3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 5学年生

友人の心配

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「別に謝っていただかなくても。何かの意図は感じましたが、それが何かは分かっておりませんし」

「信用出来なくなった?」

「そこまで怒ってはおりません。信用を勝ち取りたければ、もしくは信頼を勝ち取りたければ、真摯な態度が必要になってきますわよ?」

「私は紳士じゃない?」

「先生は紳士でいらっしゃいます。そうではなく真面目に一生懸命に、という意味の方ですわ。分かっておられるでしょうけど」

「キャシーちゃんはいつでも真摯な態度だよね?」

 真摯な態度?意味は通じているけど。

「そうあるように心掛けておりますから」

「そういう所が人タラシに通じるんだよね?」

「人タラシ……」

 タラシって「人をだます事」や「人をだます人」という意味だよね?先生は「多くの人をとりこにしてしまう人」という意味で言ったんだろうけど、本来は悪い意味なんだよね。

「あれ?キャシーちゃん?」

「タラシってあまり良い意味ではないですわよね?」

「そうだね。でもみんなに好かれるって意味だったんだけど」

「そのような意味がある事も存じております」

「キャシーちゃんは優しいし人の為に一生懸命でしょ?だから人を虜にしちゃうんだよ。これは天性の物だからね。羨ましいよ。私はそういうタイプじゃないから」

「そうでしょうか?先生は悪いように見せる時もありますけれど、本当はお優しいですわよね?人も物事もよく見ていらっしゃいますし」

「キャシーちゃんは人を褒めるのも上手いんだよね」

「事実ですから」

 えぇっと、何の話をしてたんだっけ?

「キャスリーン様、そろそろ……」

「そうですわね。先生、申し訳ございません。少し手芸倶楽部に行ってまいります」

「手芸倶楽部?」

「正確には手芸刺繍倶楽部ですわね。教えを請うておりまして」

「あぁ、苦手だって言っていたっけ」

「はい。失礼いたします」

 サミュエル先生に挨拶をして部屋を出る。

 手芸刺繍倶楽部は手芸倶楽部と刺繍倶楽部から一部の生徒が離脱し、新たに立ち上げた倶楽部だ。離脱といってもクーデター反乱を起こしたとかではなくて、「刺繍もやってみたい」という手芸倶楽部の生徒と「ちょっとした小物も作ってみたい」という刺繍倶楽部の生徒が集まっていたら、お互いの部長から「好きにしなさい」と突き放されたらしい。「好きにしなさい」と突き放した部長達だけど、心配で様子を見に行ってるんだと、それぞれの所属員から教えてもらった。

「キャスリーン様、こちらですわ」

 ガブリエラ様が気付いてくれた。ガブリエラ様は薬草研究会の部長だけど、特別参加している。ロゼットリボン勲章を作るんだって。個人でも作れるけど、手芸倶楽部の方がリボンの種類が豊富なんだと言っていた。

「お待たせしました」

 この場にシェーン様はいない。女性ばかりだし芸術祭の時から知っていて、万が一も無いだろうと遠慮していただいた。

「そうですわ。フェルナー様、このレース編み、ご存知?」

 総レースの大きめの肩掛けを見せられた。背中部分に大きなギプソフィラカスミソウがレースで編まれている。ギプソフィラ カスミソウの周りは楕円形の飾り編みがなされていて、まるで額縁のようだ。

「スゴい……」

「王都の教会バザーでお姉様が見つけられたようですわ。タイトルが付いていて『光の聖女様』というんですって」

「……」

 もうね。何を言ったら良いのか分かんない。教会のバザーでもタイトルが付いている作品は、たまに出る。そういう作品は貴族が買っていく事が多い。実用的に使わず装飾用だったりするけれど、たいていは良い値が付いている。たまにオークション形式になったりもするけどね。

「売っていたのは男の子で、『光の聖女様に捧げたいから、腕を磨いている』と言っていたそうですわ」

 ユリシーズ君?え?このレース編みをひとりで?ひとり、だよね?

