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26.弟み
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トイレで鼻血が付いていた顔を洗って、拓真くんの血に染まってしまったタオルに石鹸をつける。
うーん、やっぱりちゃんと洗わないと、汚れは落ちなさそう。
家に持って帰って洗うのは当然としても、人の鼻血のついたタオルなんて返されても気持ち悪いだろうし、新しいのを買ってプレゼントした方が良いかもしれない。
体育館に戻ると、結衣ちゃんや、二戦目の試合に出ていない一ノ瀬くんとヒロヤくんが心配してくれた。
もう本当に、恥ずかしいし情けない……これからはちゃんと気を付けなきゃいけないなぁ。
練習終了の九時が近付くと、徐々に片付けを始める。
その時、おじさま~ずのキャプテンが声を上げた。
「タクマ、雄大! ちょっと残れ、ミーティングするぞ!」
「あ、ハイ!」
「分かりました」
タクマくんはオカシの国の創設者だし、三島さんはオカシチームの最年長だから、おじさま~ずと話し合う時は、いつもこの二人が呼ばれてる。
「ごめん、ミキ。ちょっと時間かかるかもしれないから、誰かに送ってもらって先帰って」
「うん、分かった」
「あ、じゃあ、俺が送るっすよ」
晴臣くんが名乗りを上げてくれた。
十分くらいの距離だし、一人で帰るつもりでいたんだけど。
「晴臣くんの家、ついそこでしょ。悪いよ」
「それでも、送らせてください!」
やっぱり、責任感じてるのかなぁ。なんか申し訳ない。
「ミキちゃん、晴臣に送られたくねーなら、俺が送ってやるぜー!」
でも、緑川さんだけは、絶対に嫌!!
「いえ、結構です。晴臣くんに送って貰いますから」
「ちぇー」
突然出てきた緑川さんは、しょんぼりと肩を落としてスポーツバッグを背負ってる。ちょっときつく言い過ぎちゃったかなぁ? まあいっか。
「お疲れー」
「おやすみー」
そんな言葉を背景に、私と晴臣くんは外に出た。いつもは拓真くんの隣にいるから、晴臣くんだとちょっと違和感がある。
「ミキさん……今日は本当に、すんませんっした!!」
「え、ちょっと、もうやめて? あれは、本当に私の方が悪かったんだから」
「いや、俺がもっとちゃんと周りの状況を見てたら……」
私がコートに入った時には、晴臣くんはもう打つ体勢に入ってたんだろうし、多分どうしようもなかったんだと思う。
コート外の事まで見てられないと思うし、誰が見ても、飛び込んじゃった私が悪いからね……。
「もうどこも何ともないし、大丈夫。嫌な思いさせちゃって、ごめんね」
「もし今日帰った後で気分が悪くなったりしたら、すぐ連絡ください! 飛んで行くんで!」
「ありがと、多分大丈夫だよ」
晴臣くんの真剣な態度は、すごく好感が持てる。こういう子は、きっと学校でもモテるんだろうな。
「でもこのままだと俺の気持ちが収まらないんで、お詫びさせてください」
「お詫び? 良いよ、そんなの……」
「ミキさんは遊園地と動物園と水族館と美術館なら、どこが一番好きっすか?」
「え? えーと……どっちかっていうと動物園、かなぁ」
「あ、俺と同じだ。今度一緒に行きませんか!」
「え、ええ??」
動物園へ、一緒に?! それが、お詫びって事?
「そこまでさせられないよ! ホント気にしなくていいから!」
「俺と行くの、嫌っすか?」
「嫌とかじゃなくて……」
「ミキさん、前に俺にお詫びするって言ってたの、覚えてます?」
「え?」
お詫び……うん、確かにあった。
初めて会った日に、晴臣くんの家に行って酔っ払っちゃって、晴臣くんのベッドを奪っちゃったっていうすごい黒歴史が……。
その後にお詫びさせてって、確かに言った。私としては、練習に行った時にいつもしている差し入れで、もうチャラかな~なんて思ってたんだけど。
「俺、いつミキさんがお詫びしてくれんのか、楽しみにしてたんすけど」
「え、えーと……そうだったの?」
「そん時のお詫び、してくれるつもりはあるんですか?」
「も、もちろんだよ」
「じゃあ俺、ミキさんと動物園に行きたいっす!」
なにその、うっれしそうなキラキラの笑顔! 弟み……弟みが、溢れてる……!
