3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 3学年生

救民院での奉仕

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誕生日を終えて、久しぶりに救民院を訪れた。聖堂でお祈りしてから神官控室に行く。

「これは光の聖女様」

「リチャード様、名前で呼んでください」

2人で救民院に向かう。

「失礼いたしました。エドワード様とハイレント様は、先程招集がかけられまして、王宮に行かれました。ローレンス様も同行されております」

「王宮に?来る時にローレンス様と一緒だったのだけど」

「ご用事が終われば、戻ってこられますよ」

救民院ではララ様の元気な声が響いていた。

「ララ様は相変わらずですわね」

「『エリアントゥス太陽の花』ですからね」

「でも『エリアントゥス太陽の花』って、ララ様にぴったりですよね」

この国で太陽の花はサンベタリアを指す。ヒマワリに似た可愛らしい花だ。ヒマワリはもっと南の方の国、ゴーヴィリス国の国花だ。では、スタヴィリス国我が国の国花は?王家の花と呼ばれる百合。正確には青い百合。初代王妃が大切に育てていたらしい。青い百合は初代王妃以外は育てられていない事から、幻の百合と呼ばれている。国旗にデザインされているのもフルール・ド・リス百合の紋章で、地色はセレストブルー天空の青

「元気すぎる花ですけどね」

「そんな事を仰って。知りませんわよ?」

「キャスリーン様は何の花でしょうね。華やかで可愛らしくて大輪でありながら楚々としていて清らかで……。思い付きませんね」

「何ですか?その賛辞の羅列」

「キャスリーン様を表現した言葉ですが?」

「本人と乖離かいりしている気がします」

「そんな事はございませんけどね」

重症区画に着いた。今、重症区画に居る患者は2人らしい。ひとりは女の子。ご両親に虐待されていて、怪我が酷く本人も生きる気力がない為、治療しないでほしいと本人から懇願されたそうだ。腹違いの兄がいて、その兄が救民院に連れてきた。

「貴族なのですが、なんとか重症区画に入れました」

「なんとかって……」

その部屋の前には神官が2人立っていた。

「もしかして?」

「治療は必要ない。自分はここに居てはいけない。出ていく、と何度も脱走を図りました」

「それでこんな軟禁のような状態に?」

「食事も食べていただけないのです」

「分かりました。中に入れていただけますか?」

「今は兄が来ていますが」

許可を得て病室に入る。

「お加減はいかがですか?」

急に入ってきた女の子に、患者の女の子が目をぱちくりさせた。見た感じはそこまで悪くなさそうだ。ベッドに起き上がっているし、血色は悪いけど、生きる気力を喪っているようには見えない。

