3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 2学年生

疫病流行の兆し

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「同じと思われる疫病が、スタヴィリス国我が国でも確認された。西のゼフィーラ辺境領で先月から流行ってきているらしい」

「必要なのはブレシングアクア聖恵水とケーコーホスイエキと体力回復ポーション水剤ですか?」

ブレシングアクア聖恵水と体力回復ポーション水剤は、国として用意している。みんなに頼みたいのは粉状にしたケーコーホスイエキの作成だ。国としても用意はするが、なるだけ多く欲しいとの事で協力する事になった」

「分かりました」

 最初はみんなで経口補水液を作る。ある程度の量が出来たら水魔法と風魔法で水分を飛ばしていく。

「先輩、これって煮詰めちゃダメなんですか?」

「砂糖とかハチミツとか入ってるから、焦げちゃったりしそうじゃない?うまく水分だけ分離すれば良いけど」

 経口補水液の水分を抜いている先輩達の会話が聞こえる。熱で水分飛ばすのも良いけど、確か凍結乾燥法もあったよね?寒天とかに使っている方法。あれって完全液体の経口補水液じゃ無理なのかな?試してみたいけど今は実験している時間は無い。事態が終息したらやってみよう。

 薬草研究会内で風魔法が使えるのは全部員11名中3名。水魔法は全部員11名中4名。水魔法は私とララ様も含めてだから実質は2名だ。途中から風魔法使いと水魔法使いは経口補水液 の乾燥に入った。水魔法使いが経口補水液の水分のみをミスト化し、風魔法使いがそれを乾燥させていく。一気に乾燥させようと欲張ると、すぐに魔力が切れちゃうから、量は少しずつだけど、確実に粉末経口補水液は増えていった。

