3歳で捨てられた件

玲羅

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学院初等部 1学年生

学院生活

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 学院生活が始まった。初日からガビーちゃんが起きてこなくて、私が起こすはめになったけど。

「ガビーちゃん、起きて」

 返事がない。何度も声をかけて、ノックをして部屋に入る。何これ。初日なのに散らかってるんだけど。

「ガビーちゃん、起きて。遅刻するよ」

「うぅん、もうちょっと……」

「ダーメ、起きて」

 たっぷり30分起こし続けて、やっとガビーちゃんが目を開けた。

「おはよぉ、キャシーちゃん」

「ほら、顔を洗って。着替えて食堂に行くわよ」

「うん……」

「寝ちゃダメ。起きて」

 二度寝しそうなガビーちゃんを無理に立たせて、洗顔させる。

「おはよう、キャシーちゃん。もう着替えたの?」

「当然よ。朝食に遅れちゃうわ」

 バタバタと用意をして、食堂に行く。新入生の半数が来ていなくて、苦笑してしまった。

「おはようございます、キャスリーン様」

「おはようございます。グリンディア先輩」

「セシリアで良いわ。あらあら、グクラン様はまだ眠そうね」

「おはようございます。起きてます」

「セシリア様、まだ来ていない新入生がいるんですけど」

「毎年恒例よ。しばらくはこの状態が続くわ」

「そうなんですね」

 セシリア様が声をかけてくださって話をしていると、新入生達も続々と集まってきた。パンと卵とチーズの朝食をいただいて、登校の準備をする。今日から1週間は最上級生の先輩が教室まで送ってくれる。私達の担当はセシリア様のようだ。

「お待たせしました」

「大丈夫よ。行きましょうか」

 一緒に行くらしい3グループに声をかけて、全員で移動する。

「1週間で道を覚えてね。警備は立っているけど積極的には声はかけてこないから」

「はい」

 寮に1番近いのは中等部。直線で行くならだけど。寮と学習棟は疎林で隔てられていて、それぞれ通路が通っている。男子寮と女子寮は隣り合っているけれど棟数が多いから登下校で一緒になる事は少ない。少ないんだけど……。

「キャシー、おはよう」

「おはようございます、ローレンスお義兄様、ランベルトお義兄様。どうなさったんですか?」

 お義兄様達が途中で待っていた。上級生の4人がきゃあっと歓声をあげる。

「キャシーを待ってた」

「嬉しいんですけど、先輩方もいらっしゃいますよ?」

「それでもね。護衛だと思ってくれればいいから」

「護衛って……」

「無いとは思うけどね」

 どうやら私の為のようだ。何か情報があったのかな?

