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23.サプライズ

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 三島さんの真剣な瞳。
 どうしよう、逃げ出せそうにない……。

「ごめんね、無理矢理」

 無理矢理……やだ……無理矢理なんて……!
 私、未経験なのに!

「どうしても……したいんだ」

 どうしてもしたいだなんて……
 三島さんがそんな人だったなんて、最低だよ!!

「俺は、どうしても芳佳を喜ばしたいんだ!」

 ……へ?

「よ、よしちゃん?」

 な、何で今、よしちゃんの名前が?
 って私、よしちゃんの事、三島さんに話した事あったっけ?
 三島さんは急に照れ臭そうに笑って、頭を掻いてる。

「俺と芳佳さ、冬にこのホテルで、結婚式をあげるんだ」

 …………

 ………………

 ……………………

 えええええええええええええ!?
 三島さんが、よしちゃんの恋人ぉぉおおおおお!?
 き、聞いてないよおおおおおおおおおお!!

「とりあえず、座ってもらえる?」

 驚きで声も出ない私は、コクコクと頷いて座るしかなかった。
 って、ホテルでする事って……結婚式って事!?
 紛らわしすぎるよ、三島さん!!
 勘違いしちゃった私が恥ずかしいいいいいい!!

「改めて確認するけど、徳澤芳佳を知ってるよね?」
「はい、同期で……比較的仲のいい看護師仲間ですけど……」
「良かった! 芳佳の口から、何度か園田って名前が出てきた事があってさ。ミジュちゃんも形岡医大に勤めてるって言ってたし、もしかしたらって思ってたんだ」

 まだ頭の整理が追いつかない。
 よしちゃんに恋人がいるのは知ってたけど、名前までは聞いた事がなかったから知らなかった。よしちゃんはいつも『あの人』とか『彼氏』なんていう呼び方をしてたし……相手が三島さんだったなんて、思いもしなかったよ!

「それでさ、俺たちはこのホテルで結婚式と披露宴の予定なんだけど……芳佳はあんまり大袈裟にしたくないっていうんだよね。同僚の看護師仲間も、皆忙しいから休みの日に結婚式なんかで煩わせたくないって言っててさ」

 ええー、折角の結婚式なのに、よしちゃんったら水臭い!!

「芳佳も言い出したら頑なだからさ……。でも、来て欲しくないわけじゃないと思うんだよな」
「うん、よしちゃんって、相手の事を考え過ぎちゃう所あるから……それで遠慮しちゃってるのかも」

 私がよしちゃんの事をそう言うと、三島さんはすごく嬉しそうに笑った。

「そうなんだよ、芳佳ってそういう所があるんだよな。でもさ、看護師の仲間が来ないって思ってる披露宴に、看護師仲間がゲスト出演したら、芳佳を感動させられると思うんだよね」

 うん、それ良いかも! よしちゃんをビックリさせたい!

「三島さん、私に協力させてください! よしちゃんと仲の良い看護師仲間を誘って、色々考えてみます!」
「本当に!? 芳佳の同僚に会った事がなくてさ、頼めなかったんだ。ミジュちゃんがいてくれて良かった……本当に助かる!!」

 三島さんはすっごく喜んでいて、私も嬉しくなった。
 よしちゃんったら、めちゃくちゃ愛されてるなぁ、羨ましい!
 普段はクールなよしちゃんが、泣いて喜ぶところを私も見てみたいし、がんばらなくちゃ!

「冬って、いつなんですか? 結婚式」
「十二月の第一日曜なんだ。今からなら、休みを調整できる?」
「もちろん、まだまだ先なんで、大丈夫です! 任せてください! 小児病棟の全員が行くわけにはいかないけど、行けそうな人はなるべく誘っておきますから!」
「ミジュちゃん、本当にありがとう。それで、芳佳にはミジュちゃんがバレーの練習に行ってる事は内緒にしておいて欲しいんだけど」

 私と三島さんの接点があると分かると、折角のサプライズがバレちゃうかもしれないって事なんだろうな。
 私は拓真くんの事が好きだってバレたくないからしばらくはよしちゃんに黙っておくつもりだったし、全く問題はない。

「分かりました。大丈夫ですよ、言ったりしません。でもよしちゃんはバレーの練習だったり試合だったりを観に来たりはしないんですか? 私と鉢合わせしちゃったらどうしよう……」
「大丈夫。芳佳は別にバレーには興味ないし、今まで練習にも試合にも、一度も顔を出した事はないよ」
「そっか、良かったー」

 そんなこんなを話していると、あっという間に十一時を過ぎてしまってた。
 流石にそろそろ帰らなきゃね。
 私達はホテルを出ると、タクシーに乗ってアパートの前まで送って貰う。

「今日はありがとう、ミジュちゃん」
「こちらこそ、ご馳走さまでした」
「あっと、そうだ」

 三島さんはガサゴソとポケットから何かを取り出す。

「ごめんね、携帯」
「あ、いえ、大丈夫です」
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい、三島さん」

 スマホを受け取るとタクシーは発進して、遠くに消えていった。
 よしちゃんと三島さんの結婚式。考えただけでワクワクしちゃう。
 私はルンルン気分でアパートの階段を駆け上がった。
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