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学院初等部 4学年生
夏期休暇前
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シェーン様が私の護衛に復帰したのは、ダニエル様に護衛を交代して3日目だった。何をしていたかは聞いていない。聞いても教えてくれなさそうだし。ただ、帰ってきた時に左腕に怪我をしていた。上腕の単純骨折と左手の小指の骨折。他にも小さな怪我がたくさん。授業後にサミュエル先生に呼ばれて付いていったら、サミュエル先生の部屋にその状態のシェーン様がいて、ダニエル様にニヤニヤと笑われていた。
「先生、治してもいいですか?」
「そうだね。治してあげなさい。シェーン、良いね?」
「キャスリーン様のお手を煩わせるなど……」
「ははっ、護衛失格だな」
「五月蝿い!!」
煽るダニエル様に怒りを露にして、シェーン様が怒鳴る。こんなに感情をむき出しにするシェーン様も珍しい。
「シェーン様、お手を失礼いたします」
シェーン様の手を取って治癒を発動する。
「キャスリーン様、申し訳ございません」
「お謝りにならないでくださいませ」
治癒魔法の淡い光が、シェーン様の全身を包む。でも、ダニエル様ってば、ご自身も以前、フェルナー家の護衛達と訓練して傷だらけになった時に、私が治癒して「フェルナー侯爵家のお嬢様の手を煩わせるなんて」って言っていたのに、忘れちゃったんだろうか。
「そういえばお話をうかがっておりませんでしたが、ダニエル様はお怪我はございませんの?」
「あーっと……。うん。無いんだよ」
「里にも光魔法使いは居るからね」
「あぁ、そういう……。ん?ということは、お怪我をなさったんですか?」
「当然です。そもそも慢心したこやつが悪いのです」
意趣返しだろうか。シェーン様が辛辣に言い放つ。
「ハンッ。おおかたあのジジィ辺りにやられたんだろ?その怪我。オレならそこまでやられる事はないね」
ジジィって誰だろう?
「それが慢心というのだ。正面切って挑んだ事すらない腰抜けが」
「無策で突っ込んでいく頭の足りないバカより、策を弄せる頭がある方がいいと思うけどな」
メンチの切りあいというんだろうか。前世のヤンキー君達がキスするんじゃないかって距離まで顔を近付けあっていたのを彷彿とさせる。それにどっちもどっちな気がする。この言葉だと小細工なしで突っ込むシェーン様と小細工ありきで突っ込むダニエル様って事よね?
「その辺にしておきなさい。キャシーちゃんが居るんだよ?」
サミュエル先生が笑いながら止めてくれたから口論は収まったけど、もう少し早く止めてほしかったです。その日はサミュエル先生に薬草研究会に送ってもらった。
次の日からの護衛はシェーン様とダニエル様の交代制となった。もうすぐ夏期休暇なんだけど、夏期休暇が終わったらどちらが護衛となるんだろう?
「キャスリーン様、夏期休暇には救民院に行かれますの?」
特別講座でリリス様に聞かれた。
「はい。課題が終わってからになりますが。いつも長期休暇には伺っておりますわ」
「救民院の奉仕には、何か条件がございますのでしょうか?」
「条件ですか?特にはございません。平民を見下さず、貴族である事を衒らかさず、真摯に対応していただければ、それがいちばんですわね。あぁ、おいでになるのでしたら多少なりとも動きやすいお洋服をお召しになってきてくださいませ」
「それは当然では?」
「当然でない方もいらっしゃるようなのですよ。奉仕実績が欲しい方にとって、救民院は都合が良いようで」
「都合が良い?」
「私にはよく分かりませんけれど。第4王子殿下が仰っておられました」
きっと夏期休暇にはローレンス様も帰ってきているだろう。1ヶ月の予定だったキプァ国訪問の一行はまだ帰ってきていない。フェルナー侯爵家からも何も言ってこないし、リジーちゃんも同様のようだ。状況が分からなくてひどくもどかしい。こういう時に情報ネットワークの重要性を感じる。アレはアレで取捨選択が大変なんだけど。
結局なんの情報も無いまま、夏期休暇を迎えた。通常の課題に加え、特別講座の課題もあるから大変だけど、それでもなるべく休暇前に課題を終わらせた。まだ数個残っているけど、それはタウンハウスに帰ってからするつもりだ。第2言語選択も迷ってるんだよね。海を挟んだケーソンボガン公国のソンガンボ語にしようか、ゴーウィリス国のさらに隣国、ヨハケーネ国以北で広く使われているヨケハ語にしようか。私としてはソンガンボ語に興味があるんだよね。ローレンス様はソンガンボ語を、ランベルトお義兄様はヨケハ語を第2言語として選んでいる。
「キャスリーン様、フェルナー様からはまだ連絡がございませんの?」
「えぇ。イザベラ様もお兄様からご連絡が無いそうで心配してらっしゃいますわ」
サミュエル先生に聞いたら何か分かるんだろうか?公爵家の人なんだし。でもこんな個人的な事を聞いて良いのかな?