「俺が今日のお詫びにミキさんを動物園に連れて行く。ミキさんはあの日のお詫びに、俺を動物園に連れてってください。それでチャラになると思うんすけど」
う、うーん。これはもう、断れないよね。
いや、もう、この顔を目の前にして断るって、悪魔でしょ!
「分かった。じゃあ、お互いにそれでチャラにし合うって事でいい?」
「行ってくれるんすか!? よっしゃ!!」
ふふ、もうなんか子どもみたいに喜んでる。すごく可愛い。
「土日で仕事休みの日ってありますか?」
「あ、ちょうど今週の土曜は、仕事休みだよ。休みっていうか、夜勤明けなんだけど」
「え? だったら違う日の方がいっすよね?」
「んー、でもそうしたら、しばらく土日の休みはないかも……再来週になっちゃうかな」
「俺は今週でも再来週でも、どっちでもいっすよ。ミキさんの体が楽な方で」
晴臣くんは私の体を気遣ってくれてるけど、その顔を見れば分かるよ……動物園に、早く行きたいんだよね?
「じゃあ、今度の土曜でも良い?」
「俺は全然問題ないんすけど……」
「私も大丈夫だよ。夜勤明けって妙にテンションが高くなっちゃって、家に帰っても中々眠れないんだよね。どうせならしっかり起きておいて、ちゃんと夜に寝る方がサイクルも戻るし、有難いんだ」
「じゃあ、今週の土曜で!」
「でも、酷い顔してたらごめんね……っ」
「平気っす。俺、ミキさんの酔っ払った顔も寝顔も見た事あるんで」
「も、もうっ」
「ミキさんの言う『酷い顔』も、絶対可愛いに決まってるから」
だ、だからなんでこの子は、人を喜ばせるのが上手なのー!
もう、いっぱい化粧して誤魔化して行かなきゃ。
「土曜日、楽しみにしてます!!」
そんな風に楽しそうに言われたら、私も楽しみになってきちゃった。
動物園なんて久し振り。晴れるといいなぁ。
うーん、やっぱりちゃんと洗わないと、汚れは落ちなさそう。
家に持って帰って洗うのは当然としても、人の鼻血のついたタオルなんて返されても気持ち悪いだろうし、新しいのを買ってプレゼントした方が良いかもしれない。
体育館に戻ると、結衣ちゃんや、二戦目の試合に出ていない一ノ瀬くんとヒロヤくんが心配してくれた。
もう本当に、恥ずかしいし情けない……これからはちゃんと気を付けなきゃいけないなぁ。
練習終了の九時が近付くと、徐々に片付けを始める。
その時、おじさま~ずのキャプテンが声を上げた。
「タクマ、雄大! ちょっと残れ、ミーティングするぞ!」
「あ、ハイ!」
「分かりました」
タクマくんはオカシの国の創設者だし、三島さんはオカシチームの最年長だから、おじさま~ずと話し合う時は、いつもこの二人が呼ばれてる。
「ごめん、ミキ。ちょっと時間かかるかもしれないから、誰かに送ってもらって先帰って」
「うん、分かった」
「あ、じゃあ、俺が送るっすよ」
晴臣くんが名乗りを上げてくれた。
十分くらいの距離だし、一人で帰るつもりでいたんだけど。
「晴臣くんの家、ついそこでしょ。悪いよ」
「それでも、送らせてください!」
やっぱり、責任感じてるのかなぁ。なんか申し訳ない。
「ミキちゃん、晴臣に送られたくねーなら、俺が送ってやるぜー!」
でも、緑川さんだけは、絶対に嫌!!
