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41.愚痴でも何でも

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「マツバやリナは放射線治療の時、どうだったのかなぁ」

 ジュースを飲み終わった俺は、池畑さんにメッセージを送ってみた。返事が来るまでの間に、マツバの過去のブログを見る事にする。
 マツバはもう五日もブログを更新していなかった。
 以前は一言だけでも毎日更新していたのに、それが一日置きになり、二日置きになり、とうとう五日も空いた。
 そんなに悪いのかな……でも、きっと大丈夫だよな。
 そう思いながら探していると、放射線治療という題名の日記を発見した。読むと、マツバは放射線を照射後、頭痛に見舞われたみたいだった。頭が痛くてご飯も食べられなかったって書いてある。そんな人もいるのか……結構辛い思いをしていたらしい。大変だったんだな。
 そこでピロンと音が鳴って、スマホにメッセージが入った事を知らせてくれる。見てみると池畑さんだった。早速返事を書いてくれたらしい。

『うちのリナは放射線治療後は、しばらくして吐き気が出てきて、何度か吐いちゃったかな。でも波があったみたいで、割と元気な方だったと思うよ』

 マツバは頭痛、リナは吐き気か……どっちも辛いよな。俺はどうなんだろう。今んとこは何ともないけど、これから出てくるのかもしれないと思うとちょっと怖い。
 俺は池畑さんに礼のメッセージを入れて、今度はマツバのブログコメント欄にチョンチョンと入力していく。

『今日、放射線治療やって来たぞ。今んとこ痛みや吐き気はナシ。そっちはどうだ? 大丈夫か? 無理はしなくていいけど、たまには更新してくれな!』

 そう書いてコメントを送信する。以前は必ず返事をくれたマツバだけど、最近の感じじゃ何もないかもしれないな。
 けど、マツバの苦しみはいつまで続くんだろう。マツバが移植をしたのは、俺が入院して一ヶ月が経った頃だったと思う。という事は、もう三ヶ月以上は経ってるな。順調だったらとっくに退院してる頃のはずだ。
 マツバを苦しめているのは、GVHDっていう移植後に起こる反応だ。これも人それぞれで、リナは何も出なかったみたいだ。
 全く何の反応もないよりかは、ちょっとくらいはあった方が再発率は低くなるって、確か小林先生は言ってた。
 でもマツバはちょっとの範囲を超えてしまっている。どうか、早く良くなってくれと願わずにはいられなかった。

 翌日、翌々日と俺は放射線治療に向かった。心配していた痛みや吐き気は全くなかった。こういうのって、本当に人それぞれだよな。放射線治療で辛い思いをしている人に申し訳ないくらい、元気だ。痛みがないのは嬉しい。まぁたまにはこういう治療があっても良いよな。
 俺はまたしても貰ったご褒美のジュースとお菓子を口の中に入れる。手にはスマホを持って、マツバのブログをチェックだ。

「やっぱ返信はないか……」

 返信どころか、ブログの更新もない。更新が途絶えて一週間は経っている。いつもなら、一言だけでも更新しているはずなんだけど……
 マツバとの連絡の手段はこのブログだけだ。これにコメントを返してくれなきゃ、他にどうしようもない。

「メッセージで携帯の番号を聞いとくんだったかなぁ……」

 俺はネットの人間と繋がるのは初めてで、どこまで個人情報を教えて良いものか分からなかった。だから聞くことも教える事もしなかったけど、こんなに連絡が取れないとなると、聞いておくべきだったかと後悔する。
 今更かもしれないけど、俺はマツバにブログからメッセージを送る事にした。コメントはログインなしでも出来たけど、メッセージはログインしなきゃ送れなくてアカウントを取得する。

『マツバ、大丈夫か? もし吐き気が酷くて画面が見られないなら、良かったら080-xxxx-xxxxに電話してくれ。愚痴でも何でも聞くよ。ハヤト』

 そんな文章に俺の気持ちを乗せて送信する。
 ちょっと緊張して来た。マツバ、電話くれるかな。

 けどその日、マツバからの電話は無かった。吐き気が酷くてスマホを見るのも嫌なのかもしれない。俺も気分の悪かった時は見られなかったしな、気長に待とう。

 翌日、何度も自分のアカウントでログインして、メッセージが来ていないかを確認する。けど、運営からの案内メッセージが一件来ていただけで、他は何も無かった。

「見てないのかな……やっぱり」

 電話もメッセージもないという事は、更新もコメント返しも無いだろう……そう思いながらも、俺はいつもの癖でマツバのブログを確認する。
 思った通りにブログに更新は無かった。けど、コメント欄に新規のコメントが書かれてある。

 誰だ!? マツバか!?

 俺が急いで目を走らせてみると……
 そのコメントに書かれてある永眠という文字が、俺の脳を真っ白にさせた。
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