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37.最後の外泊
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バサッと目の前に紙の束が置かれて、その風が頬を掠める。
目の前の彼女は嬉しそうに笑っていて、俺はその紙を手に取った。
「え?これって……」
「颯斗が休んでた時の分の、ノートのコピー! 中々渡せなくって、ごめんね」
俺は今、外泊で家に帰って来ている。
次のクールに移植だから、うまくいけばこれが最後の外泊になるんだ。
真奈美は今回は絶対に会うんだと言って、部活を休んでうちに来てくれた。
丁寧に書かれたノートのコピー。それは結構な量があって、コピーするにも時間を掛かけているものだと分かる。
「サンキュ、真奈美。めっちゃ助かる!」
「ううん。私が颯斗に出来る事って、これくらいしかないから」
やばい、可愛い。俺の彼女を皆に自慢しまくりたい気分だ。
俺は真奈美に貰ったノートのコピーを自分の鞄に詰めた。実際に受けた授業のノートを見られるのは、本当に助かる。
「あとね、こっちは修学旅行のお土産。何が良いのか分からなくって、お揃いのストラップにしちゃった」
そう言って真奈美は小さな袋を差し出してくれて、早速その袋を開けてみる。すると小さなシャモジ型のストラップが入ってた。けどそれにはある文字が書かれていて……
「さ、サッカーバカ!?」
「あははっ」
驚く俺に、声を上げて笑う真奈美。なんとそのストラップの小さなシャモジには、『サッカーバカ』って書かれてあったんだ。
「っぶ、何だよコレー?!」
「ふふっ、面白いでしょ? 颯斗らしいのが良いと思って!」
「こんなの売ってんのかー」
「頼んで書いて貰ったんだよ。好きな文字を入れて貰えるの」
「真奈美はサッカーバカじゃないだろ? 何て書いて貰ったんだ?」
「私は合唱バカ」
そう言いながら、既にスマホに付けられていたストラップを見せてくれる。確かに真奈美のシャモジストラップには『合唱バカ』と書かれてあった。
「ぶはっ!! ハハハハハッ! マジで書いてるしっ!」
「頼むの、結構恥ずかしかったんだよ!」
「そこまでして書いて貰わなくても……っ」
俺が腹を抱えて笑うと、真奈美も釣られるように笑っている。こんな文字の書かれたシャモジストラップをスマホにつけるとか、普通はしないだろ。
真奈美のスマホに視線を移動させると、やっぱり『合唱バカ』の文字が目に飛び込んで来てもう一度吹き出した。
これをお揃いで付けんの? マジで? ありえねー!
俺はクックとお腹を抱える。
どういう発想だよ、俺の彼女! マジで最高だ!!
「颯斗、駄目だった……?」
「いや、真奈美、良いセンスしてるよ」
俺は笑いながら貰ったシャモジストラップをスマホに付けた。サッカーバカと合唱バカ。これを学校に持ってったら、智樹辺りにいじられただろうな。
「でも何でシャモジ? 広島ってシャモジが有名なのか?」
修学旅行の行き先は、広島周辺だったみたいだ。もみじ饅頭でも買ってくるかなと思ってたんだけど、俺の体はこんなだし、食べ物はやめたみたいだな。
「さぁ、よく分かんないけど、結構売られてたよ」
「ふーん。けど自分で合唱バカとか……ぷくくっ!」
「だって、颯斗だけサッカーバカって書くわけにいかないでしょー!」
「他にもっとあっただろ? イケメン! とか」
「もう、自分で言うー?!」
真奈美の言葉に、二人でゲラゲラと笑う。俺がそのストラップを見比べてひとしきり笑うと、ようやく笑いが治《おさま》った。
「そう言えば、合唱の大会ってどうなったんだ? 何とかって歌、歌ったんだろ?」
「ああ、うん……大会は……銀賞だったの。全国には行けなかったんだ……」
「そっかぁ、うちの合唱部って結構ハードでマジにやってるのに、金賞取ろうと思うとやっぱ大変なんだな」
「やっぱり大地讃頌を歌うには、テノールとバスパートが足りないんだよね。うちの合唱部、男子が女子に比べて少ないから……ねぇ颯斗、退院したら合唱部に入んない?」
「じょーだん! 俺はサッカー部に戻るっての!」
「だよねー」
