3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 3学年生

相談と嫉妬

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「そんなの、キャシーが抱き付いてやれば一発じゃね?」

 ランベルトお義兄様にローレンス様のご機嫌の取り方を相談したら、アッサリと言われてしまった。

「抱き付きますの?」

「ほっぺにチューも追加してやったら、どんな事でも聞いてくれると思うけど?」

「ほっぺにって、小さい頃ならともかく、今は恥ずかしいです」

「婚約者なんだから、今さらだと思うけどな」

「お義兄様もアンバー様にしてもらっておられますの?」

「キャシーっ、おまっ、ゴホッ、ゲホッ」

「大丈夫ですか?」

 心配そうに背をさすったら、睨まれてしまった。メイジーが肩を震わせている。

「兄を揶揄からかうな」

「最初にわたくし揶揄からかったのはお義兄様ですわよ?」

「グッ……。キャシーに口で勝てたためしがない」

「だからって暴力に訴えてこないところが、お義兄様の良いところですわ」

「当たり前だ。キャシーみたいに細い、ましてや女性に手をあげるなんて出来るもんか」

「アンバー様は良いんですの?」

「剣を持っているあいつはな。剣を持っているアンバーになら、背中を預けられる」

「信頼なさっておられますのね」

「言い合いもけっこうするけどな」

「そうですの?」

「キャシーの前ではやらねぇよ。アンバーはキャシーの前では淑女で居たいんだとさ」

「アンバー様は普段から淑女ですわよ?」

「キャシーの前ではな」

 そうなの?首をかしげてしまった。

「グフッ」

 ん?なんだか変な音が……。

「ローレンス様、おかえりなさいませ」

「ただいま、キャシー。そんな可愛い仕草でどうしたの?」

「可愛い?」

「兄貴、おかえり。キャシーが相談したい事があるんだとさ。俺では相談に乗ってやれなくてさ。ここは婚約者の兄貴の出番だろ?」

「相談?何かあったのかい?」

 ランベルトお義兄様とは、玄関ホールに程近いフリースペースで話をしていた。ここは侯爵邸でパーティーが開かれた場合、お招きした方々の控室となる場所だ。普段はソファー位しか置いていない、ただただだだっ広い空間だ。

 では私達はここで何をしていたのか。話もしていたけどお義兄様はアンバー様に贈る指輪を決めていて、私はシャーマニー語の勉強をしていた。だってここってなんだか落ち着くんだもの。もちろんお義母様の許可は得てます。

「プレ社交会のパートナーの事なんですけれど」

「あぁ、もうすぐだからね」

「3人に申し込まれているんです」

「3人?」

「はい。同級生のウェイン・ミッチェル伯爵令息様、薬草研究会のフランシス・エンヴィーオ様、後は繋がりがないのですけれど、4学年生のアルベリク・リトルトン様の3名様です」

「リトルトンか。1番無いな」

「お義母様にお聞きしました。絶対にアヴァレーツィオ家の息がかかっていますわよね?」

「だろうな。後はミッチェル伯爵令息とエンヴィーオか。よくもまぁ、キャシーに声をかけられたもんだ」

「エンヴィーオ様はちゃんと反省していらっしゃいますわよ。今回の件も、周りのみんなからそそのかされたというか、囃し立てられて申し込みをせざるを得なかったというか。嫌ならはっきり断ってもらっても良いと仰っておられました」

