3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 1学年生

転生者達

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 反対にうらめしそうにしていたのがララ様だ。お茶会の日は1日中救民院で治療をしていたらしい。

「キャシーちゃんだけズルい」

「仕方がないじゃないですか。お友達とのお茶会だったんですから」

 お茶会で余ったスコーンとケーキを差し出す。

「美味しいっ。はっ。こんなのじゃ誤魔化されないんだから」

「説得力、皆無ですよ」

 ちゃんとマナーを守って食べてはいるけれど、スピードが早いったら。一緒におすそわけしたお義兄様達が呆れていた。ランベルトお義兄様はケーキもスコーンも1口で食べていたけど。


 友達との招き招かれのお茶会も終わり、夏期長期休暇が終わろうかという頃、牧場主の転生者さんに会いに行った。ララ様も一緒だ。今回はお義兄様達はご遠慮いただいた。

 1日馬車に揺られて牧場に着く。長閑な景色。馬がポツリポツリと点在している。牧草の緑に焦げ茶色や黒、白色が映える。

「長閑ねぇ。あ、いたた……」

「お尻、痛いですよね。はい。ブレシングアクア聖恵水

「こんな貴重な物、堂々と出さないでよ」

 ビンの蓋を開けて一気飲みするララ様。ララ様はまだ安定して水魔法が使えないから、ブレシングアクア聖恵水が作れない。

「スポドリっぽい」

「アランチュアの果汁を入れてます」

「そんな事して良いの?」

「許可は得ましたよ」

 馬に乗った人が近付いてきた。

「君達は?」

「キャスリーン・フェルナーと申します」

「ララ・ノックスです」

「あぁ、君達が。聞いてるよ。俺はハーランド・オルブライト。地球名はグレゴール・ジーマンだ」

「ジーマンというファミリーネームですと、ドイツ系ですか?」

「よく分かったね、お嬢さん」

「私は前世は来栖 恵里菜くるす えりなといいます。日本人でした」

「私は黒川 美月くろかわ みつきです。同じく日本人でした」 

「ニホンジンだったんだね」

 話をしながら移動する。

「ちょっと歩くけど大丈夫かい?」

「はい」

「お嬢さんは見た目通りの年齢じゃないね?」

「見た目通りの年齢ですよ。前世の記憶が甦るのは早かったですけど」

「苦労したんじゃない?」

「フェルナー家に引き取られてからは、そんな事はありません」

「お嬢さんの方は……、そのままって感じだねぇ」

「ぐっ……。そのまま……」

「フェルナー家に引き取られてからは」って所に突っ込んでこないって事は、お義父様から事情を聞いているんだろうな。

 たっぷり30分程歩いて、大きなログハウスに到着した。その隣にはこれまた大きな厩舎が2棟建っている。

「大きいですね」

「父母がやってたのを継いだだけだよ。向こうには牛もいる」

「牛って乳用牛ですか?肉用牛ですか?」

「どっちもいるよ。驚いたね。そんな事も知っているんだ」

「えっ、じゃあ、乳搾りとかも出来る?」

「お嬢さんは体験希望かな?もちろん出来るよ。朝早いけど大丈夫かい?」

「頑張ります」

 ログハウスにはもうひとり居た。ハーランド・オルブライトさんより少し年嵩の男性だ。ロッキングチェアに座ってパイプを燻らせているけど、嫌味なほどに似合っている。

「お客様かい?」

「侯爵様から話があった2人だよ。キャスリーン・フェルナーさんとララ・ノックスさん」

「あぁ。転生者だっていう。参ったね。こんなに若いなんて」

 ギィィっと音を立てて、男性が立ち上がった。

「はじめまして、お嬢さん方。カミーユ・ラッセルだ。地球での名前はジェレミー・ブルギニョンだった」

「はじめまして、キャスリーン・フェルナーと申します。地球での名前は来栖 恵里菜くるす えりなでした」

「ララ・ノックスです。地球では黒川 美月くろかわ みつきでした」

「元ニホンジンだそうだよ」

「お嬢さん方、僕はどこ出身だと思う?」

 チラッとララ様を見たら、ブンブンと首を振られた。

「ブルギニョンというお名前ですと、フランス語圏でしょうか?」

「正解だよ。もしかしてキャスリーンさんの方が年上なのかな?」

「そうですね。肉体年齢は見たままですが、前世の年齢はわたくしの方が上です」

 ハーランド・オルブライトさんの経営するこの牧場は、グリーン・ツーリズムやアグリ・ツーリズムと呼ばれる体験型の宿泊施設を経営しているそうだ。オルブライトさんが小さい頃からご両親が経営していらして、その跡を継いだと言っていた。ご両親はすでに亡くなっているそうだ。

