3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 3学年生

プレ社交会のパートナー

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 ブレンダ様のお母様の栄養状態は、ものすごくゆっくりだけど、着実に回復していった。残念な事に私は冬季休暇が終わってしまって、完全回復には立ち会えなかった。代わりにララ様とローレンス様がマメに手紙で経過を知らせてくれた。

 それによると、ブレンダ様のお母様、チェルシーさんは20日後には怪我も癒え、体力も少しずつ戻ってきたのだそうだ。ブレンダ様とも対面を果たして抱き合って喜んでいたらしい。ブレンダ様は男爵家に引き取られたけれど男爵夫人に日々虐待されていたそうだ。それに気が付いたケネス・ハートラー様がこっそりと連れ出して、救民院に連れてきたのだそうだ。

 男爵家の思惑はブレンダ様をどこかの有力なに嫁がせて、男爵家に金を入れてもらう事だったそうだ。ハートラー男爵の浮気はなんと夫人の公認だったそうだ。公認のわりに虐待してたのね。

 ブレンダ様の話ではハートラー家に来たのは、ケネス様が冬季休暇で戻った1ヶ月前。ブレンダ様は今、12歳だけど学院には通っていない。商人に嫁がせる予定だったから通わせなくて良いと判断したらしい。お金が惜しかったという理由もあるそうだ。

 チェルシーさんを囲ったのは子供を産ませる為。もう1人も同様だったようで、子供が居なかったから最低限の生活の保証はされていたようだ。軟禁状態だったそうだけど。外から鍵をかけられていたらしいし。チェルシーさんも同様だ。

 ハートラー男爵は貴族院での取り調べで「誠意をもって誠実に付き合っていた」と供述したそうだけど、誠意って、誠実ってなんだろう?少なくともハートラー男爵のいう誠意、誠実と、世間一般の誠意、誠実はまったく違うと思う。

 ケネス様は今は寮に戻っているけれど、週末ごとに救民院に通っていると聞いた。ハートラー男爵の件は貴族社会でちょっとした騒ぎになったそうだ。これはお義父様からの手紙で知ったんだけど、ハートラー男爵の浮気のおかげで、第2夫人というか側室制度の撤廃に向けて弾みがついたらしい。

 ケネス様とは少しだけ話すようになった。主にブレンダ様からの手紙を届けてくれている。ブレンダ様ははじめ文字を書けなかった。ケネス様が教えて、たどたどしいながらも少しずつ書けるようになって、私への手紙が良い練習になっているようだ。読む方も同様で、今はセパオン寓話集のヴィリス語バージョンを読んでいるらしい。

 最初の手紙には、ひたすら名前が書いてあったんだよね。ブレンダ様の名前と私の名前がいくつも。

 そしてケネス様からの情報によると、お母様の介護をしながらララ様と一緒に軽症者の話相手をしているらしい。ララ様からも同様の内容の手紙が届いた。ブレンダ様は甲斐甲斐しくチェルシーさんを介護していて、チェルシーさんはブレンダ様を頼りながらも懸命にリハビリ中なんだそうだ。


「エスコートの申し出を受けていただき、感謝します、フェルナー嬢」

 プレ社交会の前に、ウェイン・ミッチェル伯爵令息とダンスを合わせた。ミッチェル様は父親に「光の聖女と懇意にしておけ」と命令されたらしく、最初は誘おうか悩んだそうだ。何故なら父親が嫌いだから。それでも申し込んでくれたのは異母姉の「父親はどうでも良いけど、自分の為にも繋がりは持っておいた方が良い」との言葉から。

 ミッチェル様のアンジェリカ様異母姉とは、学院で顔を合わせた。ウェイン様は後妻の子だそうで、アンジェリカ異母姉様との仲は良好。私に断られたら兄妹でペアになる予定だったそうだ。

「アンジェリカ様のパートナーはどうされますの?」

「異父母兄が同学年に居りますのよ。その方に誘われておりますの」

 異父母兄って他人じゃない?

