3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 2学年生

薬草研究会

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 先輩方が話し合った結果、警戒体制が解かれた。

「フェルナー嬢」

 警戒体制を解いたとたんに、話しかけられた。

「はい」

「その、エンヴィーオ家の内情はみんな知っているんだろうか?」

「知っているのはサミュエル先生とローレンスお義兄様だけです。他の方には話していません」

「疑っているわけではないんだが」

「人のお家の内情を言いふらすなんて悪趣味な事はしません」

「フェルナー嬢は信じられる。それは疑ってない。だけどなんだか見張られているというか……」

「ご自身が何をしたかお忘れですか?当然あの事は皆さん知っておられます。わたくしはエンヴィーオ家の内情を知っていますが、それでも不愉快さは消えません。他の方々は内情なんて知らないんです。なにかをヤラかさないか見守っているんじゃないですか?」

「そうか。そうだね」

 なぜか意気消沈して離れていくフランシス・エンヴィーオに、そっとため息を吐く。

「キャシーちゃん、大丈夫?」

「はい。わたくし、あの方とうまくやっていけるでしょうか?」

「キャシーちゃんなら大丈夫だと思うけど。バージェフ君も居るし、ポインター君も居るし。もと剣術倶楽部や体術倶楽部の子達も居るじゃない。何かあったら頼りなさいね」

「ララ様の先輩らしいところ、初めて見ました」

「キャシーちゃん?」

 ジトっと見られた。本当の事だもの。

「でもね、キャシーちゃん。キャシーちゃんはしっかりしているけど、まだ10歳にもなっていないの。それだけは覚えておいて。何かあったら、ううん。何もなくても頼って?話を聞く事位はできるから」

「はい。ありがとうございます」

 その後は、フランシス・エンヴィーオから話しかけてくる事は無かった。厳密には何かを話してもすぐに離れていく。よそよそしい訳でもなくて、ごく自然に行動している。

 薬草研究会を訪れる、主に剣術、体術倶楽部の人達もフランシス・エンヴィーオを見て一瞬身構えて私を気遣わしげに見るけれど、笑みを浮かべて緩く首を振ると安心したように立ち去ってくれた。ランベルトお義兄様だけはしばらく薬草研究会に留まったけど。

「お義兄様、そんなに警戒なさらなくても」

「キャシーに何かあったら、オレは兄貴を止める自信がない」

「大丈夫ですって。お義兄様達が警戒するような事態にはなってませんし、ならないと思います」

「それなら良いけどな。本当にやめてくれよ?キャシーを傷付けるな。兄貴に消されるぞ」

 フランシス・エンヴィーオに言うけれど、消されるってなんですか?消されるって。

「ランベルトお義兄様、剣術倶楽部は良かったんですの?」

 ランベルトお義兄様はくどい位念を押して帰っていった。

「消されるって何だろうな?」

「物理的?権力的?」

「そこでわたくしを見ないでくださいよ」

「だけどそっか。フェルナー嬢を傷付けたらフロストエィル氷の貴公子が降臨するんだね」

フロストエィル氷の貴公子?」

「ローレンス・フェルナー先輩の異名というか、あだ名?人には冷たく魔法の授業でも容赦なく、話しかけてもニコリともしない。そんな風でね。かなり怖がられていたんだ」

「覚えてるわ。いきなり変わったもの。ローレンス様に何があったのかって話題になったわ」

 ローレンスお義兄様のフロストエィル氷の貴公子時代を知らない人達は、信じられないって顔をしている。私は事前に聞いていたから驚かないけど、聞いてなかったら驚いたと思う。


 新学期が始まって、フランシス・エンヴィーオも順調に薬草研究会に馴染んでいった頃、危惧していた事態が起こった。あの時、フランシス・エンヴィーオ側に居た男性生徒が薬草研究会に入れて欲しいと言ってきたのだ。

「私が居るからですよね。すみません」

「そうだろうけどね。ポインター君の弟君は居ないんだよね」

「アイツは魔術研究会に行っている。昔から魔法バカでね。エンヴィーオ君の側に居たのも魔法契約の現場を見たいという馬鹿げた理由だったらしい」

「本当かい?」

「本当です。他の3人と話していたら寄ってきて、魔法契約の現場を見せて欲しいって言ってきて。他の3人がそれなら側にいれば良いって。オレ……、私はその時馬鹿だったから止められなくて。というか、解放感もあって調子に乗ってて」