「何があったんですか?」

タウンハウス王都の侯爵邸周辺を彷徨うろつく人物が目撃されたそうだ。王家から警戒せよと通達があった」

「侯爵家だけ?」

「何軒かから通報があったらしい。ウチだけじゃなさそうだ」

 貴族学院入学後であれば入寮するから、ある程度の危険は避けられる。変装されて学院内に入り込むのは至難の技らしいけど、絶対的に安心な訳じゃない。

 最終的には集団登校並に増えた集団で教室に送ってもらい、授業が始まった。


 学院生活も1ヶ月を過ぎ、お義兄様達とランチを一緒に摂っていると、騒がしい声が聞こえた。

「ローレンス様ぁ、ご一緒しても良いですかぁ?」

「断る」

「お席ならぁ、空いてますよねぇ?私はぁ、弟様と一緒でもぉ、かまいませんからぁ」

 お義兄様達がはっきりと顔をしかめた。それでもめげずに空いている席に座ろうとするピンクゴールドの髪の女性。誰?この人。

「キャシー、席を移ろう。邪魔が入った」

 ローレンスお義兄様が席を立つ。ランベルトお義兄様も私のランチトレーを持って立ち上がった。

「え?でも……」

「あらぁ?誰?このちびっこ」

「行くぞ」

 質問に答えずに、ローレンスお義兄様が私を抱き上げる。

「よろしいの?」

「マナーのなっていない図々しい人物とは話したくない」

「せっかくのキャシーとの時間だし。週一しか一緒にランチを摂れないのに」

「でも、あの人、ずっと見てますわよ?」

 見てるというか私を睨んでいるというか。

「キャシーも関り合いにならないように、気を付けた方がいい」

 少し離れたテーブルでランチを終えた。

 それから週一回のお義兄様達とのランチの時には、必ずピンクゴールドの髪の女性が乱入してくるようになった。ローレンスお義兄様は塩対応だしランベルトお義兄様も不愉快さを全面に出している。ランベルトお義兄様は剣を嗜んでいるからか体格もいいし、不機嫌になるとけっこう怖いんだけど、「照れなくってもいいのに」とか言うピンクゴールドのお姉さんは相当な強心臓だと思う。そして私の事は意図的に無視している。1度なんか私を押し退けて転びそうになって、ローレンスお義兄様に支えられたら「やだぁ、どうしたのぉ?気を引きたいからってよろけた振りはダメよぉ、おチビさん」って嗤ってて、ローレンスお義兄様が怒って大変だった。ピンクゴールドさんが本気で怯えてたもの。

 授業外交流でセシリア様に相談したら、「あぁ、あの方はねぇ」と笑われた。

「あの方はララ・ノックス様と仰るのよ。光魔法使いだから特殊事例で特別入学された平民の方」

 光魔法使いの平民って、ローレンスお義兄様が私の入学式前日にブチブチ言っていた人かな?

「去年までは王子殿下にも言い寄っておられてね。ずいぶん顰蹙ひんしゅくを買っておられましたけど」

「あぁ、あの方。王子殿下以外にも高位貴族のお顔の良い殿方に積極的にお声をかけていらっしゃったわね」

 別の先輩も話に入ってきた。

「あの方、『テンセイシャ』じゃないかしら?」

「どうしてそう思われますの?」

「『アクヤクレイジョウが』とか『コウリャクタイショウが』とか聞いた子がいるのよ。昔、国家転覆を目論んだ『テンセイシャ』が言っていた言葉と同じだから」

「悪役令嬢に攻略対象ですか?転生者でしょうね」

 先輩方がいっせいに私を見た。

「うろ覚えですけどそういった書物があったと思います。乙女ゲームを題材とした世界に転生したとか」

「キャスリーン様も『テンセイシャ』ですものね。でも、うろ覚えですの?」

「本で読んだ程度だと思います。ゲームはあまりしませんでしたし」

「どうしてですの?」

「仕事が忙しくて。最後の時以外も救急救命室ER勤務だったから、娯楽に時間を取れませんでしたし」

 たぶん上手く時間を使えた人も居たんだろうけど、私には無理だったんだと思う。

「『テンセイシャ』も色々ですのね」

「それよりも魔法の授業って、光魔法使いはどうするんですか?数が少ないんですよね?」

「教会から派遣されているはずですわよ?」

 ピアノの順番が回ってきた。ピアノは複数台あるけれど、さすがに1人1台は無いから、順番になる。自然にグループメンバーは決まっていて、1台のピアノを5人で使っている。当然個室だけど弾いているのはアップライトピアノだ。芸術棟は大きくて、その中でもピアノレッスン室は1番多い。

 今練習しているのは芸術祭に向けた発表曲。初等部から3人、中等部から1人、高等部から1人の合計5人が選出される。初等部の人数が多いのは、新入学生のお披露目も兼ねているから。初等部3人の内の1人は必ず新入学生が選ばれる。今年のピアノ選択者は3人。内1人がピアノで身を立てたいと言っている男爵令嬢で、アリス・ブレイクリー様。この方が選ばれるのを全員が祈っている。私のいるグループとは別グループだけど、みんなアリス・ブレイクリー様の目標を知っているから、ピアノ倶楽部全員で応援している。ただ、代表者を決めるのは学院のピアノの教師をしていらっしゃるケリー先生。全員参加のオーディション形式だから、私達も手を抜けない。ピアノ教師のケリー先生、手を抜くとすごく怖いんだもの。

「アリス様、頑張ってらっしゃるかしら」

「経験豊富な皆様が付いてらっしゃるんですもの。アリス様はケリー先生の奉仕での演奏会で、ピアノを始められたそうですし」














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