3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 2学年生

その後

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 タウンハウス王都の侯爵邸に戻って、サミュエル先生はすぐに報告に行ってくれた。私はお義母様とお義兄様達にエンヴィーオ家の事を話した。

「ずいぶんなご家庭ねぇ」

「エンヴィーオの息子はフランシス以外に9学年生16歳に居るね。気の弱いオドオドしたのが。そうか。フランシス同様正妻腹じゃなかったか」

「聞いていて胸が痛くなりました。わたくしは何も出来ないし、サミュエル先生にブレシングアクア聖恵水は渡すなって言われちゃったし。知り合いだからって渡していたら、キリがないのは分かるんですけど」

「そうね。サミュエル様が報告に上がったのでしょう?旦那様達に期待するしかないわねぇ」

「キャシー、明日も行くのかい?」

「明日はお休みします。エンヴィーオ様にもそう言ってきました」

「それが良いわ。明日はわたくしと過ごしましょうね」

 お義母様がそう言ったとたんに、ローレンスお義兄様に腰をグイッと引き寄せられた。いつの間に腰に手を回していたんですか?お義兄様。

「ローレンス、キャシーちゃんを譲ってちょうだい?」

「嫌です」

「そんな事を言わずに」

「母上、明日はキャシーと一緒に教会に行くんです。約束を取り付けたのでしょう?私と一緒に行くと決まってたではありませんか」

「だって、最近キャシーちゃんったら、わたくしと一緒に過ごしてくれないんですもの」

「だからと言って……」

「教会?お義兄様、何をしに行くんですの?」

 お義兄様とお義母様の話し合い言い争いが切れた隙に、気になった事をお義兄様に聞いてみた。

「ひとつはキャシーの魔法属性を調べる。10歳程度って事は、今でも早くないと思うから。それと教会のシスター達との顔合わせ。会わせろってハイレント嬢が詰め寄られたらしい」

「詰め寄られたって、ミリアディス様は大丈夫なのですか?」

「私も今日、伺ってきたんだけどね。シスター達との仲は良好だよ。シスター達はキャシーに会いたいらしい」

 そっか。2属性って珍しかったんだっけ。

「2属性って珍しいんですよね?もしもうひとつ魔法属性を授かっちゃったら、どうなるんでしょうか?」

「どうもならないよ。その辺りは教会で調べてみたらしいんだけど、前例がないんだよね」

「3属性の?」

「後発現が知られてきたのが最近だから、記録が無いのは当然かもしれないけど」

「教会関係ですから、サミュエル様が呼び出されたのだと思いますわ」

 お義母様が口を挟んだ。そういえばサミュエル先生について調べようと思っていたんだっけ。

「ものすごく今さらなんですけど、サミュエル先生って教会所属だったりしますか?」

「エドワード殿下と同じ立場だよ。教会所属というか、教会を監督する立場だね」

「お義母様、貴族年鑑を見せていただけますか?」

「良いわよ。今から?」

「はい」

「ローレンス、教えてあげなさい」

 ローレンスお義兄様と蔵書庫に行って、貴族年鑑のサミュエル先生の項を読む。

「王弟ルイス・ウィンスタミア公の血を引くブランジット公爵家の次男。結婚はまだだね」

「ウィンスタミア公……?」

 なんだか聞き覚えがある。なんだろう?どこで聞いた?前世じゃない。もっと近い記憶。

「キャシー、どうかしたのかい?」

「お義兄様、ウィンスタミア公ってどのようなお方ですか?」

 唐突な私の質問に、お義兄様は少し怪訝そうにしながらも教えてくれた。

「現ウィンスタミア公は、先々代王弟ルイス・ウィンスタミア公の血を引く、現陛下のご親族に当たるお方だよ。宰相職の取りまとめをしていらっしゃる。父上の上司だね。仕事には厳しいけど普段は温厚で、陛下の良き相談役だと聞いたけど」

 ウィンスタミア公、ウィンスタミア公。私の一番古い記憶は、毒殺されかけて、乳母が代わりに亡くなった時。その後、雪の降る中追い出されて、教会まで歩いて……。駄目だ。そこから曖昧になっている。熱が出ていて肺炎になっていたという事は、教会にたどり着いた時には発熱していたんだろう。

