3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 4学年生

新学期

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「フェルナー領に?」

「来年には中等部だろう?そろそろ領民達に顔見せをしておきたくてね。領都だけでなくフェルナー領のいろんな所を回った方が良いんじゃないかと、父上とも話していたんだ」

「フェルナー領のいろんな所……。行きたいです。ローレンス様のお話に出てきたファラン湖や、アーモンドの木とかも見たいです。アーモンドの花の季節とは合いませんわよね?」

「そうだね。撮影石で撮影しようか?いつでも見られるように」

 この世界のアナパレイカメラは解像度がそこまで鮮明じゃない。少しぼやける感じではあるけれど、それでも利用者は満足らしい。機材は魔道具で高級品だし、焼き増しは出来ないけどね。撮影した画像は撮影石という水晶のような透明なキューブ状の石に記録される。台座にセットして、魔力を通せば3Dで画像が浮かび上がる、最先端なのか遅れているのか分からない代物だ。

 画像が鮮明でないからこそ、貴族の家には肖像画家がお抱えで居るし、貴族年鑑の画像は手書きの専門家がいる。図鑑のイラストは挿絵師が担当しているし、アナパレイカメラの用途は贅沢な観賞用のみだ。まだオフセット印刷は発明されていないらしい。私も言葉を知っているだけなんだけどね。

「それは嬉しいですけれど、その為にウィル爺を連れ回しますの?」

 ウィル爺はフェルナー家の馬丁だ。先代の頃からの使用人で、気性の荒い馬も、ウィル爺に任せて1ヶ月もすればおとなしく優秀な馬となる。そしてアナパレイカメラに興味を持った事から、撮影技師としても修行をした多才な人物変わり者だ。他にも撮影技師はいるんだけど、ローレンス様のお気に入りなんだよね。他の撮影技師とは気が合わないらしい。

カントリーハウスフェルナー領邸で宿泊するつもりだしね。連れ回して無理をさせる気もない」

 そう言ってローレンス様は立ち上がった。

「そろそろ寝る時間だね。おやすみ」

「おやすみなさいませ、ローレンス様」

 額にキスをおとして、ローレンス様が部屋を出た。私もその後に続く。

 自室に行くと、フランが就寝の準備を整えてくれていた。歯を磨いてお肌の手入れをしてもらってベッドに横になる。

 そういえばあの子はどうなっただろう?そんな事を考えながら、眠りに落ちた。

 ユリシーズ・トレジャー少年は、しばらくの間フェルナー家に留め置かれる事になった。ユリシーズ少年の言葉が真実かの調査の後、待遇が変わるらしい。

 私は夏季休暇の最後の2日を残して、後は救民院の奉仕で過ごした。リリス様も同様で、新学期の学院での再会を約束して別れた。

 新学期の前日、学院に馬車で送ってもらって寮に戻った。

「会いたかったですわ、キャスリーン様」

わたくしも。再びお会い出来て嬉しいですわ、ガブリエラ様」

 ローレンス様にも言われたけど、来年には中等部という事で、ガビーちゃんはじめクラスメートの間で口調を改める事を決めた。将来社交界に出た時にいろいろと差し障りがあると教わったからだ。

 中等部に上がると、寮もひとり部屋に変わる。同時に女性は社交界でのマナーや立ち居振舞い、初歩的な医療知識、薬草やポーション水剤の基礎、茶会の知識等を学ぶ。さすがに領地経営は学ばないけれど、女主人として家庭内の差配も基本だけ教えられる。

 基本だけというのは、本格的な物は家庭内で学ぶからだ。学院で基本を教えるのは、家令スチュワード家政婦長ハウスキーパーが居ない下級貴族の子女も通っているから。上級貴族と下級貴族ではいろいろな違いもある。男爵階級から伯爵階級への輿入れも無いとは限らないし、昇爵もある。その時に基本を知っているのと知らないのでは勝手が違ってくる。

