3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 1学年生

冬季休暇

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 冬季休暇に入った。夏期休暇ほど長くないから帰らないで寮に残る人も多いんだけど、私には帰宅命令が下った。ローレンスお義兄様とランベルトお義兄様から。2人して冬季休暇前日に教室に言いにくるんだもの。クラスメートが緊張で固まっていた。

「お義兄様方、どうなさいましたの?」

「キャシー、冬季休暇はタウンハウス王都の侯爵邸に帰るよ」

「お義父様とお義母様からは、何も言われておりませんけれど」

「こっちに手紙が来たからね。私達ならキャシーを置いていかないとお考えになったのだろう」

「分かりましたわ」

 お義兄様達が戻っていくと、クラスメートがきゃあきゃあと騒ぎだした。

「副会長様、素敵ですわぁ」

「ランベルト先輩、格好いいよな」

「そこにキャスリーン様が加わったら……」

「夢のような空間でしたわぁぁぁ(夢のような空間だったよなぁぁぁ)」

 えぇっと……。

「気にしない方が良いですわよ、キャシーちゃん」

「そうそう。ローレンス先輩もランベルト先輩も人気が高いから。プレ社交会にエスコートしてほしい男性生徒ランキングの、上位に入っているものね」

「エスコートしてほしい男性生徒ランキング?」

「これよ。わたくしは刺繍倶楽部でもらったわ」

わたくしはジュペニーン語倶楽部で見せていただいたわ」

 ジュペニーン語は比較的マイナーな言語で、遠く離れた島国で使われている。でもこのジュペニーン語、表記文字が3種類あって、習得が難しいらしい。見せてもらった事があるけど、多少崩れていたけどそのまま日本語だった。漢字っぽいのはハングルと混ざっていた感じだったし、読めたけど違和感が拭えなかった。ララ様にも見せたんだけど、文字が気持ち悪いって言っていた。

 ジュペニーン語倶楽部の人達は、その複雑さが魅力なんだと力説していたけど。

わたくしは同室の子から見せていただきましたわ。上級生、主に中等部以上で作成してらっしゃるのですって」

「どなたかがって、どなたが?」

「分からないと仰っていたわ。各部室にいつの間にか置いてあったりするのですって」

 ダニエル様なら探っちゃったりするんだろうか。王家の影って言ってたし。影って諜報活動とかする、忍者みたいなものよね?

「女性生徒ランキングは無いの?」

「聞いた事がないって先輩は仰っていたわ。女性をランク付けするのははしたないって事なんじゃない?」

「男性生徒ランキングもはしたないと思うけど」

「そうよねぇ」


 冬季休暇初日、女子寮にお義兄様達が迎えに来てくれた。

「キャシー、荷物はこれだけ?」

「えぇ。タウンハウス王都の侯爵邸にお洋服はあるし、冬季休暇の課題だけですもの」

「へぇ。冬季休暇の課題って?」

 私のトランクを軽々と運びながら、ランベルトお義兄様が聞く。

「……刺繍ですわ」

「……キャシーの唯一の苦手分野だね」

「だっ、だって、絵心なんか無いんですもの。前世に置き忘れてきたのですわ」

 前世でも絵心は無かったけど。

「そういう所も可愛い」

 馬車の中でローレンスお義兄様の頭をポンポンされた。

「ガビーちゃんに教わってはいるのですけど」

「キャシーは紋章とか名前の刺繍は上手なのにね」

「紋章とか名前はお手本がありますでしょう?完全オリジナルはお手本無しですもの」

「自分で考え出すのが苦手?」

「はい」

「観察眼はあると思うんだけど」

「そうでしょうか?」

「怪我とか誰かの体調不良とか、真っ先に気付くでしょ?で、さりげなく離脱させる。初等部に行くと気を使わせるからって、私に言ってくる生徒が何人もいるんだよ。助かりましたってね」

