3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 2学年生

見舞い許可と婚約者

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 フランシス・エンヴィーオの状態をサミュエル先生を通じて確かめてもらったら、食欲不振、抑うつ状態、睡眠障害、意欲低下、無気力が見られると言われたらしい。

「うつ病ですか」

「うつ病?」

「簡単に言えば脳のエネルギーが欠乏した状態です。接し方も難しいし精神症状も身体症状も現れるんですよね」

「対処法は?」

「原因によります」

「治るの?」

「治りますよ。適切な治療をすれば」

「適切な治療ねぇ」

 脳のエネルギーが欠乏した状態といううつ病の説明は、はっきりいってしまえばあれこれはしょって切り捨てて、「うつ病は精神的な病気じゃないんですよ。エネルギーが補充されたら大丈夫なんですよ」という「うつ病は精神的な甘え」とか言っている人に対しての、アピールだと思っている。間違いではないけれど、脳のエネルギー欠乏の原因はひとつじゃない。環境の変化、ストレス、遺伝的な物、何らかの脳の病気(脳腫瘍など)、ホルモンバランスの乱れ、薬の副作用など、原因は多岐にわたるし、これ以外にも原因があるかもしれない。まだまだ未解明な部分も多い。日本人だと100人に2~3人が発症するというデータもある。

 フランシス・エンヴィーオの症状はうつ病に当てはまるけど、確定ではない。私には診断出来ないし、そうじゃないかな?と思っただけだ。

 うつ病治療の四本柱は「休養」「環境調整」「薬物治療」「精神療法」だ。この内「薬物治療」は使えない。あ、でもポーション水剤はあるよね。精神安定の。あれは使えないかな?

 夏期休暇前にフランシス・エンヴィーオの状態を確かめて、サミュエル先生と、薬草研究会のメンバーの了解はもぎ取った。もぎ取ったというか無理矢理納得させた。

 ここからが1番大変だ。家族の説得。特にローレンスお義兄様。絶対に反対される。確信が持てちゃうもの。

「駄目だ」

 ホワイエ娯楽室で、フランシス・エンヴィーオの名前を出したとたんに、バッサリと切り捨てられた。

「キャシーが優しいのは分かってるけど、見舞いに行ってやる義務も義理も無いんだよ?それは分かってるよね?」

「分かってます。それでも話は聞いておきたいんです。サミュエル先生も付き合ってくれると言うし、2人きりになる事は絶対にありません」

「そこはキャシーを信用しているよ。どうしてもって言うなら、私も一緒に連れていく事」

「ローレンスお義兄様も?それは心強いですが、お手すきな時間はございますの?」

 ローレンスお義兄様の今年の夏期休暇は、領主教育でほぼつぶれると思うんだよね。

「キャシーの為なら時間を作るよ」

「無理はなさらないでくださいね?」

「キャシーの為なら多少の無理は平気だよ」

「無理は、なさらないで、くださいね?」

「うっ、分かっ……た……」

 念を入れて強めに言うと、不承不承ながらも頷いてくれた。本当に気を付けてください。第4王子殿下の側近のお仕事も引き受けると返事なさったらしいから、少し心配。

 それに伴って、ランベルトお義兄様も後継者教育が始まっている。ローレンスお義兄様に比べれば多少難易度は低いみたいだけど、それでもローレンスお義兄様を待てない時に決断をしなくちゃいけないから、大変らしい。王宮から領主補佐官は派遣されるだろうけど、ランベルトお義兄様が代官となる確率は高いし、代官が何も知らないでは済まされないから。ローレンスお義兄様が領主となる時には、お義父様が補佐を行えるだろうけど、それでも教育は必要だ。

 私は中等部に上がる頃から、フェルナー家の女主人としての勉強が始まるらしい。本来ならローレンスお義兄様の奥様のお役目だけど、覚えておいて損はないよね?ローレンスお義兄様はいまだに婚約者をお決めにならないし。

