3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 2学年生

新学期スタート

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 グクラン辺境伯家から帰って、お義父様と玄関ホールを浄化する。幸い麻疹の発症者は出なかった。グクラン辺境伯家も症状はすぐに終息したそうだ。

 夏期休暇が終わると、芸術祭の準備がすぐに始まった。今年はローレンスお義兄様も生徒会執行役員じゃないから、比較的のんびりしている。それでも前年度の事を聞かれたり、忙しそうではあるけれど。

「せっかくのキャシーとの時間がっ」

「仕方ないだろ?兄貴は前会長と共に、アドバイザーという立場なんだから」

「明らかに前会長に聞きに行く方が少ない」

「会長職同士で話し合っているようだしねぇ」

 サロンでのフェルナー家のお茶会に、なぜかサミュエル先生とバージェフ先輩、ララ様まで加わっている。ララ様はお茶を淹れたりお茶菓子を持ってきてくれたり、侍女のような事をしてくれている。私は安定のローレンスお義兄様の隣に座らされている。お膝抱っこを主張するローレンスお義兄様との戦いに勝利した私を、誰か褒めてほしい。

「キャシーちゃんは4属性かぁ」

「使いこなせる気がしないんですが」

「こうなるとバージェフ君も判定を受けた方が良いかもね」

「『テンセイシャ』だからじゃないんですか?」

「それだとローレンス君が弱いながらも光魔法が発現した説明がつかない。バージェフ君はずっとみんなと一緒にポーション水剤を研究してきたし、もしかすると、という事も考えられる」

「私は光属性だけで良いんですが」

「公表はしない方が良いだろうけどね。水か風が後発現しているかもよ?」

「嬉しくない気がします」

 のんびりまったり。芸術祭に私達は出ない。私は薬草研究会が忙しくてピアノ倶楽部も満足に行けていないし、競いあって代表を取りたいとは思わない。ララ様も芸術系の授業外活動はしていなかったし、バージェフ先輩も同様だ。

「ところでフランシス・エンヴィーオは持ち直したようだね」

わたくしが最後にお見舞いに伺った際には、ずいぶん良くなっておられましたから」

 フランシス・エンヴィーオは、夏期休暇開けに退院したらしい。学院での接触は無いし、退院したというのも他の先輩から聞いたにすぎない。ローレンスお義兄様もランベルトお義兄様もフランシス・エンヴィーオについては一切話題に出さないんだもの。私から進んで話題に出したいわけでもないしね。

「あぁ、そうだ。バージェフ君に言っておくね。フランシス・エンヴィーオ君が薬草研究会に入部したいそうだ」

「「「反対です」」」

 即座にローレンスお義兄様、ランベルトお義兄様、ララ様が反対した。

「確実にキャシー目当てじゃないですか」

「入部させたらキャシーちゃんに付き纏うに決まっているわ」

「エンヴィーオを入れたら、他のもって言いそうだ」

「間違ってはないけどね。口は慎むように」

 間違ってはないんだ。そこは否定しないんだ。サミュエル先生ったら。

「でも、なんだって薬草研究会なんでしょう?」

「キャシーと一緒に居たいんじゃない?」

「キャシーを口説こうとか思っていそう」

「認めてもらいたいんじゃないの?キャシーちゃんに」

「フェルナー嬢だけだっただろうからね。見舞いに行ったのは」

わたくしだけ?」

「やっぱりね、ああいった騒ぎを起こしたし、エンヴィーオ家自体が捜査機関から聴取されているし、近付きたくないんだよ。その中でフェルナー嬢だけが話を聞いてくれた。嬉しかったと思うよ。ローレンス先輩がいる事は知っているだろうから恋愛対象や婚約云々はないだろうけど、側に居たいんじゃないかな?」

