3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 5学年生

王宮でのお茶会 ~事情説明~

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「マルムグヴィスト嬢、いいかな?今回はマルムグヴィスト嬢の紅茶に毒が入っていた」

 そのまま説明しちゃうの?

「そうですか。犯人は?」

「まだ判明していない。紅茶を淹れた侍女はシャスマネーの人間だった。捕らえたけどね」

「彼女ですか」

 ん?知り合い?

「落ち着いてるね」

「まぁ、今回で4回目ですから。慣れる事はありませんけど、スタヴィリス国に迷惑がかかるな、と。申し訳ありません」

 4回目!?

「父の財産目当てですよ。私が居なくなれば、自動的にあの人達の取り分が増えますから」

「リーサさん」

「キャスリーンさん、そんな顔しないで?私は不幸なんかじゃないの。心配してくれる友人がいて、こうやって受け入れてくれるみんなも居る」

「マルムグヴィスト嬢の受け入れは、ほぼ決定してるからね」

「先生?」

「あっちで話すよ」

 リーサさんの受け入れって、亡命とかだろうか?

「もう少し眠った方がいいね。疲れているだろうし」

 リーサさんにそう言って、サミュエル先生と一緒に部屋を出た。

 元の部屋に戻って、全員に事情が説明された。

「マルムグヴィスト嬢だけど、健康状態に異状は無かった。もう安心だよ。後はこちらに任せてほしい。詳しくは話せないけどマルムグヴィスト嬢はシャスマネー国にいる時から命を狙われていてね。今回のお茶会で毒を入れられたのは、こちらを信用させない為だろうね」

「そんなっ。じゃあ合流してから具合が悪そうだったのって……」

「それは分からないよ。たとえ毒物によるものだとしても、キャシーちゃんが全て解毒したから」

 みんなの目が私を向いた。ラッセル様は面白そうに、セシルさんは感謝するように、ジョーダンさんは信じられないというように、レオナルド様は……、なんだろう?ちょっと自慢げで、ものすごく微笑ましいって思われてる気がする。

「マルムグヴィスト嬢の身柄はスタヴィリスが保護する」

「ご家族には?」

「お父上からの要望ですよ、ラッセル殿」

「それなら安心だね。犯人は?」

「紅茶を淹れた侍女は捕らえて、これから尋問です。専門の尋問官に任せています」

「それって……」

「当主が登城しているからね」

 まさかアヴァレーツィオが来てるの?ちょっとひきつってしまったのは、許してほしい。

「フェルナー嬢?どうした?」

 目敏く私の感情に気付いたらしいレオナルド様に、聞かれてしまった。膝を床に付いて私を覗き込む。

 私とアヴァレーツィオの関係は知られていない。唯一知っているのはラッセル様だけ。ラッセル様は何の反応も見せていなかった。

「いいえ。何でもございませんわ」

「しかし……」

「レオナルド様、何でもございませんの」

 重ねて言うと引き下がってくれた。

 今日はこれで終了となった。セシルさんは王宮に泊まるんだって。スタヴィリス国からの招待という形だから。ラッセル様はすでに教会の宿泊施設を予約していて、ジョーダンさんもそちらに泊まるらしい。レオナルド様も同様。私はすぐに学院に戻らないといけない。

「キャシーちゃん、お茶会で何かあったと聞いたけど?大丈夫だったの?」

 帰りの馬車の中で、お義母様に聞かれた。お義母様は王妃様や王子妃様達と、お茶会という名の情報交換をしていたらしい。

「えぇ、お義母様」

「旦那様のお帰りが遅くなったのと関係はある?」

「どうでしょう。あるのでしょうが、わたくしには……」

「そうね。でも、キャシーちゃんに何もなくて良かったわ。楽しかった?」

「はい。お知り合いになれた方々も良い方ばかりでした」

「それなら良かったわ」

 馬車は学院に向かっている。身一つで帰ってきていたから特に忘れ物もない。

 心残りはローレンス様に挨拶出来なかった事かな?