どうやら本気で言っているわけではないようで、カラカラと笑っている。歌うのは嫌いじゃないけど、本格的にやろうかという気はさらさらないからな。男子部員が少ないのも分かるけど、仕方ない。
「で、大地讃頌って、どんな歌?」
「あ、先生が撮ってくれた動画あるよ」
そう言って、シャモジストラップのついたスマホを操作している。
「あ、これこれ」
真奈美は画面を俺に向けて再生してくれた。
出だしからズドンとくるような混声四部合唱。
確かにテノールとバスの響くような重低音は少ないのかもしれないけど、素人の俺には十分すごい合唱に思えた。だけどこれでも銀賞なんだな。
全てを聴き終えると、真奈美はスマホを下げる。
「どうだった?」
「真奈美が一生懸命歌ってて可愛かった」
「っもう、そうじゃなくてっ!」
俺の言葉に真奈美が顔を赤らめて反論してくる。純粋な感想を言ったつもりだったんだけどな。
「うーん、合唱の事はよく分かんないけど、すごかったと思うよ。めっちゃハモってて綺麗だったし」
「ホント?!」
「ホントホント。今度は金賞取れるといいな!」
「うんっ」
嬉しそうに笑う真奈美は、やっぱり可愛くって。
思わずキスしたくなる衝動を必死に堪えた。
次のクールで移植だ。何かあったら俺も後悔するし、真奈美も罪悪感を持ってしまうかもしれない。
「颯斗も次が移植だよね。頑張ってね!」
真奈美に言葉にコクリと頷いてみせる。
これから退院するまでは病院生活だ。移植後は準無菌室暮らしで外泊どころか病室を出る事すら出来なくなる。
不安はあるけど……これが終われば、病気に打ち勝てるんだ。
「折角付き合ってんのに、デート出来なくてごめんな」
「大丈夫!退院したらいっぱいデートして貰うから!」
そうやって笑う真奈美がいじらしく見えて。
俺は真奈美の前髪をグシャッと掴むと、照れ隠しに頭をグリグリと撫で回してやったんだ。
目の前の彼女は嬉しそうに笑っていて、俺はその紙を手に取った。
「え?これって……」
「颯斗が休んでた時の分の、ノートのコピー! 中々渡せなくって、ごめんね」
俺は今、外泊で家に帰って来ている。
次のクールに移植だから、うまくいけばこれが最後の外泊になるんだ。
真奈美は今回は絶対に会うんだと言って、部活を休んでうちに来てくれた。
丁寧に書かれたノートのコピー。それは結構な量があって、コピーするにも時間を掛かけているものだと分かる。
「サンキュ、真奈美。めっちゃ助かる!」
「ううん。私が颯斗に出来る事って、これくらいしかないから」
やばい、可愛い。俺の彼女を皆に自慢しまくりたい気分だ。
俺は真奈美に貰ったノートのコピーを自分の鞄に詰めた。実際に受けた授業のノートを見られるのは、本当に助かる。
「あとね、こっちは修学旅行のお土産。何が良いのか分からなくって、お揃いのストラップにしちゃった」
そう言って真奈美は小さな袋を差し出してくれて、早速その袋を開けてみる。すると小さなシャモジ型のストラップが入ってた。けどそれにはある文字が書かれていて……
「さ、サッカーバカ!?」
「あははっ」
驚く俺に、声を上げて笑う真奈美。なんとそのストラップの小さなシャモジには、『サッカーバカ』って書かれてあったんだ。
「っぶ、何だよコレー?!」
「ふふっ、面白いでしょ? 颯斗らしいのが良いと思って!」
「こんなの売ってんのかー」
「頼んで書いて貰ったんだよ。好きな文字を入れて貰えるの」
「真奈美はサッカーバカじゃないだろ? 何て書いて貰ったんだ?」
「私は合唱バカ」
そう言いながら、既にスマホに付けられていたストラップを見せてくれる。確かに真奈美のシャモジストラップには『合唱バカ』と書かれてあった。
「ぶはっ!! ハハハハハッ! マジで書いてるしっ!」
「頼むの、結構恥ずかしかったんだよ!」
「そこまでして書いて貰わなくても……っ」
俺が腹を抱えて笑うと、真奈美も釣られるように笑っている。こんな文字の書かれたシャモジストラップをスマホにつけるとか、普通はしないだろ。
真奈美のスマホに視線を移動させると、やっぱり『合唱バカ』の文字が目に飛び込んで来てもう一度吹き出した。
これをお揃いで付けんの? マジで? ありえねー!