「俺も。剣術倶楽部と体術倶楽部は薬草研究会に世話になっているけど、隠していても見抜かれてしまうって笑ってた」

「ご迷惑だったのでしょうか?」

「迷惑じゃなくて助かったって。後で救護室に行ったら先生に説教食らったみたいだよ。もっと早く来いってさ」

 タウンハウス王都の侯爵邸に着くと、お義母様が出迎えてくれた。

「おかえりなさい」

「ただいま戻りました」

 ぎゅっとハグされる。お義兄様達は華麗に回避していた。

「キャシーちゃんだけねぇ。ちゃんと抱き締めさせてくれるのは」

「男性だと照れ臭いというのもあると思いますわ」

「キャシーちゃんは良い子ねぇ」

 お義母様にずっと頭をナデナデされているんですが。

 恒例となった感のある着せ替えとドレス購入を済ませて、学院での事を話す。お義母様はニコニコと聞いてくれていたけど、野犬のくだりでは叱られてしまった。

「たった1人で飛び出すなんて。ランベルトが気が付いたから良かったものの、一歩間違えばキャシーちゃんも怪我をしていたのよ?」

「反省はしてます。でもあの判断が間違っていたとは思いません」

「間違ってた、合ってたじゃなくてね」

「もしあの時、わたくしが助けを呼びに行かなかったら、先輩方の命は無かったかもしれません。私には知識があった。それを活かせずして何の為に転生したのでしょう。とはいえ、ご心配をお掛け致しました」

「まったく、この子は。キャシーちゃんの命も1つなのよ?覚えておいて」

「はい」

 その夜、お義父様にも同じように叱られた。お義父様もお義母様も私を心配してくれるからこそ、こうやって叱ってくれる。それが嬉しかった。


 タウンハウス王都の侯爵邸に帰って2日後、私の誕生会が開かれた。

「お誕生日おめでとう」

「お義母様、お義兄様達……」

「うふふ、驚いた?」

「はい」

「キャシー、これは私から。プレゼントだよ」

 ローレンスお義兄様からポーション水剤作成の基礎の本をプレゼントされた。ランベルトお義兄様からは万年筆。サファイアブルーに金の模様入りの素敵な万年筆だ。

「兄貴に見繕ってもらった」

「ローレンスお義兄様、ランベルトお義兄様、ありがとうございます」

「キャシーちゃん、わたくしと旦那様からはドレスよ。もうすぐプレ社交会でしょう?ぜひ着てちょうだい」

「ドレス姿を直接見られないのは残念だが」

 プレ社交会には、プロの姿絵師が何人も入るらしい。保護者はその絵姿を買うんだって。

 この世界にはカメラもあるんだけど、高価な上に被写体は動いてはいけない。話に聞いただけだけど、乾板写真か湿板写真のようだ。よく覚えていないけど、何分間か動いちゃダメなんだよね?

 誕生会の食事が終わって部屋に戻ると、フランから真っ白なウサギのぬいぐるみをプレゼントされた。

「お嬢様には子供っぽいかと思いましたが、こんなのしか思い付かなくて」

「ありがとう、フラン。嬉しい」

「こんなに喜んでいただけるとは。エリスとサムとテオとネリーと相談しあった甲斐がございました」

「エリスとサムとテオとネリーも選んでくれたの?」

 サムは庭師、テオは厩務員、エリスとネリーはメイドだ。

「1人で考えてたら、エリスとネリーに気付かれたんですよ。テオとサムはいつの間にか話に加わってました」

「ふふっ。みんなにお礼を言わないとね」

「さようでございますね」


 翌日からみんなにお礼を言って回っていると、なぜかローレンスお義兄様が不機嫌になってしまった。お義母様は「本当にあの子ったら」と言うだけで助言などいただけないし、ランベルトお義兄様は「膝にでも乗ってやれば機嫌は直るんじゃない?」って剣術の訓練に行ってしまうし、どうしよう。

「ローレンスお義兄様、どうなさったのですか?」

「どうもしないよ。キャシーはみんなから好かれているね」

「はい。嬉しいです」

「私は?」

「お義兄様?」

「まぁ良いや。こっちにおいで」

 お義兄様の隣を示された。隣に座ろうとしたら手を引っ張られて、お義兄様の膝に乗ってしまった。

「すみません」

「いいよ。しばらくこのままで居てもらおうかな」

「でも、この距離は兄妹では不適切だと思いますの」

「誰も見てないから良いんだよ」

 良くないと思う。

20分位して解放してもらえたけど、なんだか疲れてしまった。

ご機嫌を直したお義兄様は学院寮に帰るまで、ずっとご機嫌だった。お義父様に何か注意されていたけど。



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