「どうしたんだい?」

「ローレンスお義兄様、婚約者はお決めにならないのですか?」

 室温が下がった。怒ったらしい。

「お義兄様?」

「キャシー、こちらにおいで」

 1人掛けのソファーに座っていたお義兄様が私を呼ぶ。あ、これ、膝に乗っけられるパターンだ。

 ぐずぐずしてるとお義兄様が立ち上がって、私の手を引っ張った。そうして元居たソファーに戻る。

 私の元居たソファーは3人掛け。そこでも良かったと思うんだけどな。

 私を膝に座らせて、お義兄様が満足げに微笑む。

「私の婚約者はキャシーだよ?」

わたくしは何も聞いておりませんが?」

「10歳になったらすぐに婚約を結べるようにはしてある。父上も母上も反対はしなかった」

「何か条件を出されていませんでしたっけ?」

 約束がどうとか言われていたと思うんだけど。あれって婚約の事だよね?私が過剰なスキンシップをされている時ばかりだったし。

「条件ね。父上から次期当主と認められて、キャシーのオッケーを貰えたらが条件だよ。次期当主としては合格点は貰ったから、後はキャシーのオッケーだけ。ダメかな?」

「お義兄様、合格点をいただきましたの?」

「そうだよ。まだまだ精進は必要だけどね。どうかな?婚約者になってくれる?」

「少し考えても?」

「もちろん」

「それで、お見舞いは行けますか?」

「私も行くよ?それで良い?」

「はい」

「日程を調整しておくよ。それで良いかい?」

「はい。お願いいたします」

「良い子だね」

つむじにキスが落とされた。もはや膝に乗っけられようがつむじにキスされようが、受け入れてしまっている自分が居る。慣れって怖い。洗脳ってこういう事なんだろうな。

まぁ、積極的に自分からって風にはならないから、良いかなぁ。

そんな事を考えていたら、夜に自室でフランに呆れた目を向けられた。

「お嬢様、積極的に自分からって風にはなっていないって、その内自分から求めたりはしませんわよね?」

「大丈夫」

「ローレンス坊っちゃまにそういう風にされてしまわれないように、お気を付けなさいませ」

「大丈夫よ。羞恥心が無くなってきたなぁって感じただけだから」

「それならようございますけれど。ローレンス坊っちゃま付きの侍女、メイドを中心に、キャスリーンお嬢様との仲を応援する一団がおりますので」

「はい?応援?」

「ローレンス坊ちゃまがキャスリーンお嬢様をお好きだというのは、フェルナー家の使用人内では有名でございます。お嬢様がフェルナー家に来られてから、ローレンス坊ちゃまの雰囲気がお変わりになりましたし」

「それが分かんないのよね。どういう雰囲気だったの?」

「今と真逆でございましたわね。使用人とは必要以上に会話せず、無関心。旦那様、奥様、ランベルトお坊ちゃまとは会話なさっておられましたけど、それも最低限だったと記憶しております」

「え?」

ローレンスお義兄様は、たまにやって来るお義父様の部下さんにも気軽に接しているし、使用人にも気さくに声をかけている。

戸惑った私の表情に気が付いたらしいフランが、寝る前のハーブティーを淹れてくれた。

「ローレンス坊ちゃまは学院に入った頃から、先程言ったようになられました。会話は少なくなり、時折見られていた笑顔も無くなり、知り合いの他家の侍女に聞いてみたら、学院で「フロストエィル氷の貴公子」などと呼ばれていると教えられました。お嬢様が旦那様に抱かれてフェルナー家にやって来たあの日から、ローレンス坊ちゃまの雰囲気が変わりました。お嬢様が目を覚まされるまで毎日様子を見に来られていたのですよ」

「そうだったのね」

聞けば聞くほど今のお義兄様から想像がつかない。それ位聞いたお義兄様と今のお義兄様との解離がスゴい。

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