3歳で捨てられた件

玲羅

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学院中等部 5学年生

ローレンス様とフェルナー領都散策

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 フェルナー城に着いて少ししたら、お義母様が到着したと知らせがあった。フランとミレーナにドレスと髪を直してもらって、お義母様を出迎える。

「おかえりなさいませ、奥様」

 フェルナー城の使用人達の声に続いて、ローレンス様と一緒に進み出た。

「お義母様、お疲れさまでした」

「キャシーちゃん、会えなくて寂しかったわ」

 恒例となったお義母様のハグを引き剥がすローレンス様。

「ローレンスったら。相変わらずねぇ」

 ご自分の部屋でドレスを着替えたお義母様は、私を誘って中庭に面したテラスに出た。小さなテーブルと藤の椅子が用意されていた。

 中庭にはエーデルワイスペレシアが咲いていた。エーデルワイスといっても白い星形の花ではない。紫色の小さな花だ。夏の暑さの中この花が咲いていると、涼しい気持ちになれる気がする。

 お茶とドラジェが運ばれてきた。ドラジェはアーモンドを砂糖ペーストでコーティングしたものだ。パステルカラーで可愛い。

「キャシーちゃん、教会に行ってきたのでしょう?」

「はい。グエル神父様にお会いしました。ヨハン神父様のお話を少し伺いました」

「そう。辛くはなかったかしら?」

「教会には特に思い出も無いですし。薔薇窓の綺麗なバシリカ様式の教会だなとしか」

「バシリカ様式?」

わたくしも詳しくはないのですが、手前と奥に分けられたフェルナー領の教会のような建物を指すそうです」

「そうなのね。アマンダルにはまた違った教会があるのよ。元々あちらが領都だったからアマンダルの教会も大きいわよ」

「そうなんですか?」

 元々はアマンダルが領都だったんだ。遷都したって事?遷都って言わないのかな?こういう場合。単に移転で良いのかしら?


 お義母様と話をした翌日、ローレンス様と一緒に領都を散策した。馬車に乗ってだけどね。元セジャン家が経営していたオルナートゥスで買い物をするらしい。オルナートゥスは宝飾品など高級な物が売っているエリアと、庶民的な雑貨や生活必需品が売っているエリアに分けられていた。

「大きいのですね」

「元々豪商だったからね。オルナートゥスの今の経営は、副会頭だった人物だよ」

「副会頭」

 ってどれだけ手広くやっていたんだろう?

 私とローレンス様がオルナートゥスに着くと、ロマンスグレーのイケじい様が出迎えてくれた。

「ようこそいらっしゃいました、ローレンス様、キャスリーン様」

「今日はよろしく」

 ローレンス様が鷹揚に挨拶をする。私がカーツィーをしようとすると、ローレンス様に止められた。

「彼が今のオルナートゥスの会頭だよ」

「よろしくお願いいたします」

 挨拶をして軽く頭を下げると、会頭さんは微笑んだ。

「まずは何を扱っているかのご説明をいたしましょう」

 魔道昇降機エレベーターで上階に上がっていく。オルナートゥスは4階建て。その内の3階までが店舗で最上階の4階は従業員の為の更衣室や休憩室、娯楽室、蔵書庫があるらしい。応接室と商談室と会議室も4階にある。

 応接室でそう説明を受けて、疑問に思った事を聞いてみた。

「会頭様のお部屋は?無いのですか?」

「ございますよ、地下に」

「地下ですか?」

 意外に思って聞くと、説明してくれた。セジャン家の時代は最上階にあったそうだ。それも1フロアの半分を使っていたらしい。従業員の為の設備はすべて地下。会頭さんの部屋も地下だったそうだ。

「え?1フロアってかなり広いんじゃ?半分にしても。半分って後の半分はいったい何に使っていたの?」

 思わず素で聞いてしまった。会頭さんは微笑んだまま軽く頷いた。

「そう思われますよね。奥様の部屋とのお部屋でした」

「次男の?長男ではなく?」

「次男様です。長男様はそのような部屋は不要と仰られて、地下にごく狭いお部屋を所有しておられました」

 思わず絶句する。アレクお兄さんって冷遇されてたの?所有って事は冷遇じゃない?