「解放感?」

「あ、えっと……」

 エンヴィーオ家の内情を知っているのは、私とフランシス・エンヴィーオ本人だけだと思う。サミュエル先生は今、居ないし。

「お家の事情なんて色々あるんじゃない?」

 デイジー先輩が笑って言った。

 薬草研究会が終わってそれぞれの寮に帰る間際に、フランシス・エンヴィーオは男性生徒に囲まれていた。

「キャスリーン様は何か知っていそうよね?」

 男性生徒達を横目に見ながら、デイジー先輩が私に言う。

「何かって?デイジー先輩」

「さっきのエンヴィーオ君の話よ。何か知っているんでしょ?」

「知っていたとしても言いませんよ。他の家の内情なんて軽々しく言えませんし」

「あら、軽々しく言えない事なの?」

「どんな事でも軽々しく言える話は無いと思います」

「その辺りはキャシーちゃんは厳しいわよね」

 まぁ、守秘義務は叩き込まれましたし。今でも精神に刷り込まれていると思う。

 薬草研究会のみんなは私とララ様が転生者だと知っているけど、詳しい事は知らない。話してないし。多少医療に詳しいとは思っているようだけど。

「教えてもらえないのかしら?」

 デイジー先輩にキュルンとした目に小さくため息を吐く。デイジー先輩ったらこういった仕草を、自然にするんだよね。似合ってるから何も言えないし、デイジー先輩も分かってやっている。

「あざとい……」

 ララ様がボソリと言った。

「デイジー先輩には申し訳ありませんが、他家の内情をお話しする気はございません。諦めてくださいませ」

「残念だわ」

 先輩方とそんな攻防を繰り広げた1週間後、あの時エンヴィーオ側に居た3人が薬草研究会に姿を見せた。3人だけじゃない。ランベルトお義兄様を始めとした体術、剣術倶楽部の皆様が後ろにいる。

「ラフ、ちょっと良いかい?」

「嫌だって言っても来てしまってるじゃないか」

 文句を言いながらバージェフ先輩が立っていった。薬草研究会の部室の隣の空き教室で話し合いをするらしい。サミュエル先生ともう一人の先生が立ち合って、中立な立場から客観的に判断するんだって。

「サミュエル先生、客観的に判断出来るんでしょうか?」

「出来るんじゃない?」

「ずっとわたくしに教えてくださってて、今回の件もかなり怒ってらっしゃいましたけど」

「キャシーちゃんは可愛がられているから」

「自覚はあるんですよ。だから心配なんです」

「……ほとんどがフェルナー嬢の味方だしね」

「完全中立って、もう一人のナレッジャー先生だけじゃないですか?」

「そうよねぇ」

 フランシス・エンヴィーオはそわそわしている。他の先輩方が見ているから飛び出していかないけど、そうじゃなかったら飛び出して隣の教室に突撃していると思う。

「話は聞けないしね」

「無理でしょ。壁も厚いし」

 しばらくして私とフランシス・エンヴィーオが呼ばれた。

「失礼いたします」

「失礼します」

 体術、剣術倶楽部のみんなは壁際に立って、直立不動だ。警備兵ですか?

「キャシー、こっちにおいで」

 今回の件で完全部外者のはずのランベルトお義兄様が、自分の隣を示した。

「お義兄様、どうして座ってらっしゃいますの?というか、他の皆様はどうしてあのような?」

「あはは……。まぁ、良いじゃないか」

 良くはないけど、訳があるようだ。

「フランシス・エンヴィーオ、キャスリーン・フェルナー。両名の意見を聞きたい」

「意見ですか?」

「この3人は薬草研究会に入って、ポーション水剤について詳しく知りたいと言っている。だが、先の件もある。フランシス・エンヴィーオと一緒にいると悪影響が出ないとも限らない」

「フェルナー嬢は被害者だからね。そっちの意見も聞きたいんだよ」


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