3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 4学年生

卒業式

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 プレ社交会が終わると、どことなく弛緩した空気と浮わついた空気に学院中が支配されると感じる。毎年思っていたんだけど、今年は特に浮わついた空気が強い。

 薬草研究会でも卒業していく先輩方に送別会を行って、前途を祝福した。

 今年の送別会には、例の聖女様風衣装を着せられた。サミュエル先生とシェアラー先生とリーベルト先生がニコニコしながら「着てくれるよね?」って迫ってくるんだもの。断りきれなかった。シェアラー先生なんか泣き落とししてくるんだもの。「老い先短い老いぼれに、せめて一目だけでも」って。シェアラー先生は後20年はお元気そうなんだけど。20年どころか50年位はお元気でいてほしい。

 私が聖女様風衣装を着て会場のサロンに姿を見せたら、サロンがどよめいた。エスコートしてくれているサミュエル先生は満足そうにしていたけど、私は大変だった。

『聖女としての任命を受けたのか』とか、『その衣装はどうしたのか』とか。ガブリエラ様とお義兄様とアンバー様は事情を知っているから、3人ともニコニコニヤニヤしてたけど。

 もっとも、卒業後に聖国に行く事を知っているのは、サミュエル先生ブランジット公爵家と王家とフェルナー侯爵家だけ。フェルナー侯爵家もお義父様とローレンス様は知っているけど、ランベルトお義兄様はたぶん知らないと思う。お義母様は知っているかな?

 とにかく、聖女としての任命は受けていない事、この衣装は友人と知り合いが共同で作ってくれた事を説明すると、なんとか納得してもらえた。サミュエル先生だけは「あれ?」って顔をしていたけど。

 一昨年からの恒例となった腕相撲大会では、ランベルトお義兄様はシード枠というか、準々決勝からの参加にさせられていた。でもこれって、シード枠に有利な試合だよね。決勝戦では卒業していく先輩と勝負が付かなくて、最終的に大食い対決になっていた。サロンでスイーツを作ってくれていたカフェのシェフが久しぶりにたくさん作れて嬉しかったと言ってくれて、そこは良かったけど。ランベルトお義兄様と決勝を争った先輩と、有志数名は、その後屋外運動場に走りに行っちゃった。

「アンバー様、今更ながらあの兄で良いんですか?」

「何事にも一生懸命全力で取り組んで、カッコいいですわぁ」

 あ、良いんですね。脳筋気味ですけど。アンバー様がそれで良いなら私は何も言いません。



 卒業式の日は特段変わった事はなかった。粛々と式典は進んだし、その後の卒業記念パーティーの方が大変だった。

 この日に合わせてマダムリュシュランから私が頼んだ2部式ドレスが届いていて、簡単な着方の説明書が付いていた。ドレスは背中が編み上げになっているコルセットのようになったドレスで、その上に手触りの良い白っぽいモコモコのケープ。縁のフワフワの毛が可愛いケープを羽織るタイプだった。スカート部分はシフォン地を重ねた柔らかい印象の、Aライン。今年はアンバー様と色違いで仕立ててもらった。

 私は白と青のシフォン地を重ねて、アンバー様は青と黄色を重ねたスカートだ。私はローレンス様が居ないから、オーソドックスな汎用タイプだけど、アンバー様はランベルトお義兄様の瞳の色と自分の瞳の色で、これでもかって位婚約者同士だと主張している。