「なによアンタ」

貴族にしてははすっぱな言葉遣いだ。

「はじめまして。キャスリーン・フェルナーと申します」

「キャスリーン・フェルナー?」

先に口を開いたのは、兄の方。あれ?この声。

「ケネス・ハートラー男爵令息様?」

最近フランシス・エンヴィーオと一緒なのをよく見る、男爵令息だ。何度か話した事がある。

「え?何故ここに?」

「奉仕に参りました。長期休暇の時はなるべくお手伝いに来ております」

「あぁ、光魔法使いだから?」

「はい。妹様を診させていただいてもよろしいですか?」

「嫌よ」

拒否された。想定内だけど。

「それは何故ですか?」

「お兄様の前では嫌」

「当然出ていただきますわよ。女性の診察中に男性を入れるなどあり得ません。お医者様は別ですけど」

「でも……」

ボソボソと何かを言ったけど、聞き取れなかった。

「診せていただけますか?」

「お兄様の前では……」

「ハートラー様、少し外していただけますか?」

「いや、しかし」

「お身内とはいえ、女性の診察を見るというのはいささかマナー違反では?」

「ぐっ、しかし妹は」

「妹様ご本人が、治療を見られるのは嫌だと申されております」

「分かっ……た。今日は帰る」

「あ……」

妹様の口から、引き留めるような声が聞こえた。

「リチャード様、ハートラー様をしばらくお願いいたします」

「はい。ですね?」

「はい。お願いいたします」

「それではお兄様、こちらへ」

リチャード神官がハートラー様を連れていった。

「では、改めまして。キャスリーン・フェルナーです。お名前をお伺いしても?」

「ブレンダ・ハートラー」

「ブレンダ様とお呼びしても?」

「良いけど」

「お怪我をされたとか?」

「アイツ、ムチで打ちやがったんだ。おかげでうつ伏せで寝られやしない」

うつ伏せで寝られないという事は、背中か。

「お手を失礼いたします」

ブレンダ様の手を握って、治癒を行う。ブレンダ様の背中が淡く光った。同時に違和感が感じ取れた。

「ブレンダ様、食事を摂らないのではなく、摂れないのでは?」

「どうして……」

「内臓が弱っているのが分かります」

正確にいうと何らかの毒物の残渣が感じ取れる。種類は分からないけれど、毒物を飲まされたんだと思う。

「舌を見せていただけますか?」

戸惑いなくベェッと舌を出してくれた。思わず息を飲む。酷い。彼女の舌は爛れていた。これじゃ物は口に入れられないし、咀嚼は無理だろう。

「治しても?」

えぅ、あおえうおうん。治せるの?」

「もうよろしいですよ」

ブレンダ様ったら、舌を出しっぱなしなんだもの。

「治せます。それと体内の解毒も行います」

「お兄様に迷惑はかからない?」

「迷惑ですか?どのような?」

「治療費とか」

「救民院は治療費はかかりません。正確に言うと、未成年者からは治療費を徴収しません。もっと大人のお金に不自由していない方には、請求いたしますけどね」

「そんな人も来るの?」

「えぇ、たまにいらっしゃるのですよ。身分を笠に着て、若い女性に治療させろとか、若い男性を自分に付けろと仰る方が。その男性や女性より若い神官を付けますけど」

「それって……」

「治療はいたしますよ。光魔法を持っていなくても、薬湯を使えば事足りる方々が多いですから」

プッとブレンダ様が吹き出した。

「でも薬湯って、味が……」

「はい。最悪ですよね。そういった方々にお出しするのは特別に素材の味を生かした物です」

握った手を通じて解毒と舌の治療を行う。

「文句を言わずに飲むの?」

「救民院は公爵様が代表を務めてらっしゃいますから、その威をお借りします。調だと。公爵閣下には許可をいただいておりますよ」

「あはははは。それで飲むんだ。そのマズーい薬湯を」

「貴族の方でしたら公爵閣下には逆らえませんし、媚びたい気持ちもあるんでしょうね」

長く話しすぎたのか、リチャード神官が様子を見に来た。談笑している私達を見て、ホッとしたようにハートラー様の入室を求める。

「ブレンダ」

「兄ちゃん」

「ブレンダ、言葉遣い」

「あっ……と、お兄様」

「仲がよろしいのですね」

微笑んで言うと、ブレンダ様とハートラー様が顔を見合わせた。

「仲良いっていうか、なぁ?」

「お兄様だけだったからね。あの家でアタシを気にかけてくれたの」

「だってさ、見ていられないだろ?同じ位の年の女の子が皿を投げ付けられたり、蹴られたり殴られてんの」

「家を出ようとは思われなかったのですか?」

「あーっと……」

「奥様が母ちゃんを殺すって言ったから」

ブレンダ様の口からサラリと告げられた。

「そのお母様はいまどこに?」

「家に居る。家っていっても囲ってる家ね」

「リチャード様」

「心得ております」

リチャード神官が出ていった。ブレンダ様の母親を保護しに動いてくれたのだろう。

「お2人共、もうしばらくここでお過ごしください。お母様も必ずお連れします」

「え?でも怪我も治ったし……」

「光魔法使い命令ですよ。ブレンダ様のお身体は、まだ完全に健康体とは言えません。ですから、救民院での今しばらくの療養を命じます」

「滞在費とか」

「不要です。もしも気になるようでしたら、奉仕をお願いいたします」

「奉仕?」




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