3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 2学年生

迷子とアレルギー

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「一番下の弟だ」

「弟?」

 ディドレスに可愛らしいリボンを付けた髪型。女の子にしか見えないけど。

「弟は身体が弱くて、女として育てれば治ると占い師に言われて、女の子として育てられてな。ずっとこの格好だ」

 異性装させて育てるって聞いた事はあるけど、実際には見た事はなかったなぁ。

「ふぅん。じゃあさ、ここでご両親を待ってたら?」

「しかし迷惑ではないか?」

「迷惑ではありませんわよ。わたくし、先生にお知らせしてきますわ」

「お待ちください。私が行きます。貴女はここでお待ちください」

「あらあら。ではお願いするわね」

 デイジー先輩が立とうとするのを制して、ジャレッド先輩が部屋を出ていった。

「先輩、ミルクってありましたよね?」

 バージェフ先輩に聞いてみた。確か薬草クッキーの為に使ったのが、残っていたはず。

「あるけど、どうするんだい?」

「ミケール君にお出ししようと。ミケール君は何か飲んだり食べたりして具合が悪くなったり、蕁麻疹じんましん……全身にブツブツが出る事はありませんか?」

 ポインター先輩に聞いた。ミケール君はポインター先輩にしがみついてまだエグエグと泣いている。

「あ、あぁ、卵を食べると全身が痒いと言い出して、苦しそうにしていた」

「卵……。じゃあこのクッキーはダメですね。卵を使ってますし」

「キャシーちゃん、もしかして卵アレルギー?」

「確信は持てませんが」

「しかし、食べなきゃ治らないだろう?少しずつ慣らしている最中だと聞いたが」

「食べると命に関わるとしても食べさせますか?」

「命に関わる?」

「おそらく卵アレルギーだと思います。小麦粉は大丈夫ですか?」

「あぁ。大丈夫だ」

「カフェで何か作ってもらってくるわ」

「ララ様、お願いします」

 ララ様が出ていった。ララ様はアレルギーについても知っているし、注意してくれると思う。

「なぁ、『あれるぎぃ』ってなんだ?」

「人の免疫に関わってくるのですが、そうですね」

 ビーカーとコインを用意する。注ぎ口の無いタイプだから分かりやすいと思う。

「このビーカーに水を入れます。そこにこのコインを入れていくと……」

「当然溢れるよな?」

「はい。このビーカーがアレルゲン……痒かったり苦しかったりの器だと思ってください。ミケール君はこの器が人より小さいんです。だから人が食べられる量でも身体が受け付けないんです」