 アンバー様もランベルトお義兄様も気が付いていないみたいで、キャッキャとしている。

「フェルナー様、あのお2人ってもしかして?」

「はい。正式発表はこの夏になるかと。それまでは内密にお願い致します」

 ランベルトお義兄様とアンバー様の同級生の先輩に聞かれたから、こっそり教えておいた。やっぱり気付く人は気付くよね。

「正式発表はこの夏ですか?」

「高等部に進んだタイミングでもと、お義父様とアンバー様のお父上様も仰ってくださったのですけれど」

「うふふ。分かりましたわ。その時までは内密にしておきます」

 内密になんて言っても、カリギュラ効果で誰かには言いたくなるだろうな。あの先輩が噂好きでない事を祈る。

 卒業記念パーティーが始まった。私とアンバー様のケープは目立つらしく、何人かが聞きに来た。

「フェルナー嬢、そのケープってもしかして……」

「獣毛ですわ。とても暖かいんですのよ」

「獣毛ですって?そのような下品な……」

「あら、下品ですか?触ってみてくださいます?とても手触りが良いんですの。絹とはまた違った魅力ですわね」

「あ、あら?柔らかくてフワフワで気持ちいいですわね。これはどちらの?」

「マダムリュシュランの作品です。獣毛はノボリッチ伯爵領の物と伺っております」

「そうですのね」

 この会話を何度繰り返しただろう?たぶん20人には言ったと思う。

「キャスリーン様、大丈夫ですか?」

 私よりも明らかに疲れているのが分かるアンバー様が、お義兄様と一緒にやって来た。

わたくしよりも、アンバー様の方がお疲れのようですけど」

「このケープについてひっきりなしに聞かれてな。最後は逃げ出してきた」

わたくしもここまでとは思いませんでしたわ。この手触り、たぶんヤギさんだと思います」

「ヤギって、あのヤギ?」

「はい。あのメェェっと鳴くヤギさんですわ。前世のカシミヤという素材に似ていますもの」

「そのような素材があるのですのね」

「希少品でしょうけど。わたくしはノボリッチ伯爵から伺いました」

「ご本人から?でもあの方……」

「言いたい事は分かりますわ。当たらずとも遠からずと言っておきます」

 私が言ったとたんに周りから、「え?どっち?」という声が聞こえた。確定的な事は言うわけがないでしょ?私も確信持てないし、噂として拡散されたら嫌だもの。

「失礼いたします、フェルナー様。よく見ると、そのドレス……」

「はい。2部式ドレスです。一見そうは見えませんでしょう?正式な場所にはそぐいませんが、このような場ですもの。少し冒険してもよろしいのでは?とマダムリュシュランに提案してみまして、お義母様も卒業記念パーティーなら良いのではないかと許可をくださいました」

「このドレス、お気に入りですの。本当に楽ですのよ。コルセットは着用しておりませんけど、よく似た機能で苦しくないながら背筋が延びて姿勢もよく見えますし」

「まぁ、2部式ドレスにそのような利点が?」

「このドレスだけですわ。背中で調整出来ますのよ」

 人が集まりすぎている気がする。十重二十重とえはたえという表現がぴったりな位周りを取り囲まれている。

「皆様、せっかくの卒業記念パーティーですが、楽しまなくてもよろしいのですか?」

「「「「「こちらのお話の方が先ですわ」」」」」

 一斉に言われてその音量にびっくりする。

「でも、余興も中断してしまっておりますし。演者の方にも失礼ですわ」

「フェルナー様、後でお話をお聞かせくださいませね?エスクーア様もですわよ?」

 これは寮に帰ったら質疑応答大会かな?

「分かりましたわ。でも、エスクーア様はわたくしがお頼みしましたの。ご迷惑はかけたくはございませんわ」

「キャスリーン様、そのようなお心遣いは無用ですわ。わたくしも説明は受けておりますもの」

 少し伏し目がちに言うと、アンバー様が意を察したようで、気遣い無用と言ってくれた。周りは少しだけヒートダウンしたように感じる。

「フェルナー様、エスクーア様。少し興奮しすぎましたわ。フェルナー様の言う通り、今は卒業記念パーティーを楽しみましょう」

 卒業記念パーティーの主役である卒業生の先輩が言って、その場は収まった。

「驚きましたわ」

ガブリエラ様が言う。ガブリエラ様はずっと私の側にいて、人の波からイグニレス・ゲイツがずっと守っていた。どうでも良いけれどエスコートは必要ないのに、ずっとイチャイチャしてたのよね、この2人。





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