3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 1学年生

卒業式と隣国の危機

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 卒業式を迎えた。初等部の私達は基本的に会場の後方で座っているだけ。高等部と保護者の方々が1階席を占め、中等部、初等部の順番で2階席の奥に向かって座っていく。

 式典は厳かな雰囲気だけど、この後記念パーティーが執り行われる。会場は別のホールで、今頃飲食物が運び込まれていると思う。

「キャシーちゃん、記念パーティーには参加するの?」

 隣に座ったクラスメートから小声で話しかけられた。

「参加するなってローレンスお義兄様に言われちゃったの。それに記念パーティーの時に、話があるって先生に呼ばれてるのよね」

「話?先生って?」

「サミュエル先生。薬草研究会のみんなも一緒だから、そっち関係だと思うんだけど」

「そういえばガビーちゃんも参加しないって言ってたっけ」

 こそこそと会話しているのは私達だけではない。声高に話す人は居ないけど、中等部生も時折顔を寄せているのが見えるし、明瞭ではないけど小さな声も聞こえる。

「フェルナー嬢、申し訳ない。少しいいでしょうか」

 後ろから声がかけられた。聞き覚えがないんだけど、誰?

「警戒なさるのは分かります。しかし話を聞いていただきたい。教会から協力要請が来ました」

「協力要請?」

「詳しくはサミュエル様も居られる所で話します。フェルナー嬢には光魔法の他に手伝ってほしい事があると」

「光魔法以外に?」

「はい。詳しくは後程」

 声は唐突に消えた。

「キャシーちゃん?どうしたの?」

「さっきの声って……」

「声?」

 どうやら聞こえなかったらしい。特殊な発声法とかだろうか?

 式典が終わって在校生全員でホールまで花道を作る。昔は剣でアーチを作っていたそうだ。昔は通えるのが男性のみだったかららしい。お義父様、お義母様の祖父母の時代らしいけど。

 卒業生が記念パーティーの会場に入ると、在校生はいったん解散する。この後は記念パーティーに参加する生徒と参加しない生徒に分かれる。私はクラスメートに声をかけて、走り寄ってきたガビーちゃんと一緒に薬草研究会の部室に向かった。

「声が聞こえた?」

「うん。部室に知らない人が居るかも」

「分かったわ」

 薬草研究会の部室には緊張した面持ちのサミュエル先生と、知らない男性が2人待っていた。

「来たね。早速で悪いんだけど、キャシーちゃん、ブレシングアクア聖恵水を生成してほしい」

「何本ですか?」

「最大で何本作れる?」

「分かりません。数が要るという事ですか?」

「サミュエル様、早急に必要なのは15本だそうです」

 その言葉を聞いてブレシングアクア聖恵水の生成を始める。ガビーちゃんと知らない人1人がビンを並べたり、手伝ってくれた。

 早急に必要って事は、早急じゃなく必要かもしれない人が他に居るんだと思う。

「先生、話って……。キャシーちゃん?」

 ララ様とバージェフ先輩が来たらしい。

「ララ嬢、ブレシングアクア聖恵水は作れる?」

「まだまだ不安定ですけど。頑張ります」

 ララ様もブレシングアクア聖恵水を生成し始めた。

「先生、どうしたんですか?」

「隣国で疫病が発生した。スタヴィリス国我が国と発生場所が近い」

「それで協力要請ですか」

 バージェフ先輩が確認している。

「先生、その疫病の症状は?」

 ブレシングアクア聖恵水の生成をいったん止めて、症状を聞いてみる。

「インフルとかいうのに似てるよ。高熱が出た後全身に赤い発疹が出る」

 高熱後に赤疹?

