3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 3学年生

夏期休暇

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 あれからサミュエル先生にもきっちり釘を刺して、薬草研究会を終えた。

 夏期休暇に入ると、ランベルトお義兄様と一緒にタウンハウス王都の侯爵邸に帰る。校門前に待機していたフェルナー侯爵家の馬車から、誰かが飛び降りてきて驚いた。

「キャシー!!」

「ローレンス様?」

 ギュムッと抱き締められた。

「本物だ。会いたかった」

「ローレンス様、お迎えにきてくださいましたの?」

「一刻も早く会いたくてね」

 その様子をスペンサー・フィッツシモンズとトバイア・ポールソンが見ていたらしい。

「フェルナー嬢?そちらの方は?」

「婚約者ですわ。ローレンス様、ご紹介いたします。スペンサー・フィッツシモンズ様とトバイア・ポールソン様です」

「フィッツシモンズ?隣国のフィッツシモンズ伯爵家とポールソン伯爵家の次男と3男だな」

「ご存じなのですか?」

スタヴィリス国我が国とも縁付いているからね。フィッツシモンズ伯爵家に縁付いたのはハンフリー子爵家だったね」

「その通りです」

「フィッツシモンズ様、ポールソン様、こちらはわたくしの婚約者のローレンス・フェルナー様ですわ」

「フェルナー嬢と家名が同じ?」

「はい。わたくしは養女ですので」

「えっ?養女?」

「はい。なにか疑問がございますか?」

「イイエ。ナニモナイデス」

 フィッツシモンズ様の口調が変だと思ったら、ローレンス様が私の肩を抱いて鋭い視線を向けていた。

「ローレンス様、抑えてくださいませ。事実ですし、わたくしはなんら恥じる事はございませんわ」

「恥ずかしいとは思ってないよ。キャシーに向ける目が気に入らないだけだ」

「兄貴、キャシー、そろそろ行くぞ」

 私達が話をしている間に、私の荷物を積み込んでくれていたらしいランベルトお義兄様に、声をかけられた。

「そうだね。母上が待っている。キャシー、行こうか。フィッツシモンズ卿、ポールソン卿、それでは失礼する」

 馬車に乗り込んで タウンハウス王都の侯爵邸に向かった。馬車の中でローレンス様はずっと私の腰に手を回していて、ランベルトお義兄様が窓の外を眺めて視界に入れないようにしていた。

「キャシー、学院ではどうだった?」

「お手紙に書きましたでしょう?お読みになられましたわよね?あんなに分厚いお返事を寄越される位ですもの」

 返事は毎回分厚かったのよね。1回に10枚位はザラだったし。読むのが大変だったのよ。連ねてある文字は砂糖菓子ハチミツコーティング砂糖まぶし位甘い文言だったし。ガビーちゃんがチラッと見て「愛されてるわね」って乾いた笑顔を見せていた。