 今はその準備期間。口調を直して侮られないように気を引き締めていかなければならない。上級貴族ほど足の引っ張りあいが顕著になってくるからね。下級貴族だからって足の引っ張りあいが無いとは言わないけど。



 新学期が始まって3週間が経った頃、ラッセル様からホリディ領に向かうと手紙が届いた。レオナルド様の所に行くらしい。その手紙にユリシーズ少年の事が書いてあった。

 ユリシーズ少年はやはり転生者ではなかったらしい。でも家を追い出されたのは本当で、理由はお祖父様の後を継いでアクセサリー職人になりたいと言ったから。ユリシーズ少年のお家はそこまで裕福じゃなくて、ご両親は反対だった。王都のフェルナー邸に来る前にご両親と喧嘩して、「言う事を聞けないなら出ていけ」と言われて飛び出しちゃったんだって。ご両親はものすごく心配していたらしく、フェルナー家が連絡したらあっという間に飛んできたと書いてあった。

 ラッセル様がホリディ領に向かうついでにユリシーズ少年とご家族を送り届ける事になったと、手紙は締め括られていた。

 この手紙はフェルナー家から直接届けられた訳じゃなく、民間の配達人によって届けられた。手紙には新学期が始まって15日後の日付が書いてあったから、今頃はユリシーズ少年とご家族はお家に帰っていると思う。

「キャスリーン様、どうなさいましたの?ずいぶん嬉しそうですわね」

 ミア・ブレイシー様に話しかけられた。この方は去年の冬季休暇前の一件があったにも関わらず、積極的に話しかけてきて、コミュニケーションをとろうとしている。私も踏み込みすぎなければ良いと思っているから、時には注意しながらも普通に会話をしている。それにどうもフェルナー家との繋がりが欲しそうなんだよね。

「そうですわね。夏季休暇中に知り合った方が無事にお家に戻られたとの報せでしたので。わたくしは少しお話をした程度ですが、やはり気になってしまっておりましたの」

「お家に戻られたと仰いますと、ご旅行で?」

「そうですわね。どうかなさいまして?」

 少し意地悪く言ってやると、黙ってしまった。

わたくしの……。いえ、申し訳ございません。なんでもございませんわ」

 そそくさと引き下がっていったミア・ブレイシー様を特に意識せず見送る。席に着いて、机に突っ伏していたミア様にご友人が話しかけていた。

 気にはなるけれど、私には手の出しようがない。相談されたわけでもないし、ミア様とはそこまで親しくないんだもの。

 授業後に医師資格取得特別講座にリリス様と向かうと、教室内にガウェイン・フィンチー様とガラハット・フィンチー様、フィオナ・イースデイル様とキディー・ジェント様が勢揃いしていた。席はガウェイン・フィンチー様とキディー・ジェント様が隣同士、ガラハット・フィンチー様とフィオナ・イースデイル様が隣同士で、手なんか繋いじゃったりして甘い雰囲気を漂わせている。本来のペアとは違うけれどお2組とも幸せそうだ。

「どうなさったのです?お2組とも」

「フィンチー兄弟の父親が認めたんだってさ。イースデル家とジェント家も異議は無いとの事で、丸く収まったらしい」

 ナレッジャー先輩が教えてくれた。いくぶんうんざり顔だったから、少し前からのようだ。4人が特別講座の教室に顔を出したのは、新学期が始まってから今日が初めてだしね。

「それはおめでとうございます」

「めでたいんだけどさ、学院が再開されてからあんな感じでさ。何というかもうね……」

「食傷気味ですか?」

 笑って言うと、ナレッジャー先輩がそれに食い付いた。誰かに聞いてほしかったんだと思う。4人の中等部でのイチャイチャぶりとか、フィンチー兄弟の惚気のろけ話の内容とか。聞いていただけだけど砂糖を吐きそうになる程の超甘口だった。

「キャスリーン様がローレンス様の事を話す時と、同じ感じですわねぇ」

 ん?リリス様、それはどういう意味ですか?私はそこまでじゃないですわよ?
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