「キャシー、大丈夫かい?」

「はい」

 お義兄様に重要と思われる貴族を教えてもらって、蔵書庫を出た。

 何かを感じ取ったお義兄様が、お義父様に報告したんだと思う。夕食後に帰ってきたお義父様に、執務室に呼び出された。

「キャスリーン、ウィンスタミア公について何が知りたかったんだい?」

「お名前に聞き覚えがある気がしたんです。でも、宰相職の筆頭様なのですよね?接点なんて無いはずですし」

「ウィンスタミア公との接点か。無い事はないな」

「あるのですか?」

「我が領の教会で、キャスリーンを保護した時に、最初にキャスリーンを見付けたのがウィンスタミアだ。その時はウィンスタミアは急いでおられて、私にキャスリーンを託された。キャスリーンはその時の事を覚えているのかい?」

「覚えていません。ただ、ウィンスタミア公というに聞き覚えがあったんです。聞き覚えがあったといっても、ひどく曖昧で、聞いた気がする程度なんですが」

「ウィンスタミアにお会いしたいかい?」

「よく分かりません。お顔を拝したわけでもないし。でも、ウィンスタミア公がわたくしを見付けてくださったのだとすれば、わたくしの命の恩人ですわよね?お礼を言っておいた方が良いのでは?」

「あの方はそのような事は気にしないと思うが。分かった。お伝えしておこう」

 この時、私は気付いていなかったんだけど、お義父様は「ウィンスタミア」と言っていた。「ウィンスタミア公」ではない。「ウィンスタミア」という事はウィンスタミア公の令息という事で、ウィンスタミア公本人ではないのだ。

 翌日、お義兄様と教会を訪れた。魔法を授けていただいた時ぶりの司祭様にお目にかかり、再び魔法属性判別の水晶に触れる。

 以前と同じように黄金に光輝く水晶だったけど、視界に青と緑っぽい色が見えた。

「風属性と植物魔法が増えてますね」

「え?2属性も?」

「このような事は記録にございません。フェルナー侯爵令嬢様、何かお心当たりは?」

 心当たりと言われても……。

「学院の薬草研究会で、風魔法と植物魔法に触れた位です。どちらもどういうイメージで使っているか、その方法はお聞きしましたが、関係はあるのでしょうか?」

「司祭様、私も良いですか?」

 お義兄様が言い出して、許可をもらって水晶に触れた。

「なんと。ローレンス様も光属性が弱いながらも使えるようですね」

「私も?」

 私は転生者だからと言えるかもしれない。でもお義兄様は転生者じゃない。

「しかし、4属性とは。素晴らしい才能ではありますが、ご苦労なさるかも知れませんな」

「分かっております」

「司祭様、ご心配には及びません。キャシーは私が守りますから」

 ニッコリとお義兄様が笑う。司祭様が私の事を養女だと知っていれば良いんだけど、そうじゃなかったらお義兄様が誤解されてしまう気がする。

「そうですか」

司祭様はニコニコとしている。養女という事は隠してないから、ご存じだったのかも。

属性判定を終えて、ミリアディス様を訪ねた。

「お久しぶりですわね、キャスリーン様」

「お久しぶりでございます、ミリアディス様」

「今日は無理を言ってごめんなさいね」

「いいえ。お義兄様から伺ったのですけど、わたくしに会いたいと仰っている方々がいらっしゃるとか」

「そうなのですわ。光属性を持っているというだけでも珍しいのに、2属性でしょう?是非ともお近づきになりたいと嘆願されましたの」

「嘆願……」

「うふふ。会ってやってくださる?」

「もちろんですわ」

私に会いたいと言っていた5人のシスターが集められて、お茶を飲みながらお話しした。光魔法使いは居なくて、全員ポーション水剤作りに従事しているそうだ。専属という訳ではないけど、一般の奉仕の後、ポーション水剤を作っているらしい。私が学院で薬草研究会に入っててポーション水剤の研究もしていると言ったら喜んでいた。

 




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