「そう言うだろうね。それとミッチェル伯爵令息か。ミッチェル家はやめた方がいいかもしれないな」

「何故ですの?」

「代々女好きでな。今代も女性問題で何度か騒ぎを起こしていたはずだ。キャシーには近付いてほしくない」

「そんな事を言うと、誰にもお頼み出来ませんわよ?」

「キャシーのエスコートは、私がやりたい」

 それが本音ですか。

「プレ社交会は外部の人間は入れませんものね。絵師以外は」

「そうなのだよ。今までも何度か議題には上がったんだが、不用心だと却下されてきたそうだ」

「不用心って……?あぁ、そういう事ですか」

 つまりはその隙を狙って何者かが学院に侵入した場合、目的が何であれ学院は責任を取らなければならない。それを嫌っての事だと想像が付いた。

「でも、困りました」

「エンヴィーオが1番マシかな?」

「入場のエスコートだけですものね」

「ダンスはどうするんだ?」

「一応、何人かに申し込まれております。ただ、その方達には断っても構わないと言われております」

「断っても構わない?」

「同じ侯爵家の子息達ですので。ローレンス様の後輩ですわ。当然、わたくしとローレンス様の婚約も知っておられます」

「あ、キャシーにダンスを申し込みたいって言うのなら、何人もいるぞ。キャシーじゃなく俺に許可を求めてくるんだけどさ」

「お義兄様に?」

 ランベルトお義兄様が話の途中で口を挟んだ。どうやら指輪選びに飽きてきたらしい。

「初等部まで行くのは抵抗があるんじゃねぇ?目的が目的だし。フェルナー侯爵家の婚約者にエスコートやダンスの申し込みって、身の程知らずって感じだし」

「お義兄様にご迷惑はかかってませんか?」

「大丈夫だ。適当にあしらってるし、なによりキャシーに下手な奴を近付けたくねぇし」

「良い判断だ」

「それに兄貴を怒らせたくねぇし」

 ん?

「後はさ、初等部には一定の数、キャシーを守ってる奴らがいるんだよ。簡単には近付けさせねぇって気概を感じる」

「居たね。キャシーを守る会ってのが」

 いましたね。先生まで会員になっていると聞かされたっけ。

「ソイツらがさ、キャシーにたどり着くまでに、色々妨害してくるわけ。物を拾わされたり質問責めにされたり。大半はそこで諦めて帰るんだよ」

 そんな事が……。

「さっき、初等部にはって言ったけどさ、中等部でも同じなんだ。俺は兄だし別に妨害されねぇけど、たまに羨ましいってボソッと言われる」

「それはご迷惑を」

「迷惑はかかってねぇって。キャシーは気にしなくて良い」

「そう言っていただけると……」

「そうなると、エンヴィーオはやめておいた方がいいね。これまで以上にエンヴィーオが孤立する可能性がある」

「ですわよね」

 3人で話し合った結果、エスコートはウェイン・ミッチェル伯爵令息に頼む事にした。

「キャシーのエスコートは誰にも譲りたくないんだけどね」

「かといって、学院の規則は破れませんしね」

 ただいまローレンス様のお膝の上です。話し合いが終わったら、強制的に乗っけられました。ローレンス様は私の髪を撫でたり、髪にキスしたり、ほっぺにキスしたり、上機嫌だ。ランベルトお義兄様は呆れて見ているけど、こういう事をしろって言ったのはお義兄様ですよね?

「そういうの、俺がいない所でやってくんねぇ?」

「ミッチェルがまともなヤツだと良いんだけど」

 呆れた目のランベルトお義兄様を無視して、ローレンス様がつむじにキスを落としながら言う。

「見ている限りではまともですわよ?周囲の評判も良いですわね」

「それなら安心か。ミッチェル伯爵家に直接……」

「圧力とかやめてくださいね?」

「キャシーがそう言うのなら」

 ローレンス様が私の頭を撫でる。ランベルトお義兄様が砂を吐きそうな顔になっていた。気持ちは分かる。私も当事者だけどさ。

「ミッチェル伯爵令息の事は、こっちでも調べておく。キャシーは心配しなくて良いからね」

「はい」

 後でランベルトお義兄様に言われた。

「たぶんああなるだろうとは思ったけど。兄貴もキャシーの事になると止まらないからさ。キャシーには甘いし。あの時、兄貴もキャシーも俺の事なんて目に入ってなかっただろ?あーあ、これが後何年だ?」

「ごめんなさい、お義兄様」

「キャシーが謝らなくていいよ。想定内だって言っただろ?」

「うん」

「そういうわけで今、渡しておく。これはアンバーから。誕生日のプレゼントだってさ」

 青いベルベットの髪飾りを頂いた。

「可愛い。ありがとうございます。お礼は……」

「じゃあさ、アンバーに渡す指輪のデザイン、考えてくれない?ピンと来る物が無かったんだよな」

わたくしが選んでもよろしいの?」

「兄貴が仕事に行っている間、暇だろ?」

「まぁ、そうですけどね」
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