悩んでいたら今日の当番のシェーン様に心配されてしまった。
「何かお困りですか?」
「え?」
「申し訳ございません。何かを思い悩んでいらっしゃるようでしたので」
「第3王子殿下のキプァ国訪問の、情報があまりにも入ってきませんので」
「サミュエル様にお聞きになっては?」
「でも、個人的な事ですし」
「良いのではないのでしょうか。婚約者のローレンス殿の情報もお知りになりたいのでしょう?」
「……その通りです」
シェーン様やダニエル様は、当然私の婚約の事は知っている。サミュエル先生に言われて長期休暇にはタウンハウスに起居しているし、その時にはローレンス様とのアレコレを見られている。お膝に乗っけられたり、つむじや頬にキスされたり、甘い言葉を囁かれたり。私は恥ずかしいんだけど、ローレンス様は平気なのよね。
「良いのではないですか?婚約者の安否を知りたいというのはごく自然な感情だと思いますよ」
「こんな個人的な事でも良いのでしょうか?」
「サミュエル様はお気になさらないと思いますよ」
シェーン様が優しく笑って言ってくれる。この頃シェーン様はこういった表情をする事が多い。最初の頃はほとんど表情が動かなくて、少し怖いと思った事もあったんだけど。
「お付き合い願えますか?」
「喜んで」
気取って腕を差し出された。クスッと笑ってその腕に手をかける。それを見ていたらしいランベルトお義兄様には笑われてしまったけど。
「キャシー、浮気か?」
「違います。分かってらっしゃるくせに」
「シェーンのそんな表情、はじめてだからさ。で?どこに行くんだ?」
「サミュエル先生の所へ」
「兄貴の情報か」
「はい。情報が入ってこなくて不安で」
「確かにな。予定通りにいかない事が多いけど、さすがにこうも予定が延びる事は珍しい」
お義兄様も一緒にサミュエル先生の所へ行くと、先生と一緒に居たダニエル様に笑われてしまった。
「これはフェルナー兄妹お揃いで」
「オレ……。私は付き添いですよ」
「そうなんだね。知りたいのはキプァ国訪問一行の情報かな?」
「はい。個人的な事で申し訳ございません」
「聞きにこないなと思っていたら、遠慮してたの?」
「……」
「ブランジット公爵家でも情報を集めているよ。今のところ分かっているのは、キプァ国の王女が訪問団の誰かを気に入ったからと、出国を引き留めているという情報だね」
「王女殿下が……」
「やっかいな事にならなきゃ良いけどね」
「嫌な事を仰らないでくださいませ」
「まぁ、今後も情報は集めるけどね。何か分かったら知らせるよ」
「お願いいたします」
「先生、治してもいいですか?」
「そうだね。治してあげなさい。シェーン、良いね?」
「キャスリーン様のお手を煩わせるなど……」
「ははっ、護衛失格だな」
「五月蝿い!!」
煽るダニエル様に怒りを露にして、シェーン様が怒鳴る。こんなに感情をむき出しにするシェーン様も珍しい。
「シェーン様、お手を失礼いたします」
シェーン様の手を取って治癒を発動する。
「キャスリーン様、申し訳ございません」
「お謝りにならないでくださいませ」
治癒魔法の淡い光が、シェーン様の全身を包む。でも、ダニエル様ってば、ご自身も以前、フェルナー家の護衛達と訓練して傷だらけになった時に、私が治癒して「フェルナー侯爵家のお嬢様の手を煩わせるなんて」って言っていたのに、忘れちゃったんだろうか。
「そういえばお話をうかがっておりませんでしたが、ダニエル様はお怪我はございませんの?」
「あーっと……。うん。無いんだよ」
「里にも光魔法使いは居るからね」
「あぁ、そういう……。ん?ということは、お怪我をなさったんですか?」
「当然です。そもそも慢心したこやつが悪いのです」
意趣返しだろうか。シェーン様が辛辣に言い放つ。
「ハンッ。おおかたあのジジィ辺りにやられたんだろ?その怪我。オレならそこまでやられる事はないね」
ジジィって誰だろう?
「それが慢心というのだ。正面切って挑んだ事すらない腰抜けが」
「無策で突っ込んでいく頭の足りないバカより、策を弄せる頭がある方がいいと思うけどな」
メンチの切りあいというんだろうか。前世のヤンキー君達がキスするんじゃないかって距離まで顔を近付けあっていたのを彷彿とさせる。それにどっちもどっちな気がする。この言葉だと小細工なしで突っ込むシェーン様と小細工ありきで突っ込むダニエル様って事よね?
「その辺にしておきなさい。キャシーちゃんが居るんだよ?」
サミュエル先生が笑いながら止めてくれたから口論は収まったけど、もう少し早く止めてほしかったです。その日はサミュエル先生に薬草研究会に送ってもらった。
次の日からの護衛はシェーン様とダニエル様の交代制となった。もうすぐ夏期休暇なんだけど、夏期休暇が終わったらどちらが護衛となるんだろう?