「えっと……懐かれちゃったって事?」

「キャシーちゃんってば、人タラシよねぇ」

「人タラシって……」

「それはあるかもしれないね。自分の事を認めてくれたって思うのかも。私の時もそうだったしね。ポーション水剤を認めてくれたのって、嬉しかったんだよ?」

「自己流とか言いながらも、味の改良とか熱心にやっておられたではありませんか。その努力に対して賛辞を贈るのは当然です」

「その当然をやらないんだよ、貴族ってやつは」

 そんな貴族ばかりじゃないと思うけど。困ってローレンスお義兄様を見るとニッコリと微笑まれた。

「で、どうする?フランシス・エンヴィーオ君の入部願い」

「「反対」」

「キャシーちゃんは?反対しないの?」

「反対したい気持ち半分、大丈夫なんじゃないかな?って気持ち半分です」

「それは何故?」

「信じたいっていうのもあるんです。妹様の為という目標がある気がして。それに反省はしているようでしたし」

「妹の為?」

 あ、そっか。妹様の事を知っているのは、私とサミュエル先生とローレンスお義兄様だけだっけ。プライベートな事だから、他の人には言ってないんだった。

「エンヴィーオ家は複雑だからね。査察の人間が頭を抱えてたよ。色々と表に出せない事が多すぎて」

 サミュエル先生が誤魔化してくれたけど、誤魔化されてくれたんだろうか?

「キャシーは優しいね」

ローレンスお義兄様が、私の肩を引き寄せて、頭にキスを落とした。ついでとばかりに髪を掬ってそこにも口付けする。

「うわぁ、ローレンス様ってば隠さなくなったわね」

「なんていうか、いたたまれない気がする」

 ローレンスお義兄様が笑顔で私の頭を撫でているのを見て、ララ様とバージェフ先輩がため息混じりに言っていた。

 サロンでのお茶会が終わってみんなが引き上げた後、サミュエル先生に呼び止められた。

「フランシス・エンヴィーオ君の件、どうする?」

わたくしに一任されてしまいますの?」

「当事者だからね。反対に言えばキャシーちゃんが嫌だと言ったら入部は無し。何があってもね」

 ここでも決断を迫られるのか。

「少し考えさせてください」

 考えながらサロンを出る。

「キャシーちゃん、どうかしたの?」

 ララ様が待っていてくれた。ローレンスお義兄様は生徒会執行部の人に呼ばれたらしい。

「ララ様、わたくし、どうすれば良いのでしょうか」

「キャシーちゃん?」

「フランシス・エンヴィーオ先輩のやった事は許せないんです。あの時の事は思い出したくない。でも、少し信じたい気持ちもあるんです。お見舞いに行ってエンヴィーオ家の内情を知っちゃったし……」

「同情しちゃったの?」

「分かりません」

 ララ様はエンヴィーオ家の内情を知らない。それでもなんとなく察したんだと思う。

「エンヴィーオ家の内情は知らないけど、キャシーちゃんが納得出来る方を選べばいいわ。入部を認めて、最初はキャシーちゃんは別行動でも良いし、認めなくても良い。バージェフ君もそう言っていたわ。フランシス・エンヴィーオに直接害を与えられたのはキャシーちゃんなんだから、キャシーちゃんが決めて良いのよ。私もバージェフ君もフォローするから大丈夫よ」

「ララ様……」

 ソッと抱き締められた。あ、ララ様って案外ボリュームがある。そんな的外れな事を考えてた。

結局、フランシス・エンヴィーオの入部は認めた。最初は先輩達が指導して、私や初等部のみんなは関わらない。そう決められた。

フランシス・エンヴィーオは意外にも熱心に取り組んでいた。植物魔法を持っているらしく、器用に薬草を増やしたり、プランターで育てている薬草の世話も進んでやっていた。分からない事は先輩方に聞いて、自分なりにやれる事を増やしていった。

「あれなら良いんじゃないかな?」

「今のところはフェルナー嬢に絡みに行く事はないわね。でも、もう少し様子を見た方がいいわ」

「どうしてだい?」

「キャスリーンちゃんを見ているのよ。切なそうに。あれは恋をしているわね」

「いやいやいや。それは君の感想だろう?彼の努力も認めてあげた方が良いんじゃないかな?」





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