「異父母兄って、文字通りなんですよ。ちょっと複雑なんですけど」

 ミッチェル姉弟の話によると、ミッチェル伯爵が最初に娶ったのはアンジェリカ様のお母様。アンジェリカ様のお母様はアンジェリカ様が2歳の時に亡くなり、ミッチェル伯爵はほぼ間をおかず後妻を招き入れた。それが異父母兄の母親。異父母兄は連れ子だったそうだ。その女性と別れた後ウェイン様のお母様とご結婚されたらしい。

「異父母兄の母親は父親の浮気癖に愛想を尽かしたんですよ。わたくしも呆れましたけど。ウェインの母親と異父母兄の母親は元々知り合いで、友人に手を出したと怒って出ていったのですけど」

「アンジェリカ様はお辛くございませんでしたの?」

「異父母兄のお母様も良い方だったのですよ。なさぬ仲のわたくしを可愛がってくださいましたし。ウェインが生まれてからも」

「えっと?」

「私は元々庶子だったのですよ」

 ニコニコとウェイン様は言うけれど、ちょっとついていけません。ようするに跡を継がせようと思っていた異父母兄を連れて2番目の奥様が出ていったから、浮気相手だったウェイン様のお母様を娶ったと。

 ちなみに異父母兄のお母様とは交流があるらしく、当然3人も交流していて仲は良好なんだそうだ。

 その異父母兄様とは、プレ社交会の3日前に対面した。アンジェリカ様がダンス練習の場に引っ張ってきたんだそうだ。

「ウェイン、また大物を釣り上げたな」

「やめてよね、兄さん。フェルナー嬢に失礼な事を言わないでよ」

「だって光の聖女様だぞ?しかもフェルナー侯爵家のご令嬢だ」

「フェルナー嬢の目の前で言うセリフじゃありませんでしてよ?」

「はじめまして。キャスリーン・フェルナーにございます」

「あ、あぁ。はじめまして。ジャネット・スタンリーと言います」

 異父母兄ジャネット様は、ウェイン様を可愛がっているのが丸分かりだ。アンジェリカ様もニコニコと見ている。

「スタンリーって、マダムスタンリーのお店の?」

 フェルナー家我が家とは取引はないけど、最近評判になっているプレタポルテ既製服のお店がマダムスタンリーの店だったはず。プレタポルテ既製服のお店だけどオートクチュール高級仕立服も請け負ってくれると評判で、お義母様の担当デザイナーさんも話題に出していた。

「そうですよ。ご存じでしたか」

「義母の担当デザイナーが話しておりました。丁寧な縫製と刺繍で、質も良いと。プレタポルテ既製服の方も安っぽくならず、下級貴族にも手の届くお値段でとても良心的だと」

「母に伝えますよ。光の聖女様が褒めていたとね」

「あら、褒めていたのはわたくしではなく、マダムリュシュランですわよ」

「マダムリュシュラン?って、あの?」

「はい。エーデルシュタインのマダムリュシュランです」

 エーデルシュタインは元々アクセサリーのお店だったそうだ。とある貴族がそのアクセサリーに合うドレスをと注文したのがきっかけで、オートクチュール高級仕立服の店に発展した。マダムリュシュランは現在のエーデルシュタインのナンバー2で、顧客にも上位貴族が多い。

「さすがフェルナー侯爵家のご令嬢」

わたくしには何の権力もありません。権力を持っているのは、お義父様と侯爵家ですわ」

「光の聖女様が何を言っておられるのです?」

 ミッチェル姉弟とスタンリー様に呆れられてしまった。

 ウェイン様とダンスを合わせ、一応スタンリー様とも合わさせてもらった。スタンリー様は背が高くて、少し踊りにくい。ローレンス様との最初のダンス練習を思い出してしまった。

「フェルナー嬢はダンスがお上手ですね」

「おそれいります」

「苦手な物って無かったんじゃなかった?」

「ありますよ。オリジナルの刺繍が苦手です」

「オリジナルの刺繍?」

「はい。お手本があると良いのですけれど、完全にオリジナルとなると」

「意外ですわね」





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