「キャスリーン様、夏期休暇には救民院に行かれますの?」
特別講座でリリス様に聞かれた。
「はい。課題が終わってからになりますが。いつも長期休暇には伺っておりますわ」
「救民院の奉仕には、何か条件がございますのでしょうか?」
「条件ですか?特にはございません。平民を見下さず、貴族である事を衒らかさず、真摯に対応していただければ、それがいちばんですわね。あぁ、おいでになるのでしたら多少なりとも動きやすいお洋服をお召しになってきてくださいませ」
「それは当然では?」
「当然でない方もいらっしゃるようなのですよ。奉仕実績が欲しい方にとって、救民院は都合が良いようで」
「都合が良い?」
「私にはよく分かりませんけれど。第4王子殿下が仰っておられました」
きっと夏期休暇にはローレンス様も帰ってきているだろう。1ヶ月の予定だったキプァ国訪問の一行はまだ帰ってきていない。フェルナー侯爵家からも何も言ってこないし、リジーちゃんも同様のようだ。状況が分からなくてひどくもどかしい。こういう時に情報ネットワークの重要性を感じる。アレはアレで取捨選択が大変なんだけど。
結局なんの情報も無いまま、夏期休暇を迎えた。通常の課題に加え、特別講座の課題もあるから大変だけど、それでもなるべく休暇前に課題を終わらせた。まだ数個残っているけど、それはタウンハウスに帰ってからするつもりだ。第2言語選択も迷ってるんだよね。海を挟んだケーソンボガン公国のソンガンボ語にしようか、ゴーウィリス国のさらに隣国、ヨハケーネ国以北で広く使われているヨケハ語にしようか。私としてはソンガンボ語に興味があるんだよね。ローレンス様はソンガンボ語を、ランベルトお義兄様はヨケハ語を第2言語として選んでいる。
「キャスリーン様、フェルナー様からはまだ連絡がございませんの?」
「えぇ。イザベラ様もお兄様からご連絡が無いそうで心配してらっしゃいますわ」
サミュエル先生に聞いたら何か分かるんだろうか?公爵家の人なんだし。でもこんな個人的な事を聞いて良いのかな?
悩んでいたら今日の当番のシェーン様に心配されてしまった。
「何かお困りですか?」
「え?」
「申し訳ございません。何かを思い悩んでいらっしゃるようでしたので」
「第3王子殿下のキプァ国訪問の、情報があまりにも入ってきませんので」
「サミュエル様にお聞きになっては?」
「でも、個人的な事ですし」
「良いのではないのでしょうか。婚約者のローレンス殿の情報もお知りになりたいのでしょう?」
「……その通りです」
シェーン様やダニエル様は、当然私の婚約の事は知っている。サミュエル先生に言われて長期休暇にはタウンハウスに起居しているし、その時にはローレンス様とのアレコレを見られている。お膝に乗っけられたり、つむじや頬にキスされたり、甘い言葉を囁かれたり。私は恥ずかしいんだけど、ローレンス様は平気なのよね。
「良いのではないですか?婚約者の安否を知りたいというのはごく自然な感情だと思いますよ」
「こんな個人的な事でも良いのでしょうか?」
「サミュエル様はお気になさらないと思いますよ」
シェーン様が優しく笑って言ってくれる。この頃シェーン様はこういった表情をする事が多い。最初の頃はほとんど表情が動かなくて、少し怖いと思った事もあったんだけど。
「お付き合い願えますか?」
「喜んで」
気取って腕を差し出された。クスッと笑ってその腕に手をかける。それを見ていたらしいランベルトお義兄様には笑われてしまったけど。
「キャシー、浮気か?」
「違います。分かってらっしゃるくせに」
「シェーンのそんな表情、はじめてだからさ。で?どこに行くんだ?」
「サミュエル先生の所へ」
「兄貴の情報か」
「はい。情報が入ってこなくて不安で」
「確かにな。予定通りにいかない事が多いけど、さすがにこうも予定が延びる事は珍しい」
お義兄様も一緒にサミュエル先生の所へ行くと、先生と一緒に居たダニエル様に笑われてしまった。
「これはフェルナー兄妹お揃いで」
「オレ……。私は付き添いですよ」
「そうなんだね。知りたいのはキプァ国訪問一行の情報かな?」
「はい。個人的な事で申し訳ございません」
「聞きにこないなと思っていたら、遠慮してたの?」
「……」
「ブランジット公爵家でも情報を集めているよ。今のところ分かっているのは、キプァ国の王女が訪問団の誰かを気に入ったからと、出国を引き留めているという情報だね」
「王女殿下が……」
「やっかいな事にならなきゃ良いけどね」
「嫌な事を仰らないでくださいませ」
「まぁ、今後も情報は集めるけどね。何か分かったら知らせるよ」
「お願いいたします」
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