3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 1学年生

酪農体験

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 翌朝、5時に密やかなノックで目が覚めた。

「お客様、乳搾り体験を始めますよ」

 奥様の声に、はっきりと覚醒する。

「着替えてすぐに行きます」

 夢の中のララ様を起こして、5時半には階下に降りた。

「おはようございます」

「おはようございます。牛舎に行きましょうか」

 奥様の案内で牛舎に行くと、オルブライトさんが準備をして待っていてくれた。

「おはようございます」

「おはようございます。よくお休みになられましたか?」

「はい。ありがとうございます。よく休めました」

 ララ様はまだ眠そうにしているけど、手を洗って消毒をする。エタノールっぽいけどお酒臭い。

「お酒ですか?」

「アルコール度数の高い物を使っているんだ。蒸留を繰り返してね」

「自作ですか」

「拭くだけでは不安だしね。仲間には伝えているけど面倒だと言われたよ」

 柵内に入った牛の乳首をアルコール消毒して、小さな椅子に座り手を延ばす。親指と人差し指で輪を作り、中指、薬指、小指の順でたたんでいく。これが難しかったりする。私が搾れたのはスパゲッティー位の太さだけど、オルブライトさんはうどん位の太さで搾っていた。

「上手くいかないぃ」

「ララさん、指を順番に使わないと。いっぺんにぎゅっと握っちゃダメだよ」

 オルブライトさんがララ様に指導している。私の側には奥様が居てくれて、世話を焼いてくれた。

「奥様達みたいにリズムよく搾れないんですよね」

「その辺りは慣れですね」

「アルヴィン君もこういった作業を?」

「まだですね。あの子達は早起きが嫌だって言って、たまにしか起きてこないんですよ」

「そうなんですね……。あら?」

「父さん、母さん」

「あらあら、珍しいこと」

 アルヴィン君が牛舎にやって来た。眠そうなビアンカちゃんの手を引いている。

「ビアンカがぐずるから」

「ビアンカは眠そうだけどね。キャスリーンさん、少しアルヴィンに任せますね」

「はい。ビアンカさんの方に行ってあげてください」

 奥様が座っていた椅子にアルヴィン君が座った。

「ふぅん。手際が良いですね」

「奥様の指導の賜物たまものです」

「キャスリーンさんはこういう仕事は嫌じゃないですか?」

「そうですね。嫌ではないです。でもずっと続けられるかと問われると自信がありません」

「自信がない?」

「だって、ここにいる牛や馬の命を預かっているんでしょう?動物達は身体の不調を言葉に出来ません。それを汲み取ってお世話をし続けるのは、私には難しいと思います」

「命を預かるですか?」

「牛さんも不調だと、こんな風にミルクを出してくれませんよね?」

「そりゃあ……」

「ですからこういったお仕事をしているオルブライトさん達を、尊敬します」

「……ありがとうございます」

 アルヴィン君はそれから何か考えていた。ちゃんと世話は焼いてくれるんだけど心ここにあらずという感じで、搾乳後の牛の世話も身が入っていない感じでオルブライトさんに叱られていた。

「キャシーちゃん、アルヴィン君はどうしたの?」

「分かりません。話をしていたら考え込んじゃって」

「ふぅん。次は馬の方みたいね」

「そうですね。牛さんも出ていきましたし、放牧でしょうか?」

「そんな感じね。行きましょ」

 ララ様と一緒にオルブライトさんの後に続く。厩舎に着くと馬のいななきが聞こえた。

「いけねっ」

「どうなさったんですか?」

「早く出せって騒いでいるんだ。ちょっと遅れちまったからな」

 重そうな扉を開けると、3頭の馬が待ち構えていた。

「またこいつらは」

「え?昨日見た時は柵というか棒が渡してあって、その奥に居ましたわよね?」

「あの棒を馬栓棒ませんぼうというんだが、ここにいる3頭は自力で開けるんだ」

「頭が良いのね」

「困ってしまうんだがな。頭が良いから勝手に大扉から外に出る事はないし、仕方がないから好きにさせている」

 1頭の馬が急に顔を近付けてきた。結構大きいから動けないし、フー、フーという鼻息が生暖かくてちょっと怖い。

「キャスリーンさん、大丈夫だ。そいつはここのボス格でグランディアって牝馬ひんばなんだが、人相風体でその人の為人ひととなりを判断してるんだ。ま、付き合ってやってくれ」