「それが『あれるぎぃ』?」

「そうです。この考え方が1番近いと思います」

「キャシーちゃん、少しずつ慣らしていくのは駄目なの?」

「器が大きさを変えられるなら、それも可能ですけど、器はビーカーのように大きさが変えられないんです」

「それじゃミケールはこのまま?」

「そうですね。ただ、卵を完全に除去すれば食べられます」

「卵を完全に除去……」

「卵の代わりに水やミルク、野菜の水分でも良いです。果汁も使えますね」

「ノックス様に知らせた方がいいんじゃない?」

「ララ様はその辺りをご存じですから、大丈夫だと思います」

 ミケール君の前に、少し温めてハチミツを入れたミルクを置く。

「ミケール君、クッキーは食べられないけど、このミルクは飲めるよ」

「クッキーはダメなの?」

「卵が入ってるからね。ごめんね」

「苦しいよりは良いから。お姉さん、ありがとう」

 ジャレッド先輩がサミュエル先生と戻ってきた。

「小さなお客さん、ようこそ薬草研究会へ。クッキーも食べて良いんだよ」

「先生、クッキーは駄目です。最悪の場合、ミケール君の命に関わります」

「そうなのかい?」

「ララ様がカフェで何か作って貰ってきてくれます。それをお待ちください」

「訳があるんだね。分かった」

 まもなくララ様がパンケーキを持ってきてくれた。

「卵無し、アランチュアの果汁入りのパンケーキよ」

「良いと思います」

「はい。どうぞ召し上がれ」

 カフェのシェフが気を使ったのか、クマさんのお絵かきパンケーキになっていた。焼き色で色を変えたらしい。カフェのシェフ、スゴい。

「クマさんだ」

「小さい子が食べるって言ったら、こんなのが出てきたの。なんだか楽しそうだったわ」

「美味しぃい」

「良かった」

「ご両親ももうすぐ来るからね。それまで待っていようね」

 サミュエル先生の許可も出たから、ミケール君は薬草研究会の部室でご両親を待つことになった。

「フェルナー嬢、クッキーが駄目ってどういう事だい?」

 サミュエル先生が自分の分の紅茶を淹れた後、手招きをされてアレルギーについて尋ねられた。

「ミケール君はおそらく卵アレルギーです。アレルギーというのは身体の免疫機能に関わってくるのですが、身体にとって異物と判断された物質を、身体の外に出そうとする働きです。ミケール君の身体は卵に対して異常な反応をしてしまっているんです」

「少しずつ慣れさせていっちゃ駄目なのかい?」

「少しずつ慣らしていくのは食物経口免疫療法というのですが、量の見極めが大変なんです。元の世界でも研究段階だったはずです」

「それじゃ無理だね」

「アレルギー症状が出ても、ここでなら私もララ様も対処出来ますから。ただご領地に帰ってしまうと、ご両親に理解していただいて対処していかないと、ミケール君の命に関わってくるんですよね」

「私から話すよ。王宮で読んだ書物に載っていたと誤魔化すから、大丈夫だよ」

「すみません。お願いします」

 ミケール君のご両親(ポインター先輩のご両親)は授業外交流の時間終了ギリギリにミケール君を迎えに来た。ポインター先輩の弟君おとうとぎみが騒ぎを起こしたとして、呼び出されたらしい。その弟君おとうとぎみは4学年生。驚いた事にフランシス・エンヴィーオの起こした私の婚約強要未遂事件の時に、フランシス・エンヴィーオ側に居たらしい。

「本当に済まなかった」

 ポインター先輩のご両親に謝られた。

「いいえ。直接的な危害は加えられておりませんもの。それよりもサミュエル先生からお話があるそうです」

 後はサミュエル先生の方に丸投げしておいた。あの事件は私の中では終わった事だ。蒸し返されたくないし、思い出したくもない。フランシス・エンヴィーオは従順に罪を認めたらしいし、エンヴィーオ家への捜査も順調らしい。私はその内容は聞かされてないし聞いていない。

 後日ポインター先輩に聞いたところ、ミケール君は6歳だそうだ。ポインター先輩が学院に居るから、手紙でやり取りしてミケール君のアレルギーについて対策が進んでいるか聞いてもらった。

 卵を使わない料理は、ポインター家の料理人が張り切って工夫しているらしい。見た目をご家族と変わらないようにと天然着色料も使っていると報告が来たそうだ。ポインター先輩が嬉しそうに教えてくれた。

「ミケールのおやつも、カフェのパンケーキの話をミケールが興奮して話したから、対抗意識を燃やしたらしくて絵の描かれたパンケーキとかクッキーに砂糖を細かくして?色を付けたりしてるって。なんだこれ」

「アイシングクッキーでしょうか。たいていは卵白を使いますけど、使わないで作っているんですね。素晴らしいです」

「フェルナー嬢はなんでも知っているんだね」

「なんでもは知りませんよ。たまたま記憶にあったんです」

「たまたま?」

「たまたまです」

 薬草研究会で作業しながら、ポインター先輩と話をしていた。

「みんな、ちょっと良いかな?」

 サミュエル先生がみんなを集めた。

「少し前の話なんだが、隣国で疫病が流行っていると言っただろう?」

「はい。卒業式の時ですよね?」








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