 寮に着いて、寮母先生に挨拶をして、部屋に入る。ひとりになってから改めてマッケンスタイン様の調査報告書レポートを読み直した。


 [リーサ・マルムグヴィスト]
  シャスマネー国バルクライド・マルムグヴィストとイナ・マルムグヴィストが2子。現在23歳
 前世覚醒は13歳。
 母親のイナ・マルムグヴィストが13歳の時に無くなった事がきっかけと思われる。
 バルクライド・マルムグヴィストがイナ・マルムグヴィストの死後7年で、知人の紹介で再婚。継母となったエレナ・マルムグヴィストとは折り合いが悪く、姉、ケイナ・マルムグヴィストの後、身体的経済的虐待を受けていたとされる。(証言はあるものの確証は取れず)


 他にも細々と書いてあるけれど、読むのが嫌になってきた。だいたい父親は何をやってたの?気付かない訳がないよね?

 嫌になりながらも読み進めると、その頃マルムグヴィスト博士はシャスマネー国の国立魔術機関に招聘されており、ほぼ家に帰れていなかったとあった。ごめんなさい、マルムグヴィスト博士。一応読んだけど頭に入ってませんでした。勝手に「何をやってたの?」とか罵ってごめんなさい。

 リーサさんの毒物混入事件、違うわね、リーサさんは殺されかけたのだから、毒殺未遂事件だわ。実際には救命出来たけど、CPA心配停止状態に陥ったのは事実だ。CPA心配停止状態からの蘇生の場合、 現在の日本の状況では、病院の外でこの心肺機能停止が起こると、歩いて病院を退院して社会復帰される患者さんは数%前後にすぎない。リーサさんは元気に見えたけど状態はどうなんだろう?サミュエル先生に聞いてみようか。でも、学院に戻ってきてくれるのは、いつになるのかしら。


 翌日、寮から出ると、当然のようにシェーン様が待っていてくれた。

「シェーン様、おはようございます」

「おはようございます、キャスリーン様」

「サミュエル先生はもう学院に、戻っていらっしゃったのでしょうか?」

「いいえ。サミュエル様はしばらくマルムグヴィスト嬢の治療に専念されるとの事です」

「やはり後遺症が?」

「そうではなく、関係者の洗い出しと後は心のケアだと仰られて。何かご用でしたか?」

「リーサさんの状態について聞こうかと。犯人は捕まったんですか?」

「昨夜からサン=コーム外科医が、取り調べを行っております」

「そう、ですか」

 サン=コーム外科医の取り調べは1度見ただけだ。先生曰く、あの時は調だったらしいけど、それでも見ていて苦しかった。

「キャスリーン様、大丈夫ですか?申し訳ございません」

わたくしが聞いたのですから。シェーン様はお気になさらないでください」

 少し先に私よりも早く出た初等部集団を見つけた。友達に囲まれたエマちゃんもいる。眩しい笑顔で笑っている。

「エマちゃんももう安心でしょうか?」

「そうですね。密かに護衛の者も付けております。公表は必要に迫られた時のみにするそうですよ」

「そうですの?」

「ご両親と話し合って決められたとお聞きしました。歌唱隊の活動は続けるそうです。キャスリーン様がお忙しそうでしたので歌唱隊の皆と話し合いを持たれたと」

 そういえば歌唱隊の何人かから「無理はしないでくださいね。歌唱隊は問題ありません」って報告受けたっけ。

わたくし、代表者ですのに駄目ですわね」

「お忙しかったのは、キャスリーン様の所為せいでは無かったのでは?」

「そうなんですけど、でも……」

「あまりお気に病まない方が……」

「分かっているんですけどね」

 個人的に代表者に祭り上げられて、嫌々だと思ってたのに実は張り切っちゃってたって気付いたっていうか、代表者っぽい事が出来てない気がする。私ってこんな人間だったっけ?

「キャスリーン様は、責任感が強くていらっしゃいますから」

 責任感、なのかなぁ?

 教室に着くと、クラスメート達になんだか気遣わしげな目で見られた。

「フェルナー嬢、騒ぎに巻き込まれたって聞いたけど」

「お気遣い、ありがとうございます、ファランディス様。えぇ。巻き込まれましたけれど」

 どうして知っているの?








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