお時間をください」
「良いよ。マリアも呼んでおくね」
「お願いします」
初等部の時には許されていたけど、中等部になるとたとえ教師だとしても密室で2人きりになると良い顔をされない。5学年生はギリギリオッケーだったかな?それでもうるさ方の先生には苦言を呈されたけど。
薬草研究会が終わって、マリアさんが来てくれた。
「何が聞きたいの?」
「聖国行きにあたって、私に何か準備は要りますか?」
「要らないよ。国として準備するし。でもそうだね。卒業したら可及的速やかに婚姻式なんだよね?」
「はい」
必ずスタヴィリス国に帰ってこられるように。それには婚約者じゃ弱いかもしれない。だから婚姻してしまう事にした。ローレンス様にはこんな理由でって、申し訳なく思うけれど、ローレンス様も賛同してくれた。次期フェルナー家当主を帰国させないなんてあり得ないだろうし、絶対にキャシーも一緒に帰るからね、って言ってくれた。
「滞在はどの位ですか?」
「聖人、聖女の任命だったら早くて1ヶ月。任命の儀式に10日。その後儀礼的な護衛聖騎士の選出があって、その誓願式に10日。誓願を立てた護衛聖騎士と一緒にパレードをして帰国かな?」
「パレード?」
「ケーソンボガン聖国の神殿のある、中心部のヴェルッテリアを一周するんだよ。オープンタイプの馬車に乗って」
「目立つじゃないですか」
「お披露目の意味合いが強いからね」
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