俺はクックとお腹を抱える。
どういう発想だよ、俺の彼女! マジで最高だ!!
「颯斗、駄目だった……?」
「いや、真奈美、良いセンスしてるよ」
俺は笑いながら貰ったシャモジストラップをスマホに付けた。サッカーバカと合唱バカ。これを学校に持ってったら、智樹辺りにいじられただろうな。
「でも何でシャモジ? 広島ってシャモジが有名なのか?」
修学旅行の行き先は、広島周辺だったみたいだ。もみじ饅頭でも買ってくるかなと思ってたんだけど、俺の体はこんなだし、食べ物はやめたみたいだな。
「さぁ、よく分かんないけど、結構売られてたよ」
「ふーん。けど自分で合唱バカとか……ぷくくっ!」
「だって、颯斗だけサッカーバカって書くわけにいかないでしょー!」
「他にもっとあっただろ? イケメン! とか」
「もう、自分で言うー?!」
真奈美の言葉に、二人でゲラゲラと笑う。俺がそのストラップを見比べてひとしきり笑うと、ようやく笑いが治《おさま》った。
「そう言えば、合唱の大会ってどうなったんだ? 何とかって歌、歌ったんだろ?」
「ああ、うん……大会は……銀賞だったの。全国には行けなかったんだ……」
「そっかぁ、うちの合唱部って結構ハードでマジにやってるのに、金賞取ろうと思うとやっぱ大変なんだな」
「やっぱり大地讃頌を歌うには、テノールとバスパートが足りないんだよね。うちの合唱部、男子が女子に比べて少ないから……ねぇ颯斗、退院したら合唱部に入んない?」
「じょーだん! 俺はサッカー部に戻るっての!」
「だよねー」
どうやら本気で言っているわけではないようで、カラカラと笑っている。歌うのは嫌いじゃないけど、本格的にやろうかという気はさらさらないからな。男子部員が少ないのも分かるけど、仕方ない。
「で、大地讃頌って、どんな歌?」
「あ、先生が撮ってくれた動画あるよ」
そう言って、シャモジストラップのついたスマホを操作している。
「あ、これこれ」
真奈美は画面を俺に向けて再生してくれた。
出だしからズドンとくるような混声四部合唱。
確かにテノールとバスの響くような重低音は少ないのかもしれないけど、素人の俺には十分すごい合唱に思えた。だけどこれでも銀賞なんだな。
全てを聴き終えると、真奈美はスマホを下げる。
「どうだった?」
「真奈美が一生懸命歌ってて可愛かった」
「っもう、そうじゃなくてっ!」
俺の言葉に真奈美が顔を赤らめて反論してくる。純粋な感想を言ったつもりだったんだけどな。
「うーん、合唱の事はよく分かんないけど、すごかったと思うよ。めっちゃハモってて綺麗だったし」
「ホント?!」
「ホントホント。今度は金賞取れるといいな!」
「うんっ」
嬉しそうに笑う真奈美は、やっぱり可愛くって。
思わずキスしたくなる衝動を必死に堪えた。
次のクールで移植だ。何かあったら俺も後悔するし、真奈美も罪悪感を持ってしまうかもしれない。
「颯斗も次が移植だよね。頑張ってね!」
真奈美に言葉にコクリと頷いてみせる。
これから退院するまでは病院生活だ。移植後は準無菌室暮らしで外泊どころか病室を出る事すら出来なくなる。
不安はあるけど……これが終われば、病気に打ち勝てるんだ。
「折角付き合ってんのに、デート出来なくてごめんな」
「大丈夫!退院したらいっぱいデートして貰うから!」
そうやって笑う真奈美がいじらしく見えて。
俺は真奈美の前髪をグシャッと掴むと、照れ隠しに頭をグリグリと撫で回してやったんだ。
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