「続いて各フロアの説明をさせていただきます」

 会頭さんがフロアガイドのような紙を渡してくれた。宝飾品にレースや様々な生地、ドレス工房もあった。ただしプレタポルテ既製品だから高位貴族は利用しないらしい。

「侯爵領にあるお店なのに、プレタポルテ既製品では少し惜しいですね。ドレス工房を独立させれば、下位貴族も買いやすくなるのに」

「そうしますと生地などの使い道が、少なくなってしまうのですよ」

「それじゃあここで作ってそのお店に運ぶとか?運送費がかかるか。パーツを作ってあちらで組み立てる?」

「お嬢様?」

「コストに似合わないかしら?支店を作っても運送費は避けられないし。レティキュール手提げバッグとかの専門店とかも良いかも」

「専門店ですか?」

「はい?」

「キャシー、また入り込んでいたのかい?」

「申し訳ございません」

「いいえ。大変有意義な意見を聞かせていただきました」

 考えを口に出していたようで、顔が熱くなる。

「しかしながら、ドレスではなく小物類の専門店ですか」

「男爵位や子爵位のお友達が居るのですけれど、ドレスはなんとかなっても髪飾りや装飾品に手が回らないと聞いた事がございまして。安い小物類って売っていないと仰っておられましたので」

「なるほどなるほど。そういった専門店も有用だと」

「それから、レンタルもあると良いと思います」

「レンタル、ですか?」

「貸し出しですね。維持費用はかかりますけど小物でアレンジ出来たりすると、同じ物を使っているという感じは無くなると思います」

「ほぅほぅ。ドレスもレンタル出来ればダブルベネフィット一石二鳥ですな」

「セットにして少し割り引きするとか」

「ほぅほぅほぅ」

 会頭さんと話していると、会頭さんの秘書さんがお茶を出してくれた。

「ありがとうございます」

「お嬢様はアイデアをポンポン出されますが、どうしてそんなに考えられるのでしょう?」

わたくしは無責任な立場ですから。これを実際にとなると、人材確保やコストなど考えなければなりませんが、言うだけなら無責任に言えますから。気楽な立場ですからね。会頭様にはご苦労をお掛けしてしまうかもしれませんが」

「いやいや、画期的なアイデアです。会議にかけてみますよ」

「無責任に言っておいてなんですけど、無理はしないでくださいませね?」

「ハハハ。良いアイデアを聞かせていただいて、実現させなければオルナートゥスの名が泣きます。時間はかかるでしょうが必ず実現させますよ」

「楽しみにしています」

その後、店内を案内してもらった。特に目を引いたのは魔道具コーナー。身を守る為の魔法陣を組み込んだアクセサリーに、武器の威力を上げるアクセサリー。後者はアクセサリーといっても剣や魔道銃に付けるものだ。

ここで結界効果のあるブレスレットと、ローレンス様用の指輪を買った。ローレンス様が私にも指輪をと言ったけど、卒業してからと説得した。

結界効果のあるブレスレットは金属部分に小さな魔法陣が刻印されてあって、一応全身を守れる。オルナートゥスの宝飾品店の説明によると、3回は大丈夫だったそうだ。まぁ、私も結界は張れるしブレスレットは万が一のお守り程度って感じかな。

ここで目を引いたのが小型転送装置。手紙やちょっとした小物なら一瞬で相手に送れるとうたってある。

「これって……」

「通信局の許可は要るだろうね」

「ですよね」

その他諸々の手続き代行しますって書かれているけど、手数料は要るみたいだし、私の場合は寮に転送装置があるから不要だ。あれば便利だけどね。










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