「こっちじゃ災害時の救助体制なんかは、信じられないほど整っていないからね。ここに来る途中に川があっただろう?増水したあの川に転落したんだよ。荷車ごとね」

 過去の物となっているようで、感情を見せずに話す。

「部屋に案内しようか。こっちだよ。一部屋だけど良いかな?」

「十分です」

 今日から5日間は貸し切りにしてくれているそうで、他にお客様が居ない建物の中を案内される。侯爵家の馭者がすでに荷物を運び入れてくれてあって、丸太を輪切りにしたようなテーブルと椅子、木製の大きなベッドの部屋にトランクが3つ置かれていた。

「荷物を解いたら降りておいで。話をしよう」

 オルブライトさんが降りていって、ララ様と手分けをして荷物を広げる。ちなみに荷物は私がトランク1個、ララ様が2個だ。

「キャシーちゃんって、こういうパッキングとかも手慣れてたわね」

「最低限の荷物をどのように詰めるかって、研究した結果です。災害救助は時間との勝負ですから」

 いわゆる「72時間の壁」だ。自然災害の発生時、被災者の救助は発生から72時間がおおよそのタイムリミットとされている。被災してから72時間を経過すると生存率が大幅に低下する傾向がある為だ。

「ふぅん。聞いた事はあるけど、本当なんだ」

「本当の事ですよ。下に行きましょうか」

 荷ほどきをして階下に降りる。

「もう良いのかい?」

「はい」

「まずは一休みしようか」

 紅茶と共に私のこぶしほどのゴツゴツしたお菓子が出される。砂糖がまぶしてあってフォークが添えられている。

「シュネーバルっていうんだよ。クッキー生地で出来ている揚げ菓子だ。本当は粉砂糖が欲しかったんだけどね。クッキーを切れ目に沿って剥がして食べてごらん」

「素朴な味だよ」

 ラッセルさんがまぜっかえす。素朴だけどサクサクして美味しい。オルブライトさんとラッセルさんの前のシュネーバルは私達のより大きかった。

「記憶が甦った時は混乱したよ。馬から落ちた時だったから余計にね。カミーユはパンの味に不満を持ったんだっけ?」

「クロワッサンが食べたいって叫んでね。クロワッサンとは?って聞かれて、徐々に思い出したんだ」

「私の記憶が甦ったのは15歳の時です。ちょっと勘違いしちゃって、頑張って貴族学院に入りました」

「勘違い?」

「恥ずかしいから聞かないでください」

「私ははっきりしません。物心付いた時には不完全に思い出してましたから。他の子と違うと疎まれていて、目の前で乳母が毒殺されて、それで完全に思い出しました」

「キャスリーンさんが1番壮絶だねぇ。それで?」

「雪の中を追い出されて、教会まで行って、お義父様に保護されました。肺炎を起こしていて、保護された経緯は覚えてませんけど」

 オルブライトさんとラッセルさんが絶句している。

「侯爵様が間に合って良かったねぇ。それで養女になったのか」

「はい」

 ラッセルさんの言葉に頷く。

「転生者は魔法属性が後発現するのは知ってる?」

「そう聞きました。ララ様は水魔法が増えていたそうです。それで少し気になった事が」

「何かな?」

「オルブライト様もラッセル様も、地球の記憶をお持ちなら、自然現象の発生の原理は分かっておられますよね?」

「自然現象の発生の原理って、水がどうやって生まれるかとか?」

「はい。水蒸気が集まり雲となり、雨が降って地に染み込み、濾過されて飲み水となる。その一連の知識はございますわよね?」

「まぁね。僕は研究職に居たし」

「ラッセル様の魔法属性に水は含まれますか?」












     
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