「その赤疹はどんな感じですか?」

「額や首の後ろに赤く腫れた発疹が広がる」

 手伝ってくれていた男性が言った。

麻疹はしか?」

「その症状が出ない場合もある」

 ん?インフルエンザと麻疹はしかがダブルで流行ってる?ありえなくはないけど。

「詳しく言うと手足だけが赤くなる」

麻疹はしかの可能性が強いですね」

「それはインフルとかいうのとどこが違う?」

「感染力がけた違いです。麻疹はしかはインフルエンザの10倍以上の感染力です」

「10倍……」

「感染者が1人いたら、インフルエンザなら1人から2人ですが、麻疹はしかは少なくとも10人以上に感染します。具体的には12人から18人と言ったところでしょうか」

「防ぐ方法は?」

麻疹はしかは空気感染ですから、ほぼありません。一度感染して発症すると、後は麻疹はしかにはかかりませんけど」

「キャシーちゃん、マスクは?効果は無いの?」

「無いとは言い切れませんが、効果は低いと思います。麻疹ウィルスがマスクの隙間をすり抜けちゃいますから」

 重い沈黙が落ちた。

「そのハシカにかかったら?」

「対症療法しかありません。清潔にして安静に身体を休めて、水分補給をして。重症化しないように祈るしか」

「予防接種とかないもんね」

「無いんですよねぇ」

 再びブレシングアクア聖恵水を作り始める。全部で50本位出来た。

「少し休みます」

「そうした方がいい。ララ嬢はとっくに休んでるし」

「キャシーちゃん、お疲れ様。疲れが取れるハーブティーよ」

「ありがとう、ガビーちゃん」

 ガビーちゃんが甲斐甲斐しくお世話してくれた。

「キャシーちゃん、お疲れ様。作ってもらったブレシングアクア聖恵水は間違いなく必要な人に届けるからね」

 サミュエル先生もねぎらってくれた。

「それでもまだ足りませんよね?」

「だろうね。でも教会所属の光魔法使い達もブレシングアクア聖恵水は作っているし、大丈夫だよ」

 サミュエル先生は大丈夫と言っているけれど、私はそこまで楽観的になれない。

「サミュエル先生、ブレシングアクア聖恵水の保管期間はどの位ですか?」

「保管期間?考えた事無かったけど」

「無菌室で作っている訳じゃないですから、そうたないと思います。たしか水は常温では3日程度しかたないと記憶してますから。魔法で出した水だともう少しつとしても……、んー、10日位?ビンは最初に浄化しているけど」

「キャシーちゃん、そこから先はこっちで考えるから。まずは身体を休めなさい」

「はい」

 魔力切れにはなってないけど、ずっと集中していたから疲労感はある。お言葉に甘えて座らせてもらった。

「そういえばガビーちゃん達は何をしてたの?」

「ケーコーホスイエキの作成と、体力回復ポーション水剤の作成。ケーコーホスイエキは1度作ってから濃縮して、粉末状にしたの。水に溶かせばケーコーホスイエキが簡単に出来るのよ」

「スゴいっ」

「私が考えたんじゃないわよぉ」

 隣に座ったガビーちゃんに抱き付いたら、ガビーちゃんがくすぐったそうに笑った。

「今日はお疲れ様。明日も頼むと思うけども大丈夫かな?」

 サミュエル先生が特に私とララ様を見て言う。

「大丈夫だと思います。断言は出来ませんが」

「無理そうだったら言ってくれていいから。生徒に無理をしてほしい訳じゃないからね」

「はい。じゃあ、みんな、明日の授業後に」

 明日は進級テストが行われる。午前中に学力テスト、午後からは王宮から講師が招かれて、貴族の義務や仕事についての講義があるらしい。午後からは義務じゃなくて任意なんだけど、出席すると進級テストに加点される。実質的に義務だよね。それでも自信のある生徒は出席しないらしい。

「特に講義についてのレポートとかテストは無いけど、進級後のテストに出されたりするからね。イヤらしいよね」

 バージェフ先輩が教えてくれた。進級後のテストにしれっと加わってるんだって。

「あぁぁ、眠気との戦いだわぁ」

「ララ様ったら」

「だって私は教会所属が決まってるから、王宮関係の講義は無駄だと思うの」

「教会についての話も毎回されるよ?」

「あぁぁぁぁ……」

ララ様が淑女でなくてもはしたない声で唸った。

オーディトリアム講堂で開かれるからね。初等部と中等部、高等部は会場が別だけど」

「どうしてですか?」

「もしかして講義内容が違う?初等部向けに少し優しくしてあるとか?」

「ご明察」









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