 その日いっぱい使って作った経口補水液は10リットル分。乾燥させた粉末はそれなりに多いけど、まだまだ足りないと思う。


 翌日、薬草研究会に大量のお砂糖が運び込まれた。王宮からだそうだ。

「全部使っていいって許可はもぎ取ったよ」

「でも先生、このまま砂糖を使い続けると足りなくなりますよね?」

「そうなんだよね」

 そこで私を意味ありげに見ないでください。

「経口補水液の代わりになる物ですか?フルーツビネガーを10倍程度に薄めれば大丈夫だとは思いますが」

「フルーツビネガーを?」

「フルーツビネガーは果物を発酵させて作るお酢ですから、甘みもあります。そのままだと酸味がキツいので水で薄める事をお薦めしますけど」

「それにハチミツや砂糖を足しても良い?」

「はい。1歳未満の子供には、ハチミツは使えませんけど」

「どうしてだい?」

「乳児ボツリヌス症の危険があります。1歳未満の乳児は腸内環境が整っていなくて、ボツリヌス菌が増えて、毒素を作り出してしまう危険があるんです」

「1歳を越えたら大丈夫?」

「はい。ハチミツは天然の栄養成分の宝庫ですから」

「弟は1歳未満の時にハチミツを与えられていたけど?」

 ポインター先輩が言った。

「ボツリヌス菌が居なかったんでしょう。乳児ボツリヌス症の症状は、便秘になったりとか活気が無かったりとか、お乳を吸う力が弱かったりとかなんですが……」

 症状をあげていくと、ポインター先輩の顔がどんどん曇っていった。

「えっと、もしかして?」

「便秘にはなってたな。動きも少なかった」

「ハチミツはお医者様が?」

ばあや乳母が与えていた。ハチミツは身体に良いからと」

「間違ってはないですよ。1歳未満には危険だというだけです。それにハチミツを与えられたからといって、それがすべての原因でもありません」

ばあや乳母が何かの罪に問われたりは?」

「無いと思いますけど。故意でもないですし。先生、何かの罪になりますか?」

「ならないと思うよ。弟君はちゃんと成長してるし、あれるぎぃとやらはあるけど、まずまず健康だ。心配しなくても大丈夫だよ」

 サミュエル先生の言葉にポインター先輩が、ホッとしたような笑顔を見せた。

 経口補水液を作りはじめて1ヶ月が過ぎた頃、サミュエル先生が不在の時に薬草研究会に来客があった。来客といっても学院の生徒だけど。

「何をしに来たんだい?フランシス・エンヴィーオ君」

 バージェフ先輩が目の前のフランシス・エンヴィーオに聞く。他の先輩が私の側に来てくれた。

「あのっ、キャスリーン・フェルナー嬢に話が……」

「何の話?彼女にまた何らかの脅しをかけようとでも?」

「ちがっ、違って、その」

「我々は今、大変忙しくてね。話は落ち着いてからにしてもらえないか。フェルナー嬢との話を希望されても彼女の意向が最優先されるが」

「……出直します」

 フランシス・エンヴィーオは不満げではあったけど、今日は引き下がってくれた。

「先輩、ありがとうございました」

「いいや。今フェルナー嬢に抜けられるのは痛いからね」

 バージェフ先輩が冗談めかして言う。

 そんな事があったさらに1ヶ月後、毎日のように薬草研究会に来ていたフランシス・エンヴィーオが来なくなった。正直に言うとほぼ毎日来られるのは時間も取られるし私達には良い事なんて無かったんだけど、来なくなると何となく気にかかる。

「話を聞いて欲しいみたいな言い方だったわよね?」

「でも、フェルナー嬢にあんな強引な手を使おうとした奴だぞ?それを口実にという事も考えられる」

「フェルナー嬢は近付けられないな」

「一斉に見ても進んで行きたいとは思いませんよ?」

「気にならないんですか?」

「気にはななりますけど、だからといってどうしろと?会って話をするにしても、来なくなって5日目です。同じ男子寮の先輩方の方が詳しくないですか?」

「それがなぁ。寮に居るのかどうか分からないんだ」

「分からないって、どうして?」

「男子寮っていくつかのグループに分かれてるんだよ。エンヴィーオ達は元居たグループから外されちゃったらしくて、5人で固まって食事もしてたんだけど」

「そのさ、フェルナー先輩達が居る時間を避けるようになってさ。話しかけづらいんだよ。エンヴィーオは5日前から姿を見せないし」

「先生に聞いてみますか?」

 お義兄様に聞けば何か知っている可能性はあるけど。

「もうすぐ夏期休暇ですし、こうして集まるのも後一週間位でございましょう?」

「フェルナー嬢が……。なんでもない」

「お義兄様に聞けば何か知っていそうですけど、確実ではありません。確実を求めるなら、先生に聞くしかありません」

「だよね」

「分かった。私が弟経由で聞いてみる」

「お願いします、ポインター先輩」

ポインター先輩からの情報は、翌日にはもたらされた。

「学院に居ないんですか?」

「弟も詳しくは知らないみたいだったけど、1ヶ月前、正しくは40日位前に領地から手紙が来て、そこから様子がおかしかったらしくてね。仮病使って授業を休んだりしたみたいだよ」

「寮母の先生がいらっしゃいますよね?ずる休みって良いんですか?」

「良くないよ。女子寮もそうだと思うけど、舎監……、男子寮では寮母の先生を舎監と呼ぶんだが、舎監が何度も見に行くし、本当に身体の不調が本当か確認される。エンヴィーオは熱は無かったみたいだけど、様子を見に行った舎監がうなされてるのを聞いたって」

うなされてた?」

「ちょっと不穏な言葉だったみたいなんだよね」

言い渋るポインター先輩から無理に聞き出した言葉というのが、「殺さないで」「ムチはもう嫌だ」「父上、母上、ごめんなさい」、後は謝罪と悲鳴だったという。休養室で寝かせていたから様子を見に行ったけど、冷や汗をかいていたらしくて、無理に起こしてしまったらしい。

ワードだけ聞いてると虐待を疑ってしまう。

「学院に居ないとなると、どこに居るんでしょう?」

「フェルナー嬢だから言うけどね。病院みたいなんだよね」

「行きましょう」

「フェルナー嬢?」

「最後の方の様子が気にかかるんです。やつれてた気もしますし」

「元気は無かったね。本当に行くの?」

「そのつもりです。許可が要るんですよね?」

「外部の病院だからね。夏期休暇に入ってからだと別だろうけど」

「でも、それだとお義父様やお義母様の許可が要りますわよね?」

「フェルナー嬢の場合はフェルナー先輩の説得が、一番大変だと思うよ」

わたくしもそう思います」







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