 刺繍部員に刺繍を教えてもらいながら、考えていた。

「キャスリーン様、集中出来ないようでしたら、休憩なさっては?なんだかずいぶん独創的な図柄になっておりましてよ?」

 突然肩をガブリエラ様に揺すられて、ハッとした。

「え?あ、ごめんなさい。あぁ、どうしてこんな色を」

「それ、どなたかにプレゼントされますの?」

「考えておりませんでした」

「あら……」

 刺繍していたはずのナーキサス水仙は、みるも無惨に崩れていた。しかも氷の色をと青系の糸を選んでいたのに、なぜかピンクとか黄色とか混ざっている。教えてくれていた刺繍倶楽部員によると、ピンクの糸を選んで刺し出したそうだ。迷いなくって……。しかも声をかけても答えがなく、仕方なくガブリエラ様を呼んだらしい。

「悩み事でもございますの?」

「特には?先程のレース編みを見て、少し考えてはおりましたが」

 教えてくれていた刺繍部員に礼を言って、少しガブリエラ様と話をする。私は刺繍を解きながらだけど。

「キャスリーン様、お疲れでは?刺繍に興味を持ってくださるのは喜ばしい事ですけれど、ご無理はいけませんわ」

 私は無理をしているつもりはない。でも無理をしているように見えるのかな?

「無理をしているように見えますか?」

「無理をしているというよりも、余裕がないと申しますか」

「余裕が無い……」

「医師資格取得の特別講座もございますのでしょう?寮ではいつも勉強されているではありませんか。皆、心配しておりますのよ?」

 ガブリエラ様の言葉が、静かに染みていった。

「ありがとうございます」

「今日はお休みなさいませ?ね」

「護衛の方をお呼びしてまいりましたわ。ゆっくりされた方がおよろしいわ」

 シェーン様が引っ張ってこられた。無抵抗で引っ張られるシェーン様に思わず笑ってしまった。

「キャスリーン様、まいりましょう」

「シェーン様、連れてこられましたの?」

 跪いて差し出された手に、自分の手を延ばす。そっと指先に口付けられた。周りからきゃーっと声が上がる。

 立ち上がると自然に腕に手を絡ませられる。

「護衛の方はエスコートに慣れておられますの?」

 ガブリエラ様が聞いた。

「必要な事でしたので習得いたしました」

 素っ気なくシェーン様が答える。

「それでは皆様、失礼いたします」

 正直にいうとこの場を離れても解決にはならない。原因は分かってる。同時進行せざるを得ない医師資格取得の特別講座参加と、リーサさんの容態の心配と、ユリシーズ君が無理してないかの心配と、後は私が関われない諸々の心配事。

 その中のひとつがシェーン様の事なんだけど。どう考えても護衛の距離じゃないよね?そもそも護衛はエスコートはしないんじゃ?

「どうかなさいましたか?」

「いいえ。聖国行きとそこでの事を考えておりました」

 そう。聖国行きも時間が迫ってきている。卒業後すぐに、という事だし、それまでにする事をしておかないと。

「キャスリーン様……。いえ、ご無理だけはなさいませんよう」

 何を言いかけたの?聞けないまま寮に着いた。寮母先生に挨拶をして、私にしては早い帰寮に驚かれながらも、学習室の利用許可をもらう。許可をもらわなくても使える学習室だけど、言っておけば何かあった時に寮母先生が探しやすい。

 1度部屋に戻って勉強道具を持って、学習室に行く。学習室には個室というか衝立で仕切られたひとり学習用のスペースとオープンな大机のスペースがある。私が今回使用するのはひとり学習用のスペース。

 医師資格取得の為には覚えないといけない事が山のようにある。私は前世の知識で多少楽だけど、それでも覚える事は多い。

 その内帰ってきたリリス様も一緒になって勉強を教え合って過ごした。当然、ガブリエラ様には休めと言ったのに、と叱られてしまった。






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