「いえ、結構です。晴臣くんに送って貰いますから」
「ちぇー」
突然出てきた緑川さんは、しょんぼりと肩を落としてスポーツバッグを背負ってる。ちょっときつく言い過ぎちゃったかなぁ? まあいっか。
「お疲れー」
「おやすみー」
そんな言葉を背景に、私と晴臣くんは外に出た。いつもは拓真くんの隣にいるから、晴臣くんだとちょっと違和感がある。
「ミキさん……今日は本当に、すんませんっした!!」
「え、ちょっと、もうやめて? あれは、本当に私の方が悪かったんだから」
「いや、俺がもっとちゃんと周りの状況を見てたら……」
私がコートに入った時には、晴臣くんはもう打つ体勢に入ってたんだろうし、多分どうしようもなかったんだと思う。
コート外の事まで見てられないと思うし、誰が見ても、飛び込んじゃった私が悪いからね……。
「もうどこも何ともないし、大丈夫。嫌な思いさせちゃって、ごめんね」
「もし今日帰った後で気分が悪くなったりしたら、すぐ連絡ください! 飛んで行くんで!」
「ありがと、多分大丈夫だよ」
晴臣くんの真剣な態度は、すごく好感が持てる。こういう子は、きっと学校でもモテるんだろうな。
「でもこのままだと俺の気持ちが収まらないんで、お詫びさせてください」
「お詫び? 良いよ、そんなの……」
「ミキさんは遊園地と動物園と水族館と美術館なら、どこが一番好きっすか?」
「え? えーと……どっちかっていうと動物園、かなぁ」
「あ、俺と同じだ。今度一緒に行きませんか!」
「え、ええ??」
動物園へ、一緒に?! それが、お詫びって事?
「そこまでさせられないよ! ホント気にしなくていいから!」
「俺と行くの、嫌っすか?」
「嫌とかじゃなくて……」
「ミキさん、前に俺にお詫びするって言ってたの、覚えてます?」
「え?」
お詫び……うん、確かにあった。
初めて会った日に、晴臣くんの家に行って酔っ払っちゃって、晴臣くんのベッドを奪っちゃったっていうすごい黒歴史が……。
その後にお詫びさせてって、確かに言った。私としては、練習に行った時にいつもしている差し入れで、もうチャラかな~なんて思ってたんだけど。
「俺、いつミキさんがお詫びしてくれんのか、楽しみにしてたんすけど」
「え、えーと……そうだったの?」
「そん時のお詫び、してくれるつもりはあるんですか?」
「も、もちろんだよ」
「じゃあ俺、ミキさんと動物園に行きたいっす!」
なにその、うっれしそうなキラキラの笑顔! 弟み……弟みが、溢れてる……!
「俺が今日のお詫びにミキさんを動物園に連れて行く。ミキさんはあの日のお詫びに、俺を動物園に連れてってください。それでチャラになると思うんすけど」
う、うーん。これはもう、断れないよね。
いや、もう、この顔を目の前にして断るって、悪魔でしょ!
「分かった。じゃあ、お互いにそれでチャラにし合うって事でいい?」
「行ってくれるんすか!? よっしゃ!!」
ふふ、もうなんか子どもみたいに喜んでる。すごく可愛い。
「土日で仕事休みの日ってありますか?」
「あ、ちょうど今週の土曜は、仕事休みだよ。休みっていうか、夜勤明けなんだけど」
「え? だったら違う日の方がいっすよね?」
「んー、でもそうしたら、しばらく土日の休みはないかも……再来週になっちゃうかな」
「俺は今週でも再来週でも、どっちでもいっすよ。ミキさんの体が楽な方で」
晴臣くんは私の体を気遣ってくれてるけど、その顔を見れば分かるよ……動物園に、早く行きたいんだよね?
「じゃあ、今度の土曜でも良い?」
「俺は全然問題ないんすけど……」
「私も大丈夫だよ。夜勤明けって妙にテンションが高くなっちゃって、家に帰っても中々眠れないんだよね。どうせならしっかり起きておいて、ちゃんと夜に寝る方がサイクルも戻るし、有難いんだ」
「じゃあ、今週の土曜で!」
「でも、酷い顔してたらごめんね……っ」
「平気っす。俺、ミキさんの酔っ払った顔も寝顔も見た事あるんで」
「も、もうっ」
「ミキさんの言う『酷い顔』も、絶対可愛いに決まってるから」
だ、だからなんでこの子は、人を喜ばせるのが上手なのー!
もう、いっぱい化粧して誤魔化して行かなきゃ。
「土曜日、楽しみにしてます!!」
そんな風に楽しそうに言われたら、私も楽しみになってきちゃった。
動物園なんて久し振り。晴れるといいなぁ。
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