「手紙は毎日読み返しているし、完璧に保存している」

「どういった保存なのかが聞くのが怖いのですが」

「そこまでの保管方法じゃないよ。手紙は貰っているけど、それでも知りたいんだよ。何度学院に忍び込もうと思ったか」

「お辞めくださいね?」

「キャシーに迷惑はかけないよ」

 ニッコリと微笑まれた。

 タウンハウス王都の侯爵邸に着くと恒例のお義母様のハグが待っていた。違うのはローレンス様がすぐに引き剥がした事。

「ローレンスったら」

 部屋で着替える。

「おかえりなさいませ、お嬢様」

「ただいま、フラン」

「こちら、お留守の間に届いたお手紙でございます」

「お手紙というか、これって招待状よね?」

「さようでございますね」

 差出人はブランジット公爵家。サミュエル先生のお家かぁ。これはお義母様に要相談かな?私だけでは判断出来ない。

 着替えを済ませて、部屋を出た所に居たメイドにお義母様の居場所を尋ねる。

「奥様は私室でお嬢様をお待ちでございます」

わたくしを?」

 疑問には思ったけど、お義母様の私室へ向かう。お義母様のご用事は何か分からないけれど、私もお聞きしたい事があるのだ。

「お義母様」

「いらっしゃい、キャシーちゃん」

わたくしを待っていると伺いましたが」

「そうよ。ドレスを合わせましょうね」

「もしかしてこの招待状の件ですか?」

「そのもしかしてよ」

わたくしだけの招待のようですが?」

「そうね。キャシーちゃんだけよ」

 いきなり1人でのご招待。時間は午後から。名目はブランジット公爵夫人のお茶会。お話しした事が無いんですが。

「お茶会というか、若い令嬢達を集めてお喋りしたいんですって。よく開催してらっしゃるわよ」

「そんな席にわたくしが出席しても良いのでしょうか?」

「もちろん。キャシーちゃんの事は以前から知っておられたし、お話ししたいとも仰っておられたのよ」

「でも、わたくしはまだ、紅茶が……」

「その事はお話ししてあるわ。配慮してくださるそうよ」

 断れないっぽいなぁ。正直に言うと不安だ。紅茶の件もだけど、私は1人でお茶会に行った事が無い。いつもお義母様と一緒だったし、学院では友人が一緒だった。

「大丈夫よ。公爵夫人は良い方だし、サミュエル様もいらっしゃるようだし。気を楽になさい」

 不安が顔に出ていたらしい。まだまだだなぁ。

 お義母様の話の後で、来るべきお茶会?茶話会?の為のドレスを選ぶ。昼間に行われるけどアフタヌーンドレスまでは必要ないと教えてもらった。アフタヌーンドレスは昼の正礼装だから、今回はそこまで必要じゃないんだって。そうなるとディドレスかラウンドドレスになるんだけど、夏だしまだ子供だからとディドレスに決まった。

 色はパステルグリーン。一緒に選ばれた髪飾りのリボンはサファイアブルー。昼間だから宝石の類いは無し。光る宝石いしは夜の装いなんだって。

 こんな事も教えてもらって初めて知る事だ。学院でも習うけど暗黙のマナーとか慣習とかは先輩に当たるお義母様達に習うしかない。男爵、子爵辺りの令嬢はそれ故に苦労していて、授業外活動で先輩に聞くしかない。その辺りの人脈を広げるのも学院の意味だったりする。

 高位貴族令嬢が母親から習った暗黙のマナーとか慣習を下位貴族令嬢に教え伝えていくそうだ。これも慣習になるのかしら?

 公爵夫人のお茶会?茶話会?にはもう少し日があるけれど、手土産とか他の人と被らないように情報収集もしなきゃいけない。私にはサミュエル先生という太い情報源パイプがあるから苦労は少ない。少ないだけで無い訳じゃないけど。

「それで集まったわけ?」

「申し訳ございません」

 タウンハウス王都の侯爵邸に集まったのは公爵夫人からの招待状を受けた、同級生2人と薬草研究会の先輩3人。教会関係でタウンハウス王都の侯爵邸を訪れたサミュエル先生を捕まえて話を聞く事にした。他にも居るみたいだけど、そちらは知らない。

「えぇっと、母上に聞いてきたけど、今回は結構大規模だね。キャシーちゃんには残念なお知らせだけど、テーブルはバラバラになると思うよ」

「テーブルはバラバラですか」

 私の状態を知る人が少なくなってしまうと不審に思われたり、マナーのなっていない令嬢と見られたりするかもしれない。ちょっとだけ落ち込んだ。

「それで手土産だっけ?正直に言うと気にしなくて良いんだけど」

「そういうわけにはいきませんわ。これもわたくし達女性の務め。将来の為にもなるのですもの」

 ヴィクトリア・バーミリオン先輩が、見事に淑女の仮面をかぶって言った。見事にとは言っても、圧しの強さは変わっていない気がするけど。

「さすがにバーミリオン伯爵家だね。臆面がない」

「申し訳ございません」

「いいよいいよ。そうだね、手土産かぁ。たいていは王都で評判になっているスイーツとかだけど、領地の名産とかでもいいよ。シーケリア領だったらアランチュアとかね」

 リリス様は1学年生の時のお茶会以来の初めての体験で、ガチガチに緊張していたのでお誘いしたんだけど、顔ぶれを見てさらに緊張しちゃったみたい。伯爵家以上の爵位令嬢ばかりだしね。

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