「は、はい」

 グランディアが私から離れる。次はララ様に顔を近付けた。ララ様も怖いみたいだけど、動かないようにしている。でも握られた手の力が強くなってきている。

 グランディアがララ様から離れて、もう一度私に顔を近付けた。他の2頭の視線が私に向けられたのが分かる。

「ずいぶん気に入ったんだな。グランディア、そこを退いてくれ。他のが外に出られない」

 オルブライトさんが声をかけると、グランディアが私の側をすり抜けて外に出ていった。オルブライトさんに腕を引かれて、出入り口の前から避難すると他の馬達も次々と出ていく。

「厩舎を掃除したら朝の仕事は終わりだ。先に戻ってもらって良いんだが」

「お掃除ですか?」

「かなりの重労働だから、お客さんにはさせないんだよ。汚れるし」

「分かりました」

 少し興味はあったけれど、そう言われれば仕方がない。アルヴィン君に付いて母屋に戻った。

 オルブライトさんが戻ってくると朝食。パンとスープだけの朝食だったけどお腹が空いていたのか、たくさん食べてしまった。

 朝食後、少し休んで今度は乗馬体験。ラッセルさんも乗馬をするようで一緒に厩舎前に向かう。厩舎前にはオルブライトさんと馬が3頭待っていた。1頭は他に比べれば小柄な明るい茶色で、1頭は栗色、1頭は黒っぽい茶色の馬だった。黒っぽい茶色の馬にラッセルさんが手慣れた様子で鞍を着けていく。

「こっちの小柄なのがキャスリーンさんの乗る馬、こっちの栗色のがララさんの乗る馬だ」

「顔を近づけてきたら、首を軽く叩いてやると良いよ」

「叩くんですか?」

「軽くだよ。そうすると喜ぶんだよ」

「撫でてやっても良いけどね」

 オルブライトさんとラッセルさんが言う。

 顔を寄せてきた馬の首に手を伸ばして撫でてあげると、大人しく撫でられてくれた。ララ様も同じように撫でている。

 オルブライトさんが鞍を着けてくれて、踏み台の上からその上にまたがる。

「怖がっちゃダメだよ。馬は感情を感じとるから」

「怖がっちゃ駄目って、高いです」

「目線は高くなるね。背筋を伸ばして視線を上げてごらん」

 いつもより高い目線が新鮮だ。私と同じ位の高さの馬の背中からの目線だから、倍ではないけどかなり高い。

「わぁぁ。スゴい」

「ゆっくり歩くよ」

 オルブライトさんともう1人の男性が、手綱を引いて歩いてくれた。この男性は従業員だそうだ。乗馬体験だからと来てくれたらしい。

「怖くないですか?」

「最初は怖かったけど、今は大丈夫です」

 私に付いてくれたのは従業員さん。ララ様の乗る馬の方が高いからオルブライトさんはララ様に付いている。

 ゆっくりと馬場を二周した後、馬を降りた。

「ありがとう」

 馬にお礼を言うと首を下げてくれたから、その首を撫でる。

「楽しかったかい?」

 ラッセルさんが戻ってきた。ラッセルさんは自分の馬に乗ったら、 勝手知ったる風に出ていっちゃったんだよね。

「どこに行っていたんですか?」

「その辺を一周してきたんだよ」

 ラッセルさんが馬から降りて、手慣れた様子で鞍を外す。その後手綱を引いてどこかに行ってしまった。

「どこに行ったんですか?」

「馬の世話だね。馬体を拭いてあげないとね。自分のケアはその後。馬は自分で自分の世話を出来ないからね」

 あぁ、そうか。自分で言った言葉を今、理解出来た気がする。



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